Beyond the Soul ~魂の彼方へ~ ライトノベルリファイン

ぐれおねP

文字の大きさ
4 / 7
序章:夜が明けない街で

第4章 特性変異人(とくせいへんいじん)

しおりを挟む
第4章 特性変異人(とくせいへんいじん)

ありさは、薄れゆく意識の中で見た。
――あんずが、獲物を変えた二匹の獣に向き合う姿を。

あの優しい子が、まるで別人のような眼をしていた。

獣の唸り声が重なる。
地を蹴る音、肉を裂く風の音。
だがあんずは、動かない。

いや、動かさない。

(……あんず、逃げて……!)

心の声は届かない。
ありさの指先は動かず、声も出ない。
ただ見ていることしかできなかった。

(見えない相手なら……感じるしかない)

あんずはゆっくりと目を閉じた。

格闘技を学んだ者が“気配”を読むために行う、あの集中の型。
空手の呼吸、静と動の境界線。

(チャンスは一度きり。失敗したら、私も、ありさも……死ぬ)

身体の震えが止まる。
恐怖が薄れ、代わりに静かな闘志が湧き上がる。

(守りたい。……あの笑顔を、絶対に)

そして――
あんずは、目を開いた。

その瞬間。

視界の色が、変わった。
闇が透け、時間の流れが遅く見える。
自分の身体が軽く、空気すら掴めそうなほど。

(――これが、“力”……?)

あんずの両足が地面を蹴った。

――風を裂く。
――骨が砕ける。

音すら追いつかない速さで、一匹の魔狼が宙を舞った。
もう一匹は、地面に叩きつけられた瞬間、ピクリとも動かなくなる。

ドサッ。

そして、静寂。

赤黒い液体が地面に広がり、夜の匂いが重く漂った。

「……やったの?」

息を切らしながら、あんずはつぶやく。
それでも、手は震えていなかった。

二体の身体から、じわじわと液体が滲み出ている。
血――それに似た何か。
“人”ではないものの証。

倒れた獣を見下ろすあんずの心に、安堵と……恐怖が混じる。

(……私、本当に……人間?)

自分が放った一撃の重さ。
そして、体の奥から湧き上がる“異質な熱”。
それは、力と呼ぶにはあまりに異様だった。

足元がふらつく。
膝が崩れ、地面に手をつく。

「……はぁ、はぁっ……な、なんで……身体が……」

極度の疲労。
それは力の代償。
あんずの肉体は、未知の力を扱うにはまだ未熟すぎた。

「……さすがは特性変異人、やるな」

黒い影が再び声を発する。

「だが――もうエネルギー切れとはな。拍子抜けだ」

あんずは顔を上げる。
息を荒げながらも、その目だけは消えていなかった。

影は薄笑いを浮かべながら、闇に命令を下す。

「次は……五匹だ」

唸り声。
赤い眼が、五つ。
闇の中に点々と灯る。

「……うそ……そんな……」

足が、立たない。
腕が、震える。
それでも――あんずは、後ろを振り向いた。

そこには、気を失ったありさがいた。
穏やかな寝顔。
無防備で、脆くて、愛しい。

(……ありさだけは、絶対に……守る)

力がなくても、足が動かなくても。
その想いだけが、あんずを支えていた。

「……はっ!!」

魔狼たちが一斉に動いた。

速い。
もう、視えない。

(――終わりか……)

瞼を閉じた。
血と鉄の匂いに包まれながら、覚悟を決めた。

だが――

次の瞬間。

獣たちの動きが、止まった。

いや、“止められた”。

空中で固定されるように、五匹の魔狼が宙に浮かんでいる。
ギロチンのような光の刃が、それぞれの首を掴んでいた。

「――怪物にも、恐怖ってあるんだね」

静かに、少年の声が夜を貫いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

花鳥見聞録

木野もくば
ファンタジー
花の妖精のルイは、メジロのモクの背中に乗って旅をしています。ルイは記憶喪失でした。自分が花の妖精だったことしか思い出せません。失くした記憶を探すため、さまざまな世界を冒険します。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

王国の女王即位を巡るレイラとカンナの双子王女姉妹バトル

ヒロワークス
ファンタジー
豊かな大国アピル国の国王は、自らの跡継ぎに悩んでいた。長男がおらず、2人の双子姉妹しかいないからだ。 しかも、その双子姉妹レイラとカンナは、2人とも王妃の美貌を引き継ぎ、学問にも武術にも優れている。 甲乙つけがたい実力を持つ2人に、国王は、相談してどちらが女王になるか決めるよう命じる。 2人の相談は決裂し、体を使った激しいバトルで決着を図ろうとするのだった。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

処理中です...