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本編
471.とりあえず終了
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「よし、ここまでにしようか」
再び二十三階層に戻ったりしつつ、二十六階層までがっつりと探索し、ガラス細工の花や蝶をたっぷりと手に入れたところで、僕は今回の迷宮攻略を切り上げることを伝えた。
「「えぇ~」」
すると、子供達は悲しそうに声を上げる。
まあ、この反応は予想通りである。
「結構な日数、迷宮内にいたからね。一旦、街に戻ろう。しばらく休息を取ってから、もう一度この迷宮に来ても良いからさ」
上級迷宮では閉塞感のようなものはないので、少しばかり長く居すぎた気がするのだ。
=====
【迷宮記録】第四の迷宮〝土〟 十五/十五層
第十六の迷宮〝雪〟 十五/十五層
第五十三の迷宮〝細波〟 三十/三十層
第五十五の迷宮〝鉱石〟 三十/三十層
第六十五の迷宮〝巨獣〟 三十/三十層
第七十一の迷宮〝灼熱〟 十五/五十層
第八十の迷宮〝貴石〟 二十六/五十階層
第八十九の迷宮〝連理〟 七/五十層
第九十四の迷宮〝色彩〟 十五/五十層
======
しかも、攻略しやすさもあってか、気がついた時には上級迷宮の攻略記録が最高記録に躍り出ていた。
「「むぅ……わかった」」
少しばかり拗ねてはいたが、子供達は聞き分けよく納得してくれた。
「「ねぇねぇ、おにぃちゃん」」
「どうした?」
「一かいそうをね」
「みてからかえろう?」
「一階層?」
「「うん! もりのいろ、かわっているかも!」」
「……ああ。ダイヤモンドの枝か?」
「「そう!」」
一応、一階層の森は全部の種類を見たが、ダイヤモンドの枝を取り損ねていた。なので、もしかしたら……という希望を込めて見に行きたいようだ。
「そうだな、覗くだけ覗いてみようか」
というわけで、二十六階層の攻略を終えた僕達は、ジュール達を影に戻してから最初の転移装置へと戻り、駄目元でそのまま一階層へと向かった。
「「やった!」」
「おぉ、運が良いな~」
「いや、良すぎるだろう!?」
すると、見事に一階層はダイヤモンドの森であった。
「採取のために人の居ないところに向かえば良いのだな」
「「じゃあ、あっちー!」」
早速、とばかりに人のいないほうへ向かうと、三人はダイヤモンドの枝を思う存分に採取し、上機嫌だった。
◇ ◇ ◇
迷宮を出ると、係員らしき迷宮管理本部の職員から、できるだけ早く本部に来て欲しいという伝言があった。
「……しかも、クリスさんとイーサン殿の連名でか」
「タクミ、何か急用かの?」
「いや、一階層の枝とか、迷宮の素材についてのような気がするな~」
「そうなのか?」
「たぶんね。って言っても、本当に急用だったら困るから、街に戻ったらすぐに行ってみようと思うんだけど、いいかい?」
「「いいよ~」」
「うむ、我も構わんぞ」
今はまだお昼を食べたばかりの時間なので、これから迷宮本部に寄ることにした。
「お帰りなさ~い」
「「クリスちゃんだ~。ただいま~」」
本部に行くと、当たり前のように本部長室へと案内されたのだが、そこにはイーサン殿だけではなく、クリスさんまでいた。
「え~、何でもういるんですか?」
「緊急連絡ができるように簡易の転移装置が迷宮の入口のほうにもあるんですよ」
僕が伝言を受け取ったことを受付から本部に連絡が入り、さらに僕達ならすぐに来てくれるだろうとクリスさんを呼んでおいたとイーサン殿が疑問に答えてくれた。
「うわ~、僕の行動が読まれている。って……あれ?」
本部長室にはイーサン殿とクリスさんの他にもう一人、初めて見る人もいたのだが……――
「……似ているような?」
髪や瞳の色もそうだが、雰囲気もガディア国の騎士、アイザック・リスナーさんに似ているような気がした。
