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第二章 シボラ商会

第二十九話 集会所

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 また来たのか? という顔を神父様にされるも、気にせず審理請求をする。

「……またか」

「何か言いました?」

「何も……」

「ところで、以前のシスターはどちらへ?」

「……異動になったよ」

「面白い冗談ですね」

「……冗談なんか言ってないぞ」

 それはなおさらおかしいな。

「カルム、何かおかしいの?」

「うん。神父様はこう見えて司教様なんだ。教区っていうところの管理官で、国に例えると領主みたいなものかな。司祭を取りまとめる役割を持つんだよ」

「代官をまとめているのと同じ?」

「そんな感じだね。辺境にはこの村しかないけどね」

「詳しいな」

「本に書いてありましたよ。その司教様が異動になることはたまにあるんだけど、司教様に裁量権がある随行員が異動になることなんて滅多にないはずだけどね」

「……だから、その滅多にがあったんだ。ほら、手続きはしておくから早く帰れ」

「お願いしまーす!」

 シスター問題は気になるが、まだ実害は出てないからいいかな。

「それじゃあ銭湯を案内するからね。あとで予備の鍵も渡すけど、取り扱いには気をつけてね」

「それは……責任重大?」

「ふふふ。ここの鍵は特殊だから大丈夫ですよ」

 メイベルが優しく諭すけど、もう少しビビらせたままでも良かったと思うよ?

 ここの鍵は魔力登録式だから、従業員専用区画はピッキングなどでは絶対に入れない。

 銭湯の構造はスーパー銭湯に似せているが、あんなにバリエーション豊富な設備はない。
 あっても普通の風呂と薬湯くらいだ。
 それとスーパー銭湯によると思うが、俺の銭湯は食堂と洗濯所の利用だけでお金は取らない。
 もちろん、食事をしたり洗剤を使用したりする場合は別途料金が発生するが、村民の集会所としても利用してもらいやすいように入場料は無料だ。

 扉を開けて入ると下駄箱があり、その次が多目的ホールを兼ねる食堂になっている。いつか券売機を設置したいと思っているが、まだない。
 食堂の端には売店エリアを設置している。まだ何も置いていないけど、近い内に俺やパシリたちが作ったものを並べようと思う。

 食堂の奥にはフロントがあり、洗濯所と風呂エリアの入口もある。
 洗濯所と風呂エリアは入口が分かれているから不正はできない。

 ただ、この位置だとめちゃくちゃ汚れた人が食堂を通ることになる。
 衛生的に問題がありそうという憂いがある。
 そこで汚い人用の裏口を作ってあり、急いで風呂に入りたい人は裏口から入って、フロントにお金を払うようにしてもらっている。

 では、今現在誰がフロントを担当しているのかというと、小遣い稼ぎをしたいガンツさんの工房員だ。
 まかないも出るし、座ってお金をもらうだけだから工房員以外にも人気のバイトになっていた。

 何より魔霊樹を使った建築物や加工品に直に触れる機会があるため、職人たちからしたら天国らしい。

「おい、カルムっ! そのぬいぐるみはどうした!?」

「新年の御祝いでもらったのではないか?」

 そういえばまだ新年祭だったな。
 銭湯が激混みのせいで気づかなかった。
 まぁ外と違って暖房のおかげで暖かいから、新年祭関係なく人気のたまり場になっているけど。

 西区の人たちは東区とは違っていい人が多いから、混んでいても揉めることなく過ごしやすい空間を保てている。
 当然、顔役のガンツさん夫婦やエルードさんがいるおかげもあるだろうけどね。

