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第三章
指名依頼
しおりを挟む「メセナのギルド長を務めているザカリーと申します。こちらはうちの職員でベテラン受付嬢のイリーナ」
応接室にやってきたギルド長は、緊張した様子で頭を下げて名乗り、後ろに立つイリーナも紹介した。
アリシアは、座ったまま無表情で二人に返す。
「ザカリー、イリーナ、よろしく。私達は、最近冒険者登録したばかりの新人冒険者、ヴォルフとアリシアだ」
「はい。えーと、皇帝陛下と女王陛下ですよね」
その彼女に、恐る恐るといったふうに、ザカリーは確認した。
それにヴォルフが反応する。
「ザカリー、新人冒険者だと言ったはずだが?」
「……失礼しました。ところで、当ギルドには一体どのようなご用件で?」
ああ、成る程。そういう体で対応しろということらしい。ザカリーはさっさと切り替えた。
「私に指名依頼が出ている筈なんだけど、依頼受付をしたい」
「ああ、そう言うお話でしたね。申し訳ありませんでした。冒険者カードをもう一度お願い出来ますか?」
そうだった。二人が受付に現れた理由はこれだった、と今更ながらにイリーナが思い出す。
彼女はアリシアに申し訳なさそうに願い出た。
「はい、これ」
「お預かりします。ちょっとお待ち下さい」
イリーナは、冒険者カードを依頼確認用の魔道具に置いて、指名依頼番号を確認し、一旦退室すると番号が書かれた封書を持ってきて、二人に手渡した。
「依頼はこちらになりますね。このまま確認されて、受諾するか決めますか?」
「そうだね」
アリシアが受け取り、イリーナと番号を確認してから封を切る。
そして、中の書類を取り出して、一通り目を通した。
「ヴォルフも確認して?」
アリシアから手渡された書類を、ヴォルフもざっと読むと、アリシアに返した。
「ああ、問題ないな」
頷いて受け取ったアリシアが、今度はザカリーとイリーナに向き直る。
「では、この依頼を「紫紅」のパーティーが受ける。契約をお願い」
そう言って、書類をイリーナに手渡した。
「はい、では当方も確認致します…………え?」
「おい、これは…………我々が見ても大丈夫なのか?」
ギルドの二人が書類を見ながら、同時に声を上げた。
ベルハルトに流通している帝国北部産の魔鉱石の質の低下の原因調査と、旧メッシーナ暗部の残党と思われる地下組織の不穏な動きの調査とある。
提示されている報酬も法外だった。
「依頼内容は機密事項だ。ギルド長なら当然守秘義務についてはよくわかっているだろう?」
見せてから言うなよ!とザカリーとイリーナは同時に思ったが、口には出せない。
おそらく、この情報が外部に漏れれば、自分達も組織の間者だと疑われかねない。ザカリーもイリーナも誓って公正な冒険者ギルドの職員である。身の潔白の証明は、今後の自分達の行動にかかっていた。
だが、これだけは言っておかなければ、とザカリーは口を開く。
「それはもちろん。だが、陛下の御身の危険を伴います」
帝国の皇帝の身の安全を気に掛ける言葉だった。
その言葉に、ヴォルフは小さく笑って、アリシアの頭に軽く手を乗せた。
「そのあたりは問題ない。そのための変装と、こいつがいる。期限があるわけでも無いし、のんびりやるさ。ただ、期間中の協力を頼むことはあるだろう」
「…………承知しました。手続き致します」
ザカリーは、二人の関係が若干気になりつつも、了承の返事を返した。
するとさり気なくヴォルフの手をどかしたアリシアが、イリーナに向かって尋ねる。
「あ、あとこの依頼中も、他の依頼を並行で受けることは出来る?」
「もちろん可能です。通常の依頼は、1階の依頼用掲示板に貼り出してありますので、ご自由にお選びください」
イリーナはアリシアに丁寧に答えた。
それを聞いたヴォルフは、
「それと、今日のような特別対応は今後控えて欲しい。あまり目立ちたくない。その言葉遣いもな」
とギルドの二人に釘をさした。
「承知しました……しかし、アンタたち、既にその容姿だけでずいぶんと目立ってるぜ?」
ザカリーが、はあ~と息をついてから、言葉を崩して答える。
「と言われても、こればっかりは、な」
ヴォルフはそう言って、アリシアを見た。アリシアもヴォルフを見て、う~んと首を傾げる。
