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「魔性の女」

「同意です。
 これは男を誑かす運動部の勘違いさせちゃった?系僕っ子フレンドリー女子。」

「お前さんたちなんの話をしてるんだ?」

「なに~?
 僕の話?」

「私にもよくわからん。」

「女には見たくない現実があるのですよ。」

「同意。」

「詩、お前さんめんどくさがっていたのに恐ろしいくらいにシンクロしてるな。」

 マスター春は考えることを放棄したみたい。
 それもそのはずか、マスター春の左手の薬指にギルドの交換したばかりと思われるLEDライトの光量高めの光が反射するキラキラとした金色の指輪が眩しい。
 結婚指輪をしている時点で私たちのような女の気持ちはわかるまい。

 見よ、靴ひもがほどけたからと言ってかがまずに空中で紐を結ぶ姿。
 ダンジョン探索の服は厚手のロングタイツ。
 ダンジョン汎用装備の中で最も軽量で体のラインが見える装備。

 体のラインが見える装備。

 持ち前の走力を身に着けるべく鍛えられた形のいいヒップをありありと形取ります。
 
「く、私も若かりし頃はアレくらい合ったのに。
 何故あの時アピールをしなかったのか。
 そうでなければ、こんな零細ギルドの受付なんてしていなかったはずなのに。」

「こっちのギルドよりも給料良いところいっぱいあるもんな。」

「え!
 師匠からここならお前でも大丈夫って、太鼓判押されてきたよ!」

「太鼓判押されるくらいお偉いさんからの依頼も来ないギルドだからな。」

 用はお偉いさんが来ないことを前提にしておかないと彼女を預けてやれないってこと。
 師匠の判断は正しい。
 彼女はお偉いさんを寄せ付けない方が強くなる。
 若いうちから唾をつけておく輩はそこそこいるけどこのギルドは安全だろう。

「うえええ。」

「そういえばお前さんはなんでここに来たんだ?
 もっと実入りの良いところがあっただろうに。」

「ダンジョン災害、第一次ダンジョン世界大戦時代発足。」

「あー。
 確かうちの前進体のギルドがそうだったな。」

 類衣は頑なにそれ以上、語ろうとはしなかった。
 第一次ダンジョン世界大戦時代、ギルドマスター春が生まれる以前に起こった大事件とされている。
 しかし、それらのことについて知っている人は皆無。
 これらの戦いはまだダンジョンという存在が表に出る前に起こった事象と言われており、詳細な資料も無いと言われていた。

「元【雀の卵】」

「私も初代の逸話はただの口伝だと思っているが。」

「資料室の中に歴史書みたいなのは残っていませんね。」

「ほへー?
 歴史は僕にはわからないにゃ!」

 家紋なのかわからないが紋章だけは残っている。
 二羽の雀が炎の中を舞い踊り、中心に卵がある。
 伊達家の雀と竹の家紋のようだが画風が明らかに異なっていることだけが気がかりとされていた。
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