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第二章 子どもたちの目指す道
第19話 老将と若き炎
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――――ヤーロゥがデルビヨの町から発ってより、六日後
アスティは西門の城壁の上に立ち、大勢の兵士たちへ次々と指示を飛ばしていた
「壁に張り付いた梯子を外して! 油が残っているなら火を!!」
「アスティさん! 城門が丸太で打たれてます!」
「わかった、あなたはここに残って指揮を!」
本来、この西門の指揮は、兵士長の権限に属するもの。
しかし彼女は、その兵士長に命を下し、自身は城壁から西門前へと飛び降りて、ロープで結われた丸太を持つ屈強な盗賊たちの前に立つ。
汗と土埃に薄汚れ、悪臭を放ち、黄ばんだ歯を見せる盗賊たちは、アスティの姿を認めた瞬間、凍りついたような怯えの声を洩らした。
「で、出やがったぞ! 例の小娘が! お前ら――」
「遅い!!」
アスティは腰に佩いていたミスリルソードを抜き放ち、瞬く間に盗賊たちを斬り伏せる。
そして、剣を構え直し、城壁の上で奮闘している兵士たちを鼓舞した。
「私がいる限り城門を破らせたりしない! だからみんな、各々役目を全うしなさい!」
「「「おおおおお!!」」」
彼女は城門の上に立つ兵士たちに背を向けたまま、剣を振るい続け、城門へと押し寄せる盗賊たちを、ただ一人で食い止める。
小さくも力強い背中を目にした兵士たちは、心に勇気を芽吹かせて、ある者は槍を手にし、ある者は弓をつがえ、群がる盗賊たち相手に応戦するのだった。
―――東門では
城壁の一部が崩れ、守るは得難く。
だから少年は、城壁の修復が済むまで、僅か三十の兵で率いて、城門の前で死闘を繰り広げていた。
「やろぅぅ!! 城壁には近づかせねぇぞ!!」
ロングソードを振るう少年剣士――アデル!
振るう剣は風の如き速さと大地唸る力強さを宿し、一太刀で二人の胴を薙ぐという豪胆さを持つ。
アデルは同じく剣を振るい続ける仲間たちへ発破をかけた。
「こんな連中、大したもんじゃねぇ! おっさんら、やってやろうぜぇぇえ!」
「おっさん言うな! ったく、仕切りやがって! ガキのくせに生意気だぞ!」
「だったら俺みたいなガキに負けないように根性入れてけよ!!」
「言われなくてもわかってらぁ!」
アデルを中心に、大人の兵士たちが盗賊を押し返す。
――南門
フローラは城壁を包み込むよう広げた魔法の障壁に心身を尽くしていた。
「ふぅ~、連日だとちょっときついですけど……皆さん、落ち着いて、弓を構え! 射て!!」
彼女の号令とともに、兵士たちの矢が空を覆い、隙間のない雨となって降り注ぎ、大地を血に染めていく。
だが、盗賊も負けじと傷んだ障壁の隙間を見つけては矢を放ち、その一つが兵士の腕を射抜いた。
「いがあぁ!」
「こっちへ! すぐに治療しますから!!」
「だ、だけど、フローラさんは障壁だけで手一杯で!!」
「あなたが倒れたら誰が町を守るんですか! 問答の暇はないの!! 早く!!」
「は、はい!」
フローラは障壁を維持しながら、矢を穿たれた兵士へ治癒の魔法をかける。
それは彼だけではない。
彼女の周りには負傷兵が集まり、フローラは治癒魔法を彼らにかけながら、ずっと障壁を張り続けていた。
それでもフローラは、疲労の色を微塵も見せず、柔らかな笑顔を生み、兵士たちへゆったりと優しく声をかける。
「さぁ、落ち着いて。ここには障壁があるから大丈夫。皆さんは、目の前の敵を打ち倒すことだけを考えて。何があっても、わたしが助けてあげますから」
フローラは治癒と障壁で兵と城壁を守り続ける。
その献身的な少女の姿を目にした兵士たちの心には熱き炎が宿り、その炎を戦いへの力として盗賊の猛攻を耐え凌ぐ。
――北門
この城門は盗賊から最も激しい攻撃を受けていた。
だが、城門を崩すことはおろか、張り付くこともできずにいた。
負傷兵もまた、他の城門よりも少ない。
城壁の上に立つは、一人の老将。
顔に深い皺が刻まれたいかつい老将が短髪の白髪頭を振り、琥珀色の瞳を鋭く光らせ、遠くを望む。
「昨日とは違い、規律ある寄せ方……ふむ、盗賊の頭めが直接指揮を執り、今日はワシが守護する城壁を狙ったか」
老人と思えぬ大柄な肉体――その身の丈を超える大槍を手にし、石突を城壁へ突き刺して、丁寧に並べられた石材を穿つ。
そこへ、流れる風のような新緑の髪と瞳を携えた、一人の若き騎士が足早に駆けてきた。
「ガイウス様、こちらに大きな損耗はありません。盗賊たちも攻め難しと見て、ゆるりと退いているようです」
「そうか」
「まったく、ガイウス様が守るこの門を狙うなんて、盗賊の頭目も愚かですね」
「いや、今回の攻めは様子見であろう」
