滅ぶ予定の魔王国ルミナ、実は全員が将軍級でした ~常識人の魔王アルト、血に飢えた国民に担がれて帝国を返り討ちにする~

雪野湯

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第一章 民の狂奔、王の知性――帝国への剣

第4話 タイムリミット

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――帝国と戦うと決めて、一週間が過ぎた。

 私たちには時間がない。
 砦を強襲した瞬間から時計の針が動き出す。その針が止まる場所はひと月足らず。
 その間に、ルミナとカイリ国との山道の橋を補修し、同盟を結び、支援を得なければならない。

 橋の修理はすでに命じた。
 だが、山道までの道のりには魔物と呼ばれる、獣でありながら魔法を使うことのできる生物が跋扈ばっこしている。
 
 
 そのため、ブルックが苦渋の表情を隠さず言葉を漏らした。

「長年山道は放置され、魔物の定期討伐も行っておりませぬ。状況もわからぬため、二十名ほどの護衛が必要かと」

 送った民間人たちを、無防備のまま仕事に従事させるわけにはいかない。
 
 
 我が国にいる兵士は百名――つまり、残りは八十名。


 人口は五千人いるので、徴兵を行えば、数百の頭数は揃えられるだろう。
 しかし、今回の任務は狼煙を上げさせることなく速やかに砦を落とすこと。
 付け焼き刃の兵士などを連れては足手纏いとなる。
 また、闇夜に砦へ侵入という作戦の性質上、少数部隊の方が向いている。

 さらにこの作戦でイロハが予防策を提案した。
「万が一のために退路の確保が必要です。北の砦とルミナはメーア平原を挟んでいるため距離があります。ですので、最低でも二十名ほどの兵が必要だと思います」

 さらに二十名マイナス。
 よって、残る六十名で二百名が守る砦を落とすことになる。

 
――その砦攻略のため、この一週間の間に砦を探らせた。
 
 町に住むハルピュイアと呼称される空を飛べる一族。その中でも闇夜でありながら、監視が可能な蝙蝠の一族に空からの偵察を任せる。
 また、地上の偵察は獣人族のウサギの一族と猫の一族に任せた。彼らの優れた耳と目が偵察の役に立ってくれ
るだろう。
 
 ドワーフたちには橋の修復を任せ、エルフには魔法を使った伝令役を。
 
 ドワーフは鍛冶や建築などが得意な一族、エルフは魔力に長けた一族。

 特にエルフの魔導通信は他種族にはない力のため、情報伝達の面では我がルミナが帝国を圧倒することになる。
 人間たちは物資の管理。彼らはどの種族よりも数字に強いので安心して任せられる。


 これは人間が中心の国家や魔族至上主義の帝国では決して行えないもの。
 我がルミナにしか行えないこと――この強みを使わずして、帝国と戦えるはずがない。



――情報が出そろい、決行の日を迎えた。
 北に広がるメーア平原を通り過ぎ、帝国の玄関口を守る北の砦より少し離れた場所に到着した。

 私、アルト。ブルック、イロハ。そして六十の兵士たち。皆、黒装束を纏い、草陰に潜む。

 私は闇夜の向こうに薄ら浮かぶ砦を見つめた。
「篝火がわずかに見えるが全体像はよくわからないな」
「そのための事前偵察でしょう。ハルピュイアにより詳細な外観はわかっておりますぞ。猫とウサギの一族の目と耳で、兵士の数は当初の予定通り、二百ほどだと」

「全てフレッシュな情報なのだろうな?」
「万が一を案じ、気取られぬよう決行日の前日は行っていませんが、双方とも二日前の新鮮なものでございます」
「二日前、か。まぁ、こんな片田舎の砦の情報が目まぐるしく変わるとは思えんしな。だが、一応、イロハ、お願いできるか?」

「はい、う~ん?」


 イロハは目を細めるような仕草を見せた。彼女は遥か遠くの動きを感知する能力に長けている。
 ちなみに目を細める必要はないそうだが、なんかしてますよというアピールがしたいらしい。
 そのイロハだが、何やら頭をかしげている。

「あっれ~?」
「どうした?」
「それがですね、砦全体に魔石によるジャミングが行われているんですよ。しかも、従来のものよりも性能が良さそうです」

「ジャミング魔石……高名な魔導士やエルフの千里眼から内部情報を盗まれないためのものだな。だがそれは、相当稀な防衛装置。なぜ、そのようなものがここに? しかも、性能の良いものが?」
「さぁ、わかりません。三百年前ならぴしっと見通せたんですけど、私ももう年だから色々とガタが来てますからねぇ~」

 という言葉に私とブルック、そして六十名の兵士は少女の姿をしたイロハを、糸のように細めた目で見つめた。

(年寄りには見えないな)
(年寄りには見えんのう)
(めっちゃ女の子じゃん)


「ん? どうしたんですか、皆さん?」
「いや、なんでもないさ。しかし、ここに来て妙な雰囲気だな。ジャミング? 何のために? 考えられる可能性は? ブルック、イロハ」

「こちらの動きが漏れた、にしては砦の様子が静かすぎますな。いえ、静かすぎるからこそ怪しくも感じますが……とはいえ、そんな大層な道具を使用する必要はありませんしの。そもそも、このような砦に常設されているわけがありませんからの」
「だとすると~、そうですねぇ、他に考えられるとしたら~……何らかの重要な品を運んでいる。もしくは人物がいる、といったところでしょうか」

「ふむ……不安要素のある状況で作戦を遂行したくないのだが……」
「ここは退きますか、アルト様?」

「退きたいが時間がない。条約がなくなるまでまだ二か月以上あるが、カイリ国との同盟後、支援された物資を山脈を越えて運ぶとなると、夏の間に終わらせなければならない。夏が過ぎれば、山は雪道に閉ざされてしまう。そうなれば大規模な支援が難しくなるからな」


 ブルックは髭を擦りながら、ため息交じりの言葉を漏らす。
「すでに一週間費やしておりますからな。これ以上、後倒しにするとなると計画が狂いますな」

 彼のため息が重く心に圧し掛かる。
 不安要素の浮上……本来であれば退きたい――しかし、退けば国が死ぬ。
 そう、迷う時間は残されていない

「……その通りだ。砦に何かがある、もしくは何者かがいたとしても、我々は前を進むしかない――」
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