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欲しかったもの
《騎士side》
『いつかふたりで小さな家で暮らそう』
そう約束してから過ごしてきた穏やかな日々。息子に爵位を譲って、小さいとは言えない屋敷に移り住んでからも変わらないのは隣にトリシアがいてくれること。
子供は七人儲け、どれだけ仲が良いのだと周りから揶揄される事も多かった。
既に孫も数人いるが、トリシアの美しさは相変わらず輝いていてスタイルも変わらない。月のものも終わり、子はもう出来ないと分かっていても抱いていると孕ませるつもりで打ち付けてしまう。
たった一度とは言え犯した過ち。
その結果生まれた子供がどうしているのかなど分からないし、知りたいとも思えない。それを非道だと言われても愛しているのはトリシアで、興味があるのはトリシアの生んだ子供とその孫達。
「…オーランド」
「起こした?まだ寝てていいよ」
気怠げに寝台に伏しているのが俺のせいだと思うと、それだけで何度も求めたくなる。
俺だけの愛しいトリシア。
俺だけのお姫様。
「愛してる」
俺の全ては君だけのもの───
******
《騎士の婚約者side》
絶望に染まったあの日から長い年月が経った。
緊張が解けなかった五年余り…元王女様がこの国を去った時に感じたのは『やっと終わる』という思い。
理由があったにせよ裏切られ、自分ではない女性のお腹が彼の子種で大きくなっていくのは心が切り刻まれるようなものだったから。
彼の指示で元王女様が子供を連れて来ることはなかったけれど、それでも元王女様からの命令に逆らえない使用人が何度か子供だけを連れて訪ねてきた。彼に抱いて欲しいと言って。
それに彼が応える事はなかったけれど、いつか責任感と罪悪感から元王女様のところへ行ってしまうのではないかと不安が拭えなかった日々。国へ戻されることになり、漸くそんな日々から解放されるのだと安堵した。
そして七人の子供にも恵まれ、昔の約束通りに小さいとは言えない屋敷に移り住んで過ごす穏やかな日常。いつまでも彼に愛されたくて、体型の維持に励んでいる。
「トリシア…ッ」
もう子は成せないというのに、精を放つ時には必ず奥に流し込もうとする彼が愛しい。私を放さないというように打ち付けられるのが嬉しくて、どんなに疲れても求められるだけ応えてしまう。
一度は失ってしまうと絶望したあの日から、私が欲し続けたもの…
「トリシア…愛してる」
その言葉と思いだけは誰にも譲らない。
******
《王女side》
国に戻り、誰に嫁ぎ直すこともなく過ごしてきた平凡な日々。いつか目覚めたオーランド様が迎えに来るからと、持ち込まれる縁談は全て断りひとり離宮で過ごしてきた。
もうオーランド様に関わるなと言われ、それでも彼の事が心配だったから個人で雇った者にオーランド様の生活を報告させている。
七人の子を儲けたオーランド様の洗脳が解けることはなく、今では郊外に建てた屋敷にトリシアさんとふたりで暮らしているらしい。
伯爵家の屋敷とは比べ物にならないほどの小さな家で、慎ましく暮らしていると言うけれど…やはり私がいなくなったせいで貧しくなり、郊外に追いやられてしまったのだと思うと申し訳なくなってしまう。たとえ王命だと言われても、抵抗して傍を離れるべきではなかった。
もう子は成せないというのにオーランド様を求めては部屋から出ない日もあると聞いて、トリシアさんの洗脳には脱帽するしかない。
可哀想なオーランド様。
紛い物の愛に翻弄され、七人の子まで作らされた挙げ句に貧しい生活を強いられている。
「姉様」
お父様によく似た弟のブライアンは、誰も近寄らないこの離宮に訪ねてくる唯一の人。今は臣下に降りて、最近新たな孫も生まれたらしい。
「姉様、もうオーランド様の事をお調べするのはおやめください…先日、ご自宅でご家族に見守られて天寿を全うされたとミレーヌ様より便りが参りました」
「そんな……」
「…とても幸せそうに、愛する奥様に手を握られて旅立たれたそうです。その数日後、後を追われるようにしてトリシア様もご逝去されました」
「お救いできなかった…オーランド様…ごめんなさい…あなたを…助けられなかった…」
「姉様…私も妻と郊外に移ることにしました。ここに来ることはもうありませんが、姉様もご自愛ください」
起き上がることの出来ない私のそばから離れていく弟の姿に、突如として孤独が襲ってきた。
『現実を見なさい』
何度もお姉様から言われていた言葉が甦る。
オーランド様を救いたくて、洗脳から解いて目を覚ましてほしくて…それらは運命の相手である私の役目だと信じていたのに…何かが崩れていく。
ふと自分が生んだ娘を思い出した。
生んで数回しか見たことのない娘…今はどうしているのかと思うも、名前すら思い出せない。私に瓜二つだと聞いたことしか知らない。
「オーランド様…」
何を間違えたのか今も分からない。
オーランド様が旅立つ傍には手を握るトリシアさんがいて…私の傍には誰もいない。
逝けばオーランド様の傍にいけるだろうか。
いえ…きっとトリシアさんがいらっしゃる。
それが洗脳でもなんでもないと、今なら少しは分かるような気がする。
跪付く騎士様に誓われ、愛し合う物語。
自分だけを愛してくれて、騎士様だけのお姫様になる…そんな物語に憧れた。
