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迷路館の戦い
第239話 迷路館の戦い『風とナイフと雷と』
しおりを挟む「知ってっかぁ? ジン……。この世界には風を操る魔法があるだろぉ? 風の正体は『大気』ってやつなんだぜ!?」
ジャック・ザ・リッパーがナイフを雨あられのようにこっちに向かって投げつけながら、質問をしてくる。
余裕の現れか……?
「ふんっ!! 『大気』がどうしたって!?」
オレは超ナノテクマシンにナイフのガードを命令しながら、やつの動きを右に左に追いかけるので精一杯だった。
「ふっふーん♪ これがその『大気』を操るレベル5の風魔法『朝風しずかに吹きて』だっ!!」
『あさかぜしずかにふきて 小鳥もめさむるとき きよけき朝よりきよく うかぶは神のおもい ゆかしき神のおもいに とけゆくわがこころは つゆけき朝のいぶきに いきづく野べの花か かがやくとこ世のあした わがたまめさむるとき この世の朝よりきよく あおぎみん神のみかお』
ジャックが呪文を唱えると、突風が吹き荒れた。
やばい!
なんだか危険な感じがする!
「サイコガード!!」
オレは超ナノテクマシンの防御シールドを張った……。
だが、ジャックがニヤリと笑う。
ジャックの巻き起こした風は大気を分け操り、真空を生んだのだ!
「うっ……!? かまいたちかっ!?」
スパスパッ
スパパッ
真空が大気の刃となり、張り巡らせたサイコガードをくぐりぬけ、オレの皮膚をちょっぴり切り裂いた。
少し血が出た。
だが、オレの身体は体内に無数の医療用超ナノテクマシンが稼働していて、多少の切り傷は簡単に治してしまうのだ。
ジャックはそれを見てすばやく動き、さらに呪文を重ねてきた。
「ふっふっふ……。それくらい防御することは読んでいる!! 喰らえ! レベル5の雷撃呪文『かみなりさま』をっ!!」
『大空一面かき曇り、そろそろ吹き出す南風、夕立來るぞ! 雷鳴るぞ! 干物(ほしもの)入れよと大騒!!』
ああ……!
あれは、一度見た魔法だ……。
あのストーンカが使った雷の呪文だ。
ジャックの前方に雷が発生した!!
その雷の電撃エネルギーが、先に唱えた呪文で起こされた真空を伝わって……。
電撃の無数の真空の刃が、縦横無尽に周囲から襲いかかってくる……。
ピカッ
ドドォオーーーーン……
これはやばいかも……?
……。
……いや……。
……ちょっと待てよ?
雷って光の速度くらいの超スピードだよな?
なぜ、それが見えてるんだ?
(マスター! ご安心を! 超光速思念通信モードに切り替わってございます。)
(あ……、なるほど。じゃあ、今、ほとんど時間が進んでいないのね?)
(Exactly(イグザクトリー)!)
(しかし、どうする?)
(はい。すでにこの程度の電撃は超ナノテクマシンの防御を絶対零度にまで極低温にし、周囲に超電導で受け流してございます。)
(お……、おぉ……。つ、つまり……?)
(超低温のシールドで電撃を防御しております。)
(なるほどな? もちろん、知っているけど念のため確認しただけだぞ?)
(さすがはマスター! 慎重なところがステキでありますわ!)
「ば……、ばかな……!? あ、……ありえない……。」
ジャックが驚きを隠せない。
「見たか!? これが科学の『絶対零度防御』だっ!!」
オレはとりあえずジャックに煽りを入れてやった。
すると、ジャックが怒りに任せて反撃を試みようとしてきた。
「い出よ……! ナイフよ!!」
そう言って、再び『武器召喚』の呪文を唱えて、ナイフ投げの嵐を決め込もうと、ヤツがナイフを後ろ手に構えようとした……。
……その瞬間-。
「この……、愚か者っ!! 畏れ多くもマスターにかすり傷でもつけたその大罪……、地獄の果まで後悔なさいっ!!」
アイがジャックを超ナノテクマシンの巨大な手『シャイニングアーム』で捕まえて……。
「爆(ば)ぜろっ!! エナジー・インプロージョン!!」
すべての超ナノテクマシーンで発生させた膨大なエネルギーをすべて爆縮し、ジャックの魔核である心臓に一気に流し込んだのだ!
