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3巻
3-2
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「さて、炊飯器がないから鍋だな。上手く炊けるかな……」
早速、僕は白麦を炊いてみようと、街の外の人気のない場所で準備を始めた。
街道から外れた森の中の、少し開けた場所だ。
――ピロンッ♪
いざ、米を炊いてみようとしたところで、頭の中で電子音が聞こえた。
「シルだよな。……《オープン》」
メニュー画面を出すと、アイテムリストに新しいアイテムが増えていた。
「おお、これは!」
それは、日本のキッチンには欠かせない電化製品、炊飯器だった。
電気コンセントの代わりに火の魔石が組み込まれた魔道具で、使い方は電化製品と同じく、研いだ米と水を入れて、スイッチオン! ご飯が炊き上がると、自動的に停止するようだ。
米を炊く道具だから保温はできないみたいだけど、これは嬉しい。
シルに感謝だ! ありがとう!!
すぐに試してみると、ご飯は十分ほどで炊き上がった。
早炊きよりも短時間! とっても素晴らしい!
「あちっ……んぐ」
炊き上がったばかりのご飯をすぐに頬張る。
あっ、普通に美味しい。これなら白いご飯としても問題なく食べられる。
「アレン、エレナ。あーん」
アレンとエレナがこちらをじぃー……と見ていたので、スプーンですくったご飯を目の前に差し出すと、二人ともパカッと口を開いた。たとえはちょっとよくないけど、お腹を空かせている雛鳥のようだ。
それぞれの口にご飯を入れると、二人はもぐもぐと味わうように食べていた。
「どうだ?」
「「……おいしー」」
「そうか。良かった」
アレンとエレナはほんのりと笑みを浮かべた。
ご飯が二人の口に合って本当に良かったと思う。駄目なら別の食事を用意するけど、やっぱり元日本人の僕としては、アレンとエレナがご飯が苦手だったらちょっと悲しいもんな。
さて、残りのご飯は食べやすいように、おにぎりにでもしておこうかな?
しかし、海苔がないしなぁ。それに、塩むすびじゃ味気ないので、何か具を入れたいんだが……。具か……。海鮮系の食材はまだ手に入っていないから、鮭やタラコはないし……。同じ理由で、オカカや昆布、海苔の佃煮なんかもできない。
ツナマヨ……ツナも魚だな……。というか、ツナってどうやって作るんだ? マグロの切り身をオイルに浸して、低温で加熱するんだっけか? マグロが手に入ったら試してみよう。
天むす? いや、駄目だ……エビも海の食材だし……。
こうやって考えると、おにぎりの具って、意外と海の食材が多いんだなぁ~。
海以外だと……梅干しか。見た目も味も梅に似た果実はあるものの、さすがに梅干しはない。
高菜? 似たようなものは作れそうだけど、僕が苦手なので却下で!
鶏五目はご飯を炊く時点で仕込まないとな。今回は無理だが、材料自体は揃いそうだから今度作ってみようか。
むぅ~。あとは何があったかなぁ。案外、思いつかない……。
◆ ◆ ◆
あの日は結局、炊いたご飯を《無限収納》にそのまま保存するしかなかった。
まだ水神の眷属長様からアイテムを貰っていなかったから、海産物は全滅だったんだよな。それに貰った後だったとしても、おにぎりの具材になりそうなものはなかったんだよ。
だから、今日はベイリーの港の朝市で購入した食材を使って、リベンジするのだ!
用意したものは、鮭っぽい魚の塩焼きをほぐしたもの。
マグロに似た赤身の切り身で作ったツナもどきに、お手製マヨネーズを和えた、なんちゃってツナマヨ。わりと美味しくできたと思う。
あとは刻んだ昆布をショーユなどの調味料で味付けした昆布の佃煮。鰹節を細かく削ったオカカも作ってみた。
海苔も似たような海藻があったから用意したよ。まず海藻をよく洗って細かく刻み、薄く平らに伸ばして、水魔法で水分を取り除いたあとで生活魔法の《ドライ》を使って乾燥。
きめは少し粗かったけど、ちゃんと海苔になっていた。やればできるもんだ!
さて、ご飯も炊けた。具材と海苔は用意した。ああ、あと塩だな。ちょっと奮発して一番良い塩を買ってきたんだ。
それじゃあ、あとは握るだけだな!
