パンドラの箱を開けた少女、やがて女神と呼ばれる。

かごめ♪かごめ♪
籠の中の鳥は いついつ出やる♪
夜明けの晩に 鶴と亀が滑った♪
後ろの正面、だあれ?

誰もが知るわらべ歌。

母が好きだった歌。

お母さんと私の思い出の歌。

…お母さんがあの男とどうして結婚したの?
生まれてこの方あの男に愛された記憶なんてない。
当然だろう。
…あの男にとって母以外は眼中にないのだから。
一緒に出掛けた記憶も、経験もない。
きっとあの男──父は私が嫌いなのだ。
母譲りの艶やかな黒髪、大きな黒目…顔立ち面立ちは母と瓜二つ。…性格はまるで似ていない。
少なくとも“私は” そう思う。
母は天使のような、聖母のような女性(ひと)だから…。

母が亡くなった時も…あの男は私を見てはくれなかった。

見てよ…私をーー、ううん、違う…私はあの男に認められたい訳じゃない。
嫌い…嫌いよ、大っ嫌いだわ…!
…そうだ、蔵の奥の奥に厳重に封じられた玉虫色の箱──どこか、アラベスク調の異国情緒溢れる手のひらに乗る小型の箱。

「…あの男が私を嫌うなら、私だって容赦しない…ッ!」

【パンドラの箱】と呼ばれたあらゆる災厄が詰まれた箱。

我が家──“籠目家”の初代からずっと在る摩訶不思議なモノ。

躊躇いもせず、私は開けた──その瞬間から身の毛もよだつ悍ましい非日常の日々が、日常が─…、私の──いや、世界中に広がった。

朝鮮半島の“獄炎焦土”の事変、異能に覚醒(めざ)める若者の増加、凶暴化する動物達…ペットですら日頃の関係が良好でなければ容易く飼い主に牙を剥いた。

嗚呼、嗚呼…!!私…私は…っ!あの男を殺すわ。“生まれた力で”──!!

「──お父様、今そちらに参りますね?」

少女の憎悪が禁忌の箱を開けさせた。
あらゆる“災厄”が解き放たれた。

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