「初めまして。私は、パトリック・リスナーと申します。タクミさん達のことは兄と弟から聞いております」
「え? あっ! そういえば、三兄弟でしたね!」
セドリックさんが長男、アイザックさんが三男だったので、間にもう一人兄弟がいるんだよな~。
「あ、お会いできて光栄です。僕はタクミです。リスナー家にはいつもお世話になっております。……けれど、どうしてパトリックさんがレギルス帝国に? あ、パトリックさんと呼ばせていただいも大丈夫ですか?」
「ええ、どうぞ」
「ご旅行とかですか?」
「いえ、仕事ですね。私は外交関係に携わっていまして、たまたまレギルス帝国にいたのですよ。とは言っても、王都のほうですが」
「外交ですか。なるほど」
長男は領主、次男は文官、三男は騎士ってことだな。貴族って、騎士の家系……みたいに親と同じ職種につくことが多いのだと思っていたが、リスナー家は違うようだな。
そして、どうやらパトリックさんはもともとこの国にいたようだ。
「携わっていた案件が終了し、国へ報告したのですが……もう一つ関わって欲しい案件があると頼まれました」
「え、じゃあ、この街に来たのもお仕事ですか?」
「ええ、その区分で問題ないかと」
お仕事でグラッドの街に来て迷宮管理本部にいるってことは、『貴石の迷宮』についてのことかな?
「タクミさんが、何やら稀少な枝を手に入れたとか何とか……」
「…………え?」
パトリックさんの仕事って……もしかしなくても、僕達関係のことだったり……?
「様子を確認するとともに、レギルス帝国との交渉なり問題などが発生するようであれば、私が担当なり盾になるようにと」
「っ!?」
「ああ、勘違いしないでくださいね。タクミさんが手に入れた品を売ったりするのを止めたりはしませんよ。あくまで、相手側が強要してくるようであれば、私の出番ということですので!」
確定! パトリックさんのお仕事延長は、完全に僕達のせいだった!
そして、頼んだのは、間違いなくトリスタン様だね!
「ご足労をお掛けしてすみませんでした!!」
「いえいえ、気にしないでください。交渉事がなければ休暇で観光に来たようなものですからね。実際に『貴石の迷宮』の一階層を見てきましたが、あれは素晴らしかったです」
「……」
既に『貴石の迷宮』は見てきたようだった!
「「いっしょにめいきゅういくの?」」
「いえいえ、私では足手纏いになりますから、さすがに一緒には行けませんね」
「「そうなの?」」
「残念ながら私は運動が不得手ですので」
「「あらら~」」
……アレン、エレナ、その反応はどうかと思うぞ。そして、訂正などの突っ込みもしづらいよ!
「「じゃあ、おみせは?」」
「それでしたら、時間がある時はご一緒させてください」
「「わ~い」」
アレンとエレナは早くもパトリックさんに懐いている様子である。アイザックさんに似ているからかな? まあ、パトリックさん本人が物腰が柔らかそうで親しみやすそうな雰囲気だからかもしれないけどな。
「ねぇ、そろそろ混ざってもいいかしら?」
「あ、すみません」
クリスさんとイーサン殿がいたことをすっかり忘れ、パトリックさんと話し込んでしまっていた。
「いいのよ、必要なことですしね。でも、ガディア国王から一日で推薦状をもぎ取ってくるタクミさんに強要する真似はするつもりはないから、リスナー殿の出番はないと思うわ~」
「クリス殿とイーサン殿は心配ないでしょうが、噂を聞きつけた脳みその足りない者は出てくる可能性がありますからね。そちらが対象でしょう」
「ああ、それはあり得るわね~」
「……そうですね。それはないとは言い切れませんね」
パトリックさんとクリスさん、イーサン殿は、僕達が迷宮にいる間に交流していたようで、既にある程度の信頼関係ができているようだ。
そして、パトリックさんは穏やかそうに見えて……なかなか厳しい面も持ち合わせている人のようだった。