「美人は三日で飽きるって、誰かが言ってた」
「お前、それ意味が違う」
「そう?」
二人のやり取りを聞いていたイリーナが、小さく吹き出した。そして、
「可能な限り対応しますわ。出来れば窓口は、私を通してもらえれば」
とにこやかに申し出た。
「イリーナ、礼を言う。そうさせてもらおう」
ヴォルフは用は済んだとばかりに立ち上がり、アリシアを伴って、応接室を出て行った。
1階に降りてきた二人は、アリシアの希望通り食堂で軽食を取ることにした。
カウンターの他に、4人がけの丸い円卓がいくつか点在しているので、そのうちの1つに二人並んで腰掛ける。
給仕がやってきたので、アリシアは本日のスープであるサーモンクリームスープとパンを、ヴォルフはここのお勧めを尋ねて注文した。
「美味いか?」
スープを掬って食べているアリシアは、無表情だ。
好きな物を食べているときは割と表情が変わるのに珍しいな、とヴォルフはアリシアに尋ねた。
「う~ん、どうだろ。ちょっと味が濃い」
どうやら、少々お気に召さなかったらしい。
「まあ、冒険者ギルドの食堂だからな」
今まで彼女が食べていた、王都や皇都の有名店や城で出される料理と比較するのは、あまりに気の毒だ。
「ヴォルフのは? お勧めって言ってた」
「そこそこ、だぞ? 酒が欲しくなるな」
二人がそんな会話をしていると、円卓の前に一人の男が立った。焦げ茶の髪をしたヴォルフと同年代の快活そうな男性だ。
「お前達、ここでの食事は酒のアテだ。水飲みながら食うもんじゃない。一杯奢るぜ?…………アイクだ」
そう言って、三人分のエールを給仕に注文した。すぐに運ばれてきたエールをそれぞれの手に持ち、ジョッキを合わせる。
「どうも。ヴォルフだ。こっちはアリシア」
「……どうも」
ヴォルフはアイクに応えて、アリシアを紹介した。アリシアは一言小さく言い、軽く目礼する。
アイクは二人を前に、明るく笑って言った。
「エライ美女と男前が来てるって評判だったんだぜ? メセナは初めてか?」
「こいつは初めてだな。俺は昔来たことがある」
「そうか。で、アンタ達はパーティーかい? 兄妹とか?」
好奇心を隠すことなくそう聞いたアイクに、ヴォルフはアリシアをチラリと見て、片方の口角を上げた。
「……兄妹に見えるか?」
ヴォルフがアリシアの頬にかかる髪を右手で掬い上げ、愛しげに唇を落とし、横目でアイクを流し見る。
その色気に充てられたように、アイクは言葉を詰まらせた。
「うっ……いや、失礼。悪かったな。あそこの連中が滅茶苦茶気にしててな。お詫びに聞きたいことがあれば、答えるぜ。これでもB級冒険者だ」
決まり悪そうにそう言ったアイクに、ヴォルフは表情を緩め首を軽く横に振る。その右手でスルリとアリシアの頬を一撫でしてから、エールに手を伸ばした。
「気にするな、コイツに余計なちょっかいを掛けられなければ、それでいい。じゃあ聞くが、魔鉱石関連で美味い依頼があるらしいな?」
ヴォルフはカマを掛けてみる。
「ああ、メセナに来たのはそれが目的か? 最近いい鉱脈が見つかって、景気がいい依頼が出てるからな」
「ほう?」
どうやら早速アタリを引いたらしい。ヴォルフの視線が興味深げに、細まった。
アイクは続ける。
「この先のツェッタ山周囲の魔獣討伐依頼やら、護衛依頼やらがいい報酬で結構出てる。鉱夫も集められてるらしい」
「そうか」
「だが、事故も多い。魔獣もなかなか手強いらしくてな、犠牲者もそれなりだ。ま、上手い話には裏もある。アンタ達も気をつけるんだな」
「忠告どうも。覚えておこう」
「じゃあ、まあ、ゆっくりやんな。邪魔したな」
アイクはそう言って、席を立った。引き際はわきまえているらしい。
仲間のところに戻り、あの二人には下手なちょっかいはかけるなよ、などと言っている。ランクは聞かれなかったが、なんとなく彼よりも格上であることは察したようだ。
意外と勘は良いのかも、とアリシアは思う。
それにしても……
「ヴォルフすごい。エールを奢らせて、情報まで聞き出した」
「このくらいで感心されもな……」
ヴォルフは、彼を尊敬の眼差しで見上げたアリシアに、彼女に馴れ馴れしく触れたことは全く気にも留められてないらしい、と苦笑した。
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