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レイピア使いの子爵令嬢
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ある週末の騎士科鍛錬場、その中央サークルを囲むように設置されている観覧席は、騎士科の男子生徒達によってびっしりと埋められていた。
皆やたらと身嗜みを気にしてソワソワと落ち着きなく、中には正装している者までいる。
「おいっ、出てきたぞ!!」
黒い戦闘スーツを着用した15名の女性達が姿を現し、野太い声の歓声が一斉にあがった。
「キャサリン嬢~!!」
「ブリジット嬢~!!」
「メイベル嬢~!!」
「ポラリス嬢~!!」
多くの指笛も鳴り響く中で男達は思い思いの名前を叫ぶが、その名の持ち主である女性達…もとい淑女科特級クラスの女子生徒達は、一切の反応を見せない。
「これより剣技実習を始める!!」
声を張り上げ開始の宣言をしたのは、実技講師である現役の近衛騎士。
男達がより大きな歓声をあげる中、チョコレートブラウンの髪を高い位置でひとつに結んだ女子生徒が、1本の剣を手に中央へと進んだ。
「アメリア嬢だ!!しょっぱなから首席かよ!!」
「ヤバいって!!既に泣きそう!!」
「ほっせぇなぁ…折れちまうんじゃねぇの?」
アメリアの登場にざわめくが、当の本人に気にする様子は微塵もない。
「なんつぅか…こう……妙にクルんだよな、アメリア嬢って」
うんうんと頷く男達の熱い視線はアメリアへと注がれ…生々しく露わになっている体のラインを、じっくりと舐めるように観察した。
「胸はデカくないけど…形がいい」
「丁度こう…すっぽり収まる感じ…いいよな」
「ウエスト細すぎだろ…胃袋あんの?」
「腹筋割れてるって噂だぜ」
「マジか…ってか、どこの誰情報だよ」
「あのケツ、いいハリしてそう」
「叩きがいがあってイイね」
盛り上がる野獣達とは反対に、最前列中央を陣取る男からはドス黒い殺気が滲み出ている。
「……落ち着け、シュナイダー。アイツらの軽口や冷やかしはいつもの事だ」
「………………あとで潰す」
女性の体つきについてあ~だこ~だと好き勝手話す彼らの未来(後日の鍛錬)が決定したが、アメリアが剣を構えると無駄口が一斉に引いたのは流石と言えよう。
「お手柔らかに頼むよ、アメリア」
「こちらこそですわ、お兄様」
アメリアがニッコリと笑みを向けたのは、騎士科講師も務める近衛騎士のエリック。
子爵家嫡男で、アメリアの兄でもある。
「そのレイピア、新しく買ったやつか?」
「お小遣いをつぎ込んでしまいました」
「せいぜい折れないように励めよ」
意地悪い笑みを浮かべたエリックが動き出すのと同時に、アメリアも地を蹴った。
現在は他国との争いもなく、女性を狙う犯罪も少ない…が、あくまでも少ないだけで存在する。
その多くが陵辱を目的としたもので、力の弱い女性の被害は一向になくならない。
特にアメリア達のように年若い女性は狙われやすく、不幸にも身篭るケースも報告されていた。
女性の社会進出が持て囃される一方で、それを妬み蛮行に及ぶ者もおり、自身の身を守る術を持つべき…というのが特級クラスの教訓。
同じ淑女科でも【一般クラス】では護身用ナイフの取り扱いを学ぶに過ぎず、その抗議は教室にて淡々と行われ実技指導はない。
対する【特級クラス】は実戦形式で行い、今回のように剣術も履修科目となっている。
「……すげぇ…」
誰かがこぼした呟きに、アメリアを見守るシュナイダーは誇らしげな笑みを口元に浮かべた。
「アメリア嬢、相変わらずだな」
「あぁ……楽しそうだ」
ひとつに結ばれた髪は動きと共に揺れ動き、細くしなやかな体で積極的に攻める姿勢は、まるで舞を踊っているかのよう。
怪我をしないかと心配はするが、愛剣のレイピアを振るう姿は美しい。
『シュナイダー様に守られるだけの存在にはなりたくありませんの。わたくしだって貴方を守りたいわ…失いたくないから……』
真っ直ぐにシュナイダーを見据えてそう言ったのは、アメリアがまだ10歳の時。
必然的に出来てしまう剣ダコは痛々しいが、その数と硬さの分だけ『貴方を守れる力がついた』と喜ぶ姿は、かつて騎士を目指した幼き頃の自分と重なり微笑ましくもなってしまう。
「甘いっ!!」
エリックの声が響くと同時に弾かれたレイピア。
一瞬だけその行方を目で追ったアメリアの喉元には、エリックの剣先が突き出される。
「注意散漫だ…死ぬぞ」
「っ───すみません」
剣先でクイッと顎をあげられ、悔しげに拳を握るアメリア……を見るシュナイダーからは、またもドロドロした殺気が漏れ出てきた。
「シュナイダー…あれは実習だ。殺されない」
引き摺り込むような殺気に当てられた野獣達は息苦しくなり冷や汗をかいているが、肩を叩く親友だけは爽やかで何食わぬ顔。
(これだけ露骨なのに、何をどう見たらアメリア嬢を慕っていないと言えるのか)
