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【番外編】公爵令嬢の憂鬱 4
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「お待ちしておりましたわ」
一週間後、約束通りやって来たメリルリードさんはご機嫌なご様子…だったのに、私の両親も一緒に出迎えたことで表情を曇らせた。
「ごめんなさい、金額が金額だから両親にも同席してもらうことにしたの。だってほら…マクローラン様のお子様なら、それなりの金額が必要になるでしょう?」
私の言葉にパッと表情を明るくしたメリルリードさん…なんて単純なの。だから騙されて捨てられたのかしら?でも自業自得よ。
「さぁ、こちらにお掛けになって」
うふふ、楽しいわね。
「さて…メリルリードさん、先日お願いした妊娠証明書は作成してきてくださいました?」
「勿論よ、ほら」
「拝見致しますわね…あら、本当に三ヶ月になったばかりでしたのね」
「そう言ったじゃない」
「えぇ、そうですわね。でもやっぱり…疑ってしまうのも仕方ないでしょう?婚約者が他の女性との間に子供を…だなんて」
「まぁ、そうね」
わざと悲しんでいるように見せれば、勝ち誇ったような顔をされている。なるほど、人を騙すのってこういう気分ですのね…悪くないわ。
隣に座るお父様も、お母様の腰をいつも通りガッチリ抱き寄せて楽しそうで何より。でも、この件をお伝えした時は大変ご立腹だったのよね。
「この証明書、王宮医師団の発行ですのね」
「ちょうど市井での特別検診があったから申し込んだのよ。それなら間違いなく妊娠三ヶ月だと証明になるでしょ?」
「まぁ!特別診断の予約が取れましたの?かなりの倍率だと伺っておりますのに」
「運が良かったわ」
そうでしょうね。だって、あなたが確実に診察を受けられるようにクリスティアーノが手配したんだもの。受けられて当然なのよ。
「これなら間違いなく妊娠三ヶ月だな」
「えぇ、お父様。間違いないですわね」
「これから大変ね…三ヶ月だから」
「えぇ、お母様。大変ですわ」
三人でゆっくりとお茶を飲んで、そろそろ終わってしまうこの茶番劇を惜しみます。
「ところでメリルリードさん、マクローラン様とは最近いつお会いになりました?私、ここ最近お会いできてないんです…」
およよ……と泣き真似してみたら、益々勝ち誇ったようなお顔をされました。あなた本当に元貴族令嬢ですの?騙されすぎですわよ。
「私は毎日のように会ってるわ。昨夜も私の家に来てくれたの。妊娠してるって言っても求めてきて…流産しないか心配になるくらいよ」
「そうなんですね」
「それで?お金は?渡してくれればさっさと帰ってあげるわよ」
「どうしてあなたに渡す必要がありますの?」
「はぁっ!?あなたバカなの?マークの子供の為にお金を用意するって言ったじゃない!」
「えぇ、申しましたわ」
「だったら早く用意しなさいよ!」
やだやだ。元貴族だというのに、平民になるとこんなにも激昂しやすくなるのかしら。テーブルを叩くものだから、注いだばかりのお茶が溢れてしまったじゃないの。
「確かに申しましたよ…マクローラン様のお子様ならお支払する、と」
「だから!!」
「あなたが昨夜お会いしたのは、市井で警備兵をしているジョンさんてお名前の男性ですよね?」
「なっ!!なんで…」
新しい茶器でお茶を用意してくれた侍女に目でお礼を伝えて、驚愕して固まっているメリルリードさんを無視して美味しくいただく。
まだまだこれからよ?こんなことくらいで驚かないでほしいわ。
「でも、お腹の子の父親は別の殿方ですよね?たしかお名前はリチャードさん。異国から来ていた建築家…の卵みたいな方で、この王国にいらしていた際に出会われたとか。滞在中はあなたのご自宅によく出入りしていたようですが、もう別の国へと旅立たれましたよね…妊娠を知った上で」