ご飯の中央に具材を入れて、海苔で包む。何の具かわかるよう、外から見えるところにほんの少しだけ具をくっつけた。
そうして次々に握ることしばし――
「よし、できた!」
僕は大量のおにぎりを握り、先程ジュールに軽く足蹴にされたサンドクラブの足を使ったスープを作った。
「みんなー、ご飯だよー」
「「ごはーん」」
『きゃん』
『なぁ~』
『ピィ』
『がるっ』
僕の呼びかけに、少し離れたところでじゃれ合っていた子供達は一斉に駆け寄ってきた。
ヴィヴィアンさんがいつ目を覚ますかわからないので、ジュールとフィートには小さな姿になってもらっている。
ボルトとベクトルに関しては諦めた。姿を見られてもどうにか誤魔化す方向でいこうと思っている。弱っていたところを契約したとか、子供だった時に契約したとかでね。
「……zzz……ん? ご飯っ!?」
そう思っていたら、ヴィヴィアンさんが目を覚ました。
「ご飯。ご飯はどこですかぁ~?」
ガバリッ、と体を起こすと、きょろきょろ周りを見渡して『ご飯』を探していた。
何か……美人なのに残念感がたっぷりの女性だ。
そんなヴィヴィアンさんをよそに、子供達はテーブル代わりの木箱の前に並ぶ。
「「いただきまーす」」
『きゃん』
『な~ぅ』
『ピィ』
『がるっ』
アレンとエレナは、おにぎりやスープを取り分けたお皿の前で行儀良く食事の挨拶をすると、ゆっくりと食べ始めた。
ジュール達も二人を真似して、しっかりと挨拶をしてからおにぎりに齧りつく。
僕はみんなが食べ始めたのを見ると、起き上がって子供達の方を羨ましそうに眺めているヴィヴィアンさんの前にも、おにぎりとスープを差し出した。
「いいんですかっ!? わ~、いただきますっ!」
子供達が先に食べていたので、ヴィヴィアンさんはおにぎりが食べ物だと判断できたようだが、〝これは何だろう……〟という感じで躊躇いがちに口をつけた。
しかし、二口目、三口目と食べ進めると、四口目からは夢中で頬張りだした。
「はぐはぐ……んぐんぐ……」
それはもう、凄い勢いでおにぎりがお腹に収められていく。バクバクバクッ、という効果音が聞こえてきそうだ。
「アレン、エレナ。それは二人の分だからゆっくり食べような」
あまりのヴィヴィアンさんの食べっぷりに、アレンとエレナは自分の食事まで取られるのではと思ったらしい。焦ったように、二人とも食べるスピードを上げていた。
だけど僕の言葉で安心したのか、アレンとエレナは口いっぱいに頬張りながらコクコクッと頷き、食べるペースを元に戻す。
「ところで、空腹で倒れていたようですが、どうかしたんですか?」
「んぐっ! んぐんぐっ!」
僕が尋ねると、ヴィヴィアンさんは口いっぱいにおにぎりを詰め込んだまま喋ろうとした。
「いや……食べ終わってからでいいです……」
「んぐっ!」
何を言っているかわからないし、行儀が悪い。アレンとエレナが真似するといけないので、話は食事の後のほうがいいよな。
ヴィヴィアンさんは、黙々と食べ続けている。
やっぱり凄い食べっぷりだ……。
「いや~、食べた食べた~。ごちそうさまでした~」
あっという間に大量に握ったおにぎりがなくなってしまった。
「あ、私はヴィヴィアンといいます。ヴィヴィでもヴィヴィアンでも好きに呼んでくださいな。ところで、さっきのあれは何ですか~。今まで食べたことないものでした~」
「僕はタクミ。えっと、さっきのは白麦を水で炊いたものです」
「白麦ですかぁ? あの、家畜の餌にする?」
あ、しまった……。米はエーテルディアでは家畜の餌だったっけ。迂闊だったな。
「すみません。僕の故郷だと白麦は普通に人の食事として食べるものなので、つい出してしまいました。気分を害しましたか?」
「いえいえ。美味しかったので問題ないです~。それにしても白麦ですか~。こんなに美味しいものだったとは知りませんでした~」
ヴィヴィアンさんは白麦と聞いても不快に思った様子はなかった。むしろ気に入ったみたいだ。良かった……。
今度から人に食事を提供する時には気をつけないとな。家畜の餌を出されて侮辱された、と勘違いする人もいるだろうし。
「いや~、お兄さんは料理上手ですね~。あれ? お兄さん? パパさんかな?」
気がつくとヴィヴィアンさんは、アレンとエレナに向かって話し掛けていた。
「「……? おにーちゃん」」
ヴィヴィアンさんに対して、特に警戒していなかったはずのアレンとエレナが、一瞬、戸惑うような反応を見せた。
……どうしたんだろう?
