血濡れ皇帝と最強の女王

桜野 華

文字の大きさ
25 / 54
第三章

指名依頼

しおりを挟む
 
「メセナのギルド長を務めているザカリーと申します。こちらはうちの職員でベテラン受付嬢のイリーナ」

 応接室にやってきたギルド長は、緊張した様子で頭を下げて名乗り、後ろに立つイリーナも紹介した。
 アリシアは、座ったまま無表情で二人に返す。

「ザカリー、イリーナ、よろしく。私達は、最近冒険者登録したばかりの新人冒険者、ヴォルフとアリシアだ」
 
「はい。えーと、皇帝陛下と女王陛下ですよね」

 その彼女に、恐る恐るといったふうに、ザカリーは確認した。
 それにヴォルフが反応する。

「ザカリー、新人冒険者だと言ったはずだが?」

「……失礼しました。ところで、当ギルドには一体どのようなご用件で?」

 ああ、成る程。そういう体で対応しろということらしい。ザカリーはさっさと切り替えた。

「私に指名依頼が出ている筈なんだけど、依頼受付をしたい」

「ああ、そう言うお話でしたね。申し訳ありませんでした。冒険者カードをもう一度お願い出来ますか?」

 そうだった。二人が受付に現れた理由はこれだった、と今更ながらにイリーナが思い出す。
 彼女はアリシアに申し訳なさそうに願い出た。

「はい、これ」

「お預かりします。ちょっとお待ち下さい」

 イリーナは、冒険者カードを依頼確認用の魔道具に置いて、指名依頼番号を確認し、一旦退室すると番号が書かれた封書を持ってきて、二人に手渡した。

「依頼はこちらになりますね。このまま確認されて、受諾するか決めますか?」

「そうだね」

 アリシアが受け取り、イリーナと番号を確認してから封を切る。
 そして、中の書類を取り出して、一通り目を通した。

「ヴォルフも確認して?」

 アリシアから手渡された書類を、ヴォルフもざっと読むと、アリシアに返した。

「ああ、問題ないな」

 頷いて受け取ったアリシアが、今度はザカリーとイリーナに向き直る。

「では、この依頼を「紫紅」のパーティーが受ける。契約をお願い」

 そう言って、書類をイリーナに手渡した。

「はい、では当方も確認致します…………え?」

「おい、これは…………我々が見ても大丈夫なのか?」

 ギルドの二人が書類を見ながら、同時に声を上げた。
 ベルハルトに流通している帝国北部産の魔鉱石の質の低下の原因調査と、旧メッシーナ暗部の残党と思われる地下組織の不穏な動きの調査とある。
 提示されている報酬も法外だった。

「依頼内容は機密事項だ。ギルド長なら当然守秘義務についてはよくわかっているだろう?」

 見せてから言うなよ!とザカリーとイリーナは同時に思ったが、口には出せない。
 おそらく、この情報が外部に漏れれば、自分達も組織の間者だと疑われかねない。ザカリーもイリーナも誓って公正な冒険者ギルドの職員である。身の潔白の証明は、今後の自分達の行動にかかっていた。
 だが、これだけは言っておかなければ、とザカリーは口を開く。

