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3巻
3-1
第一章 海で遊ぼう。
僕、茅野巧は不慮の事故で死んでしまった元日本人だ。
その事故は、地球とは別の――エーテルディアという世界の神様の一人、風神シルフィリールが空間の歪みを直そうとして、うっかり力加減を間違えてしまったことで起きたらしい。
事故の結果、僕の魂は傷つき、地球で生まれ変わることができなくなった。
だから、僕はシルフィリール――シルの力でエーテルディアに転生することになったんだ。何故か、シルの眷属ということになっていたけど。
転生して間もなく、僕は双子と思われるアレンとエレナに出会った。
実はこの二人は、水神ウィンデルの子供だ。
出会った当初は神様の子供だなんて思ってもみなかったが、明らかにやせ細っていた子供達を放っておくことができず、面倒を見ることにした。まあ、そうしているうちに出自が判明したんだけどね。今じゃあ、アレンもエレナも弟妹のように可愛がっている。
そんな二人を連れて、冒険者として生計を立てながらのんびり(?)と生活している僕だが、今はガディア国の南端、ベイリーという港街にいる。
ベイリーの街に到着した翌日、僕達は人気のない海岸に来ていた。
海に着いた直後、すぐに人魚であるミレーナさんと出会い、人魚族の里へ赴いたので、まだ浜辺を堪能していなかった。
それを思い出し、アレンとエレナを連れて遊びに行こうと考えたのだ。
「「うきゃー」」
『わふ~』
『がう~』
海に到着するなり、アレンとエレナは呼び出した僕の契約獣――フェンリルのジュールと飛天虎のフィートとともに海へと突っ込んでいった。
「「それー」」
『わふっ』
『がう』
みんなはしゃいで、浅瀬で海水の掛け合いを始めた。アレンとエレナは両手で水をすくって、ジュールとフィートは鼻先で水を飛ばしている。
お互いに水を浴びて、楽しそうに歓声を上げていた。
今日は人魚の腕輪を身につけていない。人魚の腕輪は本来、海中でも呼吸を可能にする魔道具だが、身につけていれば濡れないという利点もあった。
今日は腕輪なしだから、アレンとエレナは服を着たまま全身びしょ濡れになっているが、まあ、たまにはこういうのもいいだろう。
「ボルトは遊ばないのか?」
『ピィィ、ピィ』
「遠慮する」とでも言っているのだろう。サンダーホークのボルトは、大人しく僕の肩に止まっている。
僕はボルトをひと撫ですると、砂浜に座って子供達が遊んでいる姿を眺めることにした。
『わふっ』
『がう』
「「ひゃー」」
あっ、ジュールとフィートがアレンとエレナに飛び掛かり、バシャーンと軽快な音を立てて、みんな揃って海にダイブした。
あーあ。まあ、ジュールもフィートも全力で体当たりしたわけじゃないから、怪我はしていないだろう。
――ブルブルブルブルッ。
「「うにゃー!!」」
アレンとエレナが起き上がったところで、ジュールとフィートが身体を震わせて毛に含んだ水分を勢いよく振り飛ばした。
あれって意外と水がたくさん飛んでくるんだよねぇ……。
水を飛ばし終わったジュールとフィートは、一目散に逃げ出した。
「じゅーる!!」
「ふぃーと!!」
そんなジュールとフィートを、アレンとエレナが追いかけ始める。
ジュールもフィートも本気で逃げているわけではないので、アレンとエレナはすぐに追いつき、二匹の背に飛び乗るように抱きついた。
「「つかまえたー」」
まあ、普段はペットみたいな獣達だが、間違いなくSランクの魔物だ。
彼らが本気で走ったら、さすがに規格外の力を持つアレンとエレナといえども簡単に追いつくことはできない。
「「きゃー」」
『わふっ』
『がう』
今度はアレンとエレナが逃げるように走り出し、それをジュールとフィートが追いかける。あれは鬼ごっこをしている感じだな。
「「あ、かにー」」
交互に鬼役をしながら走り回っている二人と二匹の進行方向に、サンドクラブが現れた。
『わふっ』
逃げる番であったジュールが真っ先に向かい、足払いでサンドクラブを吹っ飛ばした。ペシッ、と軽く前足を振った程度だ。
だが、それだけでサンドクラブは弾き飛ばされ、海面から突き出た岩に当たって動かなくなった。
今のは酷い……。道を歩いていて、小石があったから蹴っ飛ばした、みたいな感じだった。相手は魔物だが、戦闘でも何でもない倒され方は何だか不憫だな。
『ピィィ』
すかさずボルトが、砂浜に打ち上がったサンドクラブを足で掴んで僕のところに運んでくる。
戦利品の確保をして、ジュールもボルトもご満悦のようだ。
せめてこのサンドクラブは、後で美味しくいただくことにしよう。
――バシャッ。
「うわっ!!」
な、何だっ!?