今、ヴィヴィアンさんの目の前で確認するのはやめたほうがいいだろう。あとで二人に聞くのを忘れないようにしないとな。
「お兄さんで合っていましたか~。でも、反応が悪かったですねぇ~。実はやっぱりパパさん?」
ヴィヴィアンさんも、アレンとエレナの戸惑いに気づいたらしい。
というか、何を勘ぐっているんだ、この人は……。
「兄だってば……」
僕は二人の代わりに、呆れながらそう答えた。
「すみませ~ん。私、人の秘密が大好物なんです! 隠されていることを探り当てるのって楽しいですよね~」
「……」
ヴィヴィアンさん――いや、もう、ヴィヴィアンでいいか……。
ヴィヴィアンは僕が呆れていることに気づき、おどけたように言った。
堂々と言うことではないと思うんだが、まあ、彼女の場合は〝趣味=仕事〟として成り立っているのだろう。
「で、ヴィヴィアンは何で倒れていたんだ?」
「いや~。何でですかね~?」
「……僕に聞かないでくれ」
……この人、ふざけているんだろうか?
「えっと、えっと……あ、そうだっ! 思い出しました! 私、街から街へ移動しようとしたんですけど、食料を買い忘れたんですぅ~。それで移動中に狩りや採取をして何とか凌いでいたんですが、ここ二、三日は収穫がなくて……」
「食料がないって気づいた時点で、元いた街に戻れよっ!」
「おお! 確かにそうですね。いや~なんとかなるかなぁ~と思って気にしませんでした~」
「……」
「そうそう、私、仕事の報告でアルベールの街に行くところなんですけど~、ここってどこら辺ですかぁ~?」
「……ここはベイリーの街の近くだぞ」
「あれぇ~?」
アルベールの街は、ベイリーの街の東、王都の南に位置する。
ヴィヴィアンがどこの街を出発したか知らないが、他国から船で渡ってきたのでなければ、ベイリーの街付近にいること自体がおかしい。
「変だな~? まあでも、報告の期限までは余裕があるので大丈夫ですっ! そうそう、今回の仕事はとても簡単だったんですよ~。ある貴族令嬢の縁談相手の素行調査だったんですが~、調査対象の男がなんと! 邸に平民の娘を囲っていたんです! それがもう、とても堂々としていたもんで~、隠す気なんてないんですね。ちょっと使用人に聞いただけで、埃が出るわ出るわ。正直、私が使用人として潜入するまでもなかったですね~」
いや、依頼内容まで聞いてないから……。何、ペロッと話してんのさ!
ヴィヴィアンがどうしてメイドのような格好をしているのか判明したが、街から街へ移動するのに、何故そのままの姿なんだよ! もっと旅に適した服に着替えようよ!
「おっと、報告期限に余裕があるとはいえ、ゆっくりもしていられませんねぇ~。じゃあ私、行きますね~。あ、そうだそうだ。これ、ご飯のお礼です~」
急に立ち上がったヴィヴィアンは、腰に括りつけてあった鞄から、何やら液体が入った小瓶をいくつか取り出した。
「別に気にしないでいいよ」
「いえいえ、受け取ってください」
そしてそのままヴィヴィアンは無理矢理、僕の手に小瓶を押しつけてきた。
……これは一体何なんだろう?
【紅薔薇の滴】
ヴァンパイア特製の媚薬。
即効性。効果は四、五時間持続。
副作用が一切ない優れもの。女性のみに効果あり。
【白薔薇の滴】
ヴァンパイア特製の精力剤。
即効性。効果は四、五時間持続。
副作用が一切ない優れもの。男性のみに効果あり。
んなっ!?
小瓶を【鑑定】してみて、僕は驚愕した。
「ちょっ! これっ!!」
「あ、何の薬かわかるみたいですね~。それ、私が作ったんですが、効果抜群でなかなか好評なんですよ~。ぜひお試しください。んじゃあ、ごちそうさまでした~」
「おい、ちょっと待てっ!」
僕が止めるのも聞かず、ヴィヴィアンは素早い動きで立ち去っていった。
物凄いスピードでみるみる遠ざかり、あっという間に姿が見えなくなる。
「「いっちゃったー?」」
「そうだな……」
本当にあいつは何だったんだ……。それに、この瓶をどうしろっていうんだよ……。
はぁ……と溜め息をついて、小瓶を《無限収納》にしまった。これはこのまま《無限収納》に死蔵することになるだろう。
「「……おにーちゃん」」
「何だい?」
「「パパってなーに?」」
「えっ!?」
僕ががっくり項垂れていると、アレンとエレナからびっくりする質問をされた。
まさか……。でも……もしかして……?
