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序章:夜が明けない街で
第3章 再会
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「はぁっ、はぁっ……ありさ、大丈夫!?」
荒い息づかいとともに、少女の声が夜を裂いた。
目の前には――赤い髪。
月明かりを反射して輝くその色を、ありさは知っている。
その香り、その気配、その声。
間違えるはずがなかった。
「――あんず……!」
ありさは、自分でも気づかぬうちに叫んでいた。
それは、絶望の底で掴んだ唯一の“光”。
あんずは振り向き、額の汗を拭いながら息を整える。
頬には涙の跡が残っていた。
「……謝りたくて、来たんだよ」
「……えっ?」
「傷つけちゃったから……」
涙を堪えながら微笑むあんず。
その姿を見て、ありさの胸が締め付けられる。
(……あんずの流す涙が、こんなに痛いなんて……)
死を目前にして、ようやく気づく。
“自分以外の心”を理解しようとしていなかったことに。
「……あんず」
「信じてた。ありさの話……信じてたんだよ。それだけは、わかってほしい」
ありさは理解した。
この子は、誰よりも優しい。
自分のことよりも他人を想い、気づけなかった痛みに苦しんでいる――。
(だから、追いかけてきてくれた。
……私はなんてバカなんだっ!
言いたいことだけ言って、被害者ぶって、あんずの家から飛び出して……!
あげくに迷って、泣いて、他人まで巻き込んで……
……あの警官の人も、死なずにすんだかもしれないのに……!
今度はあんずまで危険な目にあわせちゃってる……!
ちくしょうっ、ちくしょう!!)
「あ、ありさ……どうしたの?」
「許せない……私、自分が許せないよっ……!」
涙が溢れ、拳を握り締める。
もう、“恐怖”も“絶望”もなかった。
そこにあるのはただ――怒りと、決意。
「くっくっく……こいつはいい。すぐに殺さなくて正解だったな」
暗闇の奥。
声がした。
ありさとあんずは同時に振り向く。
闇の中に、輪郭のぼやけた“人影”が立っている。
「感じる、感じるぞ……私に対する貴様の憎悪、殺意が」
その存在が、ありさの怒りをさらに煽る。
憎悪が、体の奥で燃え上がる。
(こいつだ……! こいつが、あの人を――!)
「ぐっ……殺してやるっ! 殺してやるっ!!」
「ふふ……だが残念だな」
影が嗤う。
「貴様には何の力もない。ただの人間だ。
我ら悪魔に抗えるわけがない」
確かに、力などない。
喧嘩もしたことのないありさが戦えるはずもなかった。
――けれど。
(それでも……逃げない。もう逃げたりなんかしない!)
恐怖はあった。震えもあった。
それでも、瞳だけは曇らなかった。
影は愉快そうに声を上げる。
「それに、私が追っていたのは“特性変異人”――そこの女だ」
その言葉に、ありさは息を呑む。
“特性変異人”――?
「……なに、それ……?」
「特別な個体だ。
生まれながらに、常人を超える力を持つ。
……貴様の親友、あんずがそうだ」
「えっ……わたしが……?」
混乱に揺れるあんず。
だが影は、さらに言葉を突き刺す。
「いらぬ責任感で追ってこなければ、あの男も死なずに済んだ。
……滑稽だな。まるで自分で地獄を招いたようだ」
「やめろっ!!」
ありさが叫ぶ。だが、影は笑い声をあげた。
「まあいい。お前たちの“力”は、我らにとって糧となる。
――死によってな!」
その瞬間、影の左右に“それ”が現れた。
狼に似た二匹の獣。
その目は赤く光り、唸り声を上げる。
(……間違いない。私を狙ってる)
人間の本能が告げていた。
“死”の気配。
隣のあんずを見やると、彼女はうつむいていた。
苦悩か、それとも決意か。
「やれっ!!」
黒い影の号令と同時に、獣たちが動いた。
「――あんず、私のことはいいから逃げてっ!!」
叫んだ瞬間、腹部に衝撃が走る。
「――がはっ……!」
視界が揺れた。
腹に感じた蹴り――それは、あんずの膝だった。
「……あんず……どうして……」
膝をつき、倒れ込むありさ。
親友の顔が、夜の闇の中にぼやけて見える。
荒い息づかいとともに、少女の声が夜を裂いた。
目の前には――赤い髪。
月明かりを反射して輝くその色を、ありさは知っている。
その香り、その気配、その声。
間違えるはずがなかった。
「――あんず……!」
ありさは、自分でも気づかぬうちに叫んでいた。
それは、絶望の底で掴んだ唯一の“光”。
あんずは振り向き、額の汗を拭いながら息を整える。
頬には涙の跡が残っていた。
「……謝りたくて、来たんだよ」
「……えっ?」
「傷つけちゃったから……」
涙を堪えながら微笑むあんず。
その姿を見て、ありさの胸が締め付けられる。
(……あんずの流す涙が、こんなに痛いなんて……)
死を目前にして、ようやく気づく。
“自分以外の心”を理解しようとしていなかったことに。
「……あんず」
「信じてた。ありさの話……信じてたんだよ。それだけは、わかってほしい」
ありさは理解した。
この子は、誰よりも優しい。
自分のことよりも他人を想い、気づけなかった痛みに苦しんでいる――。
(だから、追いかけてきてくれた。
……私はなんてバカなんだっ!