「な、な、な……」
おバカな人。既婚者と浮気した上に捨てられて、今度は身元もよく分からない人を相手にまた妊娠して捨てられて、挙げ句の果てに元婚約者の名を使って詐欺を働く…救いようがないわね。
「その方、異国の人なんかではありませんよ?」
「はっ?」
「確かに異国の血も入っているそうですが、生まれも育ちもワンダル王国…ついでに言うなら現在もワンダル王国の民ですわ」
「……は?」
「彼、今は二つ隣の領地におりましてよ?こちらへは出稼ぎで来ていただけなので、もうご家族の元へお帰りになってますわ」
「……家族?」
「えぇ、奥様と三人の可愛いお子様と一緒に、幸せそうにお暮らしとのことですよ」
「え……でも…離婚するって……」
「ご存知でしたのね。妻とは離婚するなどという言葉…不貞を働く殿方の常套句ですのに」
チラリとお父様を見れば、ブンブンと勢いよく首を横に振ってお母様を抱き締めました。もちろん分かってますわ、お父様がお母様を裏切るなどありえません。なんなら今からでも弟妹が生まれそうなほどに仲が宜しいですしね。
「私が好きって…戻ってくるって……」
「その言葉、本気で信じていらっしゃったの?」
ギロッと睨まれてしまいました。だって本当に愚かとしか思えないんですもの。
「さぞ楽しい息抜きだったんでしょうね。家族と離れて過ごす出稼ぎの地で、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる女性と過ごす時間は」
「なんですって!?」
「子供はいるが妻とは離婚も考えている、君のことが好きだ、君と暮らしたいと思っているが一度戻らなくてはならない」
「なんでそれを……」
「我が家の者が彼に直接確認しました。あなたとは出稼ぎ中の期間限定で楽しんでいたつもりがまさか妊娠するとは思っていなかった、悪いことをしたとは思っているが自分の家族を捨てるなどありえない、申し訳ない…だそうです」
このリチャードさんも最低ですけどね、ご家族がいると知っていながら略奪を企むなんて…しかも二度目ですよ?信じられませんわ。
「嘘よ…そんなの……」
「それから、お腹の子を引き取ることも出来ないと書面で頂いております。現在のお暮らしも決して裕福なものではなく、今後も出稼ぎに回られるそうですが…もう二度と過ちは犯さないと奥様に土下座されたそうです。ちなみに、今後はご長男が監視役として出稼ぎに伴うんだとか」
「そんな…もう…戻ってこない……」
「出稼ぎに出るくらいですので、たとえ出るところに出ても慰謝料や養育費は取れません」
「なんでよ!」
「お忘れですか?あなたも彼も平民なのですよ?平民同士の場合、支払い能力がなければ請求することはできません」
仮に彼が貴族であれば、強制的に支払わせるか労働を課すことも可能だったのですけどね。
「貴族……そうだわ!お父様に頼めば!」
「伯爵は『我が家に娘などいない』と仰っておりますので…それは難しいかと」
「そんな…じゃぁ……じゃぁマークをちょうだい!あなたならいくらでも他にいるでしょう?私にはもうマークしかいないの!それに元々私の婚約者なのよ!返しなさいよ!」
あらあら、話が戻りましたわね。お父様からも怒りのオーラが漂ってきています。
「なぜ、あなたにお返し…などおかしな事をしなければなりませんの?そんなの嫌に決まってますわ。マクローラン様だってお断りです」
「そんなの分からないじゃない!!」
「お断りだ」
あら、いいタイミング。
「お帰りなさい、マクローラン様」
「ただいま。会いたかったよ、エマ」
きゃっ♪頬にキスされてしまったわ♪いつもならお父様が脱兎の如く引き剥がしにくるのに、今日は特別なんですかね。おとなしいです。
「マーク!久しぶりね!」
メリルリードさんは嬉しそうにマクローラン様へ抱き着こうとして…侍女達に阻まれてしまいました、残念!!