「……えっと、アレンとエレナは、父親とかお父さんとかってわかるか?」
僕の質問に二人は首を横に振った。
あちゃ~……。アレンとエレナは家族というものを知らなかったのか……。ヴィヴィアンに聞かれて戸惑っていたのは、そのせいだったんだな……。
そうか、そうだよな~。教える人がいなかったらわからないよな~。
二人とも、僕のことを当たり前のように「おにーちゃん」と呼ぶから、知っているものだと思っていた。
……あ、そうか。街の人――特に宿屋や商店のおばさんがよく僕達に声を掛けてくるんだけど、その時に「お兄ちゃんとお出かけかい?」とか、「お兄さん、子供にこれどうだい?」などと言っていた。アレンとエレナはそれを聞いて、僕のことをお兄ちゃんと呼ぶようになったのか……。
「……えっと、パパっていうのはお父さんのことで――」
お父さんについてもだけど、お母さんや兄弟についても一応教えることにした。
しかし、意外とこういうのって説明が難しいな……。
どうすれば伝わるか、あれこれ考えながら説明して、何とか理解してもらってから僕達は街へ戻った。
◆ ◆ ◆
「な、な、何あれーーーっ!!」
「スカーレットキングレオですね」
「いやいやいやっ! そういうことじゃないからね!」
ヴィント……それくらい僕だって知っているよ。そうじゃなくて!
あ~……サラマンティールが巧さんに送った契約獣がSランクのスカーレットキングレオだなんて……。その存在自体が問題だよ!
サラマンティールに契約獣のことを何度聞いても、「シルフィリールにバラすわけないだろう」って言われて教えてもらえなかったから、すっごく不安だったんだ。
スカーレットキングレオは、僕達にとっては戦闘力が高い魔物の一種ってだけだ。
だからこそ、サラマンティールはスカーレットキングレオを選んだんだろうけどさー。あの魔物は戦闘力が桁外れに高いからね。サラマンティールは良かれと思って送っただけで、悪気の欠片もなかったに違いない、きっと。
それに、【縮小化】スキルを持っている個体を選んでいるあたり、全く考えなしってわけではなかったみたいだし。
だけど! だけどね、エーテルディアで暮らす者にとって、スカーレットキングレオは恐怖の対象だったんじゃないかい!?
「……大丈夫かな?」
あれを連れていることで、巧さんが危険視されないかな?
「タクミ殿も受け入れたようですし、上手くやるのではないでしょうか?」
「あ、本当だ」
僕の眷属で、その長であるヴィントの言う通り、巧さんは驚いていたものの、スカーレットキングレオにベクトルと名づけて一緒に過ごすことにしてくれた。
うん、スカーレットキングレオでも、巧さんなら上手く使ってくれるよね。
それに、巧さんは今のところ契約獣を人前で連れ歩いたりしているわけじゃないから、問題ないといえば問題ないのか?
魔物のランクだけでいえば、僕もSランクの飛天虎とAランクのサンダーホークを送っちゃったし。
だけど、僕が送った飛天虎は小さくなれば仔猫みたいに見えるもんね。サイズを小さくしても、まんま魔物に見えるスカーレットキングレオとは違う! よし、僕のは全く問題ない!
「――って、えぇぇぇ!? アウトだよね! あれはアウトだよね!?」
「……」
安心したのも束の間、ベクトルが早速、問題行動を起こしているよ~。
巧さんも驚愕している。そりゃー、自分の契約獣が人を咥えて帰ってきたら誰だって驚くよね。
咥えてきた本人は何も考えてなさそうだけど!
これは魔物の種類の問題じゃない! あの個体が問題だったよ!
人を咥えてくるって何さっ! 奔放すぎるだろ!
