巡る祝詞

瀬模 拓也

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ニエ   7歳

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神様のすみかと言うのは極楽浄土のような所かと想像しておりました。


けれども八百万芥様は山の滝側にある粗末な小屋を家だと言いました。

「こんな所に家があるなんて」

薪取りで何度か山には入っていましたが気づくことはありませんでした。

「人間は見たい物しか見ようとしないからな」

そう言って八百万芥様はあくびをします。

「あの」

恐る恐る私は口を開きました。
ずっと気になっていたことがあったのです。

「前に生け贄にされた人はどうしたのですか?」

「あーカドが立つから遠い村に置いてきた」


まるで興味なさそうに答えられましたが私は内心ほっとしました。やはり八百万芥様は人を食べる神様ではないようです。

それから私と八百万芥様の暮らしが始まりました。


小屋の隣にある畑を耕して掃除洗濯、繕い物から食事の支度まで。この辺りは村でもやってきたので手慣れたものです。

驚いたことに畑仕事は八百万芥様も一緒におやりになりました。

「食べられる分と少しだけ」

そう言って種を撒き耕します。自分たちが食べる分と少しだけ余った分はお酒や諸々に変えるのだそうです。

そして余暇というものを初めて頂きました。
その時間に八百万芥様は私に本を読ませたり碁の相手をさせたりしました。とは言え私の場合は文字から教わらなければなりませんでしたが。

それでも朝晩暖かいお食事が頂けるのは有難いことです。

毎日必死だった気がします。とにかく八百万芥様の機嫌を損ねないように気を付けていました。

けれども激昂したのは最初にあった日だけで普段の八百万芥様はあくびをしながら釣糸を垂れたり作物に水やりをしたりと怒るのも億劫と言ったようです。

「神様らしくないのですね」

一度恐れ多くもそんな事を口にしてしまったことがありました。神様は神通力のような物で何でもこなしてしまうとずっと思っていたからです。
けれど八百万芥様は相変わらずあくびをしながら「早々力を使っては有り難みがないだろう」と切り出します。

「そもそもこの畑みたいに工夫すれば手を加えられる所は幾らでもある。それをしないで唯神仏に祈るのは阿呆の極みだ」

耳の痛む言葉は流石神様でした。
そこでふと八百万芥様が首を傾げます。

「ニエは全く笑わんな」

「そうでございますか?」

「餓鬼は餓鬼らしく品なく笑ってればいいものを」

そう言えば今まで肩肘を張って笑うことなどしてこなかった。そもそも笑って「何が可笑しい」と八百万芥様の機嫌を損ねたらどうなるだろうか。

「八百万芥様も笑ってないです」

色々な考えがグルグルと周りましたが口をついて出たのは自分でも意外な言葉でした。

「そうか?」

「はい」

寝ぼけてたりあくびをしている姿ならよく見かけたが笑った姿はついぞ見たことがなかった。

「なら一緒に笑ってみるか」

「一緒にですか?」

「いくぞ、せーの」

急かされたのと緊張で口の端が上手く上がりません。八百万芥様の方を見るとてっきり美しい相貌で口を持ち上げていると思っていたのですがなんと歯を見せて両指で口を持ち上げておりました。


「クッ、アハハハハハなんだその顔は!」

「ふふふ八百万芥様こそ」

思い切り笑うとみぞおちが痛くなるのですね。八百万芥様には色々なことを教わりました。
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