マヨマヨ~迷々の旅人~

雪野湯

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第二章 ここは剣と魔法の世界

鏡に映る見知らぬ女

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 一通りの話が終えたので、トルテさんは俺を部屋に案内するためにピケを呼んだ。
 ピケは手にしていたお盆をカウンターに返し、ぴょこぴょことこちらへやってきて、俺の方を向いて笑顔を見せた。


「お部屋の案内? いいよ~」
「お、悪いねぇ。あんがとさん」
「ん~?」
 お礼を述べたのに、ピケは俺を見ながら首を傾げている。どうしたんだろう?

「どしたの?」
「あのね、ヤツハおねえちゃんって、なんでそんな男の人みたいな言葉づかいなの? 俺とかいうし」
「男っぽいかぁ。まぁ、そうね」

 今は女だし、女性っぽい言葉を出した方がいいんだろうけど、男としての俺にとっては抵抗感が残る。
 それにどのみち中身は男だから、女性アピールをする必要もない。
 
 つまり、男なんかにモテるつもりなんざ、さらさらないってこと。
 そんなわけで、このままでいいと思っているから言葉づかいを改めるつもりはない。
 ……でも、周りの目は少し気になる。


「フォレ、アプフェル。俺の言葉づかいって、そんなに変?」
「ええっと、そうですね。個性的で良いかと……」
「ううん、そのままでいいと思うよ。あんたのそのガサツさ、っと、親しみやすさは個性だよ。女性らしさなんかあったら似合わないし」

 にわかに目を泳がし始めるフォレ。やはり、変だと思っているみたいだ。
 アプフェルの方は、フォレに色目を使われたら困るからガサツなままでいろと言っている。
 
 フォレの反応はともかく、アプフェルのフォレから女っ気を排除しようとする情熱は怖い。


 その後、会話もそこそこに切り上げて、フォレとアプフェルはそれぞれ自分の家に帰った。
 俺はピケに手を引かれて、三階の部屋へと案内される。
 部屋の鍵を受け取り、別れの手を振って、部屋の中へ。

 まずは、内装をじっくり拝見する。
 部屋のすぐ右側にはベッドが完備してあった。
 ベッドの足元近くに洋服ダンス。ベッドと向かい合う場所に、鏡の付いた化粧棚。左隅には机。隣にはバルコニーに通じる窓がある。そこからは街が一望できる。
 
 見た感じから一泊するだけの部屋ではなく、長期間滞在できるような部屋という印象を受けた。
 俺がいつ自立できるかわからないから、トルテさんもしくはフォレがこの部屋を選んでくれたんだと思う。


「さて、寝る前に……ずっとお預けを食らってたアレでしょう」
 鏡に目を向ける。
 そう、俺はまだ、女となった自分の姿を知らない。
 上玉だとか美人とか綺麗だとか言われたが、そいつがどれほどのものか、見てみるとしよう。


 鏡のそばに立ち、自分の全身を映しこむ。


 服装は最初に確認した通り、赤茶色主体の地味な村娘な格好。
 だから、確認すべきは容姿だ。

 髪質は、烏の濡れ羽色のようにしっとりとした黒の直毛。それは腰の位置にまで届いている。
 瞳の色も同じ黒。黒翡翠の輝きが潤んだ瞳と合わさり、実に妖艶な色気を醸し出す。
 肌は雪のように白く極め細やか。
 唇はとても健康的な色味で、指で触れるとマシュマロのような弾力で押し返す。
 
 美女だ。可愛いではなく、美女だ。
 
 だけど、何か気持ち悪い。
 街の通りで、この鏡に映る美女を見かけたら俺は目を奪われた。
 でも、これが俺自身かと思うと、実に気持ち悪い。

「なんだろね~、俺の要素が残ってないんだよね~」
 鏡に近づいて、俺らしき痕跡を探す。
 指で眉をなぞる。若干の怒り眉。元の俺の眉毛の形だ。
 髪をかき上げる。おでこはM字形の髪配置。俺のおでこ。
 
 口を開ける。歯並びは俺っぽい。
「あれ? 奥歯にあった虫歯がなくなっている。ラッキー」
 続いて顔を横に傾けて、耳の部分を見る……耳の形なんて覚えていないのでわからない。

「ふむぅ~、俺要素が部分的にしか残ってないなぁ」
 
 改めて、鏡に映る自分の顔を眺める。
 緩みきった雰囲気は俺そのもの。
 美人でありながらも、どこか抜けた感じがする。
 
 一呼吸おいて、顔を引き締め、背筋を伸ばし、もう一度鏡を眺める。

(こ、こいつはっ?)