陽気がポカポカと暖かく、少しうとうとしていたようだ。
そこに大量の水が僕を目掛けて飛んできたらしい……全身びしょ濡れだ。
「「えへへ~」」
『わふ~』
『がう~』
してやったり、そんな顔をしている子供達が見えた。
海辺で嬉しそうにしている姿からすると、子供達が僕に水を掛けたのだろう。
『ピィィ』
ボルトは僕を心配するように鳴いたが、自分はちゃっかり避難していた。そんなにきちんと避難できる時間があったのなら、僕に教えて欲しかった……。
「こら、お前達!」
「「うきゃ~」」
『わふ~』
『がう~』
僕は怒ったふりをしながら立ち上がり、海に入っていった。
すると、二人と二匹は沖の方へ泳いで逃げる。あのはしゃぎっぷりなら、僕が本当に怒っているとは思っていないだろう。
僕は水深が膝丈くらいになったところで立ち止まると、魔力を練って水魔法で海水を操り、沖の方に大きな波を作る。そして、その波を子供達の方へと向かわせた。
あれだ。プール施設とかによくある、波の出るプール。あんな感じにしてみた。
海面に浮いた子供達の体を、波で浜辺の方へと押し流す。
「「きゃはは~」」
アレンとエレナは波に流されながら軽快に笑っていた。どうやら面白いらしい。
「おにーちゃーん♪」
「もういっかーい♪」
浅瀬へと運ばれたアレンとエレナはまた沖の方へ泳いでいき、もう一度やってくれとリクエストしてきた。
「ほら、行くよー」
「「はーい」」
僕は再び、魔法で波を作ってアレンとエレナを押し流す。
「「きゃはは~」」
また、アレンとエレナの笑い声が響いた。
二人はこの遊びをとても気に入ったようで、その後も「もう一回」「もう一回」と何度も頼まれた。僕はリクエストに応え、水魔法を繰り返し使う。
大量の水を操るので、これは意外と水魔法の良い訓練になりそうだ。熟練度を上げるために少し頑張っておこう。
――ピロンッ♪
「あっ」
何だかんだ子供達のリクエストに応じて十数回と繰り返したところで、頭の中に電子音が聞こえた。
これは、火神サラマンティール様が送ってくれた契約獣が到着したのかな?
火神様は、僕がエーテルディアで料理を発展させたことを喜び、そのお礼としていろいろなアイテムをくださった。その上、【火魔法】のスキルを付与してくれて、契約獣も送ってくれることになっていたのだ。
電子音が聞こえた直後、視界に大きな獣が現れた。
それは、のしのしと僕に近づいてくる。
「はぁ!?」
……まさか……なぁ?
僕の視界に映ったのは、真っ赤な毛並みの大きなライオンだった。
ゾウ並みの大きさか? ああでも、ゾウの姿を間近で見たことがないので、はっきりとはわからない。だが、おそらくそのくらいの大きさだろう。
僕はライオンの正体を確かめるべく、心の中で【鑑定】と念じた。
ステータス
【名 前】――
【種 族】スカーレットキングレオ〔タクミの契約獣〕
【年 齢】7
【レベル】33
【スキル】火魔法 爪斬撃 咆吼
突撃 噛み砕き 縮小化
暗視 気配感知
うわぁ~……。とんでもない獣がやって来た。
種族の項目には、僕の契約獣とある。やはり火神様が送ってくれると言っていた契約獣で間違いない。
スカーレットキングレオはSランクの魔物で、『人喰い獅子』だの『血塗れ獅子』『赤い悪魔』などと呼ばれるほど、凶暴で獰猛なことが知られている。
戦力としては申し分ないが……これ、絶対に連れて歩けないよな?
どう考えたって恐怖の対象じゃないか?
