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「ふふ。お馬さんが好きなんだろ?」、社長に『SMホテル』に連れ込まれて困っています
(8)-(2)
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「電話もメッセージ送信もたくさんしたのに、反応なし。異世界人の僕は、現代日本で独りにされ寂しかった。故郷が懐かしくなってしまってね。ファウンテで、僕の意に従わない者は、捕らえられ、牢屋に入れられたり、泣き喚きながら拷問されたり、命だけは助けてほしいと処刑台から懇願する立場になったりするだろ……ね? 天王寺先輩」
私は、ぷるぷるしながら、激しく頭を横に振った。結んでいなかった茶色の髪が大きく揺れる。アリストと融合していない状態で、現代日本に戻ってきてしまった冴えないOLが、ジェネの総帥の正体を隠さない社長の前で何ができるというのだろう。
「ま……まさか、現代日本に、こんな牢屋があるなんて知りませんでした……はは……でも、社長……ここは現代日本ですよ。ボールペン百万本、今すぐ買ってこいという業務命令に騙されて、会社が用意したタクシーに乗っちゃう罠に引っかかった冴えないっぷりは忘れてあげてください。思い起こしてみると、頼んできた課長も変な顔してましたけど……そう、現代日本なんです! あれ? ここって前は妖しい建物だったのに、文房具屋さんの倉庫になったんだと考えながら、エレベーター待ちを普通にして、ビルの奥へ奥へと進んでしまいましたが……ボールペン百万本をすぐに引き渡せるぐらいたくさん保管しているから、広いスペースがほしくて文房具屋さんが建物ごと買ったのね……と呟きながらドアを開けましたが……そこに牢屋があって、閉じ込められるなんて、現代日本ではあり得ないですか……ら……ああっ!」
社長の手には鞭が握られていた。私がいるベッドの方に近づいてくる。
「現代日本のよさは大いに認めているよ。様々なカップルの要望に応える為、こんな牢屋つきのお部屋まで用意してしまうほどだからね。天王寺先輩と二人で、もっともっとデートスポットの開拓をしたいと思っているのは本当だ。何気ないショッピングセンターのキッズスペースですら、異世界人である僕の目には、今までの考えを崩されるような素晴らしいものに映ったぐらいなのだから。だが、一刻も早くファウンテに戻らなくてはならないだろ? イアリーの街周辺には、ジェネの兵が展開しているし、空中戦艦イレイサとている。僕の配下の者たちが、他を圧倒しているかもしれないぞ? ははっ。薄汚い連中がどうなっているのか気にならないかな? 天王寺先輩、物事を軽く考え、等閑に付すのはよくないよ」
鞭の棒状の柄の部分を使って顎を押しあげられ、「ううっ」と口にしてしまった。私がその反応を見せた事に満足したかのような表情を浮かべた社長は、頬を舐めてくる。
社長の膝が沈み込んで、ベッドが軋む。
「大丈夫。鞭で、天王寺先輩をいじめたりしないよ。君は、僕の大切な人だ。傷つけたりはしないが、楽しませてあげたい気持ちは強い。ごらん」
社長は、僅かに顎を動かす。示された先には、大型犬が入れそうな檻があった。
「捕虜を狭いところにしばらく閉じ込めておくと、尋問の時間を短縮できる事があるんだ。その間は何もしない。放置しておくだけ。尋問に使う道具が一つ一つ用意されていく様子を、狭い檻の中で見聞きさせてやるだけ――」
「あわわ……ああっ!」
まるで獰猛な犬のように、社長は、私の胸に噛みついてきた。犬を想像している最中だったせいか、余計にそう思えた。
事務服ベストがあって、敏感な刺激を胸に受けた訳ではないけど、急な事に驚いて倒れてしまった。斜めに倒れた私の身体をベッドが受け止めてくれるけど、シーツが揺れながら顔の皮膚にくっついてきて、よくない気分を与えてくる。
身体が激しく動いたので、手を縛られていると改めて実感させられる。
ほ、本当に……や、やばい!