「と、言いますと?」
ガイウスは琥珀色の視線を他の城門へ向け、静かに口を開く。
「ワシがおらぬ城門など容易く落とせると思い、連日狙ったが、思わぬ者たちの奮戦によって落とせなかった。今日は長期戦を踏まえて、ワシの実力を測りに来たのだろうよ」
「それこそ愚かな企てですよ。獅子将軍と称されるガイウス様を測るなどと」
不満を撒き散らすエルダーをよそに、老将は戦場の先にはある森――盗賊どもが陣を構える森へ目を向ける。
「いや、実力を測るよりも迷いが濃い。故に、突いてワシの意図を引き出そうとしておるのか……盗賊め、面白い。だが、動きに迷いを見せるところはまだ青い」
「え、それはどういった意味で……?」
「気にするな。それより、エルダー。獅子将軍とは、また懐かしい呼び名をしたものだ。だが、そう呼ばれたのも今は昔。それ故に、盗賊共も引退したワシであれば与し易いと考えたのかもな、がははは」
「なんて失礼な奴らなんだ!」
「しかし、それも無理もなかろう。まさか、あのような少年少女たちが、あれほどの才を秘めていようとはな。物怖じすることなく兵士たちを指揮し、戦術も一流。更には、個々の実力も一流の戦士ときた」
「ええ、それについては僕も驚きです。僕と三つ程度しか違わないのに」
「フフフ、彼らのおかげで、この町は何とか持ち堪えている。今は、だが……」
――――その日の夕方、盗賊たちはデルビヨの町から一旦引き上げていった。
アスティは傷を負った兵士たちを目にしながら、町中を歩く。
その彼女の姿は、人間の姿――耳は尖らず丸く、唇から牙は飛び出していない。これは村長リンデンより渡された変装用のバッジの効果によるもの。
彼女は自分が指揮していた兵士たちへ声をかけ、労いを伝える。
その中で、西門を預かる兵士長が声を返してきた。
「今日はみんなありがとう」
「いえ、そんな。アスティさんのおかげで今日も無事凌げました」
「ふふ、お世辞はいらないよ。私の指揮が至らないせいで、負傷者もいっぱい出てるし。死者も……」
「そんなことは! あなたがいなかったらとっくの昔に町は落ちていた。あの時、アスティさんが、アスティさんたちがいなければ――!!」
――三日前
突如として、盗賊の軍勢がデルビヨの町の前に姿を現した。
その数――実に四千!
対するデルビヨの町は、守備兵が僅か一千。
しかも、その多くはまだ若く、実戦経験の乏しい者ばかり。
それとは真逆に、敵は数においても技量においても、こちらを凌駕する猛者たち。
何故、このようなことになってしまったかというと、このデルビヨの町一体を治める領主メディウスの失策にあった。
彼は度々町を襲っていた盗賊と交渉を行うため、二千の精鋭を率いて、盗賊の頭目ジオラスとの交渉へと赴いた。
内容は一定の財を支払う代償に、今後、町を襲わないこと。街道の人々を襲わないこと。
これは領地を治める者にとって敗北を意味する屈辱的な交渉であったが、領主メディウスは神出鬼没の盗賊との消耗戦に陥るよりも、この譲歩の方が賢明だと考えた。
――だが、この交渉そのものが、頭目ジオラスの巧妙なる罠だった。
当時、領主メディウスは、ジオラスの兵力を一千から千五百と見積もっていた。
しかし実際には、ジオラスは周辺に散らばる小規模な盗賊団を束ねに束ね、その数を四千にまで膨れ上がらせていた。
そうとは知らず、まんまとおびき寄せられた領主メディウスとその精鋭二千は、四千の盗賊とジオラスの軍略により、ことごとく討ち取られてしまった。
そうして、ジオラスは勝ち誇るように領主メディウスの首を掲げ、勝ち鬨を上げつつ、デルビヨの町へ襲い掛かってきたのだ。
領主を喪い、精鋭の兵をも失った町など落とすに容易い。
そう、ジオラスは確信していたに違いない。だが、町には想定外の人物がいた。
――その人物とは、老将ガイウス。
彼は若き騎士エルダーと百の歴戦の兵を従え、国王陛下の度重なる無謀な出兵を諫めるために、偶然このデルビヨの町へ立ち寄っていた。
そこで町を取り巻く情勢を即座に察し、そのまま防衛の指揮を買って出た。
ガイウスが率いていた兵数は百と決して多くはなかったが、その全てが実戦を幾度も潜り抜けた歴戦の勇士たち。
町に残されていた兵と合わせれば、総勢は一千百――敵軍の四千に対しては圧倒的に劣勢であるが、要所要所に熟練の戦士を配置することで軍としての形は保たれる。
しかし、頭目ジオラスもまた老将ガイウスの存在を看過してはおらず、数の優勢を存分に生かし、四方を囲むように町を包囲し、四つの門すべてに攻撃を仕掛けてきた。
ガイウスが守れるのは町の二か所のみ。自身が率いる城門と、若き騎士エルダーが率いる城門。
残りの二門を守る兵士長は若く指揮も未熟。兵士もまた若く経験は浅い。
これでは町を守り切れない。
――だが、この町には、アスティ・アデル・フローラがいた!
