(完結)ヤンデルフタリ

Ringo

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6・最終話

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年齢的に最後の妊娠…そう言われたわたしのお腹の中には、七人目となる子供がいる。

結婚してから二十五年。

六人目を生んでから七年。

もしかしてもう妊娠しないかな?と思って避妊薬を飲まなくなった途端に妊娠した。

確かに四十を過ぎても出産する女性はいるし、決して珍しい話でもない。

この七年、あえて作らないでいたのも『俺だけのアディでいてほしい』とジョシュアが望んだからであり、わたしもその独占欲が心地よくて受け入れていた。

そして今回の妊娠…これはわたしがあえて意図したもの。

もしかしたらもう妊娠することはないかもしれない…そう思いながらも、愛の結晶であるジョシュアの子供が欲しくて堪らなくなったから。

きっかけは嫉妬と独占欲。

そしてわたしだけに許される、ジョシュアの子を身籠れるという事実から得られる満足感。

ふたりでの湯浴みを終え、寝室の窓際に立ってのんびり膨らみかけのお腹を撫でていると、背後からふわりと慣れ親しんだ香りと共に大きな体に抱きすくめられた。


「何考えてるの?」


わざとらしく耳元で甘く囁いて、ぺろりと耳朶を舐められると体が熱をもってしまう。

数えきれないほどに体を重ね、もう互いの体のことで知らないことはなにもない。

…と同時に、七年ぶりの妊娠を望んだきっかけの出来事も思い出してしまって、途端に嫉妬の炎が胸を焼き尽くしにかかってきた。


「アディ?」


どうしたの?と顔を覗き込んできたジョシュアをギッと睨み付け、夜着の襟首を勢いよく引き寄せ重ねた唇に即座に舌を差し込んで絡める。


「アディ…ッ、ちょ、どうし……ん…っ……」


立ったまま、有無を言わせず口付けを続けながら乱雑にジョシュアの夜着を剥ぎ取ると、期待に目を輝かせている姿に高揚して、そのまま寝台の上に押し倒して組み敷く。


「アディ…?」


この人はわたしのもの………






******






半年前。

退位してからは出なくなっていた夜会に久し振りに出た時…わたし達の顔をよくは知らない若い令嬢達が、ジョシュアへ熱い視線を向けてきた。

それだけならいい。

本音ではイヤだけれど、年を重ねるごとに色気を増して男前ぶりをあげている夫が誇らしくもあるから、逞しい腕に腰を抱かれながらそれなりに有意義な時間を過ごしていた。

その後、花摘みに行きたくなったわたしに同行しようとするジョシュアを、久し振りだからと様々な人物が取り囲み、折角なのだからとひとりで用足しに向かった。

そして僅かな時間の後に会場へと戻ると、取り囲んでいる殿方に混ざって若いご令嬢の姿が幾人も見え、大胆に露出したドレスを纏うご令嬢達が我先にとジョシュアに触れているのも見てとれた。

