【完結】初恋は淡雪に溶ける

Ringo

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♡afterstory♡令嬢達のお茶会・part2

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「いけませんわ、アンジェリカ様。友人に隠し事などツレないことをなさらないで」


で、どうなの?と尚も尋ねるローゼリアに、観念するしかないのかと扇の中へ溜め息を零した。

満を持して扇子から顔を出したアンジェリカは、痛いほどに感じる視線から意識を外すように努めながら、おずおずと口を開く。


「…………口付けは………致しますわ……」


小さくか細い声で言い切ると、堪らずカップを手に取り口へ運んだ。

しかし三人は逃さない。


「“致しました”ではなく…“致します”…」


そう言うと口元に弧を描いたローゼリアに続き、ジュリエッタも目を細める。


「エメット様…溺愛されてますものね」


その言葉に納得したように頷いたアリアネル。


「アンジェリカ様はお可愛らしいもの。まるで砂糖のような甘い言葉を紡いでいらっしゃるわ」


まさか聞かれていた!?と驚き顔をあげてアリアネルを見るが、深い微笑みに真偽は読み取れない。

隙あらば耳元に注がれる言葉達を思い返し、アンジェリカは羞恥で消えたくなった。


「それで?何処までお進みになられてますの?」


まだ続くの!?と少し疲弊した表情を浮かべそうになるが、他ならぬアリアネルからの問いであることに気を引き締める。

後に妃殿下となる人物…不興は買えない。

とは言え分からないことだらけ。

何処までとは?進むとは?

戸惑う様子にジュリエッタが助け舟を出した。


「私…この前の逢瀬で初めて“大人の口付け”をしてしまいましたのよ」

「まぁっ♡デュラス様も遂に我慢が出来なくなられたのかしら」


ローゼリアとの掛け合いが分からずアリアネルを見やると、扇を広げた彼女が耳元に唇を寄せ…告げられた内容に唖然としてしまう。


───舌を絡める口付けのことよ


そういえば…と過去の記憶を遡る。

当時は不貞を働く婚約者に嫌悪感を抱いており、閨事に関する知識を気持ち悪いと拒絶していた。

そのきっかけとなったのは、口付けには様々な形態がある…という講義。

触れるだけでも恥じてしまうアンジェリカにとって、教本にある“粘膜を触れ合わせる”という文言や挿し絵は衝撃的だった。

そして当然ながらそれを許すのは婚約者や伴侶となる者だけ…のはずなのに、婚約者であるはずの人物は自分以外とそういった行為に耽るという愚行を働いている。

街で偶然にも見掛けた際、知らない女性と夢中で唇を重ねていたのはこういう事か…と更なる嫌悪感を抱き、それ以降の講義を断り記憶すらも何処か遠くへ放り投げていた。


「アンジェリカ様?」


遠い目をしてしまったアンジェリカに、攻めすぎたと反省するローゼリアは眉尻を下げる。

その様子にむしろ申し訳なく感じてしまう。

既に婚姻可能な年齢にあり、早ければ子を儲けている者もいるというのに…と。

雰囲気から察するに、ローゼリアとアリアネルも“大人の口付け”を経験済み。

未だ触れるだけで羞恥するのは自分くらいなのかもしれないと落ち込み、同時にそんな自分を婚約者に持ったエメットに申し訳なさが募る。


「………あの……」


覚悟を決めたアンジェリカが続けた言葉に、三人は優しい微笑みで応えた。






*.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜






「お帰り、アンジェ」


友人達とのお茶会から帰宅すると、満面の笑みを湛えて出迎えたエメット。

いつものように額への口付けを受け、離れていく唇をぽぅ…っと眺めた。


「?  お茶会は楽しかった?」

「……えぇ…とっても……」


様子のおかしいアンジェリカに首を傾げ、具合でも悪いのかと窺うがそうでもない。

とりあえず部屋でゆっくりさせようと手を繋いで歩き出すと、「あの…」と小さな声が聞こえた。

言わずもがな発したのはアンジェリカで、どうした?と足を止めて続きを待つが…エメットの顔と握られた手を交互に見るばかり。

流石に分かりかねてメリルに視線で助けを求めると、何故か祈るように手を組んでいる。

なんで?と暫し考え………思い至った。

表情には隠しきれない喜びが浮かんでしまう。


「アンジェ」


もうどうしたらいいの!?と困窮している最愛の人の名を呼び、潤む瞳を見据えながら包み込む手を離し…スルリと指を絡めて握り直した。


義姉上あねうえからお勧めの本が届いてるよ」


満足気に歩き出したエメット。

その隣ではお茶会で知り得た“恋人繋ぎ”なるものに成功したアンジェリカが、こっそり自信をつけてに臨む決意を固めていることなど知らず、軽い足取りで部屋へと向かう。




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