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第18話
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「もののふ様方、デーモンゲッソーの気配ありません! ここなら十分スペースもあって広いし……どうっすか?」
村から少し離れた水乃宮の一画にある円形ドーム大広間。今は使われていないが、かつては人魚族の戦士の修練場として使われていた場所に3人を案内した若きマーメイドウォーリアー・ツミレは槍を構えたまま緊張した声で言う。
「あの集落から離れてこれぐらいのスペースがあれば何かあっても大丈夫や、ええ場所ありがとうなツミレちゃん!」
「ツミレちゃん!?」
「あっ、すまん……もしかしてウチらより年上やったの?」
「いえ、人間様の基準で言えば……皆さんより若く、14歳ぐらいです。あっ、ありがとうございます。もののふ様」
マーメイドウォーリアーとしては半人前で先輩に叱られてばかりの日々を送って来たツミレは、思いがけぬ感謝に照れ戸惑っている。
「そうなんやね……ウチらより年下なのに立派やねえ」
「英里子ちゃん!」
「美香ちゃん、すまん! ついつい……ほないくで『サモンストーン!』」
英里子の目の前で地面が隆起し、大量の大小さまざまな岩が生成される。
「そして……『コネクトストーン!』」
英里子のイメージに合わせて岩が浮き上がり、カチャカチヤと繋がってその形に合体していく。
「よし、出来たで!」
「おお……でっかいっすね!」
英里子が石を積んで組み上げた4、5メートルはある粗削りな造形の人型像を見上げるツミレは目を輝かせる。
「あとはこの特殊サポートスキルやね……『バインドパペツト!』」
英里子はステータス画面を開き、敵の動きを使用者と強制同期させることで行動妨害・操作する特殊攻撃系サポートスキルを石像に使用する。
「ぐぅ、ちょき、ばぁ……どうや?」
仲間が周囲を警戒しつつ見守る中、英里子は右手を動かしてみるが、彼女の動きを同期しているはずの石像はぴくりとも動かない。
「ううん……どうしたもんかなぁ?」
「もののふ様、魔力を右手に集中させてみたらいいんじゃないでしょうか?」
「右手に集中?」
「はい、ホムラモノ様やミズノモノ様が一部のエレメント技でやっていらっしゃるように……こう、こんな感じですね『エレメントプラス・ウォーター』」
ツミレは右手の拳にエレメントプラス・ウォーターを付与し、手をぷよぷよな水塊で覆って見せる。
「エレメントプラスって武器や防具を強化するだけじゃなくてこんな事も出来るの?」
「はい、エレメントプラスは武器や防具を属性魔力で覆い強化するものなんですが魔力操作の応用技として体の一部にも使えるんです。ただ火とか雷、風は耐性的に無効化できない限り怪我のリスクが大きいので、水や岩でやるのが基本です。」
「つまり僕が使うファイアージェットはこういう原理だったのか……」
「はい、見習いの私は2ヵ所同時が限界何ですけど。ホムラモノ様は人魚族の一人前な戦士様のように両手足4箇所まで可能だと言う事ですね」
「……へえ、そうなんやね。それはさておき、魔力集中ってどうすればいいんやろ?」
「ええと、まずは右手に意識を集中させて……もののふ様の地のエレメントプラスをそこだけにかけて見てください。成功すればこんなふうに手が岩で覆われるはずです」
ツミレは見本として右手にエレメントプラス・アースを付与し、手を岩塊で覆って見せる。
「集中……集中……エレメントプラス! ぬおっ! いだだだだ! 小指曲がるぅ! ぎゃああああ!」
右手だけではなく右腕全体を岩石に覆われ、ぎちぎちに締め上げられた英里子は七転八倒する。
「もののふ様! 私の説明が至らぬばかりに申し訳ございません!」
マヨイガエレメントで腕を痛めかけ、美香が生成したひんやリアクアジェルで腕を冷やす英里子にツミレは頭を下げる。
「気にせんでええんよ、ツミレちゃんは何も悪うないで。ウチも初めてやったわけだし……とりあえずコレはどうしたもんかなあリーダー?」
「そうだな、とりあえずミズノミヤ様に報告しておかないと。もしかしたら他のサポートスキルやエレメントスキルで利用できるかもしれな……?」
広間の外から聞こえる重い物が這いずるような水音。4人は石像の背後に身を隠す。
「グッ……ゲゾォ?」
食料を求めてマヨイガをさまよっていた一匹の成体デーモングッソー。
共食いを始めた仲間から逃れたものの、食料にありつけず飢え死にを覚悟していたそれは薄汚いピラニアソルジャーの獣臭ではない甘美な人魚族の芳香を感知。
それを辿ってたどりついた人魚族の旧修練場は薄暗いのみならず、中央にそびえ立つ巨大な石柱の影で視界が悪くなっており、デーモングッソーは戸惑う。
(まずい! 入口を塞がれた)
最悪の場合マヨイガから緊急脱出、もしくはセーフティルームから蘇生やり直しができる自分たちと違って死んだらそこまでのツミレだけでも逃がそうと3人は息を殺して考える。
(きっ、来ましたわ!)