言いたいことだけ言って、被害者ぶって、あんずの家から飛び出して……!
あげくに迷って、泣いて、他人まで巻き込んで……
……あの警官の人も、死なずにすんだかもしれないのに……!
今度はあんずまで危険な目にあわせちゃってる……!
ちくしょうっ、ちくしょう!!)
「あ、ありさ……どうしたの?」
「許せない……私、自分が許せないよっ……!」
涙が溢れ、拳を握り締める。
もう、“恐怖”も“絶望”もなかった。
そこにあるのはただ――怒りと、決意。
「くっくっく……こいつはいい。すぐに殺さなくて正解だったな」
暗闇の奥。
声がした。
ありさとあんずは同時に振り向く。
闇の中に、輪郭のぼやけた“人影”が立っている。
「感じる、感じるぞ……私に対する貴様の憎悪、殺意が」
その存在が、ありさの怒りをさらに煽る。
憎悪が、体の奥で燃え上がる。
(こいつだ……! こいつが、あの人を――!)
「ぐっ……殺してやるっ! 殺してやるっ!!」
「ふふ……だが残念だな」
影が嗤う。
「貴様には何の力もない。ただの人間だ。
我ら悪魔に抗えるわけがない」
確かに、力などない。
喧嘩もしたことのないありさが戦えるはずもなかった。
――けれど。
(それでも……逃げない。もう逃げたりなんかしない!)
恐怖はあった。震えもあった。
それでも、瞳だけは曇らなかった。
影は愉快そうに声を上げる。
「それに、私が追っていたのは“特性変異人”――そこの女だ」
その言葉に、ありさは息を呑む。
“特性変異人”――?
「……なに、それ……?」
「特別な個体だ。
生まれながらに、常人を超える力を持つ。
……貴様の親友、あんずがそうだ」
「えっ……わたしが……?」
混乱に揺れるあんず。
だが影は、さらに言葉を突き刺す。
「いらぬ責任感で追ってこなければ、あの男も死なずに済んだ。
……滑稽だな。まるで自分で地獄を招いたようだ」
「やめろっ!!」
ありさが叫ぶ。だが、影は笑い声をあげた。
「まあいい。お前たちの“力”は、我らにとって糧となる。
――死によってな!」
その瞬間、影の左右に“それ”が現れた。
狼に似た二匹の獣。
その目は赤く光り、唸り声を上げる。
(……間違いない。私を狙ってる)
人間の本能が告げていた。
“死”の気配。
隣のあんずを見やると、彼女はうつむいていた。
苦悩か、それとも決意か。
「やれっ!!」
黒い影の号令と同時に、獣たちが動いた。
「――あんず、私のことはいいから逃げてっ!!」
叫んだ瞬間、腹部に衝撃が走る。
「――がはっ……!」
視界が揺れた。
腹に感じた蹴り――それは、あんずの膝だった。
「……あんず……どうして……」
膝をつき、倒れ込むありさ。
親友の顔が、夜の闇の中にぼやけて見える。
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