私達も両親のように寄り添って座り、メリルリードさんは顔を真っ赤にして…怒っているのか照れているのか…照れてるんですね、やたら髪の毛を手櫛で整えておりますもの。
「マーク、あのね、」
「悪いが、その名を呼ばないでくれ。君はもう俺の婚約者でもなんでもないし、気分が悪い」
「そんな…っ、でも、あの、」
「それに、他の男と作った子供を俺との間に出来た子供などと偽り、挙げ句公爵家に金銭を要求だなんて…どれだけの罪を犯せば気が済むんだ?」
「罪だなんて…あなたが私と結婚してくれれば何も問題はないでしょう?ね?」
この状況でどうして頬を染めることが出来るのでしょう?ある意味で素晴らしい神経だわ。
「ありえない」
「どうして?私達、幼い頃からずっと仲良くしてきたじゃない…大人になってからも…ずっと仲良くて…大人のお付き合いをしていたわ」
思わず体がピクッと動いてしまいました。ショック…とかではなく、怒りから。
この人は、どこまでマクローラン様の事を馬鹿にするつもりなんでしょう。
沸々と怒りを感じていたら、腰に手が回されて引き寄せられました。まるで両親のように。
「誤解を生む発言はやめてくれ。幼い頃に仲が良かったと言うが、婚約者として気遣うのは当たり前の事だ。大人になってからは、仲良くどころか距離しかなかったと記憶している。エスコート以外で身体的接触はないし、俺は基本的に国外を飛び回っていた」
「でも!」
「そもそも、君を愛したこともない。婚約者として誠実でいなくてはと思って接していたが、婚前交渉を求めて、あまつさえ媚薬まで使って迫るような女性…嫌悪感しかない」
媚薬…それは初耳ですが、興味があるワードにソワソワしそうになりました。でも、マクローラン様…あまり積極的な女性はお好きでないのね…気を付けないと。今さらな気もしますが。
「貴族、それも王国筆頭公爵家に対しての恐喝、脅迫、詐欺、侯爵家次男であり次期公爵婿に対して妊娠詐称、脅迫、恐喝…その他にもあるが、これだけでも十分だろう」
「……なにを言ってるの?そんなの…だから…あなたが私と結婚すればいいって……」
「お断りだ」
「そ…その女だって浮気してるのよ!本当は王太子と出来てるって噂知らないの!?」
「馬鹿馬鹿しい」
あら、そう言いながら腰に回る手に力が入りました…嫉妬かしら。
「平民が貴族相手に罪を犯せばどうなるか、まさかそれすらも忘れたわけじゃないだろう?」
メリルリードさん、ここにきて初めて顔色を青くさせました。さすがに覚えていらっしゃったようですわね……今さらですけど。
「わた……わたしは別に……ただあなたを愛してるから…だから…」
「気持ち悪い」
「そんなっ…ひどいわ!!」
「他の男と…しかも種違いでふたりも子供を作っておきながら、どの口が言うんだ?二度と俺達の前にその姿を見せるな」
タイミングよく衛兵が入ってきて、メリルリードさんは連行されていきます。
愛してるだの助けてだの、色んな事を仰っておりますが、あっという間に去っていきました。もう二度と…それこそ本当に二度とお会いすることはないでしょう。お元気で。
「……おい、近すぎるぞ」
お父様のお小言が復活してしまいました。
一週間後、約束通りやって来たメリルリードさんはご機嫌なご様子…だったのに、私の両親も一緒に出迎えたことで表情を曇らせた。
「ごめんなさい、金額が金額だから両親にも同席してもらうことにしたの。だってほら…マクローラン様のお子様なら、それなりの金額が必要になるでしょう?」
私の言葉にパッと表情を明るくしたメリルリードさん…なんて単純なの。だから騙されて捨てられたのかしら?でも自業自得よ。
「さぁ、こちらにお掛けになって」
うふふ、楽しいわね。
「さて…メリルリードさん、先日お願いした妊娠証明書は作成してきてくださいました?」
「勿論よ、ほら」
「拝見致しますわね…あら、本当に三ヶ月になったばかりでしたのね」
「そう言ったじゃない」
「えぇ、そうですわね。でもやっぱり…疑ってしまうのも仕方ないでしょう?婚約者が他の女性との間に子供を…だなんて」
「まぁ、そうね」
わざと悲しんでいるように見せれば、勝ち誇ったような顔をされている。なるほど、人を騙すのってこういう気分ですのね…悪くないわ。
隣に座るお父様も、お母様の腰をいつも通りガッチリ抱き寄せて楽しそうで何より。でも、この件をお伝えした時は大変ご立腹だったのよね。
「この証明書、王宮医師団の発行ですのね」
「ちょうど市井での特別検診があったから申し込んだのよ。それなら間違いなく妊娠三ヶ月だと証明になるでしょ?」
「まぁ!特別診断の予約が取れましたの?かなりの倍率だと伺っておりますのに」
「運が良かったわ」
そうでしょうね。だって、あなたが確実に診察を受けられるようにクリスティアーノが手配したんだもの。受けられて当然なのよ。
「これなら間違いなく妊娠三ヶ月だな」
「えぇ、お父様。間違いないですわね」
「これから大変ね…三ヶ月だから」
「えぇ、お母様。大変ですわ」
三人でゆっくりとお茶を飲んで、そろそろ終わってしまうこの茶番劇を惜しみます。
「ところでメリルリードさん、マクローラン様とは最近いつお会いになりました?私、ここ最近お会いできてないんです…」
およよ……と泣き真似してみたら、益々勝ち誇ったようなお顔をされました。あなた本当に元貴族令嬢ですの?騙されすぎですわよ。