「天王寺先輩を拘束しているプラスチック製手錠、現代日本のメーカーが生産しているものを選んでみた。丸みあるエッジ加工を特に意識していて、縛られた者を傷つけない工夫が施されている。外人さんの国でも、特殊部隊が使っていて、摩擦熱による切断を防ぐように作られているから心配はいらない」
「し、心配はいらないって……私が逃げられない……という意味でしょうか? 手錠を切って逃げられないとか、そういう意味でしょうか……きゃあ……しゃ、社長、身体を持ちあげないで!」
特殊部隊がどうとか……魂レベルが異世界人の生まれ変わりでも、冴えないOLにしか育たなかった私が逃げられる状況じゃない。
キャラクタープロフィール欄が、『ヒロインの幼馴染で、異世界人の生まれ変わり。頭脳明晰で、記憶力にも優れている。異世界に転移したヒロインを支える心強い存在』というヒーロー設定ではないんですよ、私は!
ファウンテから帰ってきて、ヒーロー設定にチェンジしていないかな~と思ったけど、やっぱりこっちじゃ無理そうなんですよ、私は!
それにしても……大きな工場で作られているのか、町工場で作られているのか知らないけど、現代日本のメーカーが一つ一つ丁寧に作ったと思われるプラスチック製手錠は、引っ張ろうが何をしようが外れる気配がない。『目指せ不良品ゼロ』のスローガンが、こんな時には恨めしい。
「きゃあ……檻、檻ですか……やっぱり、檻行きですか……檻、檻! おり……おりたい……おりたい……檻、檻! おり……おりたい……おりたい……おり……」
「おり、おり、と、言葉を繰り返してしまうほど、天王寺先輩は、この檻に期待してくれているんだね。嬉しいな」
「ああっ! ぼ、棒で、突かないでください! 棒でツンツンやめて……しゃ、社長……鞭の棒でツンツン、や、やめてください! うわぅ……」
背中や腕を軽く突かれているだけで、痛い事や淫らな事をされている訳ではないけど、社長の思う壺にはめられてしまう。
ヒーロー設定皆無の私を中に入れ、キィバタンという音と共に檻の扉が閉められた。
私を檻に閉じ込めた社長は、室内をうろうろする。物色すると言った方が正しいだろうか。目つきが完全にジェネの総帥のものになっている。まずは件のお馬さんに目をつけたみたいだ。再び鞍の部分をスリスリする。
「これ、鞍の中央部分が少し尖っているんだ。跨がる者は、どんな風に感じてしまうのだろうか? ふふふ。手枷足枷で固定されたら、自分ではおりられないだろうね。鞭打ちは、ほんの一瞬の慈悲を授けてやる事ができるが――お馬さんに跨がると、絶え間ない苦痛が続く事になる」
「い、嫌……ぜ、絶対に嫌です……跨がりませんから……」
そう言いながら、全裸にされて、お馬さんの上で社長にされるがままの自分の姿が思い浮かんでいた。「君の身体からあふれる雫が流れに変化するのを見たい」と言われてしまう運命以外が待っているとは考えられない。
鞭で痛い事はしないとのお約束だけど、お股のあたりに指を近づけられたり、横腹を舐められたり……あ……太腿をゆっくりと撫でられるのに応じて身体を揺らしてしまい、自重によって跨がるところへの苦痛が強まって……ひぃぃいい!