 俺は、鏡に映る自分の存在に、ぞわりと寒気を覚えた。

 一切、波立つことのないなぎの湖面の穏やかさと、凍てつく雹雨の鋭さを併せ持つ佇まい。
 様相は少女。しかし、湧き出でる気配は魔性。
 魅了され、触れようとする男たちの体を切り刻む、鋭利な色香。

 俺は恐怖を抱きながらも、微笑みを浮かべてみた。
 
 慈愛に満ちた、天上人の微笑びしょう
 この少女の温かな笑みを前にすれば、いかに閉ざされた堅牢な心の持ち主であっても、少女の前にこうべを垂れてしまうだろう。
 
 だが、瞳に映る光は全くの逆。
 昏く、冷たく、目にした者の、心の全てを喰らい尽くす。
 死という一文字を体現した眼。
 
 しかし、死を前にしても、視線を外すことは叶わない。
 心も恐怖も、人の持つあらゆる感情を虜にする瞳。

 この女は、人を狂わす麗人。国を亡ぼす傾国の美女。

 俺は目を閉じて、両手で顔を包み、数度揉んで、再び鏡を見た。
 映っているのは気の抜けた残念美人。

「はぁ~、気を張れば怖いくらい美人だな、この姿は。今の緩い感じが俺っぽいや」

 首を横に振って、最後にもう一度鏡を見た。
 俺が想像したはずの女性。
 だけど、このような美女を、なぜ、どうやって想像したのか?
 俺はこんな女を知らない。

 怖い。鏡に映る自分が……。

 鏡に映る女性を見ていると、心を見えざる魅力に囚われそうになる。
 俺は奥歯を噛み締めて、激しく首を振った。
 そして、両手で顔をグニャグニャに押さえつけて鏡を見直す。

「お前の顔なんかこうじゃ。ば~か」

 数秒の沈黙……俺は顔を正して、大きく息を吐く。

「はぁ~あ、何やってんだよ俺。自分の美しさにムカついて変顔して……はは、ここだけ聞くとナルシストみたいだな。なんか、疲れたな。もう、今日は寝るか」

 今日は色々あった。
 刺されて死んで、あの世で裁判。
 次元の狭間にお地蔵様。
 それから盗賊に襲われて……盗賊……。

「そっか、盗賊か……」

 盗賊に襲われた時のことを思い出して、顔が皺くちゃになるくらいに固く目を閉じた。

「俺は……人を殺したんだよな……でも……」
 理由はどうあれ、他者の命を奪った。
 そうだというのに、後悔の念があまり湧かない。なぜだろうか?
 友達と喧嘩した時でさえ、暴力を振るってしまったことへの自己嫌悪で辛かったというのに。
 
 まるで、心の中に別の誰かが住み着き、感情の一部を支配されているかのような感覚。
 そこで、ふと、鏡に映った見知らぬ女性の姿が頭をよぎった。
 だが、すぐにそれを否定し、自嘲する

(はは、馬鹿な。この姿は俺が想像した姿。俺自身。なのに責任転嫁しようなんて……やっぱり、疲れているのかなぁ) 
 
 目まぐるしく変化する一日だった。
 だから、疲れて色んなことを妙に感じるのかもしれない。
 そういうことにして、ベッドに横になり、指を折りながら今後のことをまとめていく。


 一つ目、まず第一に、生活の基盤を作る。
 二つ目、こちらの世界のことをもっと詳しく把握する。これはフォレかアプフェル辺りから聞くとしよう。
 三つ目、できれば、元の姿に戻りたいので、その方法を探す。
 四つ目、前世の罪が何なのか知りたい。追放され、今更知っても意味はないが、気になるもんは仕方がない。
 五つ目、地球に帰る方法を探す。ついでに閻魔どもに文句が言えたら言う。


 この中で実現可能なのは最初の二つくらいだけど、目標として掲げても誰も文句は言わないし、いいだろ。

「え~っと、あとは、明日の仕事……と、お金貰ったら、生活、必需品、を、そろえ……て……」

 瞼が重くなっていく、あとのことは明日考えよう…………。
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