フローラが魔法の結界を張り巡らせて一門を支える。
アスティとアデルが最後の門に立ち塞がり、剣と気迫でもって敵勢を防いだ。
三人もまた、若い兵士たちと同様に未熟であることに違いはない。
戦の場においては初陣であったし、味方の兵たちと比しても年若く、鍛錬も途上。
しかし、レナンセラにて……ジャレッドとヤーロゥから鍛え上げられ、その教えを余すことなく己の身に刻んできた三人は、初の実戦であっても動じることなく、迷いなく剣を取り、指揮を執り、戦場に身を投じた。
その姿を目にした兵士たちは奮い立つ――最初は戸惑っていた者たちも、次第に少年少女である彼女たちを頼り、尊敬し、指示によく従い、力を合わせて抗戦の意志を固めていった。
老将ガイウス、若き騎士エルダー。二人に続く、若き戦士――アスティニア、アデル、フローラ。
この五名の決断と行動が、町の命運を繋ぎ止めている。
アスティは西門の城壁の上に立ち、大勢の兵士たちへ次々と指示を飛ばしていた
「壁に張り付いた梯子を外して! 油が残っているなら火を!!」
「アスティさん! 城門が丸太で打たれてます!」
「わかった、あなたはここに残って指揮を!」
本来、この西門の指揮は、兵士長の権限に属するもの。
しかし彼女は、その兵士長に命を下し、自身は城壁から西門前へと飛び降りて、ロープで結われた丸太を持つ屈強な盗賊たちの前に立つ。
汗と土埃に薄汚れ、悪臭を放ち、黄ばんだ歯を見せる盗賊たちは、アスティの姿を認めた瞬間、凍りついたような怯えの声を洩らした。
「で、出やがったぞ! 例の小娘が! お前ら――」
「遅い!!」
アスティは腰に佩いていたミスリルソードを抜き放ち、瞬く間に盗賊たちを斬り伏せる。
そして、剣を構え直し、城壁の上で奮闘している兵士たちを鼓舞した。
「私がいる限り城門を破らせたりしない! だからみんな、各々役目を全うしなさい!」
「「「おおおおお!!」」」
彼女は城門の上に立つ兵士たちに背を向けたまま、剣を振るい続け、城門へと押し寄せる盗賊たちを、ただ一人で食い止める。
小さくも力強い背中を目にした兵士たちは、心に勇気を芽吹かせて、ある者は槍を手にし、ある者は弓をつがえ、群がる盗賊たち相手に応戦するのだった。
―――東門では
城壁の一部が崩れ、守るは得難く。
だから少年は、城壁の修復が済むまで、僅か三十の兵で率いて、城門の前で死闘を繰り広げていた。
「やろぅぅ!! 城壁には近づかせねぇぞ!!」
ロングソードを振るう少年剣士――アデル!