私は、そんな未来が欲しかった。
『いつかふたりで小さな家で暮らそう』
そう約束してから過ごしてきた穏やかな日々。息子に爵位を譲って、小さいとは言えない屋敷に移り住んでからも変わらないのは隣にトリシアがいてくれること。
子供は七人儲け、どれだけ仲が良いのだと周りから揶揄される事も多かった。
既に孫も数人いるが、トリシアの美しさは相変わらず輝いていてスタイルも変わらない。月のものも終わり、子はもう出来ないと分かっていても抱いていると孕ませるつもりで打ち付けてしまう。
たった一度とは言え犯した過ち。
その結果生まれた子供がどうしているのかなど分からないし、知りたいとも思えない。それを非道だと言われても愛しているのはトリシアで、興味があるのはトリシアの生んだ子供とその孫達。
「…オーランド」
「起こした?まだ寝てていいよ」
気怠げに寝台に伏しているのが俺のせいだと思うと、それだけで何度も求めたくなる。
俺だけの愛しいトリシア。
俺だけのお姫様。
「愛してる」
俺の全ては君だけのもの───
******
《騎士の婚約者side》
絶望に染まったあの日から長い年月が経った。
緊張が解けなかった五年余り…元王女様がこの国を去った時に感じたのは『やっと終わる』という思い。
理由があったにせよ裏切られ、自分ではない女性のお腹が彼の子種で大きくなっていくのは心が切り刻まれるようなものだったから。
彼の指示で元王女様が子供を連れて来ることはなかったけれど、それでも元王女様からの命令に逆らえない使用人が何度か子供だけを連れて訪ねてきた。彼に抱いて欲しいと言って。
それに彼が応える事はなかったけれど、いつか責任感と罪悪感から元王女様のところへ行ってしまうのではないかと不安が拭えなかった日々。国へ戻されることになり、漸くそんな日々から解放されるのだと安堵した。
そして七人の子供にも恵まれ、昔の約束通りに小さいとは言えない屋敷に移り住んで過ごす穏やかな日常。いつまでも彼に愛されたくて、体型の維持に励んでいる。
「トリシア…ッ」
もう子は成せないというのに、精を放つ時には必ず奥に流し込もうとする彼が愛しい。私を放さないというように打ち付けられるのが嬉しくて、どんなに疲れても求められるだけ応えてしまう。
一度は失ってしまうと絶望したあの日から、私が欲し続けたもの…
「トリシア…愛してる」
その言葉と思いだけは誰にも譲らない。
******
《王女side》
国に戻り、誰に嫁ぎ直すこともなく過ごしてきた平凡な日々。いつか目覚めたオーランド様が迎えに来るからと、持ち込まれる縁談は全て断りひとり離宮で過ごしてきた。
もうオーランド様に関わるなと言われ、それでも彼の事が心配だったから個人で雇った者にオーランド様の生活を報告させている。
七人の子を儲けたオーランド様の洗脳が解けることはなく、今では郊外に建てた屋敷にトリシアさんとふたりで暮らしているらしい。
伯爵家の屋敷とは比べ物にならないほどの小さな家で、慎ましく暮らしていると言うけれど…やはり私がいなくなったせいで貧しくなり、郊外に追いやられてしまったのだと思うと申し訳なくなってしまう。たとえ王命だと言われても、抵抗して傍を離れるべきではなかった。
もう子は成せないというのにオーランド様を求めては部屋から出ない日もあると聞いて、トリシアさんの洗脳には脱帽するしかない。
可哀想なオーランド様。
紛い物の愛に翻弄され、七人の子まで作らされた挙げ句に貧しい生活を強いられている。
「姉様」
お父様によく似た弟のブライアンは、誰も近寄らないこの離宮に訪ねてくる唯一の人。今は臣下に降りて、最近新たな孫も生まれたらしい。
「姉様、もうオーランド様の事をお調べするのはおやめください…先日、ご自宅でご家族に見守られて天寿を全うされたとミレーヌ様より便りが参りました」
「そんな……」
「…とても幸せそうに、愛する奥様に手を握られて旅立たれたそうです。その数日後、後を追われるようにしてトリシア様もご逝去されました」
「お救いできなかった…オーランド様…ごめんなさい…あなたを…助けられなかった…」
「姉様…私も妻と郊外に移ることにしました。ここに来ることはもうありませんが、姉様もご自愛ください」
起き上がることの出来ない私のそばから離れていく弟の姿に、突如として孤独が襲ってきた。
『現実を見なさい』
何度もお姉様から言われていた言葉が甦る。
オーランド様を救いたくて、洗脳から解いて目を覚ましてほしくて…それらは運命の相手である私の役目だと信じていたのに…何かが崩れていく。
ふと自分が生んだ娘を思い出した。
生んで数回しか見たことのない娘…今はどうしているのかと思うも、名前すら思い出せない。私に瓜二つだと聞いたことしか知らない。
「オーランド様…」
何を間違えたのか今も分からない。
オーランド様が旅立つ傍には手を握るトリシアさんがいて…私の傍には誰もいない。
逝けばオーランド様の傍にいけるだろうか。
いえ…きっとトリシアさんがいらっしゃる。
それが洗脳でもなんでもないと、今なら少しは分かるような気がする。
跪付く騎士様に誓われ、愛し合う物語。
自分だけを愛してくれて、騎士様だけのお姫様になる…そんな物語に憧れた。
私は、そんな未来が欲しかった。
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