マヨマヨ~迷々の旅人~

雪野湯

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第二十一章 道を歩む

新たな時代の王

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 パティは馬を全速力で走らせる。
 俺は彼女の腰にしがみつき、俺の腰にはティラがしがみつく。
 激しく上下する馬上。

 俺は言葉を上下させながら、パティに声を張り上げる。


「パティ! 王都の結界の外まで出ることができれば、俺の転送で何とかなる!」
「そう言えば、先ほども転送魔法で宿の前に現れましたわね。あなたが宿に訪れると予想して待っていましたが、正直驚きましたわ。それで、どこへ?」

「わからん! どっかに目印を着けてるわけじゃないから、持てる力を使い切ってできるだけ遠くに飛ぶ!」
「それは大丈夫ですの!?」

「転送にも慣れてきたからな。転送の終わりの瞬間に安全地帯の確保くらいはできる……と思う」
「もう少し自信ありげに言ってくださりません!」
「そんなこと言ったって……とにかく、岩の中に挟まったりなんかはしないから大丈夫だ!」

「岩の中って、恐ろし気なことを……ですが、このまま三人で馬に乗っていても……もう! 口に漏らすと影が追ってきますわねっ!」

 
 パティは意識を後方へ飛ばす。
 俺も後ろから近づく巨大な気配に気づき、背後へ顔を向けた。

 土煙が二つ――馬を遥かに超える速度で誰かが迫ってくる。

「くそ、何もんだっ!?」
「ヤツハよ、あれは六龍……パスティスとバスクだ」
「え?」

 ティラの声に惹かれ、一度彼女を見る。
 そして、再び六龍と呼ばれた彼らに視線を戻したときには、魔導杖まどうじょうを持つ男が何かの呪文を唱え、こちらへ魔法を飛ばしていた。

「パティッ、来るぞっ!」
 
 
 パティは馬を捨て飛び降りる。
 俺もティラを抱え、彼女に続いた。

 馬は背に誰も乗せず、まっすぐと走って行く。
 男が放った魔法弾は馬を越えたかと思うと、向きを変えて上空へと飛び上がった。
 空高く舞った魔法弾は数本の流星となり地面に降り注ぐ。
 
 流星の尾は七色に輝く薄い膜を引き連れて、俺たちや六龍へ傘のように覆いかぶさった。
 
 俺たちの目には、薄い七色の壁が全周囲を覆っている光景が映る。
 その魔法の正体を知り、俺とパティは悔しさ混じりに呟く。


「結界、か……」
「ただの魔法弾と思いきや、結界の魔法を中に隠しているなんて……」
「すごい魔法の腕前だ。高度な魔力制御があってこそ為せる業だな……よし、この使い方覚えとこ」
「ふふ、余裕がありますわね。六龍・蒼の死神バスク様を前にして……」
「蒼の死神?」
 

 俺は蒼の死神と呼ばれた男、六龍バスクへ視線を飛ばす。
 見た目は非常に若く二十代前半程度。
 ボブカットの青い髪に青い瞳。
 
 身に纏う服は胸元に濃い青の巨大な三つ巴の紋章が描かれているだけの青色のローブと、全身青づくしの男。
 青に染まる色の中で色違いといえば、黄色のふちを持った眼鏡と女神の黒き装具である魔導杖のみ。
 
 杖の真っ黒な持ち手の先には、真っ黒な水晶がかんむりとして納められている。
 水晶の片端は白銀の金属で覆われており、その金属が水晶から放たれる魔力を高めているようだ。
 水晶の内部は夜空のように煌びやかな光を見せている。

 
 次に、俺はバスクの前に立つ男を見つめる。


――六龍パスティス
 
 筋骨隆々で山のように大きな男。厳つく、重厚な面立ち。
 何もせず、前に立っているだけで重圧に押しつぶされそうになる。
 髪は黒く白髪ではないが、相当な年のように見える。
 しかし、彼から醸し出される風格はただよわいを重ねただけでは生まれないもの。

 
 彼は十字架と歯車が重なり合う紋章が胸に刻まれた、女神の黒き具足に身を包んでいる。
 黒に覆われる姿は黒騎士の姿を彷彿とさせるが、黒騎士の重装鎧とはまったく違う。
 
 パスティスが身に付ける具足は全身黒でありながら、全て金属ではなく、布の織物のように見える。
 形もまた、武道着のようで、具足と呼ぶにはかなりかけ離れたものだった。

 しかし、黒の衣服からは女神の名を冠するにふさわしい力を感じる。


 
 パスティスは大樹のように太き腕で両腕を組み、その姿に見合わぬおっとりとした声でバスクへ話しかけた。
「どうやら、私の勝ちのようだな」
「あのね、僕は結界を張るために速度をっ、ああ、もういいですよ!」
「はは、ぼやくな」
 
 パスティスは笑い声を漏らしながら、周囲に意識を向ける。

「人の気配はない。おあつらえ向きの場所だな」
「うん、そうだね。結界も張った。これで彼女たちの逃亡も人の目も気にせずに済む」
「では、一応、彼女らに問うか」

 パスティスとバスクは並び立ち、俺たちを見つめ勧告を行う。

「たしか、ヤツハとか言ったな。降伏する気はないか?」
「パティスリー。フィナンシェ家のあなたまで。今なら、目を瞑ってあげられるけど?」


 彼らに対する俺たちの答えはこうだ!

