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---夏目と番になる---
【07】
しおりを挟む朝から体温や脈拍を測られた後、俺はむすっとしていた。だってやめてって言ってもやめてくれないしあさから腰が痛くてご機嫌最悪だ。
「もーごめんって、機嫌直して。
朝ごはんにパンケーキ多めに焼いてるから雪也にもやってね。」
そう、今日は雪也くんが来ると言うのにバカ夏目はそれを俺に秘密にしていた。目先の欲望に忠実な夏目のせいで雪也くんに会うのが恥ずかしい。
怒りの意味も込めて俺は朝から夏目を一方的に無視しているがそれでも夏目は話しかけてくる。そして俺の機嫌が悪い日に限って朝は甘いものを作ってご機嫌取りを取りに来る。
起き上がれそうにない俺をよそにベッドにふわふわのパンケーキが乗った皿を置くと仕事に出かけて行った。
「ふんっ、夏目の癖に。ケーキに罪はない」
ふわふわに焼きあがった厚さ3センチほどのパンケーキが2つ重ねられ間にはクリーム、一番上には甘い果物が乗せられていた。そして皿には少量のサラダとベーコンが乗っている。
どうせ夏目のことだから足りない栄養を考えてパンケーキの中に栄養剤が混ぜてあるはずだ。
俺は腰と壁の間に大きめのクッションをはさみ食べ始める。
ナイトテーブルに置いてある雪也くん用のパンケーキはこれでもかと苺とクリームが盛ってあり、雪也くんの趣味をよく理解していた。
自分の分のパンケーキについていたプラスチックのナイフで小さく切り分け口に入れる。ちょうどいい甘さと味に飽きないように度々違うフルーツが入っていた。夏目が考えた俺だけのためのパンケーキ
ピーンポーン!ピンポン、ピンポン!
連続で押されたインターホンは雪也くんだろう。雪也くんしかこんな押し方はしない。
俺はズキズキと痛む腰、筋肉痛で痛い足を酷使しながらインターホンまで行く。いつもなら玄関の扉を開けるがそんな元気はない。
「おはよう、体調悪いから入ってきていいよ」
『大丈夫か?俺、帰ろっか?』
「いい、そういう悪さじゃない」
ガチャと扉が開き、雪也くんは家に入ってきた。手を洗いバタバタとリビングに荷物を置くと俺の部屋に入ってくる。夏目の部屋は布団や寝具を洗濯しているため珍しく今日は自分の部屋だ。
「わぁ!!夏目さんのパンケーキ!食べていいの?!」
子供のように目を輝かせはしゃぎ雪也くんはテーブルについた。
今日の雪也くんはシンプルな真っ白のオーバーオールとフード付きのブラウスだ。雪也くんはオーバーオールが好き好きらしくこういう服ばっかで安定の外見だった。
「明楽から夏目さんの匂いしかしない。あいつら俺達のことを1ミリも考えないで抱くよな」
「やめてって言ってもやめないし、激しすぎるんだよ」
「マジそれな」
俺たちはお互いの番がこうだ、ああだ、と愚痴を零しながらその愚痴る相手が作ってくれたパンケーキを美味しく食べている。
「もういっその事、俺が秀和の上に乗っかって自分で動こうかな」
「今度から俺もそうしよ」
同じく上位αの番を持つ雪也くんと俺は夜の悩みについて考えてることが同じだった。
自分で乗っかって動くのもいいかもしれない。その方が自分のペースで安心してやれるだろう。でもあいつの事だ、下から腰を動かされて結局いつも通りになるか、ひっくり返されるかの二択だろう。そもそも乗っからせてくれないかもしれない。
そういう結論に至り俺と雪也くんは顔を見合わせる。
「だめだ、そんな事したら余計煽ることになっちまう!」
「だよねぇ。別に求めてくれるのは嬉しいし嫌じゃないけど、後遺症が酷すぎる」
俺と雪也くんはどうしようと考え、どうやっても結局結論は同じになると思い考える事を放棄した。今日は佐野と夏目の帰宅時間が同じぐらいらしく夕飯を食べて帰るらしい。
「雪也くん俺のパンケーキ食べていいよ。もう無理そう」
「もーらいっ」
雪也くんは俺のパンケーキをひょっとフォークで取ると口に入れた。雪也くんの皿にもまだパンケーキは残っているらしく少しあまり気味な生クリームにつけて食べた。
「あれ、これなんか味違う。俺の食べてみろよ」
俺は雪也くんに貰った雪也くんのケーキを1口食べた。すると本当に味が違う、雪也くんのケーキは甘ったるくて甘党な俺でもちょっと甘すぎると感じた。このケーキにクリームをたっぷり付けて食べてもどうも思わない雪也くんな相当な甘党と確信する。
「それに明楽のケーキなんか別の味がする」
「夏目の事だし栄養剤でしょ。」
俺たちはパンケーキを食べ終わると皿を重ね、ナイトテーブルに置いた。俺は夏目に『パンケーキ一枚食べた、美味しかった。ありがと』とメッセージを打ち、送信する。
雪也くんに誘われ少し前に始めたマルチができるパズルゲームを暇つぶしにしていたが、思ったよりも楽しく暇さえあればそれをしていた。お陰でシーズンの最後は滑り込みで最高ランクになりメッセージアプリに表示されるランキングでは雪也くんの次にランクが高くなっている。
メッセージアプリのランキングにはプレイ時間も遊んでいる時間帯も表示されるため最近夏目にやりすぎだと注意されたばっかりだ。
俺よりやり込んでいる雪也くんのアカウントはゲーム内のランキングでもぶっちぎりの独走で2位との差が一桁はある状態だ。そして雪也くんはそこそこの有名人になっており俺が観戦に来るプレイヤーに『なんでYUKIさんと遊んでるんですか?!俺もやりたいです』なんていう個人メッセージまで飛んでくる始末だ。
基本ソロプレイ一筋の雪也くんのデッキとパズルを解くスピードは凄まじくたまに出された枠の中のパズルが全部消える時なんかもある。
俺と雪也くんは同じベッドに寝っ転がりゴロゴロしながらダラダラとゲームをしていた。
「雪也くんとやるとソロでは絶対クリア出来ないステージも楽チン」
「俺もマルチ報酬がたーんまりで、うぃんうぃんってやつだ。」
「ふぁー・・・やばい、朝からぶっ続けてゲームしてたら眠くなっちゃった。」
俺は目を擦り高い枕に顔をうずくめる。枕の中は鳥の羽根でふわふわになってて最高に気持ちいい。
「俺も、少し眠って起きたら続きやろう」
「そうだね」
平日の真昼間から眠る俺たちはお互いに暇人だ。高校生の雪也くんは忙しいはずなのに暴力沙汰を起こして退学させられたらしい。それでルールに縛られず吹っ切れた雪也くんは日中関係なく暴れ回りとうとう手がつけられなくなり遠縁の佐野に流されたという訳だ。でも最近通信教育というやつをやらされていて成績が悪いと佐野に怒られるから頑張っていると言っていた。
「おやすみぃ、」
日中働いていらっしゃる皆様、大変すいません。俺と雪也くんは限界なのです。
俺は外から聞こえる工事音に謝った。
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