上 下
54 / 256
ルネサンス黎明期

第52話 ルネサンス黎明期 『エメラルドの都の伝説』

しおりを挟む
 ****

 祝宴会の大広間に戻ると、ギルガメシュさんとエンキドゥさん、それに、エンキドゥさんの奥さんらしき美しい女性が寄ってきた。

 「ジン殿! ご苦労であったな。」

 「あ、いえ。たいしたことやってないので。」



 「ジン殿。こっちは、我が妻・シャムハトだ。よろしく。シャムハト! こちらが『赤の盗賊団』討伐の最大の功労者、アシア・ジン殿だ。」

 「シャムハトでございますわ。ジン様にはお初にお目にかかります。以後、お見知りおきを……。アッチのほうでお困りならあちきに仰せくださいませ。」

 「アッチ? どっちのこと?」

 (マスター! そこはどうでもよろしいのでは?)

 (え? アイ。何のことだ?)



 「シャムハト様! ソッチのほうはワタクシがジン様にはおりますゆえ、けっこうでございます。」

 「あら? アイ様でございましたね。そう……。アイ様とジン様はそういうご関係でございますか?」

 「ええ。ワタクシはマスター・ジン様のパートナーでございます!(キリッ)」

 なんだなんだ? なんのことだ?




 「ところで、ジン殿。コタンコロ殿にも驚かされたが、あちらにいるイシカ殿とホノリ殿はものすごいゴーレムであるな。」

 ギルガメシュさんが空気を察して話題を変えてくれたようだ。

 「ああ。二人合わせて『アラハバキ』というんだ。」

 「大きさは、20ドラゴンフィート(100m)はあろうな。『法国』の守護ゴーレム『リバティ・オブ・スタチュー』の倍以上あったんじゃないか?」

 「うむ。ギルガメシュよ。君の言う通りだ。おそらくは、我がバビロンの首都キトルの『バビロンの城壁』と同じか、それより高いかも知れん。」

 「ん? 『リバティ・オブ・スタチュー』って!?」

 まさか? 自由の女神?



 「ああ。かつては古代の伝説の都市ニューヨークにあったと言われている。今は『法国』の守護ゴーレムだ。ゴーレム戦争の際、無類の強さを誇ったという。」

 「ニュ……ニューヨーク!?」

 「うむ。今はどこに存在したかも不明だが、古代に栄えた都市らしいな。」

 「へ……へぇ。つか、ゴーレムってことはその『リバティ・オブ・スタチュー』って動くの!?」

 「何言ってるんだ? ゴーレムなんだから動くのは当たり前だろう?」

 「ひえぇ……。」



 動く自由の女神像か……。すげぇな。見てみたいわ。

 「他にも世界中に巨大なゴーレムはいるがな。たしか、『ヴァン国』にも今は動くかわからんが『バーミヤン・ブッダ』があったな。」

 「バ……『バーミヤン・ブッダ』!?」

 たしか、アフガニスタンにバーミヤンの大仏というのがあったな。だが、たしか、タリバンによって破壊されたんじゃなかったか……?



 「おお!? 我が国『ヴァナランド国』に『バーミヤン・ブッダ』はたしかにあったぞ。今はもう動かないがな。」

 ヘルシングさんがタイミングよく話に参加してきた。

 「あ?たしか、ヘルシングさんは『ヴァン国』出身でしたね?」

 「そうだ。『ヴァン国』でかつて、地中から発見されたバラバラになったゴーレムを魔法で修理し、復活させたんだ。」

 「そうなんですか!?」



 「だが、大きさはジン殿のゴーレムにはかなわないだろうな。」

 (マスター! アフガニスタンにかつてあったバーミヤンの大仏は西大仏が高さ55mと東大仏が38mでございます。)