「僕は、ファウンテに戻った後、ジェネの尋問で採用しようかと考えていただけなのに……おやおや。天王寺先輩に跨がってもらうとは言わなかったのに……ふふ。あはははっ! そうかっ! ファウンテでの新婚生活で使いたいと考えているんだね! 下着すら脱いだ君が、この上に跨がっている……腕は吊った方が面白いかもしれない。そうしたら、胸の先を晒す事になるだろ? ほら、このお部屋に置かれていた『コレ』を胸の先にあててみたいな。ははっ! 現代日本のおもちゃは、本当に面白そうだ!」
「しゃ、社長……その魔法のスティックっぽい形の……あの、その……社長の手の中で、ブーンって音を鳴らしているやつは……おもちゃはおもちゃでも、まさか、大人の……ああっ! そのスティックを持って、近づいてこないでください! や、やめて……手を縛られて、さらに檻に入れられて動けないのに……あはん……せ、背中にスティックが……あ、あは……し、振動してる! きゃあ、スティックがベストにあたっています……ブラウスも、振動してる……あは……背中から、胸に……胸にまで、し、振動が届いて……む、胸が、震えてい……る……はあ、はあ」
「『コレ』の真横に説明書が置いてあった。マッサージ用途との事だが、手書きで、『究極のトイ』という文字が加えられ、おススメの使う場所が示されているんだ。天王寺先輩、どこだと思う?」
……や、やばい。
ファウンテから帰ってきてすぐ、私は素っ裸だったのに襲われずに解放されたので、現代日本なら、社長も大人しくしていると思い込んでいた。しばらく警戒を続けるつもりだったけど、いつしか元の優しい社長に戻ってくれる気がしていた。
社長室に戻った時、私は裸だったけど、社長はパイロットスーツ姿だった。ファウンテでの出来事が夢じゃなかったとその場ではっきりした。
社長は、考え事に頭をとられていそうな様子を見せながら、裸の私に大判の膝掛けを貸してくれた。「すぐに服を用意するから、ソファに座って待っていて」と告げ、デスクの上の電話を手にした。
社長の仰った通り、三十分もしないうちに服が用意された。
社長室手前にある応接部屋のテーブルの上に、二つの衣裳箱が置かれていた。
チェック柄の包装紙のものを着るよう指示され箱に手を伸ばしたら、後ろから声をかけられた。珍しく歯切れが悪そうな喋り方で、方針が決まったら呼ぶから、いったん事務デスクで待機していてほしいという内容を伝えてきた。
恋人に今すぐ癒やしてほしいような不安をいくつも心に抱えていたけど、社長がジェネの白いパイロットスーツ姿だったので、その腕の中に飛び込んでいいのか迷っていた。だから、その時は解放してもらえた事が一番の優しさだと感じた。
社長も現代日本に戻ってしまい混乱しているようだったけど、私は私で、かなり混乱していた。
新しい事務服を着て、自分のデスクに向かった。
ミナミナが、普通な様子で仕事をしていた。ナンナンと間違えて、「みんなは無事?」と声をかけると、「おぬしが無事でよかった!」と抱きつかれた。
ファウンテにいる期間、私は、調整休という扱いになっていたらしい。
念には念を入れて、水をさされないよう、社長があらかじめそういう事務処理をしていたっぽい。あの日、私は、まさに悪のお城に囚われる為に社長室に行ったも同然。
空想妄想ではなく、永久就職を理由に、私のリストラ計画が進行していた……
私は、ぷるぷるしながら、激しく頭を横に振った。結んでいなかった茶色の髪が大きく揺れる。アリストと融合していない状態で、現代日本に戻ってきてしまった冴えないOLが、ジェネの総帥の正体を隠さない社長の前で何ができるというのだろう。
「ま……まさか、現代日本に、こんな牢屋があるなんて知りませんでした……はは……でも、社長……ここは現代日本ですよ。ボールペン百万本、今すぐ買ってこいという業務命令に騙されて、会社が用意したタクシーに乗っちゃう罠に引っかかった冴えないっぷりは忘れてあげてください。思い起こしてみると、頼んできた課長も変な顔してましたけど……そう、現代日本なんです! あれ? ここって前は妖しい建物だったのに、文房具屋さんの倉庫になったんだと考えながら、エレベーター待ちを普通にして、ビルの奥へ奥へと進んでしまいましたが……ボールペン百万本をすぐに引き渡せるぐらいたくさん保管しているから、広いスペースがほしくて文房具屋さんが建物ごと買ったのね……と呟きながらドアを開けましたが……そこに牢屋があって、閉じ込められるなんて、現代日本ではあり得ないですか……ら……ああっ!」
社長の手には鞭が握られていた。私がいるベッドの方に近づいてくる。
