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第一章

8-3 エドワードとマリアンヌ

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「…なんてことがあったんだよ。僕の気持ちが分かる?ディアがいなかったからこんなことになったんだよ!?」

婚約パーティの翌日。
僕は昨日の不満をクローディアにぶちまけていた。

「えぇ、もちろん分かりますわ。マリアンヌ様とは仲良くできそうですもの」
「…え?なんで?おかしいじゃん?!」
「あら、おかしくありませんわ?お兄様、本当に自覚がありませんの?」
「え?なんの自覚?」
「ふふっ、では秘密にしておきますわ。その方がマリアンヌ様に喜ばれそうですもの」
「だからなんでだよ?!マリアンヌ嬢は悪役令嬢なんだよ?なんでディアと仲良くなれるわけ?!」
「お兄様、マリアンヌ様はわたくしがエドワード様を攻略しようとするから、敵対関係にあったのでしょう?でしたら、わたくしがエドワード様に興味がないという態度を貫けば、敵対関係にはなりえませんわ?」
「……たしかに?」

今日は午後にエドワードとマリアンヌが、クローディアのお見舞いと称して伯爵邸にくる約束になっている。
クローディアがパーティですぐに帰ってしまった為、全く交流が出来なかったからという理由ではあったが、僕としては不安でしかない。

今のところ、凛としたクローディアを見れていないので、エドワードとの出会いイベントは中途半端なものになっているはずだ。
出会えてはいるものの、マリアンヌとの諍いも起きていないわけで…。
一体…どうなることやら。
でもまぁ、アグニのように仲良く出来るのなら、確かにその方が良いのだろう。



「クライヴ、今日は私と魔法の試合をしてくれないか?マリアンヌに君の武勇伝を聞いていてね。ぜひ手合わせしてみたいと思っていたのだ」
「……魔法…ですか?」

…予想外すぎる。
我が家に来てくれたエドワードたちを出迎えた僕に開口一番に放たれた言葉だった。
いや、お見舞いはどうした?

「そうだ、嫌とは言わないよな?」
「………」

相手は侯爵家の次男。
嫌とは言えないが、ケガをさせるわけにもいかない。
とりあえず愛想笑いで誤魔化して、クローディアに助けを求めてみる。

「まぁ、素敵!ぜひ、見学させてくださいまし!お兄様、応援していますわ!」

…いや、待って?!
マリアンヌの語ってる武勇伝って、元々はクローディアの武勇伝のことだよね?!

「あら、クローディア様がクライヴ様を応援するのであれば、わたくしは当然エドワード様を応援しなくてはいけませんね?ふふっ」
「ありがとう、マリアンヌ。君に勝利を捧げると誓うよ」

僕の了承の返事も待たずにマリアンヌをエスコートして、さっさと庭に移動しようとするエドワード。

いやいや…待て待て待てぇい!
エドワード、お前、そんなキャラじゃないだろ!
何言ってんだ?!

「お兄様はもちろん、わたくしの為に勝利してくださいますわよね?」
「ディ、ア…?!」

頼むから、黙っていてくれ。
これ以上ハードルを上げるんじゃない。

(あら、本当に自信がありませんの?わたくしは余裕だと思いますわ?だって、お兄様はなんだかんだ、わたくしと対等に渡り合えるではありませんか?)
(ディアが手加減してくれてるからだろ!しかも、相手はエドワード様だぞ?!反撃もしたくないよ!)
(…まぁ、負けても悔しくないと仰るなら、それでも良いのでありませんか?)
(………)

そう言われると何も出来ずにただ負けるのは悔しい…。
クローディアとの手合わせでも、間違っても怪我なんてさせられせないので、細心の注意を払っているのだ。
エドワードにもそのように対応すればいける…のか?


仕方なしに庭に向かうと、ラルの指示でお茶の準備がされている最中だった。
元々応接室に用意していたお茶やお菓子一式を、メイドたちが総動員でテラス席へ運んでくれたようだ。
準備はすぐに済み、マリアンヌとクローディアが席に着く。

「それでは早速始めようか?」
「……ルールを決めましょうか!」
「ふむ、それもそうだな、大ケガをさせてしまっては申し訳ないしな。では、先に降参した方が負けということで」
「え?それは当然として…ルールではないと思います」
「ふむ、そうか…?難しいな。あとはそなたが決めてくれ」
「ふふっ、エドワード様はあまり難しいことは得意ではないのです」

マリアンヌの言葉に絶句する。
え?…そんな難しい話してたっけ?!

「はぁ、そうですね…。では、攻撃は魔法に限定。対象はそれぞれに見立てた人形。先にその人形を破壊した方が勝ち…というのはどうでしょうか?」
「…私としては、もう少しやる気を出してもらえると嬉しいのだが…仕方ないな。ではクローディア嬢を賭けて勝負しよう」

なにが…では、なのだろう?

