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迷路館の戦い
第240話 迷路館の戦い『虚無の虚無ヴァニタス』
しおりを挟む座していた黒尽くめの装束に奇妙な仮面をつけたその男が立ち上がった。
オレは思わず身構えた。
緊張が走る……。
その男が着けている仮面……。
奇妙な笑いを浮かべた表情の仮面だが、どこかで見た覚えがある。
なんだっけ……?
「そうだ! アノニマスだっ! アノニマスが着けていた仮面だ!」
そう、オレは思い出した。
『アノニマス(英: Anonymous)』とは、オレの元いた世界で2003年頃に海外版の元祖2ちゃんねるである4chanで結成されたインターネット上のハクティビズム(≒積極行動主義)活動家が緩やかにつながりをもった国際的連携のことだ。
名目上、グループと関連しているウェブサイトにおいては「命令というよりもアイデアに基づいて運用されている非常に緩やかで、分散化された指揮系統をもったインターネット上の集まり」と評されていた。
英語圏の匿名画像掲示板「4chan」では投稿時に名前を入力しないと「名無し」を意味する「Anonymous」という名前が表示される。
これがアノニマスの起源だ。
誰もがアノニマスを自称することが可能であり、アノニマスを自称しているに過ぎないハッカーやクラッカーも相当数存在する可能性を考慮に入れれば、正確な定義が困難な集団であるともいえる。
主に抗議行動・DDoS攻撃・クラッキングを用いてハクティビズムに基づく政治を行う集団、またはそうした一連の活動を指すインターネットミームとも言える。
P2P規制、各国政府によるウィキリークスやアラブ騒乱に対する抑圧など、彼らが自由に対する脅威であるとみなしたものに対する大規模な攻撃を突発的に行ってきたが、アノニマスを有名にしたのは、2008年におけるサイエントロジー公式ウェブサイトへのDDoS攻撃である。
関連ウィキサイトや、Encyclopædia Dramatica、その他の多数のインターネットフォーラムが、アノニマスに関係しているという説も存在している。
「We are Anonymous. We are Legion. We do not forgive. We do not forget. Expect us.(我々はアノニマス。我々はレギオン。許さない。忘れない。待っていろ。) 」を標語として掲げる。
そして、2008年2月、ロサンゼルスにて、『アノニマス』として公の場に現れた人々は、コミックおよび映画『Vフォー・ヴェンデッタ』で有名になったガイ・フォークスの仮面を被っていたのだ。
そう、今、目の前のヴァニタスと名乗った男がつけている仮面は、まさにあの『アノニマス』が着けていたガイ・フォークスの仮面を被っていたのだ!
「おまえ……! ヴァニタス……だったか……? その仮面が何を意味しているのか知っているのか!?」
「俺をバカにしているのか!? 知らないはずなかろうなのだ! かつてこの『仮面』の象徴は『自由』を害する者への抵抗を意味していた……。そして、俺たちはその理念通り、『自由』を脅かすものへの鉄槌を与えんとここへやってきた……というわけだ。」
「ここにいた『トゥオネラ』のトゥオニ王はどうした?」
「ふん……! ヤツこそはこの地に災いを呼ぼうとせし元凶……。この俺が葬り去ってやったわ!」
(マスター! トゥオニ王の生命エネルギーを感知できません……。この者の申すとおり……、消滅しています。)
(そうか……。オレたちの目的はトゥオニ王を制するため……だったな。制することができないなら倒すしかない……と思っていた……。)
(そうですね。ですが、このヴァニタスという男が先んじてトゥオニ王を葬ってしまった……というわけですわ。)
(ああ、複雑だな……。ヴァニタス・ヴァニタートゥム……、たしかその意味は、「空の空」、「虚無の虚無」という意味だったか……?)
(イエス! マスター! ヴァニタスとはラテン語で「空虚」「むなしさ」を意味する言葉であり、地上の人生の無意味さや、虚栄のはかなさなどと深く結びついた概念でございます。ヴァニタスを語る際、旧約聖書の『コヘレトの言葉』(『伝道の書』)1章2節の有名な言葉「ヴァニタス・ヴァニタートゥム」(「空の空」、「虚無の虚無」)がよく引用されます。コヘレトは言う。なんという空しさ、なんという空しさ、すべては空しい……と。)
アイがすぐさま適切に説明をしてくれた。
ヴァニタス……、『虚空』の男か……。
そして、あの仮面は、まさか、オレの元の世界となにか関係があるのか?
