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第140話 祭りのあと
しおりを挟む俺は、テオドールとともに馬車で別宅へと向かっていた。
すでに夕闇があたりを包み始めている。
剣術大会が華々しく幕を下ろし、俺は晴れてテオドールと正式に婚約した。
俺の父親はいったいどんな気を利かせたつもりなのか、「今日くらいは二人でゆっくり過ごすといい」と、母親とシャンタルと共に、別の馬車で本宅に帰ってしまった。
――本宅では、すでに優勝祝いのスペシャルディナーが用意されていたというのに!!
そして、さっきから二人の間にはなんともむず痒い雰囲気が漂っている。
こうして二人っきりになってしまうと恥ずかしくて、さきほどからテオドールの顔をまともに見ることができない。
「そうだ、テオ……、この指輪は、君に返しておくね」
テオドールの向かいに座った俺は、左の薬指に嵌った指輪を、抜き取った。
「どうして……?」
テオドールの顔は強張り、指輪を受け取ろうとはしなかった。
俺はテオドールの手を取り、その手のひらに指輪を握らせた。
「君が俺を大切に想ってくれているように、俺も君をすごく大切に想ってる。
あのときは、俺が生きていることを君に知らせてくれたからよかったけど、これからもし俺が危険な目に遭ったとしても、
君の命を代わりに捧げてもらうのは、俺は絶対に嫌だ。
テオ、俺たちはもうこれからずっと離れない。だから、この指輪は必要ない。
もし俺に危険がせまったら、聖騎士の君がきっと助けてくれる。そして、君が困難に直面した時は、俺が君を全力で守る……だから」
「ジュール叔父様っ……!」
感極まったのか、テオドールは俺の手に何度も口づけた。
「結婚式までに、今度は俺がおそろいの指輪を用意しておくね。魔法の指輪ではなくて普通の指輪だけど……」
「叔父様、ありがとうございます。楽しみにしていますね」
テオドールの微笑みに俺は心が洗われた気がした。
そして……、
「テオ、一つ聞きたいんだけど」
俺はずっと疑問に思っていたことがあった。
「はい、なんでも」
「この指輪は身代わりの指輪なんだよね? 俺が外したあとも、テオは俺が元気でいるって、どうしてわかったの?」
俺の質問に、テオドールの顔はみるみる険しくなっていた。
――ヤバイ。こんなところで俺は、地雷を踏み抜いてしまったのかっ!?
「叔父様……」
テオドールはどこかぞっとするような柔らかい表情で、ゆっくりと俺の手の甲を撫で始めた。
「あの異国の男……、あの男はなかなかの魔法の使い手だったようです。
あの指輪が、本来の持ち主である俺の手に渡ったとき、俺だけにメッセージが伝わるように、あの男は細工をしていたのです……」
「そう、なんだ……」
――なんてメッセージだったかなんて、絶対に聞かない方がいい、気がする……、のだが……。
「『この人は俺が命をかけて守るから心配無用だ!』
あの男からのメッセージを受け取ったときの俺の絶望がわかりますか?
そして、叔父様はエディマであの男と……っ、ずっとっ!!」
「あ、あの……、テオドール。心配しなくても、ファウロスと俺は恋人なんかじゃなくて……」
「ええ、わかっています。あの男と何があったとしても、もう、今となっては、叔父様は、完全に俺のもの、ですからね……」
にっこりと笑うテオドール。
なぜだか、めちゃくちゃ怖いと感じるのは、俺の気のせい……だよねっ!?
「叔父様、少しだけ聖教会に寄ってもいいでしょうか?」
しばらくして、テオドールが切り出した。
「もちろんいいよ。でもいったい、何の用事?」
俺は顔をあげる。
黒く輝く瞳がまっすぐ俺を見つめていた。
「さっそく聖騎士を辞する手続きをしようと思いまして」
「っ!!!!」
その時の俺の驚きはいかほどなものか、おわかりだろうか?
「叔父様、ほとんど住む者のいない海辺の村を知っています、秘境と言われる山奥の集落も……、いっそのこと、国外に出てもいいですね」
うっとりと窓の外を見るテオドール。
「……」
俺の背中を嫌な汗が伝っていく。
「叔父様、俺は本当にうれしいです。これから俺は叔父様と二人っきりで……、ずっと……」
熱っぽい眼差しで、テオドールが俺の手を握ってきた。
「あの……、あのさ、テオドール!」
俺はぎゅっとテオドールの手を握り返した。
「俺、思うんだよね。こうして、俺たちは婚約して、将来も誓い合ったことだし、テオはしばらく聖騎士を続けてもいいんじゃないかな?
ほら、陛下も殿下も、国のみんなも寂しいと思うんだよね。せっかく現れた聖騎士がいなくなっちゃったりしたら!
それに、誰もいないところで二人で住むのも、もう少し先にした方がいいんじゃないかな?
だって、俺は料理もほとんどできないし、仕事もないし、いろいろと二人とも不便になると思うんだよねっ!」
へらりと笑った俺に、テオドールが剣呑な眼差しをむけた。
「叔父様……、俺は叔父様がいれば他になにもいりません。料理は俺が覚えます。仕事などしなくても蓄えはすでに十分あります。
それに……、俺は王や国民のために聖騎士になったわけではありません。
もしかして、叔父様……、俺のことを愛しているといったのは、やはり……」
「違う違う違うっ! あのね、テオ。俺は、嫉妬のあまりついあんなことを口走ってしまったけど、
黒の聖騎士になったテオのことが本当に大好きなんだ! すごくかっこいいし、その制服もほれぼれするくらい似合ってるよ。
聖騎士が俺の伴侶になるなんて、俺の誇りだし、それに……」
俺はきゅっと唇を引き結んだ。
「俺っ、テオと結婚したら、テオのことみんなに見せびらかしたいって思ってる! こんな素晴らしい人が俺の人生のパートナーなんだって!
恥ずかしい発想でごめん! でも、だから……、俺は、誰もいないところで二人で暮らすっていうのは……」
「叔父様っ!!」
テオドールが俺の隣に瞬間移動並みの速さでやってくる。
そして俺はそのままテオドールに抱きしめられた。
「俺もっ……、俺も叔父様のことをみんなに見せびらかしたいです。叔父様が選んだのはこの俺なんだって! これからは俺だけが叔父様を独り占めできるんだって!
……そう、あのにやけた銀髪の男や、取り澄ました理事長、それから例の異国の気取り屋には、特に思い知らせてやりたい……っ!!」
テオドールの背後から、なぜか突如として現れる闇のオーラ。
「ヒッ、……そ、そう、だね……」
俺がテオドールの黒髪をゆっくりと撫でてやると、それは、少しずつおさまっていった。
――国の聖騎士を守ることにはとりあえず成功した俺だったが、肝心の俺自身の未来についてはどうやら前途多難となりそうな気がしてならない……。
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