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---夏目と番になる---

【08】夏目目線

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朝からブスくれる明楽を置いて俺は仕事に出た。雪也くんも居るだろうし大丈夫だ。それに何かあったら連絡がくるはず。


「それでねぇ、なおきせんせっ、…」


俺は明楽が思ってるほど聖人君子ではない。現に今も患者の話を聞いているようで聞いていない。

明楽の時は朝から晩まで暇さえあれば、休み時間さえ居たほどだ。でもこの子は違う。目の前で泣きながら自傷をした理由を教えてくれる星川 愛莉ほしかわ あいりが鬱陶しくてたまらない。この子は病的なまでの構ってちゃんだ、見てれば分かる。誰にでも社交的に接するくせに俺の前だと緩い服を好んで身につけ胸をさらけ出す。そして俺が『そんな格好したらだめだよ、これ着てて』と白衣を被せるのを待っている。どうせ俺の診察室とこの子の部屋は隣同士でドア一つで繋がっている。だが、そのドアは緊急用で診察を一旦止めるしか選択肢がないと言うような重要な時にだけ開ける事を看護師によって許可される。

未だにわざと発情したメスに絡まれることはあるけど臭くてたまらない。初対面からいい匂いだと感じたのは明楽だけでもう既に番っている俺は雌豚の匂いに反応しないし前よりも薄く感じるようになった。街を歩いた時にすれ違う人の微かな香水の余韻適度だ。そんなくだらない事に勃つわけが無い。そんなぶら下げただけの乳より清楚に慎ましくそれでいて性的にぷっくりになるまで俺が手塩にかけて育てた明楽の乳首の方がいい。死んでもそれだけは間違わない。


「わたしねっ、人が怖いの、それでっ」


「でも自分を傷付けるのは良くないことだよ。やめてっては言わないからそうなっちゃう頻度を減らしてどうしたら解決できるか一緒に考えよう?」


俺は星川の浅い傷に手当を施す。俺はこの子が早く退院しないかとさえ思っているほどだ。明らかに質の悪い馬鹿なナースとはしたない会話を平気でして俺に抱かれたいだのなんだの妄想を喋る。たまたま『え~ナースさん酷www私も弱ったフリして夏目先生とまだ一緒にいたい~』と言ったのが聞こえた時は流石に引いた。

番が居ると分かってるくせに言い寄ってくるあたり本当にタチが悪い。

俺は休み時間に喫煙所に立ち寄る。するとそこには秀和の姿があった。秀和が働く小児科はすぐ上の階にあるためタバコを吸いに来たのだろう。


「今日もお疲れさん、また雌豚共にまとわりつかれてんだろ。メスくせぇ」


「お前もな、臭うぞ。あいつら早くどうにかしてくれそういう奴ほど上との繋がりが太くて面倒だ、今生きるのも辛い状態の患者が何人居ると思いやがる。」


俺は佐野にちょっとした愚痴を零す。事実、今日を生きるのがやっとな人たちもいる。でもだからと言って星川のようなふざけた事で居座る人間を簡単に追い出せないのも事実。

お互いに番以外の匂いがダメな人間だ。それでもまとわりついてくる雌豚は一定数いる。俺は煩わしい明楽以外の匂いをタバコと柑橘系の香水で消す。
まだ安定はしていない明楽の前に明楽以外の匂いをつけて帰ったら泣き出しそうで精神が心配だ。

雪也はそういう嫉妬とかにはドライで『くっさ、風呂いけカス』と冷たいらしいが佐野も気にしている。お互いに大変だ。


「あーうちにもそういう患者いるわ。16のガキがちび共に混ざって来てんだよ。わざわざ専門の科に紹介状を作るのがめんどくさい」


16歳で小児科はキツいな。一般的には15歳までなのに対して16歳でも佐野の所に行くのは相当のメンタルだ、ある意味尊敬する。首都圏ではΩの性被害が多発しており政府では番がいないΩとαの住む区画を分けたがっている。分けると言ってもそんなガッツリは分けたくないみたいでαが自然と集まる区画、Ωが自然と集まる区画を作りたいみたいだ。

そしてこの区画は中間ぐらいだが若干Ωよりになっているためこの病院にも自然とΩが多くなる。

時刻はそろそろ14時で昼休憩の終わりかま近かった。俺と佐野はお互い服を着替えて逆方向にある病棟に重い足取りで戻った。



「夏目せんせっ、て、私の事きらいなの?だって前ここにいた患者さんには朝から晩までいたってきいたっ…」


全く誰の入れ知恵だ。くそナース共、そういうことは絶対に言ったら行けないことだ。個人情報を言う事は明確なルールで禁止されている、その気に腐れマンコ共を処分しよう。

俺は自分の机で次の患者が入ってくるまでの短い時間でナースたちの報告書を作った。

そして次の患者は結構ギリギリを生きるΩの女の子だ。その子は外では頑張っているが診察を始めると毎回と言っていいほど震えを起こしたりしている。

俺の診察室に入るまではいい所のお嬢様という感じだが入った瞬間からは全く別の人間のようだ。2週間に一回のスケジュールで俺たちに気を使いお菓子を差し入れで持ってくる、そしてそれにはアレルギー表示を分かりやすく箇条書きし、『お世話になっております。よろしければ皆様でお食べ下さい』と丁寧な一言が添えられたメモが入っている。


「夏目先生、カウンターに差し入れを置いておりますので是非召し上がってください」 


言葉使い、所作、全てからお嬢様だと言うことが分かる。実際この子はお嬢様だ、最近投資界隈でちょこちょこ名が上がってくる父親の末の娘でαだと期待されて生まれたがΩだった事でこの区画で一人暮らしをさせられている。

中学生までは厳しくしつけられ、お辞儀の角度まで毎回安定していた。


「ありがとね、毎回美味しく頂いてるよ。きよかちゃんの持ってくるお菓子はみんなに配慮されててありがたいよ。でもお金は大切に使ってね。」


この子もこの子で問題だ。広い家で一人暮らし、今の悩みは学校でのΩ差別で実家から孕袋として扱われる事だ。それは想像以上に辛いことでこの子の状態を見ていると精神科医の視点からは今すぐ入院してくれと言いたい所。

毎回長い髪を下ろしマフラーを巻いているがチラッと縄の跡らしきものを見つけた。それについて軽く聞き医療保護入院が必要かそう出ないかを見極めている。


「私、入院はしたくないんです。家族に通っていることも秘密なのに、入院だなんて」


「でもね、きよかちゃんは俺から見るとかなり危ない状態なんだよ。次来る時まで自分を傷付けないって約束できる?」


きよかちゃんのカルテを見ながら俺はパソコンを打った。その間、きよかちゃんはずっと俯き握られた拳には涙が落ちている。











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