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序章:夜が明けない街で
第6章 遺言(いごん)
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「……ありさっ!!」
あんずは声を張り上げた。
膝をつき、倒れた親友の身体を抱き起こす。
その腕の中にある温もりを確かめるように、震える指で髪を撫でた。
「お願い、起きてよ……ありさ……!」
焦燥と後悔、祈りが混ざった声。
その瞬間、かすかな息づかいが返ってきた。
「……あれ、あんず……?」
瞼がゆっくりと開く。
ぼやけた視界に、泣きはらした親友の顔が映った。
ありさの意識が少しずつ戻っていく。
脳裏に浮かぶのは、断片的な記憶。
(……勉強会、トイレ、暗闇、警官、首……
見えない獣、黒い影、……あんず……)
「――あんずっ!! 怪物は!? 大丈夫なの!?」
あまりに突然の叫びに、あんずは一瞬驚き、すぐに微笑んだ。
「大丈夫。……もう、終わったよ」
その声には確かな安心があった。
「……ほんとに……?」
「うん。助かったの、私たち」
ありさの瞳が潤む。
その涙は、恐怖ではなく――安堵だった。
「……よかった……ほんとによかった……!」
次の瞬間、ありさはあんずに抱きついた。
その勢いに押され、二人はゆっくりと地面に倒れ込む。
「ありがと、あんず……! あんずが無事でよかったよぉ!」
「うん……ありがと、ありさ……」
月明かりに照らされ、二人の涙が光る。
まるで、夜空に散る星の欠片のように。
やがて、ありさは身体を起こし、あんずを見つめた。
「ねぇ、あんず。……あの男の人は?」
「もう、いないよ。……でもね、あの人が助けてくれたの」
「……龍の人?」
「うん。あの人、たぶん“特別”なんだと思う」
あんずは小さく呟きながら、彼の背中の“龍”を思い出していた。
――あの目。
すべてを見透かすような眼差し。
そのときだった。
アスファルトの地面の上、首のない警官の亡骸が目に入る。
血はもう乾いている。
それでも、ありさの胸の奥に広がる痛みは、何も変わらなかった。
「……先生……」
震える声。
男――警官は、あのとき、彼女に“生きろ”と伝えてくれた。
その温もりが、まだ掌に残っている気がした。
「いやぁっ……いやぁぁ……ひどいよ……」
ありさの涙が零れ落ちる。
それは悲しみと、悔しさと、後悔の混ざった涙だった。
あんずは何も言えなかった。
ただ、親友の肩に手を置き、寄り添うことしかできなかった。
そのとき――
頭の中に、声が響いた。
(……悲しむ必要なんてない)
「えっ……!?」
聞き覚えのある声。
優しく、穏やかで、頼もしい声。
(君の中に、まだ“温もり”は残っているはずだ)
「……先生?」
(そうだ。……肉体は滅びたが、魂はまだここにある)
(……先生、どうして……)
(お嬢ちゃん。……君に頼みがある)
その声は、かすかに震えていた。
(あの悪魔と戦うための力を、君に託したい)
(……力を?)
