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第6章 一蓮托生

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「弥桜、おいで」
「・・・・・・静先輩?」

今日からまた発情期だっていう日で。
また自分がどうなるのか考えたくもなくて、ぎりぎりのぎりぎりまで目を背けていようとしていたところだった。

おもむろに呼ばれてベッドまで這っていくと、いきなり布製の手錠を付けられた。
「簡単には外れないけど、痛くはないはずだから」
なんの説明もなくそれだけ言うと、静先輩はベッドから下りて椅子に腰掛ける。

確かにちょっと引っ張っただけじゃ全然外れそうもないし、布製だから擦れても痛くない。
けど、ベッドからは下りられないしもちろん静先輩にも届かない。
自分の体ぐらいなら触れるけど、それ以上でも以下でもないそんな中途半端な長さだった。

「静先輩?」
何がしたいのかよくわからなくて不安になって静先輩に視線を向ける。

「それはただの逃げ防止だから。ほら、前俺の手から逃げようとしてタオルで縛ったことあっただろ。あれじゃ手首に負担がかかるから」
「あぁ・・・・・・」
発情期中の記憶はいつも朧げだけど、なんとなくそんなこともあったなと思い出す。

でも、それならなんでベッドに繋がれてるんだろう。
これじゃあ逃げるどころか、静先輩に近づくことすら出来ない。

「なぁ弥桜。お前はいつも自分は汚いから、俺に触らせたくないって言うよな。多分弥桜にはいくら汚くなんかないんだって言ってもダメなんだろ?」
この流れにはそぐわない話をいきなりし始めて、こんな時に何を言い出すんだろうと思う。
「だったらちょっと考え方を変えてみないか」

「それって、どういう・・・・・・」

「大丈夫なんだよ、弥桜。弥桜が今までどんな考え方で何をしてきても、・・・・・・弥桜が汚れてるって思ってても、俺はその全部を受け入れられる」
優しい声音に籠った力強さが心に響く。

静先輩の言葉ひとつで僕という一人の人間の存在すら、肯定することも否定することも出来る。
それだけ僕にとって二階堂静という人間の存在がどれだけ重要なのか。
静先輩が全部受け入れてくれるって言ってくれるだけで、自分という存在を認められるような気がしてくる。

「弥桜が、弥桜のまま、隣にいてくれればいいんだ。だから弥桜が辛くなくなるように、俺はずっと伝え続けるから。弥桜が大事なんだって」

僕のために、必死に訴えかけてくれる。
聞こえている、心まで届いている。
でもまだきっと受け入れられない。
無意識の領域が否定し続けいているから。

「どんな弥桜でも俺にとっては大事な弥桜だから」

繰り返し繰り返し聞こえてくる言葉が、いつからか耳に心地よくなってきて意識が朦朧としてきた。
それになんだか暑くなってきた。
ああ、もう発情期が来てるんだ。
「はぁ・・・・・・」

「今日俺は弥桜に触らない。発情期だからってその時だけ触れてきたけど、それで翌朝もっと辛くなるんだからそれじゃ逆効果だ。その代わり、ずっとここで見てるから。どんな弥桜でも大丈夫だって証明する」

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