(完結)僕の婚約者は能面令嬢??

Ringo

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【番外編】公爵令嬢の憂鬱 3

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すったもんだの婚約までを思い返していたら、マクローラン様の訪れが侍女から知らされた。

現在、次期公爵補佐となるべく、お父様と執事から業務や執務について引き継ぎを兼ねた勉強会なるものが定期的に行われている。


「マクローラン様!」


玄関ホールでソワソワしながら待っていると、やがて見えた姿に嬉しくなって飛び付いた。


「エマ…今日も可愛いね」


マクローラン様は、飛び付いた事を咎めるように困った顔をして…でもすぐに優しい言葉をかけてくれた。にやけてしまう。


「甘やかすな」

「公爵、本日も宜しくお願い致します」

「お父様、心外です。外ではきちんと淑女をしておりますわよ。ご存知でしょう?」


マクローラン様の腕にベッタリと絡まってそう言ったら、「ぐぬぬ」と小さく唸って引き剥がされてしまい、マクローラン様は執務室に連れていかれてしまった。


「あらあら、エディったら焼きもち妬いて仕方ないわね。じゃぁ、お母様とお茶でもしましょう」

「……はぁい」

「今日のお茶は美容にとてもいいと評判なのよ」

「まぁ!さすがお母様ですわ!」


三十代後半…もうすぐ四十になるお母様は、とてもそうは見えない美貌で、お肌はツヤツヤぷるぷるだし、胸は大きくて腰は細い。お尻はツンと上を向いていて、ドレスはどれも体のラインがはっきりと分かるものばかり…お父様の趣味らしい。

いつも『マクローランにくっつきすぎだ!』と怒るけれど、そう言いながらもお母様の腰をガッチリ抱いているから説得力はないし、お母様の下着もお父様の趣味で選んで購入しているのも知っているから、むしろ私はお父様の血を強く引いているのでは?と思っている。


「そろそろ、結婚式の準備に本腰を入れないといけないわね」



外交官としても忙しいマクローラン様は、来週から半年弱ほど国外視察に出向く。これは私との婚約がなされる前に決まっていたことで、もう結婚しないつもりでいたから希望したらしい。


「マクローラン様が戻られたらすぐに結婚式よ、行かれる前にしっかりと決めましょうね」

「はいっ!」


半年も離れるのは寂しいけれど、今までとは違う婚約者という立場があるから安心できる。


「でも、帰ってきたらきたでまた忙しいんでしょう?お父様にお願いしてみたら?」

「マクローラン様が望まれていることだから構いません。お仕事が楽しいなんて素晴らしいわ。いつかマクローラン様お薦めの国へ行ってみようとも話しているんです」

「あら、素敵ね」




* * * * * *




「マクローラン様…」


視察へと出立して五ヶ月。そろそろ戻ってくるし、結婚式ももうすぐだけど…覚悟していた以上に会えない事が寂しくて、日々届けられるお手紙を何度も何度も読み返す。


「お嬢様、お客様がいらしているんですが…」

「お客様?私に?」

「はい…あの……まだ敷地内へご案内はしていないのですが、ご判断頂こうかと思いまして」

「え?」


侍女の言葉の意味が分からず詳しく聞けば、元貴族だという平民の女性がひとりで門扉まで来ており、私に話があると騒いでいるらしい。


「旦那様は王宮へ出向いておりますし、奥さまは夫人会へと出ていらっしゃいます」

「そうね…その方、お名前は?」

「メリルリード…元の家名はトンプソンだと申しております」


その名に思わず息が止まるかと思った。

メリルリード・トンプソン…嘗てマクローラン様の婚約者だった人で、裏切った人。そんな人が私になんの用だというの?


「お帰り頂きますか?」

「……いえ、構わないわ。ご案内して」


何が目的なのか知らないけれど、大体の見当はつく。どうせマクローラン様の事だろう。




* * * * * *




こんな人だったっけ?

と思うほど、かつてマクローラン様と並んでいた頃とは別人に見える元婚約者メリルリードさん。

お茶を飲む仕草には貴族令嬢として施された教育が垣間見えるけれど…装いはすっかり平民で、お肌は荒れているし、髪はパサついている。


「それで?どのようなご用件ですの?」


昔取った杵柄よろしく音を立てずにカップをソーサーに置いたメリルリードさんは、私に視線を移して……睨んでいる。は?なぜ?