巧さんを手助けするために送っている契約獣なのに、あれじゃ余計に手が掛かるって感じだ。これじゃあ、本末転倒だよね。
あーあ、ヴィントも黙り込んじゃってるよ~。
さて、どうしようかな? 送ってしまったものを回収するわけにはいかないもんなぁ~。ベクトルはもう巧さんのものだし……。
巧さんは怒っていないみたいだけど、次に神殿に来た時になんて言おう。
「……ねぇ、ヴィント。躾に役に立つようなものって、何かあったかな?」
「……探しておきます」
とりあえず、躾――もとい、調教できるアイテムがあれば渡して……。
てか、迷惑を掛けたらアイテムをあげて解決っていうの、パターン化しているなぁ……。
こんな予定じゃなかったんだけどなぁ~。
はぁ……。
早速、僕は白麦を炊いてみようと、街の外の人気のない場所で準備を始めた。
街道から外れた森の中の、少し開けた場所だ。
――ピロンッ♪
いざ、米を炊いてみようとしたところで、頭の中で電子音が聞こえた。
「シルだよな。……《オープン》」
メニュー画面を出すと、アイテムリストに新しいアイテムが増えていた。
「おお、これは!」
それは、日本のキッチンには欠かせない電化製品、炊飯器だった。
電気コンセントの代わりに火の魔石が組み込まれた魔道具で、使い方は電化製品と同じく、研いだ米と水を入れて、スイッチオン! ご飯が炊き上がると、自動的に停止するようだ。
米を炊く道具だから保温はできないみたいだけど、これは嬉しい。
シルに感謝だ! ありがとう!!
すぐに試してみると、ご飯は十分ほどで炊き上がった。
早炊きよりも短時間! とっても素晴らしい!
「あちっ……んぐ」
炊き上がったばかりのご飯をすぐに頬張る。
あっ、普通に美味しい。これなら白いご飯としても問題なく食べられる。
「アレン、エレナ。あーん」
アレンとエレナがこちらをじぃー……と見ていたので、スプーンですくったご飯を目の前に差し出すと、二人ともパカッと口を開いた。たとえはちょっとよくないけど、お腹を空かせている雛鳥のようだ。
それぞれの口にご飯を入れると、二人はもぐもぐと味わうように食べていた。
「どうだ?」
「「……おいしー」」
「そうか。良かった」
アレンとエレナはほんのりと笑みを浮かべた。
ご飯が二人の口に合って本当に良かったと思う。駄目なら別の食事を用意するけど、やっぱり元日本人の僕としては、アレンとエレナがご飯が苦手だったらちょっと悲しいもんな。
さて、残りのご飯は食べやすいように、おにぎりにでもしておこうかな?
しかし、海苔がないしなぁ。それに、塩むすびじゃ味気ないので、何か具を入れたいんだが……。具か……。海鮮系の食材はまだ手に入っていないから、鮭やタラコはないし……。同じ理由で、オカカや昆布、海苔の佃煮なんかもできない。
ツナマヨ……ツナも魚だな……。というか、ツナってどうやって作るんだ? マグロの切り身をオイルに浸して、低温で加熱するんだっけか? マグロが手に入ったら試してみよう。
天むす? いや、駄目だ……エビも海の食材だし……。
こうやって考えると、おにぎりの具って、意外と海の食材が多いんだなぁ~。
海以外だと……梅干しか。見た目も味も梅に似た果実はあるものの、さすがに梅干しはない。
高菜? 似たようなものは作れそうだけど、僕が苦手なので却下で!
鶏五目はご飯を炊く時点で仕込まないとな。今回は無理だが、材料自体は揃いそうだから今度作ってみようか。
むぅ~。あとは何があったかなぁ。案外、思いつかない……。
◆ ◆ ◆
あの日は結局、炊いたご飯を《無限収納》にそのまま保存するしかなかった。
まだ水神の眷属長様からアイテムを貰っていなかったから、海産物は全滅だったんだよな。それに貰った後だったとしても、おにぎりの具材になりそうなものはなかったんだよ。
だから、今日はベイリーの港の朝市で購入した食材を使って、リベンジするのだ!
用意したものは、鮭っぽい魚の塩焼きをほぐしたもの。
マグロに似た赤身の切り身で作ったツナもどきに、お手製マヨネーズを和えた、なんちゃってツナマヨ。わりと美味しくできたと思う。
あとは刻んだ昆布をショーユなどの調味料で味付けした昆布の佃煮。鰹節を細かく削ったオカカも作ってみた。
海苔も似たような海藻があったから用意したよ。まず海藻をよく洗って細かく刻み、薄く平らに伸ばして、水魔法で水分を取り除いたあとで生活魔法の《ドライ》を使って乾燥。
きめは少し粗かったけど、ちゃんと海苔になっていた。やればできるもんだ!
さて、ご飯も炊けた。具材と海苔は用意した。ああ、あと塩だな。ちょっと奮発して一番良い塩を買ってきたんだ。
それじゃあ、あとは握るだけだな!