「君は火神様から送られてきたんだよね?」
『ガルルッ』
うん、体が大きいから少し鳴いただけで凄い迫力がある。
「あー、僕はタクミ。よろしくね。えっと、そうだな……ベクトル。君の名前はベクトルにしようか」
『ガルッ』
喜んでいるのかな? 迫力はあるが、意外と人懐っこいみたいだ。
しかし、やはりデカイな……。ジュールやフィートと同じように【縮小化】のスキルを持っているから、小さくなってもらうか~。
「あー、悪いけどベクトル、小さくなってくれるかな? そのままじゃあ顔がよく見えないし、話しづらいんだ」
『ガルッ』
僕がそう言うと、ベクトルがほんのり光って大型犬くらいの大きさになった。
あ~……。
ベクトルの見た目はとても特徴的で、大型犬サイズになっても、姿は赤いライオンのままだ。
……これ、小さくてもスカーレットキングレオだと一発でわかるんじゃないか?
ジュールやフィートのように、仔犬や仔猫と言って誤魔化すことはできないと頭に入れておかないとな。
「「べくとるー?」」
『がるっ』
いつの間にか、アレンとエレナがベクトルに近づいていた。子供達だけでなく、先輩契約獣達も集まっている。
「アレン、エレナ。ベクトルも今日からうちの子だ。仲良くするんだよー」
「「うん!」」
「ジュール、フィート、ボルトも。新しい仲間だよ。仲良くなー」
『わふっ』
『がう』
『ピィ』
見た目がどうであれ、とりあえずベクトルにも従魔であることを示す首輪を用意しないとな。ジュール達とお揃いでいいかな?
僕は海から上がるとまず、生活魔法の《ウォッシング》と《ドライ》を駆使し、体を綺麗にしてびしょ濡れになった服を乾かした。
そのあと、ベクトル用の魔道具を《無限収納》から取り出す。ジュールとフィートとお揃いの状態異常耐性の効果が付与された黒い革製の首輪と、物理攻撃上昇の効果が付与された金細工の腕輪だ。
首輪には魔石がついているんだが、ジュールとフィートは瞳の色と魔石の色を同じにしたんだったな。ベクトルの瞳は……琥珀色か?
残念ながら同じ色の魔石がついた首輪はなかったので、一番似ている黄色い魔石がついたものにして、ベクトルに身につけさせた。
「いくよー。それー」
『わふっ』
「こっちもー。それー」
『がう』
ベクトルはすっかりみんなと馴染んで、砂浜で遊びを開始していた。
今はアレンとエレナが木でできたボールを投げ、それを契約獣達が取りに走っている。
ジュール、フィートと順番が回り、次はベクトルの番だ。
「べくとるもー」
「いくよー」
『がる~』
アレンが声を掛け、エレナがボールを投げる。だが――
「「あれー?」」
「お、おい? ベクトル、どこに行くんだー?」
ベクトルは、アレンとエレナが投げたボールを通り越し、勢いよく駆けていってしまった。そして、あっという間に視界からいなくなる。
追いかけたほうがいいんだろうか……と思っていたら、ベクトルはすぐに戻ってきた。
「……?」
ん? ベクトルは何かを咥えて……んなっ!?
「うわっ! ベクトル。お前、何を持ってきたんだっ!?」
ベクトルが連れてきたのは女の人だった。僕と同じ、二十代と思われる細身の女性で、ロングスカートの黒いワンピースを纏い、さらに白いエプロンまで身につけていた。服装だけ見れば、侍女かメイドのようだ。
ベクトルは女性の襟首を咥えて、体を引きずりながら走っている。
遠目で見た時、人に何か赤いものがついていたので、血を流しているのかと思った。しかし、それは血ではなく彼女の長い紅髪だったようだ。
ビックリさせないで欲しい……。一瞬、ベクトルが人を噛み殺してきたのかと思ったよ。
ベクトルは僕のところまで戻ってくると、咥えていた人をゴロンッ、と地面に転がした。
「ちょ、ちょっと! 大丈夫ですかっ!?」
僕は慌てて女性の安否を確認した。
声を掛けたり揺すったりしてみたが、反応はない。生きていることだけは間違いないが……気を失っている?
「……zzz」
いや、違うな。……これは寝ている……のか……。
「「ねてるー?」」
「……そうみたいだね」
むにゃむにゃ、と口が動き、微かな寝息が聞こえてくる。この状況でよくぐっすりと眠れるものだ。
これ、本当に寝ているだけか? でも、外傷とかはないんだよなぁ~。
「うぅ……お腹、減った……」
……しかも、お腹を空かせているらしい。呑気だなぁ~。
とりあえずステータスを確認すると――
ステータス
【名 前】ヴィヴィアン
【種 族】魔族(ヴァンパイア)
【職 業】諜報員
【年 齢】147
【レベル】54
【スキル】短刀術 投擲術 闇魔法
生活魔法 解体 跳躍
看破 隠蔽 忍び足
暗視 開錠 罠解除
調薬
魔法攻撃耐性 身体異常耐性
【称 号】紅薔薇姫
実に驚く内容だった。
てか、魔族だよ! それもヴァンパイアっ!
