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第6章

210話 二人の心配事

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「魔族さん、離して! お兄さんが!」
「リガス、離して! アトス様が!」

 姉さんと私はアトス様を追いかける為に逆走をしようとしたが、リガスに止められてしまう。

「お二人共、ダメです」
「離して!」

 姉さんは、悲痛な表情を浮かべて暴れ回るが、リガスの拘束を振り払う事は出来ない。
 私なら、スキルを発動すれば振り払う事は出来るが、恐らくその前に気絶させられてしまうだろう。

「リガス、離して……」

 私が冷静な判断を下せると思ったのか、すんなり離してくれた。

「私も離してよ!!」
「ロピ殿はまだダメでございます」

 リガスは姉さんを抱えながら逃げているが、まだまだ余裕そうである。

「姉さん、一旦落ち着いて」
「で、でもチルちゃん! お兄さんが……」
「分かっている。でも、アトス様の事だから何か考えての行動だと思う」
「そ、それは……確かに……」
「それに、アトス様なら絶対なんとかしてくれる! 私達を救った時だってそうだったでしょう?」

 今の私達より、まだ幼かったアトス様は、私達を助ける為にボコボコにされながらも大人達に立ち向かって行く姿はとても素敵だった。

「アトス様はピンチになりつつも、いつもどうにかしてくれたよね?」
「うん……お兄さんは、見た目頼り無いけど最後はどうにかしてくれる……」
「うん。だから今回もどうにかしてくれるよ! だから私達はアトス様を信じて自分達が出来る事をしよ?」

 私の問い掛けに、姉さんはコクリと頷いた。

「分かった……チルちゃんの言う通りだね! 私達に出来る事をしてお兄さんの手助けをしよう!」
「ほっほっほ。いつものロピ殿に戻りましたかな?」
「魔族さんありがとう! あのまま逆走していたらお兄さんに迷惑掛ける所だったよ!」
「いえいえ。我々三人で変異体を引き連れてあの場所に戻りましょう」
「「うん!」」

 やはり、リガスは凄い。私達は冷静な判断が出来ずに、慌てているだけだったけど、リガスは一瞬でアトス様の考えを理解していた。

「もっと、身体も心も頭脳も鍛えなければ……」
「ほっほっほ。チル様もロピ殿もまだまだこれからです」

 私が、何を考えているか読まれているのが、少し気に食わない……

「三人共、無事ですね?」

 三人で話していると、前を走っていたマーズが近付いて来た。

「マーズさん、変異体は今、どの辺でしょうか?」
「そうですね……このまま行けば三十分も掛からないで見えてくると思います」
「ふむ。そしたら上手く引き付けてアトス殿の場所に戻る感じですかな?」
「はい……このまま見捨てる事は出来ません」
「当たり前だよ!」
「アトス様を絶対助けます」

 私達の会話を聴いていたのか、周りも賛同してくれる。

「絶対アトス達を助けようぜ!」
「あぁ。それにアイツだけカッコイイ真似はさせねぇーぞ!」

 アトス様も言っていたけど、この三班は皆んな良い人ばかりだ。

「よーし。変異体を連れてお兄さんの所に戻るぞー!」
「「「「「「おう!」」」」」」

 姉さんの掛け声に全員が呼応する。

「ここに居る中で体力がキツイ方はいますか?」

 マーズの問いに何人かが手を挙げる。

「それでは、貴方達は一度ここら辺で休憩していて下さい」
「だ、だけどよ」
「いえ、これもチームプレイです。ここで休んだ分を後で返してください」

 マーズは慣れていないウィンクをしながら、気軽さを演出している。

「はは、おう! 任せとけ」
「お前らが無事に変異体を引き連れて来たら、今度は俺らが頑張るぜ!」

 アトス様のお陰で、中型は私達を追って来て居ない。
 その為、三班を更に半分に分け、変異体の所に行く班と体力を温存する班に分かれた。

「それでは、変異体を連れてきます」

 マーズを先頭に、私と姉さん、リガスと何人かが変異体の方に向かう。

「マーズ、頼むぞ?」
「えぇ、フィールさん達は休んどいて下さい。行ってきます」

 私達は先程のスピードを維持してジャングルを駆け抜ける。

「マーズ、変異体は遠距離攻撃をしてくるけど、大丈夫?」
「そこなんですよね。変異体から逃げる時は注意が必要ですね……」

 その事もある為、私達の班は基本素早い動きが出来る者だけにした。

「皆さん、今チルさんが言ったように逃げる際はお気を付け下さい」

 私達は、周囲を警戒しながら、ひたすら変異体に向かって走り続けた。
 
 そして、ついに変異体の姿を視認する。

「見つけました……」
「ふむ。こちらには気付いて無い様ですね」

 変異体はのんびりとした感じで歩き回っている。

「どうやって、あそこまで連れて行くの?」
「恐らく、我々が姿を現したら追って来ますので、皆さん準備はよろしですか?」

 マーズの言葉に、緊張しながらも全員が頷く。

「では……ロピさんお願いします」
「うん」

 姉さんが、スリングショットを構える。

「1……2……3……4……5……フィンフショット!」

 姉さんの雷弾は音を立てながら変異体に直撃した。
 すると、一瞬仰け反り直にこちらを向き変異体は身体を震わせて自身に付いているトゲを飛ばしてきた。

「皆さん、ここからは集中して下さい! 逃げますよ!!」
「「「「「「おう!!」」」」」」

 こうして、私達と変異体の鬼ごっこが始まった……

 
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