ご飯の中央に具材を入れて、海苔で包む。何の具かわかるよう、外から見えるところにほんの少しだけ具をくっつけた。
そうして次々に握ることしばし――
「よし、できた!」
僕は大量のおにぎりを握り、先程ジュールに軽く足蹴にされたサンドクラブの足を使ったスープを作った。
「みんなー、ご飯だよー」
「「ごはーん」」
『きゃん』
『なぁ~』
『ピィ』
『がるっ』
僕の呼びかけに、少し離れたところでじゃれ合っていた子供達は一斉に駆け寄ってきた。
ヴィヴィアンさんがいつ目を覚ますかわからないので、ジュールとフィートには小さな姿になってもらっている。
ボルトとベクトルに関しては諦めた。姿を見られてもどうにか誤魔化す方向でいこうと思っている。弱っていたところを契約したとか、子供だった時に契約したとかでね。
「……zzz……ん? ご飯っ!?」
そう思っていたら、ヴィヴィアンさんが目を覚ました。
「ご飯。ご飯はどこですかぁ~?」
ガバリッ、と体を起こすと、きょろきょろ周りを見渡して『ご飯』を探していた。
何か……美人なのに残念感がたっぷりの女性だ。
そんなヴィヴィアンさんをよそに、子供達はテーブル代わりの木箱の前に並ぶ。
「「いただきまーす」」
『きゃん』
『な~ぅ』
『ピィ』
『がるっ』
アレンとエレナは、おにぎりやスープを取り分けたお皿の前で行儀良く食事の挨拶をすると、ゆっくりと食べ始めた。
ジュール達も二人を真似して、しっかりと挨拶をしてからおにぎりに齧りつく。
僕はみんなが食べ始めたのを見ると、起き上がって子供達の方を羨ましそうに眺めているヴィヴィアンさんの前にも、おにぎりとスープを差し出した。
「いいんですかっ!? わ~、いただきますっ!」
子供達が先に食べていたので、ヴィヴィアンさんはおにぎりが食べ物だと判断できたようだが、〝これは何だろう……〟という感じで躊躇いがちに口をつけた。
しかし、二口目、三口目と食べ進めると、四口目からは夢中で頬張りだした。
「はぐはぐ……んぐんぐ……」
それはもう、凄い勢いでおにぎりがお腹に収められていく。バクバクバクッ、という効果音が聞こえてきそうだ。
「アレン、エレナ。それは二人の分だからゆっくり食べような」
あまりのヴィヴィアンさんの食べっぷりに、アレンとエレナは自分の食事まで取られるのではと思ったらしい。焦ったように、二人とも食べるスピードを上げていた。
だけど僕の言葉で安心したのか、アレンとエレナは口いっぱいに頬張りながらコクコクッと頷き、食べるペースを元に戻す。
「ところで、空腹で倒れていたようですが、どうかしたんですか?」
「んぐっ! んぐんぐっ!」
僕が尋ねると、ヴィヴィアンさんは口いっぱいにおにぎりを詰め込んだまま喋ろうとした。
「いや……食べ終わってからでいいです……」
「んぐっ!」
何を言っているかわからないし、行儀が悪い。アレンとエレナが真似するといけないので、話は食事の後のほうがいいよな。
ヴィヴィアンさんは、黙々と食べ続けている。
やっぱり凄い食べっぷりだ……。
「いや~、食べた食べた~。ごちそうさまでした~」
あっという間に大量に握ったおにぎりがなくなってしまった。
「あ、私はヴィヴィアンといいます。ヴィヴィでもヴィヴィアンでも好きに呼んでくださいな。ところで、さっきのあれは何ですか~。今まで食べたことないものでした~」
「僕はタクミ。えっと、さっきのは白麦を水で炊いたものです」
「白麦ですかぁ? あの、家畜の餌にする?」
あ、しまった……。米はエーテルディアでは家畜の餌だったっけ。迂闊だったな。
「すみません。僕の故郷だと白麦は普通に人の食事として食べるものなので、つい出してしまいました。気分を害しましたか?」
「いえいえ。美味しかったので問題ないです~。それにしても白麦ですか~。こんなに美味しいものだったとは知りませんでした~」
ヴィヴィアンさんは白麦と聞いても不快に思った様子はなかった。むしろ気に入ったみたいだ。良かった……。
今度から人に食事を提供する時には気をつけないとな。家畜の餌を出されて侮辱された、と勘違いする人もいるだろうし。
「いや~、お兄さんは料理上手ですね~。あれ? お兄さん? パパさんかな?」
気がつくとヴィヴィアンさんは、アレンとエレナに向かって話し掛けていた。
「「……? おにーちゃん」」
ヴィヴィアンさんに対して、特に警戒していなかったはずのアレンとエレナが、一瞬、戸惑うような反応を見せた。
……どうしたんだろう?
