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第三章 フドゥー伯爵家

第四十七話 一罰百戒

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 突然始まった首の蜜蝋漬作り。
 食事作りとシスターの看護を理由に逃走したディーノと神父様を除いた私兵団三人が、顔を青くしながら作業していた。……奴隷達の前で。

「君たち6級冒険者なんでしょ? じゃあ盗賊討伐の試験を受けたんじゃないの?」

「……戦闘の流れで殺すのと、死体処理は全く違う」

「そうかな?」

「「「…………」」」

 奴隷たちが引いていることも【白毫眼】で捉えているのだが、あえて突っ込まない。

「……さて、瓶は隣の倉庫へ運んでー!」

「死体は?」

「元々載せていた技師の荷車に載せて持ってきてー」

「はいよ」

 ジェイドたちはやる気がなさそうにしつつも、仕事を熟していく。
 大丈夫そうだと判断してシスターの元に向かう。

「あっ! シスター、起きたんだねーー!」

「「「「…………」」」」

「えぇ。毎日お世話になってしまって申し訳ないです」

「いいんだよーー! みんな早くシスターに元気になってもらいたいと思ってるからねーー!」

「「「「…………」」」」

「まぁ! 嬉しいわ! カルムくんは相変わらず良い子ね!」

「へへへーーー!」

「「「「…………」」」」

「あれー? みんなどうしたのーー?」

「おい。その声をやめろ」

「バラムー! 酷いよー!」

 今に始まったことではないが、俺はシスターの前では猫を被っている。
 理由は、昔からママンと仲良しだからだ。
 シスターも良いところのお嬢様って言っていたから、貴族だった場合は不思議でもなんでもない。

 祝福の儀式を受けるまでの演技が今も続いているだけで、他意は少しもない。
 だから、メイベル……。怖い顔はやめて……。

「シスター、バラムが怖ーい!」

 と言って、シスターの豊満なお胸に飛び込むも、意外に動けるおっさんこと神父様が全力でガードする。
 以前は子どものやることだと見逃してくれていたのにな……。

「うわっ! 捕まっちゃった!」

「おい」

「ごめんごめん! 他意はないんだよ?」

「――カルム?」

「ど、どうしたのー? 怒ってるのかな?」

「どう見える?」

「他意はなかったんだ! 神父様が動けるか見たかっただけなんだ!」

「「……」」

「こ、これから行くところは危ないからさっ!」

「どこに行くんだ?」

「バラムと出会ったところだよ」

 神父様がチラリとバラムを見る。
 大魔王みたいなバラムと出会った場所と聞けば、真っ先に地獄を思い浮かべるかもしれないな。

「ジェイドたちも来たから早速行こうっ!」

 ◇

 再びの廃教会。
 今日は攻略ではなく、ゾンビも技能結晶が目当てだ。

 ゾンビの技能結晶は【不屈】。
 精神力を強化する技能結晶だ。

「死体の使い方は分かるかな?」

「……猫は脱いだのか?」

「眠っているだけです。神父様と同じくギャップだよ。ギャップがあればおっさんでも美人のシスターが一緒にいてくれるんだよ? ジェイドもギャップを大切にしていこう!」

「カルム?」

「なんでもありませんよー!」

 ユミル、早く起きてメイベルを宥めてくれ。

「グァーーー」

 絶賛爆睡中のユミルをメイベルに押しつけることで、強制的に鎮静化させている。

「死体はゾンビ戦の盾に使ってもらいます。死体の処理もできて身も守れる。最高だね!」

「「「「「…………」」」」」

「お前はやらないのか?」

 私兵団の代わりに神父様が聞いてきた。

「えー! 僕ー? 目が見えないから危ないよー!」

「おい。無駄なことはやめろ」

「盲目とは言ってないよ? 弱視だよ?」

 シスター以外は全員知っているが、わざわざ言うことでもないからなぁ。

「とにかく今回は僕はやらない。訓練の結果が出せないなら、私兵団の訓練内容を変えないとなー!」

「おいっ! 絶対に無傷で終わらせるぞ!」

「「「「おうっ!」」」」

「さぁ頑張れー!」

 まずはスケルトン。
 これは現在の仮装備でも余裕だ。

 技能結晶を拾って神父様とシスターに手渡す。

「はい。口止め料です」

「はっ? これは何だ?」

「えーと、【骨強化】の技能結晶です」

「これは彼らの物だろ!」

「え? その理屈はウチでは通らないので気にしなくていいですよ?」

「――君たちはいいのか!?」

「いいっていうか……ダメだった場合のことを考えられないっていうか……」

「オイラたち前回何もしてないのにもらっただ」

「ダメだった場合、どうやって返してもらおうかな!」

 からかっただけなのだが、絶望の表情で俺を見るジェイドたち。

「オレたちのことを思うなら早く使ってくれ! そして先に進ませてくれ!」

 ジェイドは押しつけるようにして神父様に技能結晶を渡す。

「そ、そうか……。ではありがたく……」

 神父様とシスターが吸収するのを待って先に進む。
 途中いくつか技能結晶を落とすも全て同じだから、全員で割って吸収していった。

「メイベルの嫌いな階層に来たよーー!」

「何で鼻声なの?」

「臭いから」

「グァ……」

 ユミルもあまりの臭さに目を覚ます。

「さぁ! ゾンビ戦だよ! 頑張ってっ!」

「浄化は使わないのか? 使えないのか?」

 神父様が浄化という楽な方法を提案してきたが、それは禁止しているからダメだ。

「浄化はダメです。ダンジョンの質が落ちますからね」

 せっかく瘴気が溜まって高位の魔物が出るというのに、弱体化したら価値が下がるだろう。

「だが……」

「たかがゾンビですよ。ねぇー? みんなー!」

「当たり前だっ!」

「ゾンビが何だ!」

「ボクたちも昨日まではゾンビだったからね!」

 アルの言うゾンビとは、バラムが使う《雷声》で倒れることを許さず強制的に起き上がらされ続けたということを指している。
 一番驚いたのは《倒れるな》という言葉で、背中と後頭部が地面につく前に止まるという曲芸ができたこと。