エーテルディアで魔族というのは、エルフやドワーフといった種族と同じ扱いだ。
人族と敵対しているとか、世界を滅ぼす魔王を崇める種族とか……そういう存在ではない。ただ、どの種族よりも数が少なく、長寿であるだけだ。
ぱっと見は、やっぱり人と変わらないんだな。それに僕と同じ年頃に見えるのに、百四十七歳だってさ。ヴァンパイアの寿命っていくつだっけ? 千年は軽く生きるんだったか?
うわっ、スキル構成も凄いわっ! それに数も多い!
僕の勝手なイメージだが、暗殺稼業とか、そういうのをやっている感じのスキル構成である。実際の職業は諜報員のようだが。
「ベクトル、この人はあっちで倒れていたのか?」
『がるっ』
「そうか」
ベクトルは何故か自慢げに鳴いた。たぶん、人助けをしようとしたからだろう。
「でも、ベクトル。引きずってきたのは駄目だよ。ここが砂浜じゃなかったら、この人は怪我をするところだったんだぞ」
『がる~ん……』
ベクトルは項垂れて、見るからに落ち込んでいた。
「い、いや、怒っているわけじゃないよ。次からは気をつけような」
『がるっ!』
慌ててフォローすれば、ベクトルはたちどころに元気になる。
確かに怒っているわけではないが……変なものを拾ってこないように躾ないといけないよな。
それにしても、この人をどうするか……。
――ぐぅ~~~。
…………。
寝ていても、お腹って鳴るんだね。そろそろお昼だし、ご飯の用意でもするかな~。
ここじゃ作ったご飯が砂まみれになりそうだから、少し移動するか……。
ご飯は何にしようかな……そうだ、前に作った、あれにしよう。
◆ ◆ ◆
――それは僕が転生して初めて行った街、シーリンに着いてから数日後のことだった。
「すみません」
「おう、いらっしゃい」
「こちらで白麦を扱っているって聞いたのですが、ありますか?」
「白麦? おお、それならあるぞ」
そう、白麦! 白麦というのはお米のこと。僕は今日、お米を買いに来たんだ。
エーテルディアの白麦は家畜の餌として使われているため、一般的ではない上に、取り扱っている店が少ないので見つけるのに苦労した。
店から店へと訪ね歩いて、やっと辿り着いたのがこのお店だ。
シルからおにぎりや炊けたご飯は貰っているが、あまり量はない。それがなくなる前に白麦を買うことができそうで良かった。
パンも嫌いではないけど、やっぱり定期的にお米を食べたくなるのは日本人の性だと思う。
「何だ兄さん、家畜でも飼うのかい?」
「いいえ。そういうわけではないのですが、購入はできますか?」
「おう。それは問題ない。今、持ってくるからちょっと待っててくれ」
やはり白麦は家畜の餌以外の用途はないらしい。だから〝食べる〟なんて言ったら、変な目で見られそうだ。ここは誤魔化しておいたほうが無難だろう。
しばらくして、店の人は奥から麻袋に入った白麦を持ってきてくれた。見た感じ、五キロってところかな?
「これでいいか?」
袋の中を確認させてもらうと、まさしく米!
そこにはきちんと精米された、白い粒の状態の米が入っていた。籾殻がついたものや玄米の状態を想像していたが、良い方向に予想外だったな。これなら、このまま使うことができる!
「もう少し欲しいんですが、ありますか?」
「構わないぞ。どのくらい欲しいんだ?」
「……どのぐらい売ってもらえます?」
品質改良をしていないものだから、日本産の米より味は落ちると思うが、米がない生活よりはマシだろう。
それに、白いご飯で食べるにはイマイチだったとしても、リゾットやチャーハンなど、味付け次第では問題なく食べられると思うんだ。だから、買えるなら多めに確保しておきたい。
「今、店にあるのは全部で四袋だ。その量なら売っても問題ない。それ以上となると、仕入れなきゃいかんから時間がかかるな」
四袋……二十キロくらいか。
「買っても問題ないのなら、四袋全てください」
「おお、わかった。今、運んでくるから待っててくれ」
僕は店にあった白麦を全て購入し、ほくほくとした気分で店を後にした。
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※※※
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※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