「私は毎日のように会ってるわ。昨夜も私の家に来てくれたの。妊娠してるって言っても求めてきて…流産しないか心配になるくらいよ」
「そうなんですね」
「それで?お金は?渡してくれればさっさと帰ってあげるわよ」
「どうしてあなたに渡す必要がありますの?」
「はぁっ!?あなたバカなの?マークの子供の為にお金を用意するって言ったじゃない!」
「えぇ、申しましたわ」
「だったら早く用意しなさいよ!」
やだやだ。元貴族だというのに、平民になるとこんなにも激昂しやすくなるのかしら。テーブルを叩くものだから、注いだばかりのお茶が溢れてしまったじゃないの。
「確かに申しましたよ…マクローラン様のお子様ならお支払する、と」
「だから!!」
「あなたが昨夜お会いしたのは、市井で警備兵をしているジョンさんてお名前の男性ですよね?」
「なっ!!なんで…」
新しい茶器でお茶を用意してくれた侍女に目でお礼を伝えて、驚愕して固まっているメリルリードさんを無視して美味しくいただく。
まだまだこれからよ?こんなことくらいで驚かないでほしいわ。
「でも、お腹の子の父親は別の殿方ですよね?たしかお名前はリチャードさん。異国から来ていた建築家…の卵みたいな方で、この王国にいらしていた際に出会われたとか。滞在中はあなたのご自宅によく出入りしていたようですが、もう別の国へと旅立たれましたよね…妊娠を知った上で」
「な、な、な……」
おバカな人。既婚者と浮気した上に捨てられて、今度は身元もよく分からない人を相手にまた妊娠して捨てられて、挙げ句の果てに元婚約者の名を使って詐欺を働く…救いようがないわね。
「その方、異国の人なんかではありませんよ?」
「はっ?」
「確かに異国の血も入っているそうですが、生まれも育ちもワンダル王国…ついでに言うなら現在もワンダル王国の民ですわ」
「……は?」
「彼、今は二つ隣の領地におりましてよ?こちらへは出稼ぎで来ていただけなので、もうご家族の元へお帰りになってますわ」
「……家族?」
「えぇ、奥様と三人の可愛いお子様と一緒に、幸せそうにお暮らしとのことですよ」
「え……でも…離婚するって……」
「ご存知でしたのね。妻とは離婚するなどという言葉…不貞を働く殿方の常套句ですのに」
チラリとお父様を見れば、ブンブンと勢いよく首を横に振ってお母様を抱き締めました。もちろん分かってますわ、お父様がお母様を裏切るなどありえません。なんなら今からでも弟妹が生まれそうなほどに仲が宜しいですしね。
「私が好きって…戻ってくるって……」
「その言葉、本気で信じていらっしゃったの?」
ギロッと睨まれてしまいました。だって本当に愚かとしか思えないんですもの。
「さぞ楽しい息抜きだったんでしょうね。家族と離れて過ごす出稼ぎの地で、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる女性と過ごす時間は」
「なんですって!?」
「子供はいるが妻とは離婚も考えている、君のことが好きだ、君と暮らしたいと思っているが一度戻らなくてはならない」
「なんでそれを……」
「我が家の者が彼に直接確認しました。あなたとは出稼ぎ中の期間限定で楽しんでいたつもりがまさか妊娠するとは思っていなかった、悪いことをしたとは思っているが自分の家族を捨てるなどありえない、申し訳ない…だそうです」
このリチャードさんも最低ですけどね、ご家族がいると知っていながら略奪を企むなんて…しかも二度目ですよ?信じられませんわ。
「嘘よ…そんなの……」
「それから、お腹の子を引き取ることも出来ないと書面で頂いております。現在のお暮らしも決して裕福なものではなく、今後も出稼ぎに回られるそうですが…もう二度と過ちは犯さないと奥様に土下座されたそうです。ちなみに、今後はご長男が監視役として出稼ぎに伴うんだとか」
「そんな…もう…戻ってこない……」
「出稼ぎに出るくらいですので、たとえ出るところに出ても慰謝料や養育費は取れません」
「なんでよ!」
「お忘れですか?あなたも彼も平民なのですよ?平民同士の場合、支払い能力がなければ請求することはできません」
仮に彼が貴族であれば、強制的に支払わせるか労働を課すことも可能だったのですけどね。
「貴族……そうだわ!お父様に頼めば!」
「伯爵は『我が家に娘などいない』と仰っておりますので…それは難しいかと」
「そんな…じゃぁ……じゃぁマークをちょうだい!あなたならいくらでも他にいるでしょう?私にはもうマークしかいないの!それに元々私の婚約者なのよ!返しなさいよ!」
あらあら、話が戻りましたわね。お父様からも怒りのオーラが漂ってきています。
「なぜ、あなたにお返し…などおかしな事をしなければなりませんの?そんなの嫌に決まってますわ。マクローラン様だってお断りです」
「そんなの分からないじゃない!!」
「お断りだ」
あら、いいタイミング。
「お帰りなさい、マクローラン様」
「ただいま。会いたかったよ、エマ」
きゃっ♪頬にキスされてしまったわ♪いつもならお父様が脱兎の如く引き剥がしにくるのに、今日は特別なんですかね。おとなしいです。
「マーク!久しぶりね!」
メリルリードさんは嬉しそうにマクローラン様へ抱き着こうとして…侍女達に阻まれてしまいました、残念!!