振るう剣は風の如き速さと大地唸る力強さを宿し、一太刀で二人の胴を薙ぐという豪胆さを持つ。
アデルは同じく剣を振るい続ける仲間たちへ発破をかけた。
「こんな連中、大したもんじゃねぇ! おっさんら、やってやろうぜぇぇえ!」
「おっさん言うな! ったく、仕切りやがって! ガキのくせに生意気だぞ!」
「だったら俺みたいなガキに負けないように根性入れてけよ!!」
「言われなくてもわかってらぁ!」
アデルを中心に、大人の兵士たちが盗賊を押し返す。
――南門
フローラは城壁を包み込むよう広げた魔法の障壁に心身を尽くしていた。
「ふぅ~、連日だとちょっときついですけど……皆さん、落ち着いて、弓を構え! 射て!!」
彼女の号令とともに、兵士たちの矢が空を覆い、隙間のない雨となって降り注ぎ、大地を血に染めていく。
だが、盗賊も負けじと傷んだ障壁の隙間を見つけては矢を放ち、その一つが兵士の腕を射抜いた。
「いがあぁ!」
「こっちへ! すぐに治療しますから!!」
「だ、だけど、フローラさんは障壁だけで手一杯で!!」
「あなたが倒れたら誰が町を守るんですか! 問答の暇はないの!! 早く!!」
「は、はい!」
フローラは障壁を維持しながら、矢を穿たれた兵士へ治癒の魔法をかける。
それは彼だけではない。
彼女の周りには負傷兵が集まり、フローラは治癒魔法を彼らにかけながら、ずっと障壁を張り続けていた。
それでもフローラは、疲労の色を微塵も見せず、柔らかな笑顔を生み、兵士たちへゆったりと優しく声をかける。
「さぁ、落ち着いて。ここには障壁があるから大丈夫。皆さんは、目の前の敵を打ち倒すことだけを考えて。何があっても、わたしが助けてあげますから」
フローラは治癒と障壁で兵と城壁を守り続ける。
その献身的な少女の姿を目にした兵士たちの心には熱き炎が宿り、その炎を戦いへの力として盗賊の猛攻を耐え凌ぐ。
――北門
この城門は盗賊から最も激しい攻撃を受けていた。
だが、城門を崩すことはおろか、張り付くこともできずにいた。
負傷兵もまた、他の城門よりも少ない。
城壁の上に立つは、一人の老将。
顔に深い皺が刻まれたいかつい老将が短髪の白髪頭を振り、琥珀色の瞳を鋭く光らせ、遠くを望む。
「昨日とは違い、規律ある寄せ方……ふむ、盗賊の頭めが直接指揮を執り、今日はワシが守護する城壁を狙ったか」
老人と思えぬ大柄な肉体――その身の丈を超える大槍を手にし、石突を城壁へ突き刺して、丁寧に並べられた石材を穿つ。
そこへ、流れる風のような新緑の髪と瞳を携えた、一人の若き騎士が足早に駆けてきた。
「ガイウス様、こちらに大きな損耗はありません。盗賊たちも攻め難しと見て、ゆるりと退いているようです」
「そうか」
「まったく、ガイウス様が守るこの門を狙うなんて、盗賊の頭目も愚かですね」
「いや、今回の攻めは様子見であろう」
「と、言いますと?」
ガイウスは琥珀色の視線を他の城門へ向け、静かに口を開く。
「ワシがおらぬ城門など容易く落とせると思い、連日狙ったが、思わぬ者たちの奮戦によって落とせなかった。今日は長期戦を踏まえて、ワシの実力を測りに来たのだろうよ」
「それこそ愚かな企てですよ。獅子将軍と称されるガイウス様を測るなどと」
不満を撒き散らすエルダーをよそに、老将は戦場の先にはある森――盗賊どもが陣を構える森へ目を向ける。
「いや、実力を測るよりも迷いが濃い。故に、突いてワシの意図を引き出そうとしておるのか……盗賊め、面白い。だが、動きに迷いを見せるところはまだ青い」
「え、それはどういった意味で……?」
「気にするな。それより、エルダー。獅子将軍とは、また懐かしい呼び名をしたものだ。だが、そう呼ばれたのも今は昔。それ故に、盗賊共も引退したワシであれば与し易いと考えたのかもな、がははは」
「なんて失礼な奴らなんだ!」
「しかし、それも無理もなかろう。まさか、あのような少年少女たちが、あれほどの才を秘めていようとはな。物怖じすることなく兵士たちを指揮し、戦術も一流。更には、個々の実力も一流の戦士ときた」
「ええ、それについては僕も驚きです。僕と三つ程度しか違わないのに」
「フフフ、彼らのおかげで、この町は何とか持ち堪えている。今は、だが……」
――――その日の夕方、盗賊たちはデルビヨの町から一旦引き上げていった。
アスティは傷を負った兵士たちを目にしながら、町中を歩く。
その彼女の姿は、人間の姿――耳は尖らず丸く、唇から牙は飛び出していない。これは村長リンデンより渡された変装用のバッジの効果によるもの。
彼女は自分が指揮していた兵士たちへ声をかけ、労いを伝える。
その中で、西門を預かる兵士長が声を返してきた。
「今日はみんなありがとう」
「いえ、そんな。アスティさんのおかげで今日も無事凌げました」
「ふふ、お世辞はいらないよ。私の指揮が至らないせいで、負傷者もいっぱい出てるし。死者も……」
「そんなことは! あなたがいなかったらとっくの昔に町は落ちていた。あの時、アスティさんが、アスティさんたちがいなければ――!!」
――三日前
突如として、盗賊の軍勢がデルビヨの町の前に姿を現した。
その数――実に四千!