今、ヴィヴィアンさんの目の前で確認するのはやめたほうがいいだろう。あとで二人に聞くのを忘れないようにしないとな。
「お兄さんで合っていましたか~。でも、反応が悪かったですねぇ~。実はやっぱりパパさん?」
ヴィヴィアンさんも、アレンとエレナの戸惑いに気づいたらしい。
というか、何を勘ぐっているんだ、この人は……。
「兄だってば……」
僕は二人の代わりに、呆れながらそう答えた。
「すみませ~ん。私、人の秘密が大好物なんです! 隠されていることを探り当てるのって楽しいですよね~」
「……」
ヴィヴィアンさん――いや、もう、ヴィヴィアンでいいか……。
ヴィヴィアンは僕が呆れていることに気づき、おどけたように言った。
堂々と言うことではないと思うんだが、まあ、彼女の場合は〝趣味=仕事〟として成り立っているのだろう。
「で、ヴィヴィアンは何で倒れていたんだ?」
「いや~。何でですかね~?」
「……僕に聞かないでくれ」
……この人、ふざけているんだろうか?
「えっと、えっと……あ、そうだっ! 思い出しました! 私、街から街へ移動しようとしたんですけど、食料を買い忘れたんですぅ~。それで移動中に狩りや採取をして何とか凌いでいたんですが、ここ二、三日は収穫がなくて……」
「食料がないって気づいた時点で、元いた街に戻れよっ!」
「おお! 確かにそうですね。いや~なんとかなるかなぁ~と思って気にしませんでした~」
「……」
「そうそう、私、仕事の報告でアルベールの街に行くところなんですけど~、ここってどこら辺ですかぁ~?」
「……ここはベイリーの街の近くだぞ」
「あれぇ~?」
アルベールの街は、ベイリーの街の東、王都の南に位置する。
ヴィヴィアンがどこの街を出発したか知らないが、他国から船で渡ってきたのでなければ、ベイリーの街付近にいること自体がおかしい。
「変だな~? まあでも、報告の期限までは余裕があるので大丈夫ですっ! そうそう、今回の仕事はとても簡単だったんですよ~。ある貴族令嬢の縁談相手の素行調査だったんですが~、調査対象の男がなんと! 邸に平民の娘を囲っていたんです! それがもう、とても堂々としていたもんで~、隠す気なんてないんですね。ちょっと使用人に聞いただけで、埃が出るわ出るわ。正直、私が使用人として潜入するまでもなかったですね~」
いや、依頼内容まで聞いてないから……。何、ペロッと話してんのさ!
ヴィヴィアンがどうしてメイドのような格好をしているのか判明したが、街から街へ移動するのに、何故そのままの姿なんだよ! もっと旅に適した服に着替えようよ!
「おっと、報告期限に余裕があるとはいえ、ゆっくりもしていられませんねぇ~。じゃあ私、行きますね~。あ、そうだそうだ。これ、ご飯のお礼です~」
急に立ち上がったヴィヴィアンは、腰に括りつけてあった鞄から、何やら液体が入った小瓶をいくつか取り出した。
「別に気にしないでいいよ」
「いえいえ、受け取ってください」
そしてそのままヴィヴィアンは無理矢理、僕の手に小瓶を押しつけてきた。
……これは一体何なんだろう?
【紅薔薇の滴】
ヴァンパイア特製の媚薬。
即効性。効果は四、五時間持続。
副作用が一切ない優れもの。女性のみに効果あり。
【白薔薇の滴】
ヴァンパイア特製の精力剤。
即効性。効果は四、五時間持続。
副作用が一切ない優れもの。男性のみに効果あり。
んなっ!?
小瓶を【鑑定】してみて、僕は驚愕した。
「ちょっ! これっ!!」
「あ、何の薬かわかるみたいですね~。それ、私が作ったんですが、効果抜群でなかなか好評なんですよ~。ぜひお試しください。んじゃあ、ごちそうさまでした~」
「おい、ちょっと待てっ!」
僕が止めるのも聞かず、ヴィヴィアンは素早い動きで立ち去っていった。
物凄いスピードでみるみる遠ざかり、あっという間に姿が見えなくなる。
「「いっちゃったー?」」
「そうだな……」
本当にあいつは何だったんだ……。それに、この瓶をどうしろっていうんだよ……。
はぁ……と溜め息をついて、小瓶を《無限収納》にしまった。これはこのまま《無限収納》に死蔵することになるだろう。
「「……おにーちゃん」」
「何だい?」
「「パパってなーに?」」
「えっ!?」
僕ががっくり項垂れていると、アレンとエレナからびっくりする質問をされた。
まさか……。でも……もしかして……?
