底辺地下アイドルの僕がスパダリ様に推されてます!?

皇 いちこ

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#24 二人のスパダリ

24-3 二人のスパダリ

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「はっ……ふぅ……っ……ん!」

腹の中で膨張する質量に視界が霞み、紫音は肩で大きく息をついた。
凛々しい目元を歪める主人の妖姿に、繋がった箇所がいっそう熱く感じられる。快楽の波とともに胸にせり上げてくるのは、無上の幸福だった。

「……今日は……夢みたいでした……」

逞しい首に腕を回し、温もりを手繰り寄せる。すべらかな肌から立ち上る、揃いのシャンプーと石鹸の香りが心地良い。

「恋人ができたら、したかったこと……全部叶ったから……」

世の中の恋人たちが過ごす、ごくありふれた一日。
初めて愛が通い合った人間にとっては、一生分の幸福を授けられたようだった。そんな機微を感じ取ったのか、腰を掻き抱いた手に一層力が込められた。

「もう離さない」

映画やドラマで何百回と聞いた台詞も、彼の口から紡がれれば極上の調べに変わる。
それ以上の言葉は不要だった。内壁を隙間なく埋め尽くした剛直ダイヤモンドが、すべてを物語っている。本能に導かれるまま欲情をぶつけ合い、二人は幾度となく絶頂の雫を迸らせた。

*

「すまない、埋め合わせは必ずするから」

引っ切り無く互いを求めた情事の最中に鳴り響いた、一通の電話。
至急案件でやむなく主人の休日稼働が決まったため、二人は予定よりも早く愛の楽園を後にすることになった。ディナーを延期した分、相乗りしたタクシーでは運転手に隠れて手を繋いだ。

「いえ、お仕事ですから。頑張って下さ……あっ」

とはいえ、離れがたい別れの間際。
寮の前で停まった車を降りようとした紫音は、思い直して恋人の方を振り向いた。

「……でも、頑張りすぎないで下さいね」

その一言で、申し訳無さそうにしていた主人の表情が和らぐ。
ドアを閉めた後も、ガラス越しに手を振ってくれる姿が愛おしい。手のひらに残った熱もまだ引かず、紫音は後ろ髪を引かれる思いで【猛犬注意】の札がかかった門扉を開けた。

休日はそれぞれ自由行動だが、夕飯前には揃うのが習わしだ。
玄関の靴で、他のメンバーも全員帰ってきているのがわかる。すると、物音に気付いた奏多がキッチンからいち早く顔を出した。

「あれっ、お帰り!予定より早かったね?」
「それが……直矢さんに急な仕事が入っちゃって」

紫音はサングラスとマスクを外しながら明るく振舞うが、寂寥感までは拭えない。

「残念だったね……もうすぐできるから、好きな時に食べていいよ。シチュー多めに作ったから」

仲間がいなかったら、きっと泣きながらカップ麺を啜っていただろう。
その前に家庭的な献立を聞いて涙が込み上げ、紫音は寮母のエプロンに顔を埋めた。

「直矢さんも忙しい人だね。そうだ、ご実家から荷物が届いていたよ」

プリンを膝に乗せてワイドショーを見ていた佑真が立ち上がる。
ローテーブルに置いていた段ボールを運んできてくれた。箱の側面には、見慣れたレトロなポンカンの絵が描かれている。ガムテープを剥がすと、リビングいっぱいに柑橘の香りが広がった。

「うおっ、旨そうだな!一個食っていいだろ!?」

ソファに寝そべってゲームをしていた大地が、食糧の匂いにつられて飛び起きた。半径5メートル先のバルコニーでは、櫂人が黙々と花材の手入れをしている。

「僕……家にお礼の電話してくるね!」

紫音は母の定期的な気遣いに胸を打たれ、袖で鼻水を拭って早足で階段を駆け上がった。
年末と正月の特番出演で帰省が叶わず、しばらく連絡も疎かになっていた。ビデオ通話ボタンをタップすると、画面越しに夕食前の賑やかな光景が映し出される。

「あ……もしもし?ポンカンありがとね!皆元気しとう?」
『こっちは元気よ。まぁ、肌がツヤツヤ光って羨ましいごたァ。今日は休みね?』

背後には、兄夫婦の子供たちが元気よく玩具で遊んでいる様子が見えて安堵する。

「うん!さっきまで出かけとって……年末は帰れんでごめん」
『気にせんで良か!大忙しやろうもん。ばってん、いっつも見ようよ』

姉が出演情報を逐一教えてくれるので、そのたびに録画して一家で何度も見返しているのだという。自らの成長が実家のお茶の間にも届いていることが、嬉しくも気恥ずかしくもあった。ご飯は食べているか、きちんと眠れているかと、いつもながらしきりに体調を尋ねてくるので苦笑が漏れる。