「それはもちろん。だが、陛下の御身の危険を伴います」

 帝国の皇帝の身の安全を気に掛ける言葉だった。
 その言葉に、ヴォルフは小さく笑って、アリシアの頭に軽く手を乗せた。

「そのあたりは問題ない。そのための変装と、こいつがいる。期限があるわけでも無いし、のんびりやるさ。ただ、期間中の協力を頼むことはあるだろう」

「…………承知しました。手続き致します」

 ザカリーは、二人の関係が若干気になりつつも、了承の返事を返した。
 するとさり気なくヴォルフの手をどかしたアリシアが、イリーナに向かって尋ねる。

「あ、あとこの依頼中も、他の依頼を並行で受けることは出来る?」

「もちろん可能です。通常の依頼は、1階の依頼用掲示板に貼り出してありますので、ご自由にお選びください」

 イリーナはアリシアに丁寧に答えた。
 それを聞いたヴォルフは、

「それと、今日のような特別対応は今後控えて欲しい。あまり目立ちたくない。その言葉遣いもな」

 とギルドの二人に釘をさした。

「承知しました……しかし、アンタたち、既にその容姿だけでずいぶんと目立ってるぜ?」

 ザカリーが、はあ~と息をついてから、言葉を崩して答える。

「と言われても、こればっかりは、な」

 ヴォルフはそう言って、アリシアを見た。アリシアもヴォルフを見て、う~んと首を傾げる。

「美人は三日で飽きるって、誰かが言ってた」

「お前、それ意味が違う」

「そう?」

 二人のやり取りを聞いていたイリーナが、小さく吹き出した。そして、

「可能な限り対応しますわ。出来れば窓口は、私を通してもらえれば」

 とにこやかに申し出た。

「イリーナ、礼を言う。そうさせてもらおう」

 ヴォルフは用は済んだとばかりに立ち上がり、アリシアを伴って、応接室を出て行った。




 1階に降りてきた二人は、アリシアの希望通り食堂で軽食を取ることにした。
 カウンターの他に、4人がけの丸い円卓がいくつか点在しているので、そのうちの1つに二人並んで腰掛ける。
 給仕がやってきたので、アリシアは本日のスープであるサーモンクリームスープとパンを、ヴォルフはここのお勧めを尋ねて注文した。