「……えっと、アレンとエレナは、父親とかお父さんとかってわかるか?」
僕の質問に二人は首を横に振った。
あちゃ~……。アレンとエレナは家族というものを知らなかったのか……。ヴィヴィアンに聞かれて戸惑っていたのは、そのせいだったんだな……。
そうか、そうだよな~。教える人がいなかったらわからないよな~。
二人とも、僕のことを当たり前のように「おにーちゃん」と呼ぶから、知っているものだと思っていた。
……あ、そうか。街の人――特に宿屋や商店のおばさんがよく僕達に声を掛けてくるんだけど、その時に「お兄ちゃんとお出かけかい?」とか、「お兄さん、子供にこれどうだい?」などと言っていた。アレンとエレナはそれを聞いて、僕のことをお兄ちゃんと呼ぶようになったのか……。
「……えっと、パパっていうのはお父さんのことで――」
お父さんについてもだけど、お母さんや兄弟についても一応教えることにした。
しかし、意外とこういうのって説明が難しいな……。
どうすれば伝わるか、あれこれ考えながら説明して、何とか理解してもらってから僕達は街へ戻った。
◆ ◆ ◆
「な、な、何あれーーーっ!!」
「スカーレットキングレオですね」
「いやいやいやっ! そういうことじゃないからね!」
ヴィント……それくらい僕だって知っているよ。そうじゃなくて!
あ~……サラマンティールが巧さんに送った契約獣がSランクのスカーレットキングレオだなんて……。その存在自体が問題だよ!
サラマンティールに契約獣のことを何度聞いても、「シルフィリールにバラすわけないだろう」って言われて教えてもらえなかったから、すっごく不安だったんだ。
スカーレットキングレオは、僕達にとっては戦闘力が高い魔物の一種ってだけだ。
だからこそ、サラマンティールはスカーレットキングレオを選んだんだろうけどさー。あの魔物は戦闘力が桁外れに高いからね。サラマンティールは良かれと思って送っただけで、悪気の欠片もなかったに違いない、きっと。
それに、【縮小化】スキルを持っている個体を選んでいるあたり、全く考えなしってわけではなかったみたいだし。
だけど! だけどね、エーテルディアで暮らす者にとって、スカーレットキングレオは恐怖の対象だったんじゃないかい!?
「……大丈夫かな?」
あれを連れていることで、巧さんが危険視されないかな?
「タクミ殿も受け入れたようですし、上手くやるのではないでしょうか?」
「あ、本当だ」
僕の眷属で、その長であるヴィントの言う通り、巧さんは驚いていたものの、スカーレットキングレオにベクトルと名づけて一緒に過ごすことにしてくれた。
うん、スカーレットキングレオでも、巧さんなら上手く使ってくれるよね。
それに、巧さんは今のところ契約獣を人前で連れ歩いたりしているわけじゃないから、問題ないといえば問題ないのか?
魔物のランクだけでいえば、僕もSランクの飛天虎とAランクのサンダーホークを送っちゃったし。
だけど、僕が送った飛天虎は小さくなれば仔猫みたいに見えるもんね。サイズを小さくしても、まんま魔物に見えるスカーレットキングレオとは違う! よし、僕のは全く問題ない!
「――って、えぇぇぇ!? アウトだよね! あれはアウトだよね!?」
「……」
安心したのも束の間、ベクトルが早速、問題行動を起こしているよ~。
巧さんも驚愕している。そりゃー、自分の契約獣が人を咥えて帰ってきたら誰だって驚くよね。
咥えてきた本人は何も考えてなさそうだけど!
これは魔物の種類の問題じゃない! あの個体が問題だったよ!
人を咥えてくるって何さっ! 奔放すぎるだろ!
巧さんを手助けするために送っている契約獣なのに、あれじゃ余計に手が掛かるって感じだ。これじゃあ、本末転倒だよね。
あーあ、ヴィントも黙り込んじゃってるよ~。
さて、どうしようかな? 送ってしまったものを回収するわけにはいかないもんなぁ~。ベクトルはもう巧さんのものだし……。
巧さんは怒っていないみたいだけど、次に神殿に来た時になんて言おう。
「……ねぇ、ヴィント。躾に役に立つようなものって、何かあったかな?」
「……探しておきます」
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てか、迷惑を掛けたらアイテムをあげて解決っていうの、パターン化しているなぁ……。
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はぁ……。
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