再び二十三階層に戻ったりしつつ、二十六階層までがっつりと探索し、ガラス細工の花や蝶をたっぷりと手に入れたところで、僕は今回の迷宮攻略を切り上げることを伝えた。
「「えぇ~」」
すると、子供達は悲しそうに声を上げる。
まあ、この反応は予想通りである。
「結構な日数、迷宮内にいたからね。一旦、街に戻ろう。しばらく休息を取ってから、もう一度この迷宮に来ても良いからさ」
上級迷宮では閉塞感のようなものはないので、少しばかり長く居すぎた気がするのだ。
=====
【迷宮記録】第四の迷宮〝土〟 十五/十五層
第十六の迷宮〝雪〟 十五/十五層
第五十三の迷宮〝細波〟 三十/三十層
第五十五の迷宮〝鉱石〟 三十/三十層
第六十五の迷宮〝巨獣〟 三十/三十層
第七十一の迷宮〝灼熱〟 十五/五十層
第八十の迷宮〝貴石〟 二十六/五十階層
第八十九の迷宮〝連理〟 七/五十層
第九十四の迷宮〝色彩〟 十五/五十層
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しかも、攻略しやすさもあってか、気がついた時には上級迷宮の攻略記録が最高記録に躍り出ていた。
「「むぅ……わかった」」
少しばかり拗ねてはいたが、子供達は聞き分けよく納得してくれた。
「「ねぇねぇ、おにぃちゃん」」
「どうした?」
「一かいそうをね」
「みてからかえろう?」
「一階層?」
「「うん! もりのいろ、かわっているかも!」」
「……ああ。ダイヤモンドの枝か?」
「「そう!」」
一応、一階層の森は全部の種類を見たが、ダイヤモンドの枝を取り損ねていた。なので、もしかしたら……という希望を込めて見に行きたいようだ。
「そうだな、覗くだけ覗いてみようか」
というわけで、二十六階層の攻略を終えた僕達は、ジュール達を影に戻してから最初の転移装置へと戻り、駄目元でそのまま一階層へと向かった。
「「やった!」」
「おぉ、運が良いな~」
「いや、良すぎるだろう!?」
すると、見事に一階層はダイヤモンドの森であった。
「採取のために人の居ないところに向かえば良いのだな」
「「じゃあ、あっちー!」」
早速、とばかりに人のいないほうへ向かうと、三人はダイヤモンドの枝を思う存分に採取し、上機嫌だった。
◇ ◇ ◇
迷宮を出ると、係員らしき迷宮管理本部の職員から、できるだけ早く本部に来て欲しいという伝言があった。
「……しかも、クリスさんとイーサン殿の連名でか」
「タクミ、何か急用かの?」
「いや、一階層の枝とか、迷宮の素材についてのような気がするな~」
「そうなのか?」
「たぶんね。って言っても、本当に急用だったら困るから、街に戻ったらすぐに行ってみようと思うんだけど、いいかい?」
「「いいよ~」」
「うむ、我も構わんぞ」
今はまだお昼を食べたばかりの時間なので、これから迷宮本部に寄ることにした。
「お帰りなさ~い」
「「クリスちゃんだ~。ただいま~」」
本部に行くと、当たり前のように本部長室へと案内されたのだが、そこにはイーサン殿だけではなく、クリスさんまでいた。
「え~、何でもういるんですか?」
「緊急連絡ができるように簡易の転移装置が迷宮の入口のほうにもあるんですよ」
僕が伝言を受け取ったことを受付から本部に連絡が入り、さらに僕達ならすぐに来てくれるだろうとクリスさんを呼んでおいたとイーサン殿が疑問に答えてくれた。
「うわ~、僕の行動が読まれている。って……あれ?」
本部長室にはイーサン殿とクリスさんの他にもう一人、初めて見る人もいたのだが……――
「……似ているような?」
髪や瞳の色もそうだが、雰囲気もガディア国の騎士、アイザック・リスナーさんに似ているような気がした。
「初めまして。私は、パトリック・リスナーと申します。タクミさん達のことは兄と弟から聞いております」
