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ーーー夏目の家ーーー
【03】
しおりを挟むピピピピ、ピピピピ!!
ピロン、ピロンピロン
「明楽、起きてー起きれる?」
夏目のスマホが鳴り響いたあと俺のスマホも小さい音を立てる。夏目が連絡手段ないと不便だからとスマホを渡された。
寝起きで頭が割れるような頭痛と吐き気に襲われ、夏目が俺の体を支える。時刻は7時半、9時から出勤の夏目は毎日この時間帯に起きる。だから俺も一緒に起きるが起き上がれない。
「明楽、俺の首に腕回して。
そう、上手。ゆっくり起き上がるからね」
医者なだけあってこういう症状の対処法もしっかりしている夏目は俺の体を支えながらゆっくり起き上がった。眠れないと夜中に泣き出した俺を心配してここ最近は夏目の部屋でずっと一緒に寝ている。
頭が割れそうだ、胃には何も入ってないのに吐きそう。あれ、胃液が緑で胆汁が黄色だっけ?どっちだっけ。
上半身を起こし前に倒れ込みながらゴミ袋を握りしめる。
「ぉ゛えっ、、!!」
俺が毎朝のようにはくため夏目は早く起きる。
俺のせいで夏目が
『そうよ、明楽のせいで』
吐いたもの処理を夏目が
『それなのに明楽はありがとう言ったことある?』
夏目が、夏目に迷惑だ
『夏目可哀想、義理の弟を押し付けられて感謝もされないなんて。親にさえありがとうが言えないものね』
「明楽、ゆっくり息吐いて」
言われた通りゆっくり息を吐くと頭痛は収まり、吐き気も和らいだ。
心配そうに俺の顔を覗き込んでくる夏目は俺のゴミ袋を変える。
いつもこんなんだ。朝からは吐き気と頭痛が強くて薬を飲むも薬の感覚が嫌でまた吐き戻す。胃酸で喉は腫れ、震える手先でしか夏目と会話していない。俺の手を握りしめる夏目はいつか見たテレビのワンコロと同じ表情をしていた。眉を下げ、心配気な表情で連れ去られる子供をみるワンコロの目だ。
「今日は無理そうだね。もうしばらく横になっとこうか」
夏目は俺を支え、体を横にするまで頭を撫でる。撫でられれば嬉しくなり夏目の手の安心感を求め俺は夏目の手を引き自分の頭の上にのせた。
「体温と脈拍、血圧も測るからね」
俺は両腕を布団から出し、夏目が俺の右手の人差し指にパルスオキシメーターを付け、反対の腕には体温計を差し込み血圧計を付ける。
「ちょっと頻脈かな、血圧も低いね。あー今日仕事どうしよっかな…。明楽が心配だなぁ」
「ごめん…、仕事いって、きてっ゛いいよ」
「もう、…そんな一気に話したら喉痛めるでしょ。今日はお喋りしてくれるの?」
夏目は俺のおでこに手を乗せて無造作に伸ばされた前髪をかきあげる。ひんやりとした夏目の手は冷たくずっと触っていて欲しいくらいだ。
吐き戻す生活が続き喉は荒れ、声を出すのも痛いくらい。でも、夏目に心配はされたくない。
ベッドテーブルに置いてあるメモ帳に夏目は体温、脈拍、血圧の数値と俺の今の状態を書くとそれに注意事項とやっては行けないことやらないといけないことを書き込んだ。
「俺、今日は午前中だけ仕事。だから14時には帰ってくるからそれまで友達に来てもらうね。知らない人だけど大丈夫?何かあったらすぐに電話してね」
夏目はそう言うとすぐにどこかへ電話をかけた。気軽な話し方で相手に話しかける。その態度が少し羨ましくて俺は相手を妬みたくなった。
俺は夏目のひんやりする手に自分の手を重ねて冬を味わっていた。
それから15分ちょうど経った時、インターホンが鳴り夏目は友達とやらを迎えに行った。