私達も両親のように寄り添って座り、メリルリードさんは顔を真っ赤にして…怒っているのか照れているのか…照れてるんですね、やたら髪の毛を手櫛で整えておりますもの。
「マーク、あのね、」
「悪いが、その名を呼ばないでくれ。君はもう俺の婚約者でもなんでもないし、気分が悪い」
「そんな…っ、でも、あの、」
「それに、他の男と作った子供を俺との間に出来た子供などと偽り、挙げ句公爵家に金銭を要求だなんて…どれだけの罪を犯せば気が済むんだ?」
「罪だなんて…あなたが私と結婚してくれれば何も問題はないでしょう?ね?」
この状況でどうして頬を染めることが出来るのでしょう?ある意味で素晴らしい神経だわ。
「ありえない」
「どうして?私達、幼い頃からずっと仲良くしてきたじゃない…大人になってからも…ずっと仲良くて…大人のお付き合いをしていたわ」
思わず体がピクッと動いてしまいました。ショック…とかではなく、怒りから。
この人は、どこまでマクローラン様の事を馬鹿にするつもりなんでしょう。
沸々と怒りを感じていたら、腰に手が回されて引き寄せられました。まるで両親のように。
「誤解を生む発言はやめてくれ。幼い頃に仲が良かったと言うが、婚約者として気遣うのは当たり前の事だ。大人になってからは、仲良くどころか距離しかなかったと記憶している。エスコート以外で身体的接触はないし、俺は基本的に国外を飛び回っていた」
「でも!」
「そもそも、君を愛したこともない。婚約者として誠実でいなくてはと思って接していたが、婚前交渉を求めて、あまつさえ媚薬まで使って迫るような女性…嫌悪感しかない」
媚薬…それは初耳ですが、興味があるワードにソワソワしそうになりました。でも、マクローラン様…あまり積極的な女性はお好きでないのね…気を付けないと。今さらな気もしますが。
「貴族、それも王国筆頭公爵家に対しての恐喝、脅迫、詐欺、侯爵家次男であり次期公爵婿に対して妊娠詐称、脅迫、恐喝…その他にもあるが、これだけでも十分だろう」
「……なにを言ってるの?そんなの…だから…あなたが私と結婚すればいいって……」
「お断りだ」
「そ…その女だって浮気してるのよ!本当は王太子と出来てるって噂知らないの!?」
「馬鹿馬鹿しい」
あら、そう言いながら腰に回る手に力が入りました…嫉妬かしら。
「平民が貴族相手に罪を犯せばどうなるか、まさかそれすらも忘れたわけじゃないだろう?」
メリルリードさん、ここにきて初めて顔色を青くさせました。さすがに覚えていらっしゃったようですわね……今さらですけど。
「わた……わたしは別に……ただあなたを愛してるから…だから…」
「気持ち悪い」
「そんなっ…ひどいわ!!」
「他の男と…しかも種違いでふたりも子供を作っておきながら、どの口が言うんだ?二度と俺達の前にその姿を見せるな」
タイミングよく衛兵が入ってきて、メリルリードさんは連行されていきます。
愛してるだの助けてだの、色んな事を仰っておりますが、あっという間に去っていきました。もう二度と…それこそ本当に二度とお会いすることはないでしょう。お元気で。
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