「こっちはとっくに覚悟できてんだ! 友達を助けるってなっ!」
「そういうことでして。バスク様、申し出は丁重に、いえ、下らぬ奸計を張り巡らせる魯鈍漢ろどんからたちに叩き返してくれますわっ!」

 俺は腰より、サシオンがくれた剣を抜く。
 パティは扇子を広げ、六龍に突きつける。

 彼女の扇子は以前の優美な羽扇とは違い、かなめに黄金の石が納まり、美しい白色を魅せる鉄扇。
 
「扇子、新調したんだ?」
「ええ、魔導を磨き、武器も改めました。見目に拘らず、実用に特化。高純度の魔力の結晶と魔力を頂へ導く、オリハルコンの扇」
「オリハルコン!? 先生の魔導杖と同じ」

「ええ、そうですわね。貴重金属でなかなか出回らないものですから、造るのに苦労しましたわ」
「そんなに出回らないんだ。じゃあ、相当お高いんじゃ……」
「魔力の結晶と併せ、サン金貨一千枚はかかりましたわね」
「い、いっせんまい……」

 
 俺的円換算で…………4.5~5億円也……。


「いたたた、いたたたっ」
「ど、どうしましたの? 急に胃を押さえて」
「高すぎるっ。それ使うの? 大丈夫? 不安で胃が痛くなるんですけど」
「お金を出したのも使うのもわたくしですのに、どうしてヤツハさんが胃を痛めるんですの?」

「だって、贅沢しなきゃ一生のんびり暮らせるのに。それを武器に使うなんて……」
「私の魔導の才は伸び悩んでいましてね。短期間で壁を打ち破るためには、道具に頼らずにいられませんでしたの。ですが、これならば、女神の黒き装具に対抗できますわっ!」
 
 パティは強き意志と覚悟を秘める光を、二人の六龍にぶつけた。
 彼らはパティ……いや、俺たちの姿を目にして、笑い声を上げる。

「はっはっは、我らを前にして、その余裕。逞しき若人だな」
「そうだね。ブラン殿下は良き配下を持たれた」


 バスクが口にした言葉に、ティラの声がぶつかる。
「配下ではない! 友だ!」
 ティラは俺たちの前に立ち、二人に対して左手をかざした。

「ヤツハは私を友人として思い、助けに来てくれた。私の横に並ぶ友だ。決して配下などでない!」
 
 パスティスは、ティラの口上を鼻で笑う。
「フンッ。友人と? 横に並ぶ友と? 王は孤高にして崇高なるお方。故に絶対者。故に君臨せし者。友など不要。必要なのは我らを導く強き光。誰もが目に宿すことのできぬ、太陽の如く輝かしき光でなければならぬ!」

「それがブラウニーだというのか? あの者にそれだけの光が宿っておるのか!?」
「それは……」

「たしかにあの愚か者と違い、プラリネ女王は優しすぎたやもしれぬ。国を傷つけられ、脅かされたというのに、民を思うあまり、決断できなかった」
「なればこそ、ブラウニー王ならば決断できましょう。北のソルガム、南のキシトルに対抗できるのはあの方しかいない!」

「口を閉じよ、逆賊め!!」
「なにっ!?」

「奴がやろうとしていることはジョウハクを護るためのいくさではない!」
 ティラは一歩、パスティスとバスクへ近づく。
 
「王とは民の道標。民に富を与え、害してはならぬ。糧を得る手段を作り、失わせてはならぬ。命を守り、奪ってはならぬ。幸福を与え、苦しめてはならぬ。皆が安寧を享受し、心を乱してはならぬ」
 
 さらに一歩、前へと出る。
 瞳に宿るは、太陽よりも激しく燃える熱き輝き。
 幼き少女の光と熱に押され、六龍の名を戴く二人の将軍は、数歩後ろへと引き下がる。


 ティラは王都サンオンと、その城を瞳に宿して咆哮する。 

「ブラウニーはこれら全てを奪おうとしている。己の野心のためにっ!」

 瞳を六龍へ移して、彼らに問う。
「パスティス、バスクよ。貴様たちの理想とするものはわからぬ。だがっ!」
 
 一歩、足を大きく置き、地を踏みしめる。
「己の信念を貫きたければっ、覚悟を見せよ! 貴様らの刃で王たる私の心臓を抉り出せ! 首を奪って見せよっ!」

 俺とパティはティラの前に立ち、武器を構える。
「全く、なんて女の子だよっ。いや、女の子じゃねぇな」
「そうですわね。さすがは治世の王と名高いプラリネ女王の御子、ブラン殿下。いえ……」

 新たな時代の王は、俺たちにめいを下す。

「ヤツハ、パティスリー。反逆者を、討て!」

「了解、ブラン女王様よっ!」
「謹んで承りましたわ、ブラン女王陛下!」
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