そして連れてきたのは真っ黒の髪をツーブロックにした男だった。薄手のコートの中には病院のユニフォームと色違いのTシャツ。この人も医者なのか・・・医者の友達は医者。だけどこの人の匂いはαそのもので初めて会う人にしかもαに世話されるのは怖い。自意識過剰かもしれないが俺は怖いんだ。
「これが夏目の大事か?俺は佐野 秀和だ。小児科医だ」
このいかにも脳外なかんじの人が小児科?子供たちにビビられてそう。夏目は「やばい、遅刻する。お昼ご飯は冷蔵庫あるからレンチンして食べてね?!」と慌てて仕事にむかった。俺はこの人とどう話していいか分からず布団の中に逃げ込むように入った。
佐野はベッドの近くに椅子を持ってくると足を組み座る。そして大きなトートバッグの中から数冊本をサイドテーブルに置いた。何かあったら呼べということだろう。本のタイトルは『問題児の取り扱い方』、『精神を安定させる方法』、『摂取障害について』と小児科の先生が読むような本ではなく夏目達が読むような本だった。そしてそれには何個か付箋がしてある。
「なにっ、読ンでるの?」
喉の調子がいいのか小声なら少し話せる。佐野は読んでるページから俺に目線を変えると「勉強のための本だ」と柔らかい雰囲気で言った。小児科に通う女の子に人気がありそうな俺様クールな感じの見た目と同じく声も低音で耳触りがいい。でも俺は夏目の柔らかくて甘えさせてくれるような声が好きだ。それに子供の目線で言葉を選んで話してくるあたりちゃんと小児科医なんだなと思った。けど俺はもう20歳だ。見た目は子供かもしれないけど、20歳だ!!
Ωはみんな少し若く見えるんだよ!!
「なんでそんなの読んでるの?小児科医でしょ」
「引き取った親戚の子の素行が悪いから参考に読んでる。」
「へーその子、ヤンチャでいいじゃん。元気ならいい」
佐野は誰かの姿を思い浮かべたのか嘲笑いをすると「暴走族から足を洗えないおバカで生意気なクソガキだ。」と続けた。聞けば佐野は遠縁が家庭崩壊を起こしそこで育った素行の悪い問題児を引き取ることになったらしい。けど朝帰りは日常で数日連絡が取れない日もあるのだとか。佐野の家に帰っても佐野と衝突することが多く困っていると。
「そういう子には愛情を注ぐのが一番だよ。愛情をどう受け止めていいのか分からないから逃げてるんじゃないの?」
「そうかもな。
喉、痛くないか?ホットレモンティーあるぞ」
俺は体を起こしたまま開けてもらったレモンティーを飲んだ。夏目以外の物を口に入れれるのはこれにコンビニのシールが貼ってあり目の前で蓋を開いてもらったからだ。
「雪也を見てると若い頃を思い出して放っておけないんだ。」
「佐野、若い頃はヤンチャだったの?」
「ぁあ、俺も夏目も暴走族上がりだ。」
?!俺は思わず飲んでいたレモンティーを吹き出し嘔吐く
あの優しい夏目が暴走族?ありえない。
「それホント?」
「夏目が頭張ってた。」
夏目はヤンチャしてたのかーなんか羨ましいな。好きなことをめいっぱい出来るのは。そう考えると夏目と佐野の地頭は凄くいいのかもしれない。暴走族上がりで医者ができるほどこの世の中甘くない、相当な努力なのだろう。
それにしてもいい話が聞けた。暴走族上がりなら夏目の威圧が使いなれてるような感じで怖いのも納得だ。夏目に怒られたら夏目の方が問題児だったじゃんと言ってみよう。夏目のことなら誰に聞いの?と慌てそうだ。
「笑えば可愛い顔できるんじゃないか。」
「俺、今笑ってた?」
久しぶりに笑った。自分で自分の顔を触ると確かに少し頬が上がっていた。
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