『それにしても、たまがったよ。桐谷さんとこの息子さん、あげんイケメン社長になっとって』
「あ……Fステも見てくれたと?そう、たあ君すごい人になっとうみたいで」

先日再会した昔馴染みの姿が、紫音の脳裏を過る。
少女漫画から飛び出してきたかのようなビジュアルは記憶に新しい。彼の名前を検索すれば、経済界を席巻する影響が見て取れた。ついさっきも、リビングのテレビで≪MOMO MILK≫のCMが流れていたばかりだ。

『なんか、えらい懐かしくなってね。昔のアルバム見てたら、ほら』

かつての旧交に想いを馳せ、母親は次男幼少期のアルバムから選りすぐった一枚を見せびらかした。そこには実家の縁側にて、ビニールプールの中で水を掛け合う男児二人が収められていた。紫音は覚えてこそいないが、一種の郷愁に駆られる。

『やけど、紫音もボディガードがつくごとなって……もう立派なスターやね。母さん、本当に嬉しかよ』

――ボディーガード。
華々しい賛辞の中、その呼称で紫音の心は沈んでいく。
ろくに音声を拾えなかった映像では、第三者の目にはそんな風に映っていたのだ。否定の言葉が喉元に出かかったが、甥っ子や姪っ子の前で重大報告をするわけにもいかない。
皮肉なことに、完璧に笑顔を取り繕う術も自然と身に付くようになっていた。

「……ありがとう。目の前のこと少しずつ頑張るけん」

頭では理解できていても、恋人と主張できないことがこれほどもどかしいとは。
それも、実の両親の前で。長引く別れの挨拶を切り上げると、とうに忘れかけていた用事が思い出された。

「そうだ……返事しなきゃ」

当の幼馴染への返信が未だに済んでいなかった。
重い指先を動かしていると、新着メッセージの通知が届く。紫音はすばやくトーク画面を切り替えた。

「……僕もです」

文字を打つ前に、思わず口から零れる。
愛する主人から送られた、≪ごめん≫≪愛してる≫の二行。途端に、スマホを持つ手は羽根のように軽くなった。送信ボタンを押したと同時に、室内に遠慮がちなノックが響く。

「すまない……電話は終わっただろうか?」

控えめに現れたのは櫂人で、夕食前のお風呂の誘いだった。
空いている時間に交代で入るのがルールのため、こうして他メンバーと一緒に済ませることも多い。今夜の彼は、愚痴を聞いてくれる相手を探していたらしかった。

「まったく……!さっきも手を洗わずにポンカンを食い散らかしおって……視界の端にも入れたくない」
「はは……でも、美味しく食べてくれたなら、送ってもらった甲斐があったよ」

例のネズミロケ以来、リーダーとの関係は一段と殺伐としたものになっていた。
責任の一端を感じている紫音は、双方の意見を漏らさず聞くようにしている。どちらかと言うと、寝たら忘れる大地に対して、今なお引きずっているのは櫂人の方だ。

「昨日の……サウナロケの打ち合わせもそうだ。
匂わせ営業か知らんが、やたらヤツとの絡みを増やされて堪ったものではない」

そうは言っても、現場ではBLドラマ並みに完璧に演じるのだから、やはり二人は生まれながらにしてアイドルだった。急増する大櫂界隈のツイートがバズる勢いと比例して、間近で見る紫音も同様にCPファンになってしまいそうだった。

「む……だが、紫音はサウナウェア着用になって良かったな」

事務所の方針で乳首NGになったのはいいものの、気を抜くといけない。
紫音は改めて自分の全身を見渡すと、湯船の中で慌てて胸元を隠した。なるべく自重をお願いしていたが、行為に耽るあまり自制が効かなくなってしまう。そんな愛の深さは一目瞭然で、素肌には主人の独占欲がいくつも刻み込まれている。

「ごっ、ごめん……!変なモノ見せて……」
「いや……それより、その……どんな感じなのか?」

櫂人はシャンプーハットの下で頬を染め、色白の肌をさらに上気させた。

「愛する殿方に抱かれるというのは……」

誰もが夢見るであろう、温もりを交わし合う神聖な行為。
それは自然の節理や五線譜の調和を超越しており、銀河に瞬く惑星の爆誕に等しかった。

「……例えるなら、宇宙を垣間見た感じ」
「――え?」
「すごく……幸せって意味だよ」

しかし、この先も陳腐な言葉で表現することはできないだろう。
結ばれた喜びに浸る紫音の瞳には、無数の星々が煌めいていた。

「羨ましいな……近頃の紫音はとても輝いている。これが恋の魔法と言うものか」
「魔法……そうだね。大事な人ができると、失う不安もあるけど……」

住む世界が違う二人が巡り会い、恋に落ちる確率を考えれば、奇跡に近いかもしれない。
すると、いっそう嬉しくなって、紫音は今日一番の笑顔で答えた。

「それ以上に温かい気持ちになれるんだ」
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