底辺地下アイドルの僕がスパダリ様に推されてます!?

皇 いちこ

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#21 プリンス襲来

21-3 プリンス襲来

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スマートキーにぶら下がった5周年限定ラバーストラップ、そしてハンドルを握る指先のパープル系ビジューネイルに、直矢は薄々女性の正体に勘付いていた。
彼女のことだからリアタイで鑑賞していたところ、騒動を見て急いで駆け付けてくれたのだろう。

「こちらこそ、わざわざ申し訳ない。代表に就任されてご多忙でしょうに」
「いえ、直矢さんには日頃からお世話になりっぱなしですのに……逆にご迷惑をお掛けして申し訳ない限りです」

日頃から経済ニュースのチェックを欠かさない直矢は、大手芸能プロダクション≪スターゲイツプロモーション≫の人事異動の件もすでに耳に入っていた。
元麻布方面に向かう車内で、紫音姉はため息を零した。

「この立場になって、現場に行くのは極力控えていたんです。
血縁関係が明るみに出て……身内のコネだったの、例の写真も自作自演だの騒ぎ立てられでもしたら、堪ったものじゃありません」

業界重鎮のポストに上り詰めた、彼女らしい配慮だった。
今夜の観覧席で見かけなかったのも納得である。さらに、【奇跡の一枚】についても言及を忘れない。

「もちろん、あの写真は仕込みでも何でもありませんから。松濤マダムに知人は一人もいませんし」
「存じています。今の知名度を築いたのは、紛れもなく彼の実力です。ただ、例のイベントはお義姉様のご尽力あってこそでしたので――」

すっかり緊迫感が消え去った空気の中で、後部座席の直矢は微笑んだ。

「色々と勉強させていただいて、改めて感謝しています」
「こちらこそ、またご一緒できると良いですね。弊社のコンサルもお願いしようかしら」

直矢は一度断ったものの、彼女の厚意を無碍にすることはできず、マンションまで送ってもらうことになった。その道中に説明を聞くには、幸いにもライブ映像には背中しか映っておらず、音声も途切れ途切れだったそうだ。どちらかと言えば、ヘリの派手な登場と古参による勇ましい雄叫びにフォーカスが当たっていたという。

だが、直矢は聞き逃さなかった。
ガラスの靴を携えた王子がシンデレラに求愛するように、『迎えに来た』と。あの場を離れてもなお、直矢の胸に小さな棘が引っかかったままだ。その気がかりを彼女がやにわに代弁する。

「そもそも、今更現れるなんて……何を考えているのやら」
「……彼は、紫音の幼馴染なんですよね?」

バッグミラー越しに、茉莉子は静かに頷いた。

「桐谷さんは私たちの実家のお向かいで……と言っても2km先ですが、同じく酪農家なんです。同学年のよしみで、家族ぐるみで付き合いがありました。彼が……小2で米国に留学するまでは」
「小2で留学……!?」

いけ好かない髪型からは想像できない華麗な遊学歴に、直矢は唖然として身を乗り出した。
留学する金は無いと両親に一蹴された挙句、米国駐在にこぎつけるまでにかかった年数の三分の一以下という最短コースで、ハイスペルートを歩み始めたのである。

「そこからは、ほとんど交流が途絶えていました。
ですが、紫音が大学進学で上京したのと入れ違いで帰国して、辺り一帯の土地を買収したかと思いきや、最先端の設備工場を作ったんです。そこからは、≪牛乳王子≫の肩書き通り。
国内外で≪MOMO MILKモーモーミルク≫のブランディングに成功して、今やグループ年商9000億円ですよ」

取り扱うのは、牛乳単品だけではない。バターからチーズ、ヨーグルト、石鹸や化粧品まで、手がける商品はどれも生活必需品ばかりだ。さらに、満を持して開園したモーモーシー&ランドリゾートでは、乳絞り体験と絶叫アトラクションが同時に楽しめるという革新的なアイデアが光る。
だが、弟の身を案じる彼女は難色を示していた。

「本気で探したのなら話は別ですが……一種の話題作りかと。
こうして急に知名度が上がると、得体の知れない人間が嫌と言うほど寄ってくるんです」

赤信号で待つ間、彼女は六本木の夜景をガラス越しに見遣った。

「彼は天才肌の成功者かもしれません。ですが……特にこの街は、裏で何をやっているのかわからない人間が多いですから」

直矢は仕事柄、数えきれないほどの企業のバックグラウンドを調査してきたが、経験則でイエスと言えるパターンが多かった。興味本位で経営者個人に探りを入れれば、本業とは別にハイリスクハイリターンの投機で荒稼ぎしていたり、オンラインサロンで高額な情報商材を売りつけていたり。とかく出処の知れない金が動く、閉鎖的なコミュニティだった。

「それは……確かに一理ありますね。ああいう連中は、叩けば叩くほど埃が出てくる」

敵対心を露わにした眼差しは、間違いなく自分を牽制していたと言っていい。
取材陣に阻まれてそれ以上の対話は叶わなかったが、青年の表情が皮肉を示していた。TOと言えど、所詮は一ファンに過ぎないのだと。

(ヤツは……本気で紫音のことを……?)

果たして、単なるパフォーマンスに過ぎなかったのか。二人の間に具体的にどういった交流があったか、部外者は知る由も無い。
如何せん、今は紫音の無事が懸念される。マネージャーから報告を受けた姉から、一旦楽屋に戻ったと聞かされると、直矢は安堵で胸を撫で下ろした。

「俺も可能な限り力になります。何かあれば、いつでも連絡してください」
「ありがとうございます。あの子も喜ぶと思いますわ」

追跡車がなかったのは、目くらましに成功した証だった。
マンションの車寄せに停車すると、茉莉子は助手席に置いていた紙袋を直矢に差し出した。駐車場まで誘導する間も提げられていた、シンプルなネイビーの袋だ。
マネージャーから託けられたというそれは、想定外の贈り物だった。

「本来なら、今夜お食事の席で直接渡したかったみたいですが……」
「あの子が……俺にですか?」

番組収録後にディナーを一緒にという約束も、結局反故になってしまった。
引き離された瞬間を思い返せば胸が詰まったが、温かな心遣いが伝わってくる。直矢が驚きつつも受け取ると、彼女は明るい声で見送ってくれた。

「また、近々会ってあげてください。良いお年を」

まだ現実味を帯びない騒乱の後。
泥のような疲弊の中で、かすかな希望の光が灯った気がした。直矢は逸る気持ちを抑え、早足で自室へ戻る。
開口部のテープを剥がそうとした時、ポケットのスマホが振動を始めた。仕方なく端末を手に取ると、すでに同じ人物から何度か着信があったようだ。
時差を考えるのも面倒で、直矢は重苦しい第一声を絞りだした。

「――何かあったのか?」
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