幼馴染みでもある彼は、シュナイダーのことをよく理解していた。
ある週末の騎士科鍛錬場、その中央サークルを囲むように設置されている観覧席は、騎士科の男子生徒達によってびっしりと埋められていた。
皆やたらと身嗜みを気にしてソワソワと落ち着きなく、中には正装している者までいる。
「おいっ、出てきたぞ!!」
黒い戦闘スーツを着用した15名の女性達が姿を現し、野太い声の歓声が一斉にあがった。
「キャサリン嬢~!!」
「ブリジット嬢~!!」
「メイベル嬢~!!」
「ポラリス嬢~!!」
多くの指笛も鳴り響く中で男達は思い思いの名前を叫ぶが、その名の持ち主である女性達…もとい淑女科特級クラスの女子生徒達は、一切の反応を見せない。
「これより剣技実習を始める!!」
声を張り上げ開始の宣言をしたのは、実技講師である現役の近衛騎士。
男達がより大きな歓声をあげる中、チョコレートブラウンの髪を高い位置でひとつに結んだ女子生徒が、1本の剣を手に中央へと進んだ。
「アメリア嬢だ!!しょっぱなから首席かよ!!」
「ヤバいって!!既に泣きそう!!」
「ほっせぇなぁ…折れちまうんじゃねぇの?」
アメリアの登場にざわめくが、当の本人に気にする様子は微塵もない。
「なんつぅか…こう……妙にクルんだよな、アメリア嬢って」
うんうんと頷く男達の熱い視線はアメリアへと注がれ…生々しく露わになっている体のラインを、じっくりと舐めるように観察した。
「胸はデカくないけど…形がいい」
「丁度こう…すっぽり収まる感じ…いいよな」
「ウエスト細すぎだろ…胃袋あんの?」
「腹筋割れてるって噂だぜ」
「マジか…ってか、どこの誰情報だよ」
「あのケツ、いいハリしてそう」
「叩きがいがあってイイね」
盛り上がる野獣達とは反対に、最前列中央を陣取る男からはドス黒い殺気が滲み出ている。
「……落ち着け、シュナイダー。アイツらの軽口や冷やかしはいつもの事だ」
「………………あとで潰す」
女性の体つきについてあ~だこ~だと好き勝手話す彼らの未来(後日の鍛錬)が決定したが、アメリアが剣を構えると無駄口が一斉に引いたのは流石と言えよう。
「お手柔らかに頼むよ、アメリア」
「こちらこそですわ、お兄様」
アメリアがニッコリと笑みを向けたのは、騎士科講師も務める近衛騎士のエリック。
子爵家嫡男で、アメリアの兄でもある。
「そのレイピア、新しく買ったやつか?」
「お小遣いをつぎ込んでしまいました」
「せいぜい折れないように励めよ」
意地悪い笑みを浮かべたエリックが動き出すのと同時に、アメリアも地を蹴った。
現在は他国との争いもなく、女性を狙う犯罪も少ない…が、あくまでも少ないだけで存在する。
その多くが陵辱を目的としたもので、力の弱い女性の被害は一向になくならない。
特にアメリア達のように年若い女性は狙われやすく、不幸にも身篭るケースも報告されていた。
女性の社会進出が持て囃される一方で、それを妬み蛮行に及ぶ者もおり、自身の身を守る術を持つべき…というのが特級クラスの教訓。
同じ淑女科でも【一般クラス】では護身用ナイフの取り扱いを学ぶに過ぎず、その抗議は教室にて淡々と行われ実技指導はない。
対する【特級クラス】は実戦形式で行い、今回のように剣術も履修科目となっている。
「……すげぇ…」
誰かがこぼした呟きに、アメリアを見守るシュナイダーは誇らしげな笑みを口元に浮かべた。
「アメリア嬢、相変わらずだな」
「あぁ……楽しそうだ」
ひとつに結ばれた髪は動きと共に揺れ動き、細くしなやかな体で積極的に攻める姿勢は、まるで舞を踊っているかのよう。
怪我をしないかと心配はするが、愛剣のレイピアを振るう姿は美しい。
『シュナイダー様に守られるだけの存在にはなりたくありませんの。わたくしだって貴方を守りたいわ…失いたくないから……』
真っ直ぐにシュナイダーを見据えてそう言ったのは、アメリアがまだ10歳の時。
必然的に出来てしまう剣ダコは痛々しいが、その数と硬さの分だけ『貴方を守れる力がついた』と喜ぶ姿は、かつて騎士を目指した幼き頃の自分と重なり微笑ましくもなってしまう。
「甘いっ!!」
エリックの声が響くと同時に弾かれたレイピア。
一瞬だけその行方を目で追ったアメリアの喉元には、エリックの剣先が突き出される。
「注意散漫だ…死ぬぞ」
「っ───すみません」
剣先でクイッと顎をあげられ、悔しげに拳を握るアメリア……を見るシュナイダーからは、またもドロドロした殺気が漏れ出てきた。
「シュナイダー…あれは実習だ。殺されない」
引き摺り込むような殺気に当てられた野獣達は息苦しくなり冷や汗をかいているが、肩を叩く親友だけは爽やかで何食わぬ顔。
(これだけ露骨なのに、何をどう見たらアメリア嬢を慕っていないと言えるのか)
幼馴染みでもある彼は、シュナイダーのことをよく理解していた。
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