「現代日本のよさは大いに認めているよ。様々なカップルの要望に応える為、こんな牢屋つきのお部屋まで用意してしまうほどだからね。天王寺先輩と二人で、もっともっとデートスポットの開拓をしたいと思っているのは本当だ。何気ないショッピングセンターのキッズスペースですら、異世界人である僕の目には、今までの考えを崩されるような素晴らしいものに映ったぐらいなのだから。だが、一刻も早くファウンテに戻らなくてはならないだろ? イアリーの街周辺には、ジェネの兵が展開しているし、空中戦艦イレイサとている。僕の配下の者たちが、他を圧倒しているかもしれないぞ? ははっ。薄汚い連中がどうなっているのか気にならないかな? 天王寺先輩、物事を軽く考え、等閑に付すのはよくないよ」
鞭の棒状の柄の部分を使って顎を押しあげられ、「ううっ」と口にしてしまった。私がその反応を見せた事に満足したかのような表情を浮かべた社長は、頬を舐めてくる。
社長の膝が沈み込んで、ベッドが軋む。
「大丈夫。鞭で、天王寺先輩をいじめたりしないよ。君は、僕の大切な人だ。傷つけたりはしないが、楽しませてあげたい気持ちは強い。ごらん」
社長は、僅かに顎を動かす。示された先には、大型犬が入れそうな檻があった。
「捕虜を狭いところにしばらく閉じ込めておくと、尋問の時間を短縮できる事があるんだ。その間は何もしない。放置しておくだけ。尋問に使う道具が一つ一つ用意されていく様子を、狭い檻の中で見聞きさせてやるだけ――」
「あわわ……ああっ!」
まるで獰猛な犬のように、社長は、私の胸に噛みついてきた。犬を想像している最中だったせいか、余計にそう思えた。
事務服ベストがあって、敏感な刺激を胸に受けた訳ではないけど、急な事に驚いて倒れてしまった。斜めに倒れた私の身体をベッドが受け止めてくれるけど、シーツが揺れながら顔の皮膚にくっついてきて、よくない気分を与えてくる。
身体が激しく動いたので、手を縛られていると改めて実感させられる。
ほ、本当に……や、やばい!
「天王寺先輩を拘束しているプラスチック製手錠、現代日本のメーカーが生産しているものを選んでみた。丸みあるエッジ加工を特に意識していて、縛られた者を傷つけない工夫が施されている。外人さんの国でも、特殊部隊が使っていて、摩擦熱による切断を防ぐように作られているから心配はいらない」
「し、心配はいらないって……私が逃げられない……という意味でしょうか? 手錠を切って逃げられないとか、そういう意味でしょうか……きゃあ……しゃ、社長、身体を持ちあげないで!」
特殊部隊がどうとか……魂レベルが異世界人の生まれ変わりでも、冴えないOLにしか育たなかった私が逃げられる状況じゃない。
キャラクタープロフィール欄が、『ヒロインの幼馴染で、異世界人の生まれ変わり。頭脳明晰で、記憶力にも優れている。異世界に転移したヒロインを支える心強い存在』というヒーロー設定ではないんですよ、私は!
ファウンテから帰ってきて、ヒーロー設定にチェンジしていないかな~と思ったけど、やっぱりこっちじゃ無理そうなんですよ、私は!
それにしても……大きな工場で作られているのか、町工場で作られているのか知らないけど、現代日本のメーカーが一つ一つ丁寧に作ったと思われるプラスチック製手錠は、引っ張ろうが何をしようが外れる気配がない。『目指せ不良品ゼロ』のスローガンが、こんな時には恨めしい。
「きゃあ……檻、檻ですか……やっぱり、檻行きですか……檻、檻! おり……おりたい……おりたい……檻、檻! おり……おりたい……おりたい……おり……」
「おり、おり、と、言葉を繰り返してしまうほど、天王寺先輩は、この檻に期待してくれているんだね。嬉しいな」
「ああっ! ぼ、棒で、突かないでください! 棒でツンツンやめて……しゃ、社長……鞭の棒でツンツン、や、やめてください! うわぅ……」
背中や腕を軽く突かれているだけで、痛い事や淫らな事をされている訳ではないけど、社長の思う壺にはめられてしまう。
ヒーロー設定皆無の私を中に入れ、キィバタンという音と共に檻の扉が閉められた。
私を檻に閉じ込めた社長は、室内をうろうろする。物色すると言った方が正しいだろうか。目つきが完全にジェネの総帥のものになっている。まずは件のお馬さんに目をつけたみたいだ。再び鞍の部分をスリスリする。
「これ、鞍の中央部分が少し尖っているんだ。跨がる者は、どんな風に感じてしまうのだろうか? ふふふ。手枷足枷で固定されたら、自分ではおりられないだろうね。鞭打ちは、ほんの一瞬の慈悲を授けてやる事ができるが――お馬さんに跨がると、絶え間ない苦痛が続く事になる」
「い、嫌……ぜ、絶対に嫌です……跨がりませんから……」
そう言いながら、全裸にされて、お馬さんの上で社長にされるがままの自分の姿が思い浮かんでいた。「君の身体からあふれる雫が流れに変化するのを見たい」と言われてしまう運命以外が待っているとは考えられない。
鞭で痛い事はしないとのお約束だけど、お股のあたりに指を近づけられたり、横腹を舐められたり……あ……太腿をゆっくりと撫でられるのに応じて身体を揺らしてしまい、自重によって跨がるところへの苦痛が強まって……ひぃぃいい!