「え?何故…クローディアを、賭けるのですか?」
「実は、わたくしたちクローディア様がとっても気になってまして…ですから数日我が家でお預かり出来ないかと、わたくしがエドワード様にお願いしましたの」

…何言ってんだ?ほんとに何言ってんだ?!

「少しはやる気が出たかい?」
「やる気も何も…クローディアをどうするつもりですか」

少し声音が低くなってしまったが、大目に見て欲しい。
大切なクローディアを危険な目に遭わせるわけにはいかないのだから。

「あら、それは我が家へ来てからのお楽しみですわ…?そうですね…では、クライヴ様が勝ちましたら、クローディア様の望む物を何でもプレゼント致しますわ」
「まぁ、素敵!わたくしは構いませんよ?お兄様」
「………ちなみに、僕が行くという選択肢は…?」

クローディアの言う通り、学園も始まっていない今、エドワードルートにも進んでいないのだからマリアンヌと仲良く出来る可能性はある。
でも、クローディアと関わりのない二人がクローディアを連れて帰ってどうするんだ?
痛めつけられない可能性だって0じゃないのに、そんな賭けなんてできない。

「ならん。賞品が君自身では、本気を出さぬだろう?」
「………わ、かりました…」

つまり本気でかかってこいという発破か…。
僕の性格をよく分かっている。


「では、僭越ながら…賞品であるわたくしが審判をさせていただきますわ。もし危険行為があれば遠慮なく止めさせていただきますので、悪しからず…お二方、準備はよろしいでしょうか?」
「あぁ」
「…いつでも」

10メートル程離れた位置に向かい合う形で立ち、お互いの少し手前に土人形を作り上げる。
これを先に破壊した方が勝ちだ。
エドワードは元々魔法が得意ではない。
魔力不足を補う為に、武術を磨き騎士団を目指していたのだから。

(となれば…きっと適正の高い土属性で攻めてくるはず)

クローディアの合図で、一斉に魔法を発動させる。

「ロックウォール!」
「トルネード!」

エドワードは土魔法で分厚い土の壁を作り、人形を隠す。
対して、僕の風魔法は竜巻。三つの小さな竜巻がエドワードの土壁をえぐって巻き上げていく。

「ストーンブラスト!」

だが、エドワードは僕の巻き上げた土つぶてを利用して、上空から石つぶての雨を降らせようとしてきた。

「ファイヤネード!」

そこで、竜巻に火属性を追加付与することで、威力が倍増しているファイヤネードを起こし、僕の上空にあった石つぶてを消し炭にする。

「ほぉ、やるな…アイスランス!」

しかしエドワードの放った氷の槍は、ファイヤネードに触れた瞬間蒸発してしまう。
そして僕は…

「…アグニス」

竜巻を解除し、その炎で火のドラゴン…アグニの姿を真似たものを作り上げた。
アグニを思い出しながら僕が創った魔法の威力は想定以上で…
アグニスの口から放たれたファイアーボールはエドワードの土壁に隠されていた土人形までを一瞬で消し炭に変えた。

「くっ…やはり強いな」
「さすがですわ!お兄様!!」

(…咄嗟にアグニスとか言っちゃったけど、名前失敗したかなぁ…)

元々魔法は詠唱しなくても発動する。
かつて、ゲイルやクローディアがそうだったように、実戦ではほぼ無言でバンバン魔術を発動させるのが普通だ。
だが、これから通う学園で行われる試験や試合ではスキル名を告知するというルールがあり、今のような手合わせにも適応される。
なので、咄嗟にアグニスと命名してみたのだが、なかなか恥ずかしいものがある。

…アグニスは封印だな。
クローディアを賭けていたのだから勝ててよかった。
問題は…

この庭を見たハリーがまた倒れないかという点だ。



「クローディア様を手に入れられなかったのは残念ですが、なかなか素晴らしい戦いでしたわ!やはり負けられない戦いというのは素敵ですね!!クローディア様のおしゃった通りでしたわ!」
「はは…え?」
「マリアンヌ様、それは内緒の約束ですわ?ふふっ」

…クローディアが何を言ったんだ?
視線を移すと、クローディアは満足そうに微笑んでいる。
そういえば…この二人、今日初めて会ったはずなのに挨拶していないのでは…?

「よし、クライヴ、それではもう一度勝負だ!」
「………はい?!」
「魔法というのはなかなか楽しいな!魔力が多くないので乱発は出来ないこともあり今まではあまり好きではなかったのだが…これからは伸ばせるように精進しなければ。クライヴ、付き合ってくれ」

その後、僕は脳筋のエドワードに付き合い、夕暮れまで魔法を撃ち合う羽目にあった。
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