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歪んだ歯車 ※騎士side
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出産間近となった大きなお腹は寝苦しいのか、うまく寝付けないと言って執務室にトリシアがやって来た。
「夜遅くまでお疲れ様」
お腹を撫でながらそう言われると、寝不足も疲れも吹き飛ぶのだから不思議だ。
「眠れないか?」
「少し張ってるの…」
いつ生まれてもおかしくないからと聞いて、医師と産婆は滞在させている。それでも初めての出産とあって不安は拭えない。
ゆっくりとソファーに座らせ、妊婦でも飲めるとされるお茶を淹れて俺も隣に座った。
「ねぇ、トリシア」
「なぁに?」
トリシアの出産からそう間を空けずにあの女も子供を生むだろう。その時くらいは会いに行けと両親には言われたが俺にそのつもりはない。子に罪はないと分かっているし責任として養育もする。だが愛せない。どれだけトリシアを傷つけたかと思うと、その存在すら憎らしく思えてくる。
トリシアとの子供はこれからも増えていくだろうが、あの女との間には今回だけだ。未来は俺と愛し合うと未だに言っているらしく忌々しい。
「いつか爵位を子供に譲る時が来たら…」
「来たら…?」
「小さな家を建ててふたりで暮らそう」
小さいと言っても子供や孫達が遊びに来られるような、だけど普段は互いがどこにいるのかすぐに分かるような距離感の家───そう話したら、トリシアは嬉しそうに「楽しみだわ」と笑って言ってくれた。
「もう二度と傷付けない」
その一度が大きかったことは自覚しているし、それでもあの女には未だ怒りしか覚えないけれど、ミレーヌ妃の制裁とトリシアの愛情でなんとか生かしてやってるんだと溜飲を下げている。
「約束は守ってね?」
ふふんっ、と楽しげに嫌味を言われて嬉しくなる俺はおかしいのだろうか。生涯消えない傷を負わせたのに、それでも傍にいてくれる事を決めてくれたことには感謝してもしきれない。
「生涯君を愛してる」
「奇遇ね、私もよ」
トリシアの出産に備えて俺が休みを取ったことを調べた元王女は、自分の時にも俺が滞在するはずだと言って色々な準備を始めたらしい。ありえないのに。
「これからも宜しくね、奥さん」
俺は元王女を「妻」とは呼ばない。書類上そうだとしても俺の妻はトリシアだけなのだと示したくて、公式の場でもトリシアを「妻」と呼び元王女はそのまま「元王女」と呼んでいる。
当初はざわついていた呼び名もミレーヌ妃自身がそれでいいのだと夜会や茶会で肯定し続け、よって「王家にも認められていない」と認識された元王女。
隣国やミレーヌ妃からは度々離縁を勧められているが、いつか俺が目を覚ますからと言って聞かない。もうどうでもいい。財産も爵位も正妻の立場も余すことなくくれてやる。
「いた…っ、いたい…」
「トリシア?トリシア!?おい!誰か!」
俺が欲しいのは昔からひとりだけで、その人の為だから頑張れるしその人との生活の為だから稼ぎたいと思えるんだ。
「旦那様?どうかなさ──っ奥様!すぐに医師と産婆をお連れします!旦那様は奥様を部屋へ!」
「分かった!急げ!」
ずっと夢見てきた。
いつか君と結婚して子供が欲しいと。
君の王子様になりたかった。
──────────
「落ち着きなさい」
ウロウロとして落ち着かない俺に、母から呆れたような声が飛んだ。
「そうだぞ、男に出来ることはない」
威張れることじゃないはずのに胸を張って言える父が可笑しくて、少しだけ落ち着いた。
「人によっては丸一日二日かけるとか…こんなに苦しそうな声出してるのに…」
お産のために用意された部屋からは、トリシアの叫びにも似た声が聞こえてきて不安になる。叔母は従兄を生んで間もなく、力尽きて亡くなったことが思い出されて泣きそうになった。
「母親は子供の為に命を懸けて生む覚悟をもってるわ。だからあなたも父親になる覚悟をなさい」
母も産後は暫く体調を崩していたらしい。もしもの時は父親ひとりとなる…万が一など考えたくもないが、それもひとつの覚悟なんだろう。
ひたすらに祈り、トリシアと共に孫に囲まれて過ごす余生を思い描いた。
そうしてどれ程の時間が経ったのか。
「旦那様、お入りください」
産声で無事に生まれたことは分かっていたが、同時にトリシアの状態も心配だった。しかしそれは扉を開けた医師の笑顔で杞憂となる。
「元気な男の子ご生まれました。奥様も問題なくご出産を終えられましたよ」
「トリシア!!」
一目散にトリシアの元に駆け付け、生まれたばかりの赤子を腕に抱いている姿を見て息が止まるかと思った…神々しくて。
「オーランド、見て」
何も言えなかった。ただ愛しくて、ただ感謝しかなくて…ただ抱き締めるしか出来なかった。
「オーランド…幸せ?」
トリシアがそう聞いてくるが俺は嗚咽に近い状態で泣いていて、それでも答えなければと激しく首肯した。
「また子供生んでもいい?」
その問いには固まってしまったが、恐る恐る子供の顔を覗くと生まれたてなのに俺の遺伝子を確かに感じられて、その存在を愛しげに抱いて微笑んでいるトリシアが美しかった。
「…ちゃんと元気でいられれば」
「よかった、子沢山が夢なんだもの」