 ブリッジとかのレベルではなく、さらにそこから腹筋だけで起き上がるのだ。
 本人も呆然としていたから、無意識でのことなのだろう。

「僕が参加するのも面白そうだ」

「カルムはどっち側?」

「教官側かな」

「無茶なことは言うが、バラム殿よりはいいんじゃないか?」

「そうかな? 頑張っちゃおうかな!」

「「「「「ヤメロッ!」」」」」

 ゾンビを速攻で片付けた私兵団が血相を変えて戻ってきて、教官の就任を妨害する。

「ねぇカルム。ボクの希望的観測なんだけどね? カルムよりバラム教官の方が強いよね……?」

 アルの目は真剣だったが、本当のことを言うわけには――。

「僕の方が――」

「――少年の方が強いぞ。今の我では傷一つつけられないだろうな」

「おぉぉぉぉい! デタラメを言ったらいかんよ!?」

「ふむ。デタラメではないのだが?」

 周囲がシーンとなる中、一番マトモだと判断されたフルカスに視線が集まる。
 俺も期待に満ちた表情でフルカスに顔を向けた。

「バラム教官の言うとおりです」

「おぉぉぉぉい! ――うちの従者は主を立てるのが上手いなーーー! ははは!」

「「「「「「…………」」」」」」

 話を誤魔化すように技能結晶を拾って、目的の【不屈】を吸収させて帰還した。

 ◇

 怪物村に帰宅しても昼前だったため、もう少し仕事をしようと決める。

「シスターは休憩しててください」

「ありがとうございます。久しぶりに動いたから少し疲れてしまったの……」

「うん。いいんだよー! ディーノはご飯の支度ね!」

「おう! 任せろ!」

 教会の馬車でシスターを休ませ、カーティルの配下に護衛を頼む。

「オレたちは?」

「君たちは開拓作業です。この村の製塩事業が復活します。交渉した結果、成功したら専売権を、失敗したら土地を貸すという契約が結ばれました。相手は僕たちに失敗してほしいと思っているはずです」

「……相手ね」

「その相手が妨害してくる可能性があります。だから、明確な村境を示しておこうかと!」

「示しても……兵士相手に……」

「ジェイドくんとゲイルくんの二人には、特に法律について勉強してもらいたい! 私有地と知って侵入した場合は、問答無用で捕縛して良いんですよ? 『立入禁止』の立て札を無視して侵入したということは、害する気持ちがあったという何よりの証左! ということで、今回は法律の専門家をお招きしました!」

 神父様に手を向け、妨害対策の監督官兼相談役だと紹介する。
 神父様にはグレーゾーンの見極めをしてもらった上で、証人として立ち会ってもらうことにしたのだ。

「皆さん! ジークハルト司教は、現在王国の最高位神官です! 敬意を払うように!」

「「「「「…………」」」」」

 ディーノを除く私兵団と神父様からの視線が痛い。

「なぁ、最高位神官って大司教じゃなかったか?」

「ジェイドくん! 博識ですなーー! ですが、彼はクビになりました! 現在、武王国に大司教はいません!」

「「「「はっ!?」」」」

 メイベルにはママンに報告したときに一緒に説明したけど、私兵団にはまだだったからなぁ。

「よって、司教であるジークハルト司教が実質トップ!」

「他にも司教はいるから!」

「謙遜しなくていいんですよ?」

「してねぇーー!」

 この話は神官騎士の近くでしている。
 斬首作業も大司教追放も全て、神官騎士たちや諜報員を脅すことが目的だ。
 奴隷になった後も反感を持たれたままだというのは面倒だから、早めに心を折っておくことにした。

「事実上トップのジークハルト司教の好い人に手を出そうとした勇気ある人は、いったいどうなったんだろうねー?」

「……奴隷になったんだろ?」

 チラリと神官騎士たちを見るジェイド。

「違うよー! 呪いを施した人物だよー!」

「……どうなったんだ?」

「ジークハルト司教からの質問だ! 心して答えねば!」

「ムカつく……」

「反射された呪いが子爵の分まで倍増されて発動したみたいです。肌は爛れ髪が抜け落ち老化するも、寿命は変わることなく死ぬまで呪われ続ける」

「「「「「「…………」」」」」」

 あれ? メイベルも?

「さらに、天禀は没収され魔力神経も破壊されたそうです。追加で、呪いの触媒に使った魔物素材の影響で、日替わり魔物変身ショーが開催されているそうですよー! 最初はなんと! ゴブリンだったとか!」

「「「「「「…………」」」」」」

「それでは斉唱を願います! さんはいっ!」

 ――ざまぁーーーー!!!

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