【完結】欲しかったのは…

Ringo

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歪んだ歯車 ※騎士の婚約者side

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出会いなんて覚えていない赤子の頃で、親同士が学友だったからと成長しても頻繁に遊んでいた伯爵家の幼馴染み。

家族のような親愛が恋に変わったのは、王宮騎士になる為に家を出た13歳。数年は戻らないと聞いて、自然と涙が溢れて好きなのだと気付いた。


『戻ったら婚約しよう』


俺も好きだったと言われ、約束してくれた通りに17歳で戻ってきてすぐに婚約を結んだ。いずれ爵位を継ぐ彼に嫁ぎ、一緒に領地を守っていこう…そう誓い合った。

歯車が狂いだしたのは半年後。

兄が高位貴族の夫人と許されぬ関係となり、子まで成した挙げ句に駆け落ちをしてしまい、その後始末で莫大な慰謝料を請求された我が家は没落して子爵から男爵となった。

そして、男爵となったが故に彼との婚約は見直されることに。


『トリシアと結婚出来ないなら平民になる』


両家の話し合いの場で、私の手を握ってそうハッキリと宣言してくれた事は嬉しかった。たとえ叶うことのない夢だとしても、幸せな気持ちにさせてくれたことが嬉しかった。

──もう充分

そう思ったのに、彼は夢で終わらせることなく現実とするために動き出し、遂には叶えて共に平民となり商会を二人で盛り立てようと言った。

私は彼と共にあれるのなら貴族でも平民でもどちらでもよかったし、むしろ平民になるのだからと気安く過ごせるのも楽しかった。


『いずれ籍を抜く俺とトリシアは平民も同然』


そう言って結ばれた日の事は今も鮮明に覚えている。恥ずかしくてたまらなかったけれど、優しく愛してくれた。結婚するんだからと避妊もせず、むしろ早く私との子供が欲しいと望んでくれた。

王太子妃を迎えに行く為の出立前、二ヶ月分だと言って深く長く愛されて…帰りを待った。


『戻ったら結婚しよう』


いつかの約束のように、同じように告げてくれた言葉。それは果たされるのだと信じていたの。



「隣国の第五王女を娶ることになった」



だから理解が追い付かない。



私は思わず薄い自分のお腹に触れた。








******




「トリシア」


伯爵家の敷地内にある別館で暮らすようになって半年、私は彼の第二夫人として過ごしている。


「お帰りなさい」

「ただいま」


彼も本館ではなく別館で暮らしている。王太子専属騎士として殆どを王宮で過ごしているけれど、伯爵としての仕事もあるので以前よりは一緒に過ごす時間が増えたように思う。


「体調は悪くない?」

「大丈夫よ」


優しく口付けてから私の体調を気遣うのがお決まりとなっている。

そして、私のお腹を撫でることも。


「今日も元気いっぱい?」

「えぇ、沢山動いていたわ」


臨月を迎えて大きくなった私のお腹を暇さえあれば撫でたり耳をつけたりして様子を窺い、出産が見込まれている周辺は休みを貰う念の入れよう。


「早く会いたいな」

「私も」


王太子妃様もご懐妊で、子供は同級生となる。


そして────


「今日も来たって?」


その問いに、私は胸の痛みを覚えてしまう。

本館にいる彼の正妻…隣国の元第五王女も、私からそう遅からず出産の時を迎えるらしい。彼が王宮から戻る日を調べているのか、その日になると別館の近くへとやって来る元王女。時間までは分からないらしく朝から別館の近くに待機しているのをよく見かける。

あの日、帰国早々に彼から話を聞かされ、混乱のまま連れていかれた王宮では王太子妃様からも頭を下げられてしまった。


『うちの阿婆擦れが申し訳ない』


その言葉に、少し溜飲が下がった。

たとえ真実を語らずとも私達の仲の良さを知っていた人達は揃って元王女に対して嫌悪感を示し、お茶会などの招待が届くことはない。

当初はいくつかきていたようだが、行く先々で彼との未来を語っては嫌悪されていった。

社交に同伴するのは私だけとの誓い通り、夜会や舞踏会には彼による当主権限という形で参加を認められず、元王女はこの国で孤独となったのだが…それでもいつか彼と愛し愛される未来が来るのだと言って過ごしているらしい。

元王女に対しての扱いとしてどうなの?と思ったが、王太子妃様も『放っておけばいい』と言って憚らないので私も気にするのをやめた。

元王女が来ていたことを彼が心配するのは、私に何か危害を加えるつもりだと思っているから。だけどそれはないと思う。


「朝からいらしてたみたい。よほど貴方に会いたいのね」

「勝手にさせておけばいい。もう半年以上顔も見ていない。どんなだったかも忘れた」


酷い人…貴方が孕ませたんでしょう?そう嫌味のひとつも言いたくなるけれど、だからと言って会いに行かれるのは嫌なので飲み込んだ。

私だって怒っている。それでも傍にいることを選んだのは嫌いになれないから。過ちで外れかけた歯車を、必死で直そうとしてくれたから。

切り刻まれた胸の痛みは忘れない。だけど許すことにした。時折痛みが甦ってしまい、物を投げ付けたり叩いたりしてしまうけれど、受け止めてくれる優しさに甘えたい。


「あ、動いた」


私の傍にいることが幸せなのだと言うけれど、私も貴方の傍にいることが幸せなの。


「ね?元気いっぱいでしょう?」








歯車は直ることなく歪んだままだけれど。
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