あと何回あの不安な時間を過ごさせる気なのだと苦笑したが、それ以上に何度だって命を懸けようとするトリシアに敵わないと思った。
「俺の夢も叶えてくれるなら」
「夜遅くまでお疲れ様」
お腹を撫でながらそう言われると、寝不足も疲れも吹き飛ぶのだから不思議だ。
「眠れないか?」
「少し張ってるの…」
いつ生まれてもおかしくないからと聞いて、医師と産婆は滞在させている。それでも初めての出産とあって不安は拭えない。
ゆっくりとソファーに座らせ、妊婦でも飲めるとされるお茶を淹れて俺も隣に座った。
「ねぇ、トリシア」
「なぁに?」
トリシアの出産からそう間を空けずにあの女も子供を生むだろう。その時くらいは会いに行けと両親には言われたが俺にそのつもりはない。子に罪はないと分かっているし責任として養育もする。だが愛せない。どれだけトリシアを傷つけたかと思うと、その存在すら憎らしく思えてくる。
トリシアとの子供はこれからも増えていくだろうが、あの女との間には今回だけだ。未来は俺と愛し合うと未だに言っているらしく忌々しい。
「いつか爵位を子供に譲る時が来たら…」
「来たら…?」
「小さな家を建ててふたりで暮らそう」
小さいと言っても子供や孫達が遊びに来られるような、だけど普段は互いがどこにいるのかすぐに分かるような距離感の家───そう話したら、トリシアは嬉しそうに「楽しみだわ」と笑って言ってくれた。
「もう二度と傷付けない」
その一度が大きかったことは自覚しているし、それでもあの女には未だ怒りしか覚えないけれど、ミレーヌ妃の制裁とトリシアの愛情でなんとか生かしてやってるんだと溜飲を下げている。
「約束は守ってね?」
ふふんっ、と楽しげに嫌味を言われて嬉しくなる俺はおかしいのだろうか。生涯消えない傷を負わせたのに、それでも傍にいてくれる事を決めてくれたことには感謝してもしきれない。
「生涯君を愛してる」
「奇遇ね、私もよ」
トリシアの出産に備えて俺が休みを取ったことを調べた元王女は、自分の時にも俺が滞在するはずだと言って色々な準備を始めたらしい。ありえないのに。
「これからも宜しくね、奥さん」
俺は元王女を「妻」とは呼ばない。書類上そうだとしても俺の妻はトリシアだけなのだと示したくて、公式の場でもトリシアを「妻」と呼び元王女はそのまま「元王女」と呼んでいる。
当初はざわついていた呼び名もミレーヌ妃自身がそれでいいのだと夜会や茶会で肯定し続け、よって「王家にも認められていない」と認識された元王女。
隣国やミレーヌ妃からは度々離縁を勧められているが、いつか俺が目を覚ますからと言って聞かない。もうどうでもいい。財産も爵位も正妻の立場も余すことなくくれてやる。
「いた…っ、いたい…」
「トリシア?トリシア!?おい!誰か!」
俺が欲しいのは昔からひとりだけで、その人の為だから頑張れるしその人との生活の為だから稼ぎたいと思えるんだ。
「旦那様?どうかなさ──っ奥様!すぐに医師と産婆をお連れします!旦那様は奥様を部屋へ!」
「分かった!急げ!」
ずっと夢見てきた。
いつか君と結婚して子供が欲しいと。
君の王子様になりたかった。
──────────
「落ち着きなさい」
ウロウロとして落ち着かない俺に、母から呆れたような声が飛んだ。
「そうだぞ、男に出来ることはない」
威張れることじゃないはずのに胸を張って言える父が可笑しくて、少しだけ落ち着いた。
「人によっては丸一日二日かけるとか…こんなに苦しそうな声出してるのに…」
お産のために用意された部屋からは、トリシアの叫びにも似た声が聞こえてきて不安になる。叔母は従兄を生んで間もなく、力尽きて亡くなったことが思い出されて泣きそうになった。
「母親は子供の為に命を懸けて生む覚悟をもってるわ。だからあなたも父親になる覚悟をなさい」
母も産後は暫く体調を崩していたらしい。もしもの時は父親ひとりとなる…万が一など考えたくもないが、それもひとつの覚悟なんだろう。
ひたすらに祈り、トリシアと共に孫に囲まれて過ごす余生を思い描いた。
そうしてどれ程の時間が経ったのか。
「旦那様、お入りください」
産声で無事に生まれたことは分かっていたが、同時にトリシアの状態も心配だった。しかしそれは扉を開けた医師の笑顔で杞憂となる。
「元気な男の子ご生まれました。奥様も問題なくご出産を終えられましたよ」
「トリシア!!」
一目散にトリシアの元に駆け付け、生まれたばかりの赤子を腕に抱いている姿を見て息が止まるかと思った…神々しくて。
「オーランド、見て」
何も言えなかった。ただ愛しくて、ただ感謝しかなくて…ただ抱き締めるしか出来なかった。
「オーランド…幸せ?」
トリシアがそう聞いてくるが俺は嗚咽に近い状態で泣いていて、それでも答えなければと激しく首肯した。
「また子供生んでもいい?」
その問いには固まってしまったが、恐る恐る子供の顔を覗くと生まれたてなのに俺の遺伝子を確かに感じられて、その存在を愛しげに抱いて微笑んでいるトリシアが美しかった。
「…ちゃんと元気でいられれば」
「よかった、子沢山が夢なんだもの」
あと何回あの不安な時間を過ごさせる気なのだと苦笑したが、それ以上に何度だって命を懸けようとするトリシアに敵わないと思った。
「俺の夢も叶えてくれるなら」
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