愛した人は青空の瞳〜御使いシラサギと3つの選択〜

平川

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◇式前30日の記録

28.告白

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 果樹林の中を2人で手を繋いで歩く。
 今日の恋人の課題は『手』だ。正直リリアが人の形になってからエスコートを含め4、5回繋いだくらいだろうか。少な過ぎる。なのでテオルドは2週間分繋いでやろうと思っている。リリアの手が小さくて柔らかい。白い指の間に自分のゴツい指を入れて握ると潰してしまいそうだ。この10年触りたくて触れなかったピンクの指先に惚けるように口付けた。

「ふぁっ!」
「キスは口や頬だけにするもんじゃ無いらしいぞ?」
「そ、そう。........じゃあ、ワタシもする!」
「え?」
「どこが良い?」
「え?う.........っ?」
「そうだな~.........じゃあ、鼻!」

 リリアはテオルドの顔をガシッと掴み引き寄せて、鼻に柔らかいピンクの唇を押し当てた。チュッと音を残して離す。

「ワタシ、クチバシ無くなったから物が直接口に触れるのが新鮮で.........人間の唇って敏感なのね~。テオルドの鼻は硬いね?手で触るのと唇で触るのと全然違う!」

 リリアはそう言ってテオルドの鼻を手でこちょこちょ触る。

 少し離れた場所で2人を見護る護衛達と更に反対側でそれを眺めるシューマとスパラッシュ。

「あーあれ、テオルド様固まってるな。.........絶対リリア様の方が積極的だ。鳥だったからかな?」
「今は物珍しさが勝ってますよね、多分」
「スパラッシュはどうなんだ?」
「わたくしは過去何度も姿を変えた事があるのです。女神のお側に居れば対価無しに姿を変えられたので。人の姿で女神様の御衣装を手掛けておりましたしね」
「成る程。高位な訳だ。.........ところで、あの........さっきの.........」

 シューマは触れて良い事なのかどうか悩んでいたのだが、確認はしておこうと思ったのだ。勘違いしているかも知れないし、知り合いの男性が娼館に行くなど許せないタイプかも。いや、それともわたくしと.........一緒に行こうとか.......百合的な発言かも知れないし......なんて、ゲスい考え...でも.........もし.........

「あー、いや、何でも無い」

 シューマはやっぱりやめておこうと言葉を留めようとしたが

「.................わたくし.........御迷惑ですよね?蜘蛛でしたし。でも虹色蜘蛛であった事、わたくし誇りに思っております。ですがそれでも.........例えもう戻れなくても....後悔しておりません。この様な気持ちになる事は初めてで、自分でも不思議ですわ。.........長い目で見て頂けませんか?今すぐ答えを頂か無くても良いのです。.........ただ、少しだけヤキモチを妬かせて下さいませ。それで良いので.........」

 やっぱり.........そうだった。

 顔を赤くしながらも凛とした声でシューマを見上げるスパラッシュ。彼女は自らの誇りを投げ出して下界へ降りたのだ。
 覚悟が違った。

「わたくし.......シューマ様が好きなのです」
「................っ...... 」
「言葉に出来ただけでも嬉しいですわ。人になって.........良かった」

 そう言ってニコリと微笑み、スパラッシュはシューマから離れて行った。

「(.........実直に向き合うが良、か。じゃあ、その先の選択は私次第なんだな。.........なんて重い選択なんだろう。女神様.................相手が特別過ぎます)」

 シューマはスパラッシュの後ろ姿を、その場から動けずに見送る事しか出来なかった。


 ****

 ニコニコとしながらリリアは果樹林を抜けて小川まで戻って来る。手はテオルドと恋人繋ぎをしていた。
 照れながらもリリアの歩幅に合わせて歩いてくれているテオルドが愛しくて堪らない。

「リリア、戻って来たぞ、果樹林を一周したな。脚、疲れて無いか?あ、そうだ。脚を小川に浸けてみないか?.........普通の淑女はそんな事しないだろうけどさ。屋敷の敷地内だし.........俺は好きなんだよな、流れる水が擽ったいけど気持ち良いんだよ」
「ワタシがしても良いの?」
「良いだろ、他の奴らに脚を見られなきゃ。俺の身体で隠してやろう」

 テオルドはそう言って平たい岩に座りブーツと靴下を脱いでスラックスの裾を捲り上げた。公爵家次期当主ではあるが彼はかなり奔放だ。それはあらゆる階級の人間と接して来た為だ。上は伯父ではあるが国王を筆頭に下は他国の戦闘奴隷まで。

 殲滅部隊は多種多様な人間が所属している。テオルドが【覇王】の力で強い力や能力のある者を集めて来たからだ。だが同時に『悪気』に呑まれる事無く組織を整えて来れたのはシラサギのリリアが側にいてくれた為だ。テオルドは彼らと人間として向き合って来れた。
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