この部屋のどこかに隠れているのは間違いない高栄養タンパク源を見つけ出すべくデーモンゲッソーが部屋中に張り巡らし、石像の裏にまで伸ばして来た触腕に美香は思わずツミレを抱きじめる。
『ファィアージェット!』
「グソォォ!」
そんな中、火のエレメント塊を纏い、石柱の影から飛び出してきた探。デーモングッソーはあぶり出しに成功した獲物を捕らえようと触腕を上空に伸ばす。
『ファイアボール!』
探は執拗に追い回してくる触腕を刀で切り落とし、ジグザグ飛行で交わしつつ火球攻撃で
陽動。3人の逃げ道を作るべく唯一の出口から引き離してく。
(ええと、ステルスはどこや!)
(英里子ちゃん! 急いで!)
探が単騎で敵の気を引いている間に、水エレメント技・ハイドロフォイルで逃げる態勢を整えたツミレと美香。そんな2人と自分に一定時間敵に感知されなくなるサポートスキル『ステルス』を使おうとステータス画面を開いた英里子であったが、暗闇と震動で上手く操作できない。
(……美香さん、見てください! ゴーレムが動いています!)
(そんな事どうで……? あれぇ?)
両腕を上げて手を広げ、前後左右に動かしつつ首を左右に振っているゴーレムとエアディスプレイを操作する英里子を美香は交互に見る。
(英里子ちゃん! あれ、あれを見て!)
(なんやっ……て、ホンマに動いとるやないけ! どうなつとるんじゃコイツ!?)
(とにかくやるしかないよ、英里子ちゃん!)
混乱のあまり阿波踊りを始めた英里子と両手を上げてくねくねとリズミカルに地面を踏み鳴らし始めるゴーレム。主の動きをどこまでもトレースしようと言うその有能さはさておき、巻き込まれたら踏み潰される美香とツミレはすぐに距離を取る。
【第19話に続く】
村から少し離れた水乃宮の一画にある円形ドーム大広間。今は使われていないが、かつては人魚族の戦士の修練場として使われていた場所に3人を案内した若きマーメイドウォーリアー・ツミレは槍を構えたまま緊張した声で言う。
「あの集落から離れてこれぐらいのスペースがあれば何かあっても大丈夫や、ええ場所ありがとうなツミレちゃん!」
「ツミレちゃん!?」
「あっ、すまん……もしかしてウチらより年上やったの?」
「いえ、人間様の基準で言えば……皆さんより若く、14歳ぐらいです。あっ、ありがとうございます。もののふ様」
マーメイドウォーリアーとしては半人前で先輩に叱られてばかりの日々を送って来たツミレは、思いがけぬ感謝に照れ戸惑っている。
「そうなんやね……ウチらより年下なのに立派やねえ」
「英里子ちゃん!」
「美香ちゃん、すまん! ついつい……ほないくで『サモンストーン!』」
英里子の目の前で地面が隆起し、大量の大小さまざまな岩が生成される。
「そして……『コネクトストーン!』」
英里子のイメージに合わせて岩が浮き上がり、カチャカチヤと繋がってその形に合体していく。
「よし、出来たで!」
「おお……でっかいっすね!」
英里子が石を積んで組み上げた4、5メートルはある粗削りな造形の人型像を見上げるツミレは目を輝かせる。
「あとはこの特殊サポートスキルやね……『バインドパペツト!』」
英里子はステータス画面を開き、敵の動きを使用者と強制同期させることで行動妨害・操作する特殊攻撃系サポートスキルを石像に使用する。
「ぐぅ、ちょき、ばぁ……どうや?」
仲間が周囲を警戒しつつ見守る中、英里子は右手を動かしてみるが、彼女の動きを同期しているはずの石像はぴくりとも動かない。
「ううん……どうしたもんかなぁ?」
「もののふ様、魔力を右手に集中させてみたらいいんじゃないでしょうか?」
「右手に集中?」
「はい、ホムラモノ様やミズノモノ様が一部のエレメント技でやっていらっしゃるように……こう、こんな感じですね『エレメントプラス・ウォーター』」
ツミレは右手の拳にエレメントプラス・ウォーターを付与し、手をぷよぷよな水塊で覆って見せる。
「エレメントプラスって武器や防具を強化するだけじゃなくてこんな事も出来るの?」
「はい、エレメントプラスは武器や防具を属性魔力で覆い強化するものなんですが魔力操作の応用技として体の一部にも使えるんです。ただ火とか雷、風は耐性的に無効化できない限り怪我のリスクが大きいので、水や岩でやるのが基本です。」