 「今はもう動かないって言いましたよね? 何かあったのですか?」

 「ああ。かつて、『法国』と『ヴァン国』は戦争したことがあってな。その際、壊れてしまったんだよ。」

 「そんなことが……。貴重な世界遺産なのに……。」



 「世界遺産……か。たしかに。言い得て妙だな。それは。世界にとってみても古代の遺産としてその価値があったな。」

 「そうですね……。はるかはるか古代の遺産……ですね。」

 「うむ。そうだな。」



 そこへ、アテナさん、グラウコーピスさん、エリクニオスさん、ニーケがやってきた。

 「ジン殿。我が『法国』の守護ゴーレム『リバティ・オブ・スタチュー』の話をしていたな?」

 「ええ。伝説のゴーレムだとか?」

 「まあな。アレは古代の叡智であるな。はるか遠くまで照らすその灯りに、何者にも縛られぬそのチカラはまさに自由そのものの守護ゴーレムだな。」



 「すごいな。見てみたいですね。」

 「おお! ジン殿ならいつでも歓迎するぞ?」

 「ありがとうございます。」



 この世界に残る元の……オレのいた世界の残滓が、なんとも物悲しさを感じる。

 「オレは、オレののぞみを叶えたい。取り戻したいんだ。たとえ世界が変わっていたとしても……。」

 「ほう。ジン殿には何か大きな夢があるみたいだな。それなら、伝説の『オズマの法使い』ならその夢、叶えてくれるかも知れないぞ?」

 エリクトニオスさんがそう言った。

 「え? 『オズマの法使い』ですか?」

 オズの魔法使いなら聞いたことがあるけど……。



 「エリクトニオスさん! それって単なる噂ですよね?」

 ニーケがそう言う。

 「いや、だが、我々『法国』の者でも、宗主国『皇国』のことはほとんど知られていないのが現状であるからな。」

 グラウコーピスさんが調子を合わせてきた。



 「たしかに。『皇国』の首都『エメラルドの都』に『オズマの法使い』と呼ばれる伝説の魔法使いがいるとは聞いている。そして、どんな願いも叶えてくれるらしい。」

 アテナさんもそう言ってくる。

 「アテナさんたちもその『皇国』に行ったことがないんですか?」

 「ああ。『皇国』は許された者以外の他国の者の出入りを厳重に禁止している。むろん、私も例外ではない。」



 「ええ!? 『皇国』って用心深いんですね。鎖国してるのか。」

 「マスター! ワタクシ、その『オズマの法使い』に会ってみたく思います。」

 「アイ。興味があるのか?」

 「ワタクシは……。その者に会って、『魂』が欲しく思います!」



 アイは少し悲しい目をしてそう言った。

 オレがミトラ砦の戦いの時、アイのことを情がないと思ったのが、伝わっていたのか―。

 「ああー! 僕もそれなら、どんな相手にも向かっていける『勇気』が欲しい!」

 ヒルコ……。いや、君は十分、どんな相手にも向って行けてると思うんだが?





 「うむ。では我ももっと慎重な賢い『脳』が欲しいであるな。」

 あら? コタンコロまで! あなた、十分、慎重で賢いっしょ!

 「イシカもこの身体に『心』が欲しいであるぞ!」

 「ホノリもこのからだに『心』が欲しいのだ!」

 ううーん。イシカもホノリも十分、心ある存在だと思うぞ……。機械らしくない! 絶対に……。



 「まあ……。オレも失くしたモノが戻ってくるなら……それは叶えたいけどね。」

 「じゃあ、いつか行けるといいな。『皇国』の『オズマの法使い』のところへ。」

 アテナさんもいい笑顔でオレたちにそう言ってくれた。



 「世界を救うような勇者は『エメラルドの都』の『ヴァルハラ宮殿』に招待されるらしい。ジン殿にはその機会もあるやもしれんな。」

 グラウコーピスさんがそう言って、そのフクロウの目でウインクしてきた。

 そこにエルフの商人チコメコアトルさんとその妹シロネンさん、あとペッコくんがやってきた。



 「おおお! ジンさん! こんなところにおったんかいな。探してたで! いやぁ。さすがうちの見込んだオトコやな。大活躍したんやってなぁ。」

 「お……おぅ。」

 「お姉ちゃん! ジンさん。すみません。うちの姉が。」

 「いや。チコメコアトルさんもシロネンさんもいろいろ助かったよ。ありがとね。」

 「何いうてんのや。当たり前やんかぁ。ジンさんには今後もうちらをご贔屓にしてほしいなぁ。」

 「あ。そう言えば、チコメコアトルさんたちの商人の名前って何ていうの?」



 「ああ。言うてへんかったかいな。妖精種族の商集団『フェアリーブック』やで。」

 「ココペリさんのところか!」

 「まあね。うちが代表やけどな。どや?」

 「へぇ……。代表はチコメコアトルさんなのか。それなら……。またゆっくり話がしたいね。商売の話で。」

 「ほお? なんかえらい儲け話のにおいがするやんか。ジンさん。その話、いっちょ聞かせてもらおか。」

 「まーた、この守銭奴はお金に目がないこと!」

 そうツッコミを入れてきたのはベッキーだった。



 「ベッキー。あんたも無事でよかったんなぁ。トムやサム、ジムは気の毒やったな。」

 「う……うん。それはね。」

 「あら? 今日は素直やな。」

 「チコメコアトル様も……今日は勘弁してあげてくださいね。」

 パックがそう言ってチコメコアトルにお辞儀をした。





 「私の『アドベンチャーズ』もメンバー募集からだな。」

 「あ! ベッキーさん。あんちゃんと私と組みませんか?」

 「え? ああ。オットちゃんか。そうかぁ。あなたたちのところもメンバーいなくなったもんね。」

 「そうだ。おれのドッコイ兄弟も力不足を痛感した。こちらからお願いしたい。」

 ウントコもそう願い出た。

 「そうですわね。お互い補充して新生『アドベンチャーズ』で再スタートしましょうか!」

 こうして、新たなパーティーができたようだ。





 こうして、なんやかんやといろんな話があり、有意義な祝宴会だったのだ―。



~続く~


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ちびヨメは氷血の辺境伯に溺愛される

BL / 連載中 24h.ポイント:46,165pt お気に入り:4,961

女神の加護はそんなにも大事ですか?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:759pt お気に入り:5,455

獣人だらけの世界に若返り転移してしまった件

BL / 連載中 24h.ポイント:20,469pt お気に入り:2,058

最推しの義兄を愛でるため、長生きします!

BL / 連載中 24h.ポイント:26,589pt お気に入り:13,182

突然の契約結婚は……楽、でした。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:142,517pt お気に入り:5,216

孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話

BL / 連載中 24h.ポイント:62,950pt お気に入り:3,804

チートなんて簡単にあげないんだから~結局チートな突貫令嬢~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:226

不実なあなたに感謝を

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:79,180pt お気に入り:3,770

処理中です...