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第一章 アルミュール男爵家
第二話 私は被害者です
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誰かが呼んでいる。
「起きてくださーい。早くーー!」
耳元で騒ぐ声と、バサバサ聞こえる羽音。
「……だれ?」
「被害者ですー!」
「……だれの?」
「あなたのですよー!」
はい? 俺はまだ何もしていない気がする。
「そうそう! 目は開けてはいけませんよー! 体も動かしてはいけません! 口だけ動かしてくださいねー!」
「……なんで?」
「それはこれから説明しますー! そのために二年も早く働くことになったのですからー!」
なるほど……。だから被害者ってわけね。
「まず最初に、あなたは転生しましたー。といっても、瀕死の少年の体に乗り移って吸収してしまっただけですがー」
「えっ? 人……殺しちゃった……?」
「違いますよー? あなたが賢者を引きずり込んだとき、魔法陣の座標が消えてしまったのですー! 被害が拡大しないように、絶対死ぬ予定の頑丈な肉体を神々が選んでくださったのですー!」
「……転生は嬉しいけど、霊体でもよかったんじゃない?」
「ダメですー。そもそも魔法陣は転生の術式ではなく、人造勇者を創るための術式ですー」
「何が違うの?」
「ハズレの人間を融合させて一人にする術式ですー。今回は九十九人分の生命力や能力を、あなた一人に凝縮してしまったのですー。小さい魔法陣は、余波による能力強化ですー」
「……九十九」
「霊体が竜種の死体に入り込んでしまった場合、神々でも手に負えなくなる可能性がありましたのでー、一番基礎能力が低い人族の少年を選んだのですー。まぁそれでも十分怪物なんですけどねー」
語尾が伸びてるからか、すごく面倒くさそうにしているように感じる。
「この体の持ち主は何で瀕死だったの? 頑丈な肉体なんでしょ?」
「栄養失調ですー」
「……貧しい家の子だったのか」
「辺境ですがー、男爵家の子息ですー」
「……偏食なのかな?」
「まぁ、偏食と言えば偏食ですねー。主食は草ですからー」
「野菜でしょ? 健康的だけど、成長期なら肉も食べなきゃね」
「いいえー。草ですー。そこら辺に生えている野草ですー」
「貴族は野菜の種類が分からないんでしょ?」
「普通の貴族は料理人がいるからー、そもそも草を採って来ませんー。分かるでしょー? 冷遇されてたんですよー」
やっぱりかー……。
「さて、貴族少年のことは横に置いといてー。とりあえず、九十九人分の能力などについて説明しますねー」
「よろしく」
「……うーん、どこから話せばー……」
そんなに説明事項があるのかな?
「そうだっ! この能力はー、五歳になったときに【祝福の儀式】というものに参加することで与えられるのですー。ステータスをもらうついでなのですがー、一部能力はもらえる人ともらえない人がいますー」
「じゃあ実際のところ、九十九人分じゃないのか」
「いいえー。救済措置が作動するのでー、召喚された者はもれなくもらえますー」
「えぇ……」
「あなたの能力は召喚されたときの能力をベースにしていますのでー、儀式を受けていない現時点でもー、すでに持っていますー」
「うん? 肉体の少年は何歳なの?」
「名無しの三歳ですー」
「名無し?」
「この国の慣習ですかねー? 生存率が高くないのでー、三歳までは仮名を付けられるのですー。愛着が湧かないような名前ですねー。元の少年は三歳になった日に死んだのですー」
そりゃあー草ばっかり食べてたら死ぬでしょ……。
「さて、ステータスがあるということが分かっていただけたと思いますがー、一応儀式は受けてもらいますよー。儀式を受けない人間はいませんからー」
「了解ー!」
「では、ステータスを見ながら説明していきましょー。四角い板をイメージしながら『ステータス』と唱えてください」
「……『ステータス』」
漫画やアニメで見たことあるものをイメージして唱えると、目の前に光る板が現れた。
【名前】カルム・フォン・サーブル
【年齢】3歳
【性別】男性
【種族】魔人族
【魔量】★★★
【属性】金:混沌
【天禀】九十九神(隠蔽)