「もしかして……朝から呑んでるんですか?」

「違う。昨日からだ!」

「もっとダメでしょ!」

「いいんだよ! 新年だからなっ! それで?」

「この子はぬいぐるみではなく熊の女の子で、名前はユミルです!」

「グァ」

「――マジかっ!」

「ぬいぐるみみたいにモフモフモコモコしていますよね!」

 驚くのも無理はない。ユミルの可愛さは群を抜いているからね。

「本物の熊を……何で五歳児が背負えるんだ?」

「え? そっち!?」

「普通そっちだろっ!」

「羽根のように軽いからですよ」

「グァァァ♪」

 あぁ可愛い。

「そんなわけねぇだろ……。――で、そっちは?」

「我がシボラ商会の従業員たちです。こちらは副会長のメイベルです。隣は分家の料理長兼銭湯の食堂担当のディーノです」

「ふーん……。商会を作ったのか。じゃあここも登録してきたのか?」

「……そうですね」

「看板はどうする? うちでやってもいいぞ?」

「熊の木像って作れます?」

 ガンツさんがチラリとユミルを見る。

「その子か?」

「ユミルが看板を持っていたら可愛くないですか?」

「可愛いわね」

 ガンツさんが何かを言う前に、ガンツさんの奥さんが笑顔で褒めてくれた。

「グァ」

 ユミルも嬉しかったようだ。

「うちに木像づくりが得意なヤツがいるから、そいつにその子を見せてくれ」

「分かりました」

「それで、つまみは作ってくれるのか?」

 つまみか。まだ午後三時くらいだから、昼ご飯の代わりにおやつでもと思っていたが……。

「まぁ今日は新年祭ですので、サービスということにしましょう」

「よっしゃ!」

 ディーノを連れてキッチンに行き、魔導具の使い方を簡単に説明する。

「こんな高級な設備を使わせてもらえるなんてっ!」

「家の方も同じだからね。早めに使い方を覚えてね」

 最初はさすがに放置はできない。
 道具の説明を兼ねて手伝おうと思う。
 もちろんユミルには降りてもらい、静かな仮眠室で待っててもらうことにした。

「わたしはユミルちゃんといたいんだけど……ダメ?」

「グァ♪」

「いいって。ユミルはメイベルを守ってあげるんだよ?」

「グァ!」

 ユミルは返事と同時に胸をポンッと叩く。

「ユミルちゃん、ありがとう」

 メイベルは優しくユミルを撫でた後、仮眠室へ案内して行った。
 そういえば仮眠室は従業員しか入れなかったか。
 メイベルが行ってくれて助かったな。

「何を作るんだ?」

 いつの間にかカウンターに移動してきた呑兵衛三人衆は、期待の籠もった瞳を俺に向けていた。

「今日はディーノが主役ですから、僕は分かりませんよ」

「お前も何か作るだろ?」

「簡単なものを作ろうかと。何かはできてからのお楽しみということで、これでも飲んで少し待っていてください」

 ロックグラスに球体の氷を入れ、ウイスキーを少しだけ注ぐ。

「……これは?」

「お酒です」

「見りゃあ分かる。どこで手に入れた?」

「森で拾いました」

「またそれか」

 他の二人からも熱い視線を送られ、すぐさま同じものを用意して目の前に置く。
 三人は大事そうに味わって飲み、三人それぞれ感動しているようだった。

 時間は稼げそうだったから、ディーノと一緒につまみを作る。
 ディーノは食べやすく量も用意しやすい肉串を作るそうなので、猪のバラ肉と岩塩に白胡椒を出し、下ごしらえを手伝った。

「えーと……胡椒ですか……?」

「なんで敬語になったの?」

「それほどの衝撃だから……? いいの? 無料なんだよ?」

「……森で拾ったから大丈夫」

「どこの森に行けばこんな高級品が落ちてるんだよ! しかも、こっちの塩もいつもと違うし!」

「岩塩だよ。ほのかな甘みがあって美味しいんだよ? それより串はあるの?」

「あぁ……ある。なくても雑貨屋で売ってるから大丈夫だろ」

「新年祭でもやってる?」

「雑貨屋は年中無休だ」

 コンビニみたいなものか。大変だ。

「ここも年中無休か?」

「うーん……どうだろう? 従業員が足りなくなれば休みを作るかも」

「……今でも三人だろ?」

「いいえ。一人です」

「――まさか! 俺だけっ!?」

「そうですね。引き続きスカウトをしていく予定です」

「従業員募集の貼り紙出せよ!」

「そしたらー、紐付きが山ほど寄ってくるでしょ? 一人一人面接するのが面倒です。それなら最初から少人数でスカウトしつつ雇うのと変わりません」

 マスクをした状態で話しつつ、手元はひたすら串打ちをしている。
 俺は念動でやっているから、異常な速さで串が刺さっていってると思う。

「紐付きって……」

「男爵家とは距離を置きたいので、あちら側から来られるのは困るのです。ただでさえ禁忌に触れた土地ということで、多くの諜報員が紛れ込んでるというのに……」

 最近俺の周囲をチョロチョロと嗅ぎ回る者が多く、そろそろ対処しようかなと思い始めているほどうんざりしている。

「ですから、今後の計画に影響が出ることは可能なかぎり避け、無理なら排除していく予定ですので頑張って!」

「……俺って、もしかして……すごいところに来ちゃった……?」

「…………頑張って!」

 ディーノが呆然としている間に倉庫から食材を取り出すふりをして、追加の食材を召喚する。

 呑兵衛以外の村人もいるから、肉が入ったお好み焼きでも作ろうと思ったのだ。
 最初はオムライスや卵焼きはどうかと思ったが、さすがに卵料理は面倒になりそうだったからやめた。
 代案として、お好みソースを再現できれば作れそうなということで、お好み焼きを選んだ。

「ほら、材料を切ってくれ」

「あぁ……」

 俺がやっていることを真似して下ごしらえし、お好み焼きを焼いていく。
 同時に肉串も焼き始めたのだが、ディーノは新しい料理であるお好み焼きが気になるようだ。

 肉串の匂いでも人を惹きつけていたのに、お好みソースが焼けた匂いが彼らにトドメを刺していた。

「ちょっと押すなって!」

 元々カウンターで呑んでいた呑兵衛三人衆は、群がった人たちにもみくちゃにされていた。

「全員分用意しますので、席に座ってお待ち下さい。一応順番は良い子に待っていてくれているお子さんがいる家からですよー」

 その良い子の中には、俺とメイベルのかくれんぼ仲間がいるんだけどね。
 彼らとかくれんぼを数回やったときに、かくれんぼ王になりたい俺はズルをした。その結果、【魔導監視鏡】という能力が結晶化したのだ。

 俺が一人勝ちするせいで長らくかくれんぼをしていないが。

 かくれんぼ仲間の何人かをスカウトする予定だから、近々会いに行かないとな。
 何故かこの場にいないからね。

「みなさーん、できましたよー! 熱いので気をつけてくださいねー!」

「「「神々に感謝をっ! いただきます!」」」

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