ジョシュアは無表情にその手をうまく躱しているが、なにぶん人数が多く次から次へと手が伸びてきてはジョシュアに触れる。

なかには、その隙をついて胸を押し当てている者もいる有り様で、それを受けてジョシュアはむしろ不機嫌さを露にしていた。

そして聞こえてきた言葉。


「ジョシュア様、わたくしを抱いてください」


群がる令嬢の誰かが発したものだろう。

その言葉で理性の糸が切れ、思い出すこともなかったかつての光景が鮮やかに甦ってきた。


『いつになったら抱いてくれるの?』


甘ったるい声をした…シルバーブロンドの女。

もう悲しみで震えることはないけれど、それでもこうしていとも容易く思い出せてしまうものなのだとショックで、もて余す怒りをどうすればいいのか動けずにいた。

そしてそんなわたしに気付いたジョシュアは、話をしていた殿方達も振り払い、一目散に駆け寄ってきてくれた。


「アディ…」


先程の言葉はジョシュアの耳にも届いていたらしく、不安げに眉を下げ、何か言いたげだ。


「……もう戻りたいわ」

「すぐに戻ろう」


いつも以上に強く腰を抱かれ、足早に私室へと戻るとジョシュアが力強く抱き締めてきた。


「何もないから」

「分かってるわ…」


分かってはいる…もうジョシュアは裏切らない。

けれど、沸き上がる怒りと…先程は感じなかった悲しみが押し寄せてきて、感情の制御出来ない。


「あなたが…ジョシュアが…あんなことをしたから…だからわたしは…いつまでたっても…っ…」

「俺が全て悪い。悲しませてごめん」


自分でも驚くほど、次から次へと鮮やかな記憶が甦ってきて、気付けば泣き叫びながらジョシュアを叩いていた。


「どうしてっ…どうして……っ…」


これでもかと罵倒の言葉を並べて叩くわたしを、ジョシュアはただひたすら受け入れる。

何を言っても、何をしても、ジョシュアは抵抗ひとつ見せずにされるがまま。

それが更に感情を昂らせてくる。


「あの女を抱くの!?」

「抱かない!」


それまで黙るかごめんだけだったジョシュアが、わたしのこの言葉には即座に否定してきた。

嬉しいのに、それだけでは物足りなくて言葉を続けてしまう。


「若くて綺麗な子達ばかりだった」

「俺にとってはアディが一番綺麗で魅力的だ。年齢は誰だって重ねるものだし、むしろ共に過ごしてきたアディだからこそ愛してる」

「…あの子達なら子供も生めるわ」

「俺はアディとの子供しか欲しくないし、俺の子種はアディにしか注ぎたくない」

「でも───」

「アドリアーナ」


真っ直ぐに視線を合わせられて、思わずビクリと体を震わせてしまった。


「俺が愛しているのも傍に居てほしいのも、肌を合わせたいと思うのもアディだけだ。それでも不安なら、今からふたりで薬を飲もうか?それとも切り落とした方がいい?」


アディが決めていい…そう言って、乞うような声音にジョシュアの本心だと窺える。

暫く見つめ合い、チラリと鏡台に視線をやった。

そこの引き出しには二種類の薬瓶が入っていて、ひとつは長年使用している避妊薬。

そしてもうひとつは…


「持ってるだろう?」


もうひとつは、眠るように絶命できる薬。

話したことはないけれど、わたしのことはなんでも知っているジョシュアが知らないはずがない。


「アディはどちらがいい?俺はどちらでも構わないけれど、君をひとり遺しては逝きたくないから薬を選ぶならふたりで飲みたい」


優しく微笑まれ、そっと抱き締められ、まだまだ一緒にいたいとしか思えなかった。

けれど嫉妬の炎は消えてくれない。


「……あなたの子を身籠れるのはわたしだけよ」

「当然だ」

「あなたに組み敷かれるのもわたしだけ」

「アディ以外には触れたくもない」

「……あなたの子が欲しい…」


自分でも馬鹿げていると思う。

体を繋げない日はないし、中でたっぷりと受け止めることで常に傍に居てくれるような気がする。


「ジョシュアの子を身籠りたい」

「いくらでも」


口角をあげる悪戯っぽい表情が好き。

いくつになっても衰えない体が好き。

長年の鍛練で硬くなった手が好き。

生き物のように這う舌が好き。


「……わたしのジョシュア…」


互いに生まれたままの姿になれば、身体中に付けられた所有印に独占欲が満たされる。

二十五年、一時たりとも消えたことのない印。

そのひとつひとつに重ね付けするように唇を這わせていると、やがてジョシュアの口から甘い吐息が漏れ聞こえてきて、既に芯を持ち始めていたモノがさらに大きく膨れるのを視界に捉えた。

ぷくぷくと精を漏らすそれを優しく握り、徐に咥えれば腰を震わせ喜んでくれる。


「わたしだけのもの…」

「……っ…アディ……」


その日から避妊薬を接種するのをやめ、それから三ヶ月後、七年ぶりの妊娠が判明した。






******






わたしに組み敷かれているジョシュアは、わくわくと期待に目を輝かせて早く次をと訴えてくる。

男らしくて、可愛らしい人。


「アディ」


じっとしたままのわたしに堪らず手を伸ばしてきたが、その手を顔の横に押さえ付け、再び貪るように唇を重ねた。

わたしなんて簡単に払い除けられるはずなのに、ジョシュアはあえてそうすることなく、むしろそれを楽しみながら硬く主張するモノをわたしのお腹に押し付けてくる。


「……ジョシュ…」


長い口付けで蕩けたのはわたしのほうで、ニヤリと口角をあげたジョシュアがくるりと反転して覆い被さってきた。

剣ダコだらけのゴツゴツした手で頬を撫でられ、首筋を通ってゆっくりと下がっていく動きに、今度はわたしが期待した眼差しを送ってしまう。


「ここに…俺の子がいる」


ザラリと下腹部を撫でられ、その甘い刺激にピクリと体を震わせると共にトロリとしたものが溢れるのが分かった。


「俺に愛され、俺に子種を注がれ、俺の子を孕んでいるアドリアーナ」

「は……ぃ…」

「俺に触れられると蜜を溢すアドリアーナ」

「…は…ぃ……」


すっと秘所に手を這わされ、つぷりと指を差し込まれれば抵抗なく飲みこんでしまう。

自分でも分かる濡れように、ジョシュアは嬉しそうな笑みを溢す。


「可愛いアドリアーナ…俺のアディ…」


愛してる…そう呟いて、優しい口付けと共にずっしりとした質量のモノが差し込まれた。


「はぁ…気持ちいい……」


至極幸せそうに表情を綻ばせて口付けてくる様子に、わたしの胸も温かくなる。


「ごめんね…我慢できなかった」


医師の許可がおりるまでの数ヵ月、深く繋がることが出来ないことで寂しさを感じていたのはわたしも同じ。

けれど深く繋がることが良しとされないなら深くしなければいいのだろうと解釈し、こっそり先端のみを抽挿して吐き出してきた。


『アディを前に愛さないなんて出来ない』


そう言って、この二十五年変わらない愛情。



「アディ、愛してる…」

「わたしも愛してるわ」








稀代の愛妻家と言い伝わるジョシュア元国王は、その後アドリアーナと共にゆっくりと年を重ね、最期は寝台の上で抱き合ったまま亡くなっている姿を使用人に発見された。

晩年は不治の病に冒されていたアドリアーナの傍を片時も離れず、静かに息を引き取ったであろうふたりが眠る寝台の枕元には、古びたラベルの薬瓶が転がっていた。









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