神使くん(偽装:召喚)
【結晶】=〈努力結晶〉=
行動:呼吸 歩法 体操
日常:言語 計算 信仰 作法
商用:話術
技術:家事 騎乗 性技 絶倫 解体
鍛冶 建築 服飾 複製 解錠
医術 手術 調合 按摩
芸術 占術
魔法:魔力感知 魔力操作
武術:気配察知 気配遮断
拳法 体術 合気 気功 格闘術
棒術 剣術 刀術 斧術 弓術
【称号】
【備考】肉体:天禀合成体
何コレ……。名前あるし……。
「あぁー、名前ありますねー。両親はまだ希望を持ってくれてたんですねー」
「え? 冷遇されてたんじゃ……?」
「あぁー……そこは複雑な事情がありましてー。両親からは冷遇されてませんよー。まぁ……それはおいおい。今はこの怪物ステータスですよー」
気になる……けど、目の前のコレも気になる……。
「今知っておいて欲しいことだけ説明させていただきますー。他はその都度ということで悪しからずー」
「時間かかりそうだしね。お願いしまーす」
「はいー。まず始めにー、賢者と将軍は【冥界羅漢】という冥界で仕事をしている精霊みたいな存在と契約していましたー。ですのでー、二体の冥界羅漢とも融合したことになりますー。種族が魔人族となっていますがー、当然嘘ですー。全く別の種族になったわけですー」
「じゃあ何で魔人族?」
「何らかの問題が起きたときにー、新種の人種になるとー迫害の対象になるわけですよー。魔王とかー邪神とかー。あなたは怪物級の強さだから大丈夫かもしれませんがー、子孫が不憫ということで魔人族になりましたー。あの種族はいろいろごっちゃですからねー」
「人族は純粋な人としか結婚できないってこと?」
「うーん……そうじゃなくてですねー、あなたの身体的特徴に合う種族が魔人族しかいないのですよー。主に魔眼ですねー」
「あっ! だから、目を開けるなって言ってたのかー!」
「まぁー他の種族でも持っている人はいますしー、魔眼の天禀もありますー。ですがー、確率が一番高いのが魔人族なんですー。種族の固有技能ですからねー」
魔人族の理由は分かったけど、子孫の場合は言わなければ分からないと思うんだけど? DNA鑑定とかはないんだからさ。
「ステータスの項目はー、押せば詳細が表示される部分があるのですがー、その一つが種族のところですー。ルーツが分かるのですー」
「それに何の意味が?」
「肉体の少年と融合したから分かると思いますがー、神々は双子の女神様なんですー。不貞行為は神罰対象なんですー。特に神前結婚をした者が不貞をした場合ー、最悪全ての能力の封印もありますー。神を謀った罪ですからねー。それを判別するためにー、自分の両親が表示される仕組みですー」
「……俺はどうなるのかな?」
「瀕死の重傷で苦しんだ後の覚醒は稀にあることですー。この場合はー、先祖返りで説明できますのでー、御安心くださーい」
浮気性にとっては恐ろしいシステムだな……。
「まぁ神前結婚をする者の多くは王侯貴族ですけどねー。一般人は役所に提出しておしまいかー、内縁関係ですかねー。その場合は種族しか表示されません。神前結婚者は名前まで出ますー」
「じゃあ……奥さんの同族となら浮気し放題じゃん」
「そうは問屋が卸さないのですー。教会の役割の一つが裁判所なんですー。意味分かりますー?」
「……もしかして、審理にかけることが可能?」
「そのとおりですねー。過去幾人もの人間が性器を失いましたー。もちろん、男女関係なくですよー。あぁ……恐ろしや……」
めちゃくちゃ脱線してしまったけど、神々に対して嘘はダメだということは認識できた。……あと少し怖いということも。
「さて、話を戻しますよー。次は【天禀】ですー。これが先ほど言ったもらえない人もいる能力ですー。仮にもらえても一人一つだけですー」
「はーい!」
体を動かすことは禁止されているから、声だけで質問の意志を伝える。
「どうしましたかー?」
「二つあります!」
「そうですねー。【九十九神】という方がー、元々の天禀をベースにしたものです。ちなみにー、その天禀のおかげで皇帝の洗脳を防げたんですよー」
「やっぱりそういうのをされてたのかー。みんな動かなかったもんなー」
「魔眼持ちの一族でしたからー、魔眼を使われたのでしょー。小学生に効果がなかったのは発動のタイミングに視線が合わなかったのでしょう」