「ジャックを倒してきたらしいな……。まあ、あやつはどうでも良いクズな存在……。それより! お前の名を聞こう……。」
ヴァニタスが静かに響く声で尋ねてきた。
「オレはジンだ。Sランクの冒険者パーティー『ルネサンス』のジンだ! 覚えておけ!」
「ふむ……。姓はなんという?」
え……?
オレに姓があるのを知っているのか!?
「葦亜だ! 葦亜・仁だ。なぜ、姓があることを知っているのだ?」
「なんとなく……だ。そんな気がしたのだ……。」
「そんなことより……! オマエが……。オマエごときがマスター・ジン様に逆らおうっていうの?」
アイが珍しく興奮した強い口調でヴァニタスに問う。
ヴァニタスが仮面を傾けて答えた。
「ジン……。もしも、おまえの存在がこの世界に災いを呼ぶことになったなら……。そのときは、このヴァニタス、容赦せん……!」
「なにを!?」
オレがヴァニタスのほうへ一歩詰め寄ったその瞬間ーー!
一陣の風が吹き、オレはその場から前に進むことができなかった。
「この風の魔王パズズがいる限り、それ以上ヴァニタス様に近寄らせぬわ!」
ライオンの頭と腕、ワシの脚、背中に4枚の鳥の翼とサソリの尾のパズズが前に立ちふさがった。
「まあまあ。ジンくんも別にヴァニタス様にこの状況で飛びかかってくるほどおバカさんじゃあないわよねぇ?」
そう言って全身黒タイツの男(?)が、オレに向かってウインクをしてきた。
「黒タイツよ。まあ、用心に越したことはないわ。ジンとやら? 私のステキなダーリンになにかしようとか、考えないことね?」
恐ろしくプロポーションのいいセクシーさムンムンの魔族の女性がそう言ってこちらに微笑みかける。
「そこの女! あんたはいずれ、私がその存在ごと消してやるわ! ヴァニタス様に向かってオマエ呼ばわりするだなんて……。許せないわ!」
「まあ、待て! リリン。今は時ではない……。」
「はぁーい♡ わかったわぁ♡」
リリンが牙を剥いたその顔から一瞬にして、女の顔に戻った。
「ジン……。その名は覚えたぞ。また会おう!」
ヴァニタスがそう言って、この場から去ろうという姿勢を見せた。
そして、その黒いマントをはためかせた。
すると、目の前の風景が歪み、空間が歪んでいく……。
「マスター! お下がりを! 時空が捻じ曲げられています!」
「なんだって……!?」
ヴァニタスとその仲間たちが、空間に歪んでいく。
「な! 待て! 僕たちだっているんだぞ!」
「そうでやす! 拙者らのこと忘れてやしませんか!?」
「ええーい! ジン様! やってやってくださいー!」
月氏の三人が威勢よく声をあげる。
まあ、一歩も前には出てきやしないけど……。
肝心のヴァニタスたちはその姿ごと消えてしまった。
「ちっ! 逃げられやしたね?」
「ああ。逃げ足だけは早い奴らでしたねぇ? ジン様。」
「あの魔法は伝説級のレベル8の次元魔法『星かげさやかに』でしょうか……?」
オリンはヴァニタスの消えた現象を次元魔法だという。
しかし、オレは知っていた……。
あれは、アイも使っていた次元を超えて、空間と空間をつなぐ……、そう、『ワームホール』をあのヴァニタスが開いたのだということを……。
デモ子の『異界の穴』と同じ原理、科学の深淵にせまるオーバーテクノロジーの一端なのだ。
ヴァニタス……、いったい、何者なのだろうか?
しかし、今はそんな疑問を考えている暇はない。
『トゥオネラ』の戦いはまだ続いているのだから……。
~続く~
©「星かげさやかに(一日の終わり)」 (曲/フランス曲 詞/作詞者不詳)
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