(私の動体視力、そして、聖なる銃“邪滅聖魂”。
君なら、この力を扱えるはずだ)
(……邪滅聖魂……)
その名前を口にした瞬間、ありさの身体が光に包まれる。
あたたかい。
でも、それだけじゃない。
心の奥に、確かな“覚悟”が芽生えていく。
(私はもう、逃げない。……誰かを守る)
涙が、ひと筋だけ頬を伝う。
(先生……ありがとう。……必ず、この力を使いこなしてみせる)
(……頼んだぞ)
最後の言葉が、やさしく響いた。
そして、静かに消えた。
ありさは立ち上がった。
夜風が吹き抜ける。
「……あんず、私、やるよ」
「え……?」
「もう、誰にも奪わせない。
先生の想いも、私たちの未来も」
あんずはその瞳を見て、息を呑む。
あの怯えていた少女の面影は、もうどこにもなかった。
「……強く、なったね」
ありさは微笑んだ。
そのとき、夜空がわずかに明るくなった。
東の空に、一筋の光。
――夜明けではなかった。
だが、確かに“始まり”を感じさせる光だった。
あんずは声を張り上げた。
膝をつき、倒れた親友の身体を抱き起こす。
その腕の中にある温もりを確かめるように、震える指で髪を撫でた。
「お願い、起きてよ……ありさ……!」
焦燥と後悔、祈りが混ざった声。
その瞬間、かすかな息づかいが返ってきた。
「……あれ、あんず……?」
瞼がゆっくりと開く。
ぼやけた視界に、泣きはらした親友の顔が映った。
ありさの意識が少しずつ戻っていく。
脳裏に浮かぶのは、断片的な記憶。
(……勉強会、トイレ、暗闇、警官、首……
見えない獣、黒い影、……あんず……)
「――あんずっ!! 怪物は!? 大丈夫なの!?」
あまりに突然の叫びに、あんずは一瞬驚き、すぐに微笑んだ。
「大丈夫。……もう、終わったよ」
その声には確かな安心があった。
「……ほんとに……?」
「うん。助かったの、私たち」
ありさの瞳が潤む。
その涙は、恐怖ではなく――安堵だった。
「……よかった……ほんとによかった……!」
次の瞬間、ありさはあんずに抱きついた。
その勢いに押され、二人はゆっくりと地面に倒れ込む。
「ありがと、あんず……! あんずが無事でよかったよぉ!」
「うん……ありがと、ありさ……」
月明かりに照らされ、二人の涙が光る。
まるで、夜空に散る星の欠片のように。
やがて、ありさは身体を起こし、あんずを見つめた。
「ねぇ、あんず。……あの男の人は?」
「もう、いないよ。……でもね、あの人が助けてくれたの」
「……龍の人?」
「うん。あの人、たぶん“特別”なんだと思う」
あんずは小さく呟きながら、彼の背中の“龍”を思い出していた。
――あの目。
すべてを見透かすような眼差し。
そのときだった。
アスファルトの地面の上、首のない警官の亡骸が目に入る。
血はもう乾いている。
それでも、ありさの胸の奥に広がる痛みは、何も変わらなかった。
「……先生……」
震える声。
男――警官は、あのとき、彼女に“生きろ”と伝えてくれた。
その温もりが、まだ掌に残っている気がした。
「いやぁっ……いやぁぁ……ひどいよ……」
ありさの涙が零れ落ちる。
それは悲しみと、悔しさと、後悔の混ざった涙だった。
あんずは何も言えなかった。
ただ、親友の肩に手を置き、寄り添うことしかできなかった。
そのとき――
頭の中に、声が響いた。
(……悲しむ必要なんてない)
「えっ……!?」
聞き覚えのある声。
優しく、穏やかで、頼もしい声。
(君の中に、まだ“温もり”は残っているはずだ)
「……先生?」
(そうだ。……肉体は滅びたが、魂はまだここにある)
(……先生、どうして……)
(お嬢ちゃん。……君に頼みがある)
その声は、かすかに震えていた。
(あの悪魔と戦うための力を、君に託したい)
(……力を?)
(私の動体視力、そして、聖なる銃“邪滅聖魂”。
君なら、この力を扱えるはずだ)
(……邪滅聖魂……)
その名前を口にした瞬間、ありさの身体が光に包まれる。
あたたかい。
でも、それだけじゃない。
心の奥に、確かな“覚悟”が芽生えていく。
(私はもう、逃げない。……誰かを守る)
涙が、ひと筋だけ頬を伝う。
(先生……ありがとう。……必ず、この力を使いこなしてみせる)
(……頼んだぞ)
最後の言葉が、やさしく響いた。
そして、静かに消えた。
ありさは立ち上がった。
夜風が吹き抜ける。
「……あんず、私、やるよ」
「え……?」
「もう、誰にも奪わせない。
先生の想いも、私たちの未来も」
あんずはその瞳を見て、息を呑む。
あの怯えていた少女の面影は、もうどこにもなかった。
「……強く、なったね」
ありさは微笑んだ。
そのとき、夜空がわずかに明るくなった。
東の空に、一筋の光。
――夜明けではなかった。
だが、確かに“始まり”を感じさせる光だった。
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