「んんんんっあああーーーあっはぁああああーーーーーっんっ……!!!」
ジャック・ザ・リッパーの身体が光を放ちながら内部崩壊し、その次の瞬間……。
ドグシュワッ……
ブシュゥゥゥウウゥ……
爆発したのだ。
ジャック・ザ・リッパーが肉片の一つも残さず、蒸発してしまった。
さすがに、吸血鬼といえども、その弱点の魔核ごと蒸発させられては、生き返ることなどできないだろう。
すると……。
カノニカル・ファイブの霊体たちが、その呪文の詠唱、レベル5闇魔法『グッドナイトレイディース』を歌うのをやめた。
「みんな!! アイツが死んだわ!! 私は……、やっと自由になれるわ!」
メアリー・アン・""ポリー""・ニコルズが嬉しそうに叫んだ。
「あたしも天国に行けるのね!?」
アニー・チャップマンも喜ぶ。
「うちは……、うちは……感無量や!!」
エリザベス・""ロング・リズ""・ストライドがはしゃいでいる。
「あたしもやっと解放されたわ!」
キャサリン・""ケイト""・エドウッズも嬉しそうだ。
「あたいからも礼を言わせてもらうわ。ありがとう!」
メアリー・ジェーン・ケリーが感謝している。
彼女たちの霊魂が消えていく……。
天国……があるのかはわからないが、元の世界に帰ることができるのだろうか?
霊魂は霊子エネルギーでできている……と、アイの化学分析で結論付けられている。
次元を飛び越えて、還るべきところへ還る……。
そう、信じたい……。
「わわわ……。た、助かったぁー! 危なく『ソウルランド』に連れて行かれるところだった!」
「拙者も死ぬところでござった……。」
「私はアーリ様となら、どこへでも参ります!」
アーリくんたちも無事だったようだ。
危なかったな。
オレやアイにはまったく影響なかったが、闇の魔法はこの世界の住人達にとっては、脅威なのだ。
オレたちはジャックとの戦闘を終え、休む間もなく最奥を目指すことにした。
なにか嫌な予感がする……。
秘密結社『ジャックメイソン』のあのジャック・ザ・リッパーが単独でここに現れたとはとても思えない。
誰かがこの『トゥオネラ』の戦いに割って入ってきている……。
「アーリくん! オリン! ジロキチ! 頼んだぞ! 早く迷路のゴールを探すんだ!」
「まっかせてください! ジン様!」
「おっけーですぜ。だんな!」
「ジン様! おまかせを!」
オレたちはそうして、ついにトゥオニ王がいる最奥の大広間に辿り着いた。
そして、その重い扉を開け、中に入ると、そこには……。
そう、王の座に座っているのは、恐ろしく冷たい気を放つ黒尽くめの仮面の男であった。
その横に魔族の女性と、四枚の羽を持つ魔神、それと……黒タイツの変態? が立っている。
「おまえがトゥオニ王か!?」
オレは思わず聞いた。
なかば、この男がトゥオニ王ではないことはわかっていたにもかかわらず………だ。
「ふっふっふ……。やっと会えたな……。俺の名は、ヴァニタス……。ヴァニタス・ヴァニタートゥムだ。」
恐ろしいまでに空っぽの空虚な声で、その座していた男が答えた。
ふと、横を見るとなぜだかアイが震えていたように見えた。
もしかしたら、オレの気の所為だったかもしれないが……。
~続く~
©「あさかぜしずかにふきて」讃美歌 30番
""Still, still with Thee,
where purple morning breaketh""
Lyrics Hariet Elizabeth Stowe 1855
Music Arr. from Felix Mendelssohn
©「かみなりさま」(作詞:吉丸一昌/作曲 :永井 幸次)
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