対するデルビヨの町は、守備兵が僅か一千。
しかも、その多くはまだ若く、実戦経験の乏しい者ばかり。
それとは真逆に、敵は数においても技量においても、こちらを凌駕する猛者たち。
何故、このようなことになってしまったかというと、このデルビヨの町一体を治める領主メディウスの失策にあった。
彼は度々町を襲っていた盗賊と交渉を行うため、二千の精鋭を率いて、盗賊の頭目ジオラスとの交渉へと赴いた。
内容は一定の財を支払う代償に、今後、町を襲わないこと。街道の人々を襲わないこと。
これは領地を治める者にとって敗北を意味する屈辱的な交渉であったが、領主メディウスは神出鬼没の盗賊との消耗戦に陥るよりも、この譲歩の方が賢明だと考えた。
――だが、この交渉そのものが、頭目ジオラスの巧妙なる罠だった。
当時、領主メディウスは、ジオラスの兵力を一千から千五百と見積もっていた。
しかし実際には、ジオラスは周辺に散らばる小規模な盗賊団を束ねに束ね、その数を四千にまで膨れ上がらせていた。
そうとは知らず、まんまとおびき寄せられた領主メディウスとその精鋭二千は、四千の盗賊とジオラスの軍略により、ことごとく討ち取られてしまった。
そうして、ジオラスは勝ち誇るように領主メディウスの首を掲げ、勝ち鬨を上げつつ、デルビヨの町へ襲い掛かってきたのだ。
領主を喪い、精鋭の兵をも失った町など落とすに容易い。
そう、ジオラスは確信していたに違いない。だが、町には想定外の人物がいた。
――その人物とは、老将ガイウス。
彼は若き騎士エルダーと百の歴戦の兵を従え、国王陛下の度重なる無謀な出兵を諫めるために、偶然このデルビヨの町へ立ち寄っていた。
そこで町を取り巻く情勢を即座に察し、そのまま防衛の指揮を買って出た。
ガイウスが率いていた兵数は百と決して多くはなかったが、その全てが実戦を幾度も潜り抜けた歴戦の勇士たち。
町に残されていた兵と合わせれば、総勢は一千百――敵軍の四千に対しては圧倒的に劣勢であるが、要所要所に熟練の戦士を配置することで軍としての形は保たれる。
しかし、頭目ジオラスもまた老将ガイウスの存在を看過してはおらず、数の優勢を存分に生かし、四方を囲むように町を包囲し、四つの門すべてに攻撃を仕掛けてきた。
ガイウスが守れるのは町の二か所のみ。自身が率いる城門と、若き騎士エルダーが率いる城門。
残りの二門を守る兵士長は若く指揮も未熟。兵士もまた若く経験は浅い。
これでは町を守り切れない。
――だが、この町には、アスティ・アデル・フローラがいた!
フローラが魔法の結界を張り巡らせて一門を支える。
アスティとアデルが最後の門に立ち塞がり、剣と気迫でもって敵勢を防いだ。
三人もまた、若い兵士たちと同様に未熟であることに違いはない。
戦の場においては初陣であったし、味方の兵たちと比しても年若く、鍛錬も途上。
しかし、レナンセラにて……ジャレッドとヤーロゥから鍛え上げられ、その教えを余すことなく己の身に刻んできた三人は、初の実戦であっても動じることなく、迷いなく剣を取り、指揮を執り、戦場に身を投じた。
その姿を目にした兵士たちは奮い立つ――最初は戸惑っていた者たちも、次第に少年少女である彼女たちを頼り、尊敬し、指示によく従い、力を合わせて抗戦の意志を固めていった。
老将ガイウス、若き騎士エルダー。二人に続く、若き戦士――アスティニア、アデル、フローラ。
この五名の決断と行動が、町の命運を繋ぎ止めている。
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