「美味いか?」

 スープを掬って食べているアリシアは、無表情だ。
 好きな物を食べているときは割と表情が変わるのに珍しいな、とヴォルフはアリシアに尋ねた。

「う~ん、どうだろ。ちょっと味が濃い」

 どうやら、少々お気に召さなかったらしい。

「まあ、冒険者ギルドの食堂だからな」

 今まで彼女が食べていた、王都や皇都の有名店や城で出される料理と比較するのは、あまりに気の毒だ。

「ヴォルフのは? お勧めって言ってた」

「そこそこ、だぞ? 酒が欲しくなるな」

 二人がそんな会話をしていると、円卓の前に一人の男が立った。焦げ茶の髪をしたヴォルフと同年代の快活そうな男性だ。

「お前達、ここでの食事は酒のアテだ。水飲みながら食うもんじゃない。一杯奢るぜ?…………アイクだ」

 そう言って、三人分のエールを給仕に注文した。すぐに運ばれてきたエールをそれぞれの手に持ち、ジョッキを合わせる。

「どうも。ヴォルフだ。こっちはアリシア」

「……どうも」

 ヴォルフはアイクに応えて、アリシアを紹介した。アリシアは一言小さく言い、軽く目礼する。
 アイクは二人を前に、明るく笑って言った。

「エライ美女と男前が来てるって評判だったんだぜ? メセナは初めてか?」

「こいつは初めてだな。俺は昔来たことがある」

「そうか。で、アンタ達はパーティーかい? 兄妹とか?」

 好奇心を隠すことなくそう聞いたアイクに、ヴォルフはアリシアをチラリと見て、片方の口角を上げた。

「……兄妹に見えるか?」

 ヴォルフがアリシアの頬にかかる髪を右手で掬い上げ、愛しげに唇を落とし、横目でアイクを流し見る。
 その色気に充てられたように、アイクは言葉を詰まらせた。

「うっ……いや、失礼。悪かったな。あそこの連中が滅茶苦茶気にしててな。お詫びに聞きたいことがあれば、答えるぜ。これでもB級冒険者だ」

 決まり悪そうにそう言ったアイクに、ヴォルフは表情を緩め首を軽く横に振る。その右手でスルリとアリシアの頬を一撫でしてから、エールに手を伸ばした。

「気にするな、コイツに余計なちょっかいを掛けられなければ、それでいい。じゃあ聞くが、魔鉱石関連で美味い依頼があるらしいな?」

 ヴォルフはカマを掛けてみる。

「ああ、メセナに来たのはそれが目的か? 最近いい鉱脈が見つかって、景気がいい依頼が出てるからな」

「ほう?」

 どうやら早速アタリを引いたらしい。ヴォルフの視線が興味深げに、細まった。
 アイクは続ける。

「この先のツェッタ山周囲の魔獣討伐依頼やら、護衛依頼やらがいい報酬で結構出てる。鉱夫も集められてるらしい」

「そうか」

「だが、事故も多い。魔獣もなかなか手強いらしくてな、犠牲者もそれなりだ。ま、上手い話には裏もある。アンタ達も気をつけるんだな」

「忠告どうも。覚えておこう」

「じゃあ、まあ、ゆっくりやんな。邪魔したな」

 アイクはそう言って、席を立った。引き際はわきまえているらしい。
 仲間のところに戻り、あの二人には下手なちょっかいはかけるなよ、などと言っている。ランクは聞かれなかったが、なんとなく彼よりも格上であることは察したようだ。
 意外と勘は良いのかも、とアリシアは思う。
 それにしても……

「ヴォルフすごい。エールを奢らせて、情報まで聞き出した」

「このくらいで感心されもな……」

 ヴォルフは、彼を尊敬の眼差しで見上げたアリシアに、彼女に馴れ馴れしく触れたことは全く気にも留められてないらしい、と苦笑した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

枯れ専令嬢、喜び勇んで老紳士に後妻として嫁いだら、待っていたのは二十歳の青年でした。なんでだ~⁉

狭山ひびき
恋愛
ある日、イアナ・アントネッラは父親に言われた。 「来月、フェルナンド・ステファーニ公爵に嫁いでもらう」と。 フェルナンド・ステファーニ公爵は御年六十二歳。息子が一人いるが三十年ほど前に妻を亡くしてからは独り身だ。 対してイアナは二十歳。さすがに年齢が離れすぎているが、父はもっともらしい顔で続けた。 「ジョルジアナが慰謝料を請求された。ステファーニ公爵に嫁げば支度金としてまとまった金が入る。これは当主である私の決定だ」 聞けば、妹のジョルジアナは既婚者と不倫して相手の妻から巨額の慰謝料を請求されたらしい。 「お前のような年頃の娘らしくない人間にはちょうどいい縁談だろう。向こうはどうやらステファーニ公爵の介護要員が欲しいようだからな。お前にはぴったりだ」 そう言って父はステファーニ公爵の肖像画を差し出した。この縁談は公爵自身ではなく息子が持ちかけてきたものらしい。 イオナはその肖像画を見た瞬間、ぴしゃーんと雷に打たれたような衝撃を受けた。 ロマンスグレーの老紳士。なんて素敵なのかしら‼ そう、前世で六十歳まで生きたイオナにとって、若い男は眼中にない。イオナは枯れ専なのだ! イオナは傷つくと思っていた両親たちの思惑とは裏腹に、喜び勇んでステファーニ公爵家に向かった。 しかし……。 「え? ロマンスグレーの紳士はどこ⁉」 そこでイオナを待ち受けていたのは、どこからどう見ても二十歳くらいにしか見えない年若い紳士だったのだ。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している 【完結】

日下奈緒
恋愛
王家に仕える騎士の妹・リリアーナは、冷徹と噂される第3皇子アシュレイに密かに想いを寄せていた。戦の前夜、命を懸けた一戦を前に、彼のもとを訪ね純潔を捧げる。勝利の凱旋後も、皇子は毎夜彼女を呼び続け、やがてリリアーナは身籠る。正妃に拒まれていた皇子は離縁を決意し、すべてを捨ててリリアーナを正式な妃として迎える——これは、禁じられた愛が真実の絆へと変わる、激甘ロマンス。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

処理中です...