「……あれ? 詳しすぎない? 小学生のことまで知ってるなんて……」
「私はあなたに道連れにされた賢者ですからねー」
「起きてくださーい。早くーー!」
耳元で騒ぐ声と、バサバサ聞こえる羽音。
「……だれ?」
「被害者ですー!」
「……だれの?」
「あなたのですよー!」
はい? 俺はまだ何もしていない気がする。
「そうそう! 目は開けてはいけませんよー! 体も動かしてはいけません! 口だけ動かしてくださいねー!」
「……なんで?」
「それはこれから説明しますー! そのために二年も早く働くことになったのですからー!」
なるほど……。だから被害者ってわけね。
「まず最初に、あなたは転生しましたー。といっても、瀕死の少年の体に乗り移って吸収してしまっただけですがー」
「えっ? 人……殺しちゃった……?」
「違いますよー? あなたが賢者を引きずり込んだとき、魔法陣の座標が消えてしまったのですー! 被害が拡大しないように、絶対死ぬ予定の頑丈な肉体を神々が選んでくださったのですー!」
「……転生は嬉しいけど、霊体でもよかったんじゃない?」
「ダメですー。そもそも魔法陣は転生の術式ではなく、人造勇者を創るための術式ですー」
「何が違うの?」
「ハズレの人間を融合させて一人にする術式ですー。今回は九十九人分の生命力や能力を、あなた一人に凝縮してしまったのですー。小さい魔法陣は、余波による能力強化ですー」
「……九十九」
「霊体が竜種の死体に入り込んでしまった場合、神々でも手に負えなくなる可能性がありましたのでー、一番基礎能力が低い人族の少年を選んだのですー。まぁそれでも十分怪物なんですけどねー」
語尾が伸びてるからか、すごく面倒くさそうにしているように感じる。
「この体の持ち主は何で瀕死だったの? 頑丈な肉体なんでしょ?」
「栄養失調ですー」
「……貧しい家の子だったのか」
「辺境ですがー、男爵家の子息ですー」
「……偏食なのかな?」
「まぁ、偏食と言えば偏食ですねー。主食は草ですからー」
「野菜でしょ? 健康的だけど、成長期なら肉も食べなきゃね」
「いいえー。草ですー。そこら辺に生えている野草ですー」
「貴族は野菜の種類が分からないんでしょ?」
「普通の貴族は料理人がいるからー、そもそも草を採って来ませんー。分かるでしょー? 冷遇されてたんですよー」
やっぱりかー……。
「さて、貴族少年のことは横に置いといてー。とりあえず、九十九人分の能力などについて説明しますねー」
「よろしく」
「……うーん、どこから話せばー……」
そんなに説明事項があるのかな?
「そうだっ! この能力はー、五歳になったときに【祝福の儀式】というものに参加することで与えられるのですー。ステータスをもらうついでなのですがー、一部能力はもらえる人ともらえない人がいますー」
「じゃあ実際のところ、九十九人分じゃないのか」
「いいえー。救済措置が作動するのでー、召喚された者はもれなくもらえますー」
「えぇ……」
「あなたの能力は召喚されたときの能力をベースにしていますのでー、儀式を受けていない現時点でもー、すでに持っていますー」
「うん? 肉体の少年は何歳なの?」
「名無しの三歳ですー」
「名無し?」
「この国の慣習ですかねー? 生存率が高くないのでー、三歳までは仮名を付けられるのですー。愛着が湧かないような名前ですねー。元の少年は三歳になった日に死んだのですー」
そりゃあー草ばっかり食べてたら死ぬでしょ……。
「さて、ステータスがあるということが分かっていただけたと思いますがー、一応儀式は受けてもらいますよー。儀式を受けない人間はいませんからー」
「了解ー!」
「では、ステータスを見ながら説明していきましょー。四角い板をイメージしながら『ステータス』と唱えてください」
「……『ステータス』」
漫画やアニメで見たことあるものをイメージして唱えると、目の前に光る板が現れた。
【名前】カルム・フォン・サーブル
【年齢】3歳
【性別】男性
【種族】魔人族
【魔量】★★★
【属性】金:混沌
【天禀】九十九神(隠蔽)
神使くん(偽装:召喚)
【結晶】=〈努力結晶〉=
行動:呼吸 歩法 体操
日常:言語 計算 信仰 作法
商用:話術
技術:家事 騎乗 性技 絶倫 解体
鍛冶 建築 服飾 複製 解錠