「あなた……マーク以外にいるんでしょう?」


一瞬、意味が分からなかった。でもすぐにある事を思い出して、普段なら…貴族相手ならしない溜め息をわざとらしく吐いた。


「あぁ…あなたもくだらない噂をお聞きになったのね?バカバカしい」


数年前から、ひとつの物語を元にあらぬ誤解と疑いをかけられている。


【微笑みの薔薇と騎士】


どこぞの王家で起きた出来事を元に作られた物語で、その登場人物に勝手に宛がわれ、あろうことか幼馴染みふたりとの三角関係なのだと疑われ、しかも実は私とクリスティアーノが相思相愛で、それをプレッツェルが邪魔しているとか…とんだ茶番である。

ある事情から表情を封じているだけで、そもそもプレッツェルとクリスティアーノはうざったいほどに愛し合っているというのに。

その話題が夜会などで出されるたび、あとでネチネチネチネチ…プレッツェルに嫌味を言われるんだから、たまったもんじゃないわ!


「噂が出るということは、それなりの行動や態度をしたってことでしょ?」

「勝手な憶測で勝手に騒いでいるだけだわ」

「あなたなんかにマークは渡せないわ。マークを返して!!マークは私のものよ!」


なんなんだろう、この人は。

勝手に浮気して、勝手に浮気相手と子供を作ったのは自分じゃないか。バカらしい。


「あなたに言われる筋合いはありませんわ。それに、先程からマークマークと呼んでいらっしゃるけど…あなたの方こそ何様なんですの?マクローラン様は侯爵家次男であり、次期公爵の婿殿となるお方です。立場を弁えなさい」

「…っ……私はマークと愛し合っているわ」

「たとえ過去にそういった事が一ミリでもあったとして、今は私の婚約者です」


婚約してから、元婚約者との関係を聞いた。家同士が携わる業務提携を確実に強化するため結ばれた婚約で、異性としての愛情はなかったけれど婚約者として誠実な対応をしていた…と。

まぁ、婚約者としてもっと距離を縮めたいと何度も迫られ、結婚するまではと避けるように外交に逃げたらしいですけどね。それって誠実ですの?マクローラン様が言うんだから誠実ですわね。

つまりは女性として愛してはいなかった。

マクローラン様はそうキッパリ仰いました。


「過去じゃないわ」

「ありえません」

「っ、ふんっ…あなた、知らないのね?私は今もマークと何度も会っているのよ?それに…」


明らかに嘘だと思う話を始めたメリルリードさんは、言葉を途切れさせてお腹を撫でております。あぁ、そうくるんですね。どうしましょう?


「マークとの赤ちゃんがいるの。あなたとの婚約をやめて、私とやり直したいからって…子供が出来れば話も早いからって言って…」


私は何も言いません。暫く彼女の茶番劇でも楽しむことにして、お茶のお代わりを頂きました。最近、やることと言えば結婚式の準備だけで少し退屈しておりましたので、丁度いいわ。


「あなた、マークともうしたの?彼ってば普段は優しいのに…そういう時だけは激しいのよね。そんなところも好きだからいいんだけど」


なんだろ、もっと山場はないのかしら。あ、このお菓子美味しい。料理長が新しいレシピ本を買ってから珍しいものが多く並ぶようになって、食事もお茶の時間も楽しみなのよね。


「とにかく、私とマークは愛し合っているし子供まで作っているの。あなたはさっさと婚約を解消するしかないのよ、残念ね」

「……つまらなかったわね」

「は?」

「いえ、こちらの話。ところでお腹のお子さんは何ヵ月になりますの?見たところ…あまり大きいようには思えませんが」


もっと面白い山場でも待っていると思っていたのに、終始つまらなくてガッカリ。とりあえず暇潰しに話に乗ってあげよう。


「大きさは人それぞれでしょ。それに、お腹の子は三ヶ月に入ったばかりだからまだ大きくなくて当たり前よ」

「へぇ…三ヶ月なんですね」

「まぁ、あなたがどうしてもマークと結婚したいと言うなら考えてあげなくもないわ。そうね、子供の養育費を前払いで一括してくれればそれで構わないわ。いい条件でしょ?」

「そうですね」


ニッコリと微笑んでやれば、してやったりと言う顔をしてニタニタしている。たった数年で、貴族令嬢としての嗜みと武器でもある表情筋調整を忘れてしまったのかしら。


「でも、お子様の養育費だなんてそんな大金…私の一存ではすぐにご用意出来ませんわ。ですがマクローラン様の血を引く大切なお子様、不自由なく暮らせるよう私からも両親に相談して、必ずご用意させて頂きます」

「話が早くて助かるわ」

「ご用意は…そうですね、一週間後はいかがですか?それなら問題なくお渡しできます」

「いいわよ」

「それでは、一週間後にまたお越しください。くれぐれもお体にお気をつけくださいまし」



さて。色々準備しなくっちゃ♪♪♪



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