「僕は、ファウンテに戻った後、ジェネの尋問で採用しようかと考えていただけなのに……おやおや。天王寺先輩に跨がってもらうとは言わなかったのに……ふふ。あはははっ! そうかっ! ファウンテでの新婚生活で使いたいと考えているんだね! 下着すら脱いだ君が、この上に跨がっている……腕は吊った方が面白いかもしれない。そうしたら、胸の先を晒す事になるだろ? ほら、このお部屋に置かれていた『コレ』を胸の先にあててみたいな。ははっ! 現代日本のおもちゃは、本当に面白そうだ!」
「しゃ、社長……その魔法のスティックっぽい形の……あの、その……社長の手の中で、ブーンって音を鳴らしているやつは……おもちゃはおもちゃでも、まさか、大人の……ああっ! そのスティックを持って、近づいてこないでください! や、やめて……手を縛られて、さらに檻に入れられて動けないのに……あはん……せ、背中にスティックが……あ、あは……し、振動してる! きゃあ、スティックがベストにあたっています……ブラウスも、振動してる……あは……背中から、胸に……胸にまで、し、振動が届いて……む、胸が、震えてい……る……はあ、はあ」
「『コレ』の真横に説明書が置いてあった。マッサージ用途との事だが、手書きで、『究極のトイ』という文字が加えられ、おススメの使う場所が示されているんだ。天王寺先輩、どこだと思う?」
……や、やばい。
ファウンテから帰ってきてすぐ、私は素っ裸だったのに襲われずに解放されたので、現代日本なら、社長も大人しくしていると思い込んでいた。しばらく警戒を続けるつもりだったけど、いつしか元の優しい社長に戻ってくれる気がしていた。
社長室に戻った時、私は裸だったけど、社長はパイロットスーツ姿だった。ファウンテでの出来事が夢じゃなかったとその場ではっきりした。
社長は、考え事に頭をとられていそうな様子を見せながら、裸の私に大判の膝掛けを貸してくれた。「すぐに服を用意するから、ソファに座って待っていて」と告げ、デスクの上の電話を手にした。
社長の仰った通り、三十分もしないうちに服が用意された。
社長室手前にある応接部屋のテーブルの上に、二つの衣裳箱が置かれていた。
チェック柄の包装紙のものを着るよう指示され箱に手を伸ばしたら、後ろから声をかけられた。珍しく歯切れが悪そうな喋り方で、方針が決まったら呼ぶから、いったん事務デスクで待機していてほしいという内容を伝えてきた。
恋人に今すぐ癒やしてほしいような不安をいくつも心に抱えていたけど、社長がジェネの白いパイロットスーツ姿だったので、その腕の中に飛び込んでいいのか迷っていた。だから、その時は解放してもらえた事が一番の優しさだと感じた。
社長も現代日本に戻ってしまい混乱しているようだったけど、私は私で、かなり混乱していた。
新しい事務服を着て、自分のデスクに向かった。
ミナミナが、普通な様子で仕事をしていた。ナンナンと間違えて、「みんなは無事?」と声をかけると、「おぬしが無事でよかった!」と抱きつかれた。
ファウンテにいる期間、私は、調整休という扱いになっていたらしい。
念には念を入れて、水をさされないよう、社長があらかじめそういう事務処理をしていたっぽい。あの日、私は、まさに悪のお城に囚われる為に社長室に行ったも同然。
空想妄想ではなく、永久就職を理由に、私のリストラ計画が進行していた……
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