「え? あっ! そういえば、三兄弟でしたね!」
セドリックさんが長男、アイザックさんが三男だったので、間にもう一人兄弟がいるんだよな~。
「あ、お会いできて光栄です。僕はタクミです。リスナー家にはいつもお世話になっております。……けれど、どうしてパトリックさんがレギルス帝国に? あ、パトリックさんと呼ばせていただいも大丈夫ですか?」
「ええ、どうぞ」
「ご旅行とかですか?」
「いえ、仕事ですね。私は外交関係に携わっていまして、たまたまレギルス帝国にいたのですよ。とは言っても、王都のほうですが」
「外交ですか。なるほど」
長男は領主、次男は文官、三男は騎士ってことだな。貴族って、騎士の家系……みたいに親と同じ職種につくことが多いのだと思っていたが、リスナー家は違うようだな。
そして、どうやらパトリックさんはもともとこの国にいたようだ。
「携わっていた案件が終了し、国へ報告したのですが……もう一つ関わって欲しい案件があると頼まれました」
「え、じゃあ、この街に来たのもお仕事ですか?」
「ええ、その区分で問題ないかと」
お仕事でグラッドの街に来て迷宮管理本部にいるってことは、『貴石の迷宮』についてのことかな?
「タクミさんが、何やら稀少な枝を手に入れたとか何とか……」
「…………え?」
パトリックさんの仕事って……もしかしなくても、僕達関係のことだったり……?
「様子を確認するとともに、レギルス帝国との交渉なり問題などが発生するようであれば、私が担当なり盾になるようにと」
「っ!?」
「ああ、勘違いしないでくださいね。タクミさんが手に入れた品を売ったりするのを止めたりはしませんよ。あくまで、相手側が強要してくるようであれば、私の出番ということですので!」
確定! パトリックさんのお仕事延長は、完全に僕達のせいだった!
そして、頼んだのは、間違いなくトリスタン様だね!
「ご足労をお掛けしてすみませんでした!!」
「いえいえ、気にしないでください。交渉事がなければ休暇で観光に来たようなものですからね。実際に『貴石の迷宮』の一階層を見てきましたが、あれは素晴らしかったです」
「……」
既に『貴石の迷宮』は見てきたようだった!
「「いっしょにめいきゅういくの?」」
「いえいえ、私では足手纏いになりますから、さすがに一緒には行けませんね」
「「そうなの?」」
「残念ながら私は運動が不得手ですので」
「「あらら~」」
……アレン、エレナ、その反応はどうかと思うぞ。そして、訂正などの突っ込みもしづらいよ!
「「じゃあ、おみせは?」」
「それでしたら、時間がある時はご一緒させてください」
「「わ~い」」
アレンとエレナは早くもパトリックさんに懐いている様子である。アイザックさんに似ているからかな? まあ、パトリックさん本人が物腰が柔らかそうで親しみやすそうな雰囲気だからかもしれないけどな。
「ねぇ、そろそろ混ざってもいいかしら?」
「あ、すみません」
クリスさんとイーサン殿がいたことをすっかり忘れ、パトリックさんと話し込んでしまっていた。
「いいのよ、必要なことですしね。でも、ガディア国王から一日で推薦状をもぎ取ってくるタクミさんに強要する真似はするつもりはないから、リスナー殿の出番はないと思うわ~」
「クリス殿とイーサン殿は心配ないでしょうが、噂を聞きつけた脳みその足りない者は出てくる可能性がありますからね。そちらが対象でしょう」
「ああ、それはあり得るわね~」
「……そうですね。それはないとは言い切れませんね」
パトリックさんとクリスさん、イーサン殿は、僕達が迷宮にいる間に交流していたようで、既にある程度の信頼関係ができているようだ。
そして、パトリックさんは穏やかそうに見えて……なかなか厳しい面も持ち合わせている人のようだった。
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