「つまり僕が使うファイアージェットはこういう原理だったのか……」
「はい、見習いの私は2ヵ所同時が限界何ですけど。ホムラモノ様は人魚族の一人前な戦士様のように両手足4箇所まで可能だと言う事ですね」
「……へえ、そうなんやね。それはさておき、魔力集中ってどうすればいいんやろ?」
「ええと、まずは右手に意識を集中させて……もののふ様の地のエレメントプラスをそこだけにかけて見てください。成功すればこんなふうに手が岩で覆われるはずです」
ツミレは見本として右手にエレメントプラス・アースを付与し、手を岩塊で覆って見せる。
「集中……集中……エレメントプラス! ぬおっ! いだだだだ! 小指曲がるぅ! ぎゃああああ!」
右手だけではなく右腕全体を岩石に覆われ、ぎちぎちに締め上げられた英里子は七転八倒する。
「もののふ様! 私の説明が至らぬばかりに申し訳ございません!」
マヨイガエレメントで腕を痛めかけ、美香が生成したひんやリアクアジェルで腕を冷やす英里子にツミレは頭を下げる。
「気にせんでええんよ、ツミレちゃんは何も悪うないで。ウチも初めてやったわけだし……とりあえずコレはどうしたもんかなあリーダー?」
「そうだな、とりあえずミズノミヤ様に報告しておかないと。もしかしたら他のサポートスキルやエレメントスキルで利用できるかもしれな……?」
広間の外から聞こえる重い物が這いずるような水音。4人は石像の背後に身を隠す。
「グッ……ゲゾォ?」
食料を求めてマヨイガをさまよっていた一匹の成体デーモングッソー。
共食いを始めた仲間から逃れたものの、食料にありつけず飢え死にを覚悟していたそれは薄汚いピラニアソルジャーの獣臭ではない甘美な人魚族の芳香を感知。
それを辿ってたどりついた人魚族の旧修練場は薄暗いのみならず、中央にそびえ立つ巨大な石柱の影で視界が悪くなっており、デーモングッソーは戸惑う。
(まずい! 入口を塞がれた)
最悪の場合マヨイガから緊急脱出、もしくはセーフティルームから蘇生やり直しができる自分たちと違って死んだらそこまでのツミレだけでも逃がそうと3人は息を殺して考える。
(きっ、来ましたわ!)
この部屋のどこかに隠れているのは間違いない高栄養タンパク源を見つけ出すべくデーモンゲッソーが部屋中に張り巡らし、石像の裏にまで伸ばして来た触腕に美香は思わずツミレを抱きじめる。
『ファィアージェット!』
「グソォォ!」
そんな中、火のエレメント塊を纏い、石柱の影から飛び出してきた探。デーモングッソーはあぶり出しに成功した獲物を捕らえようと触腕を上空に伸ばす。
『ファイアボール!』
探は執拗に追い回してくる触腕を刀で切り落とし、ジグザグ飛行で交わしつつ火球攻撃で
陽動。3人の逃げ道を作るべく唯一の出口から引き離してく。
(ええと、ステルスはどこや!)
(英里子ちゃん! 急いで!)
探が単騎で敵の気を引いている間に、水エレメント技・ハイドロフォイルで逃げる態勢を整えたツミレと美香。そんな2人と自分に一定時間敵に感知されなくなるサポートスキル『ステルス』を使おうとステータス画面を開いた英里子であったが、暗闇と震動で上手く操作できない。
(……美香さん、見てください! ゴーレムが動いています!)
(そんな事どうで……? あれぇ?)
両腕を上げて手を広げ、前後左右に動かしつつ首を左右に振っているゴーレムとエアディスプレイを操作する英里子を美香は交互に見る。
(英里子ちゃん! あれ、あれを見て!)
(なんやっ……て、ホンマに動いとるやないけ! どうなつとるんじゃコイツ!?)
(とにかくやるしかないよ、英里子ちゃん!)
混乱のあまり阿波踊りを始めた英里子と両手を上げてくねくねとリズミカルに地面を踏み鳴らし始めるゴーレム。主の動きをどこまでもトレースしようと言うその有能さはさておき、巻き込まれたら踏み潰される美香とツミレはすぐに距離を取る。
【第19話に続く】
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