医術 手術 調合 按摩
芸術 占術
魔法:魔力感知 魔力操作
武術:気配察知 気配遮断
拳法 体術 合気 気功 格闘術
棒術 剣術 刀術 斧術 弓術
【称号】
【備考】肉体:天禀合成体
何コレ……。名前あるし……。
「あぁー、名前ありますねー。両親はまだ希望を持ってくれてたんですねー」
「え? 冷遇されてたんじゃ……?」
「あぁー……そこは複雑な事情がありましてー。両親からは冷遇されてませんよー。まぁ……それはおいおい。今はこの怪物ステータスですよー」
気になる……けど、目の前のコレも気になる……。
「今知っておいて欲しいことだけ説明させていただきますー。他はその都度ということで悪しからずー」
「時間かかりそうだしね。お願いしまーす」
「はいー。まず始めにー、賢者と将軍は【冥界羅漢】という冥界で仕事をしている精霊みたいな存在と契約していましたー。ですのでー、二体の冥界羅漢とも融合したことになりますー。種族が魔人族となっていますがー、当然嘘ですー。全く別の種族になったわけですー」
「じゃあ何で魔人族?」
「何らかの問題が起きたときにー、新種の人種になるとー迫害の対象になるわけですよー。魔王とかー邪神とかー。あなたは怪物級の強さだから大丈夫かもしれませんがー、子孫が不憫ということで魔人族になりましたー。あの種族はいろいろごっちゃですからねー」
「人族は純粋な人としか結婚できないってこと?」
「うーん……そうじゃなくてですねー、あなたの身体的特徴に合う種族が魔人族しかいないのですよー。主に魔眼ですねー」
「あっ! だから、目を開けるなって言ってたのかー!」
「まぁー他の種族でも持っている人はいますしー、魔眼の天禀もありますー。ですがー、確率が一番高いのが魔人族なんですー。種族の固有技能ですからねー」
魔人族の理由は分かったけど、子孫の場合は言わなければ分からないと思うんだけど? DNA鑑定とかはないんだからさ。
「ステータスの項目はー、押せば詳細が表示される部分があるのですがー、その一つが種族のところですー。ルーツが分かるのですー」
「それに何の意味が?」
「肉体の少年と融合したから分かると思いますがー、神々は双子の女神様なんですー。不貞行為は神罰対象なんですー。特に神前結婚をした者が不貞をした場合ー、最悪全ての能力の封印もありますー。神を謀った罪ですからねー。それを判別するためにー、自分の両親が表示される仕組みですー」
「……俺はどうなるのかな?」
「瀕死の重傷で苦しんだ後の覚醒は稀にあることですー。この場合はー、先祖返りで説明できますのでー、御安心くださーい」
浮気性にとっては恐ろしいシステムだな……。
「まぁ神前結婚をする者の多くは王侯貴族ですけどねー。一般人は役所に提出しておしまいかー、内縁関係ですかねー。その場合は種族しか表示されません。神前結婚者は名前まで出ますー」
「じゃあ……奥さんの同族となら浮気し放題じゃん」
「そうは問屋が卸さないのですー。教会の役割の一つが裁判所なんですー。意味分かりますー?」
「……もしかして、審理にかけることが可能?」
「そのとおりですねー。過去幾人もの人間が性器を失いましたー。もちろん、男女関係なくですよー。あぁ……恐ろしや……」
めちゃくちゃ脱線してしまったけど、神々に対して嘘はダメだということは認識できた。……あと少し怖いということも。
「さて、話を戻しますよー。次は【天禀】ですー。これが先ほど言ったもらえない人もいる能力ですー。仮にもらえても一人一つだけですー」
「はーい!」
体を動かすことは禁止されているから、声だけで質問の意志を伝える。
「どうしましたかー?」
「二つあります!」
「そうですねー。【九十九神】という方がー、元々の天禀をベースにしたものです。ちなみにー、その天禀のおかげで皇帝の洗脳を防げたんですよー」
「やっぱりそういうのをされてたのかー。みんな動かなかったもんなー」
「魔眼持ちの一族でしたからー、魔眼を使われたのでしょー。小学生に効果がなかったのは発動のタイミングに視線が合わなかったのでしょう」
「……あれ? 詳しすぎない? 小学生のことまで知ってるなんて……」
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