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【番外編】婿の仕合わせ 3
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往復で最短十日の道のり。カンビジス王国との交渉自体は三日間だが、近年目覚ましい発展を遂げている公共事業の視察が五日間。
「さっさと終わらせて帰る」
「ご無理はなさらないでくださいね。道中お気を付けて…お帰りをお待ちしております」
昨夜、仕事が終わるとなぜか客間へと連れていかれ、扉を開けるとエマがいた。
『明朝早いからと気を使ってくださったの』
どうやら新婚であることを気遣い、クリスが用意してくれたらしい。なかなか出来る奴だ。
お陰様でギリギリまでエマと愛し合えた。
俺は殆ど寝ていないが、体も心も軽い。
「いい子で待っていてね」
「時間だ、マクローラン」
つい名残惜しくていつまでもエマの唇を啄んでいたら、護衛として付き添う第七騎士団副団長のブランドンに首根っこを掴まれた。
「邪魔するな、ブランドン」
「何が『邪魔するな』だ。さっさと乗れ」
「折角、エマがこうして見送りに来てくれているんだぞ?疲れているのに…はぁ、可愛い」
「疲れさせたのはお前だろ。いいからさっさと乗れ、もう全員準備が終わってるんだ」
可愛く手を振るエマを視界に焼き付けると、逞しく鍛えられたブランドンに馬車へ放り込まれた。
ブランドンとは昔から親交もあり、いい意味で気を使わなくて済む。今回のように長い日数を有する視察で、そのような相手がいるのといないのとでは気持ち的にも大きく違うから助かる。
馬車の中には、これまた長い付き合いであり同い年の文官ナイルズ。ちなみに二人の子持ち。
「仲良くやってるんだな」
「まぁね、エマが可愛くて仕方ない」
ちなみに元婚約者の実家を継いだ男だ。遠縁だが王宮文官として働く才覚を認められ、伯爵の養子となり家督を継いだ。
かなりの愛妻家で、奥方は三人目を妊娠中。この長旅から帰る頃には生まれている予定らしい。
「お前が結婚するとはな。しかも小さい頃からウロチョロしていたエマニエル嬢と」
「それだけエマの愛が大きくて深いってことだ」
確かに、当初はまだ幼いエマに恋愛感情なんて抱けるはずもなくて、恋に恋する少女がただ言っているだけとしか思えなかった。
でも、少しずつ成長して…それこそ色んな意味で成長する彼女を見ていると、むしろ訪ねてきてくれるのを楽しみに待つようにもなって。
「まぁ、お前が惚れてることは気付いてたけど」
「は?」
「だってお前、結構早い段階からエマニエル嬢の姿をよく目で追っていたじゃないか。差し入れとか持ってくると嬉しそうに……え?自覚なし?」
無自覚だ。それなりに意識していたのは認めるけれど…完全なる無自覚。
「嘘だろ…周りは結構気付いていたぞ?それなのに頷かないのは、よほど元婚約者に裏切られた傷が深いのか、まさかの未練ありなのかとさえ噂されていたのに」
「未練なんてあるわけないだろ」
「そんなに怖い顔するなよ。お前を知る奴はちゃんと分かってる。ただ、そういう邪推をして面白おかしく噂する奴もいるってことだ」
「最悪だ…エマの耳に入らなければいいが」
「たとえ入ったとしても、その相手とされる女はもういなくなるんだ…気にすることはないさ」
「……そうだな」
妊娠中のメリルリードは現在投獄されており、その罪の重さから出産後に処される予定。ひとり家に残されていた子供と一緒に、これから生まれる子供も遠く離れた孤児院へと預けられる。
「それにしても…お前はモテるな」
「望んでない」
ナイルズが言うのが今回の交渉に付随するものだと分かるが、だからこそ面白くない。俺はエマさえいればいいんだから。
「……ちょっと寝る」
夜通しエマを可愛がったせいで眠気に襲われ、宿に着くまでぐっすりと寝てしまった。
* * * * * *
「すまないな」
眉を下げて困ったような顔をするカンビジス王国の王太子…の隣に、この場に参加する必要のない人物が腰を下ろした。
「お久し振り、マクローラン様」
「……お久し振りです、シャルロット王女殿下」
「シャルと呼んでって言ってるのに」
ぷくっと頬を膨らませるが可愛くない。俺にとって可愛いと思えるのはエマだけだ。
「一国の王女殿下を、愛称でお呼びすることなど出来ません」
「つれないわね…そんなところもいいけど」
うざい。ここは交渉の場なのだ、脳内お花畑の女がいていい場所じゃない。
「シャル、今は大切な話し合いの最中だ。余計なことを言うなら出ていきなさい」
「あら、それなら尚更いるべきだわ。だって私の結婚が絡むんですもの」
「……どういう意味だ?」
眉を寄せた王太子の反応を見るに、やはりあの書類に追記されていた文言は、王女の指示を受けたであろう文官によるものか。
呆れる。
「以前からお兄様にはお願いしているでしょう?私、マクローラン様と結婚したいの」
「彼はもう結婚している」
「あら、まだしたばかりで子供もいないわよ。それにお相手は公爵家の跡継ぎなんでしょう?婿入りだなんて相応しくないもの、私と結婚してカンビジスで爵位を得て当主となる方がいいわ。マクローラン様なら公爵も可能でしょう?」
なぜそこでチラチラと俺を見るんだ王太子!
「お断りします。私は妻をこよなく愛しておりますので、離縁などありえません」
「でも、私と結婚するなら今すぐにでもこの条約は無効とすることも出来るのよ?あと五年も税収を縛られるなんて…ワンダル王国にとっても悪い話じゃないと思うんだけど」
「あと五年で解消となります。確かに本来得るはずの税収や課税がないことは惜しいですが、それで困窮するような国でもありません」
あの愚かな男が玉座についていれば、そうなっていたかもしれないが。
「奥様は上司の娘で一回りも年下なんでしょ?それでは気を使うだけでしょうし…色々と満足出来ないのではなくて?まだ十八の小娘ですもの、大人のマクローラン様には相応しくありませんわ」
こう言うことか。以前エマが言っていた、俺と同年代の女に罵倒されたということを思い出した。
『小娘、つるぺた、女としての魅力なし、相手にされるわけがない、その他もろもろ!』
思わず笑みが溢れる。
小娘…なのは年齢的に仕方のないことだが、つるぺただったのは幼かった頃の話で、今は女性として魅力的すぎる膨らみを持っているし、俺と釣り合いたいからと努力したことで優秀さも兼ね備えている。いくら公爵家を継ぐ者だからとして、生半可な努力では母国語と共通語以外に六か国語も操れるようにはなれない。
「ご心配なく。私と妻は深く愛し合っておりますし、義両親との仲も良好なものです」
「でも、若すぎるわ」
「妻は年齢にそぐわぬ知性と教養を有しており、むしろそれらは同年代の女性を凌ぐもの。それでいてまだ十八…私には勿体ないほどですが、とても愛らしくひたむきな思いを向けてくれて…日々幸せを感じています」
若くて可愛くて賢いんだぞ!と含んで言ってやれば、王女の顔が歪んだ。
「っ……でも、私と結婚すれば婿ではなく当主になれるのよ?」
「私は外交官としての仕事に誇りを持っており、妻もその思いは尊重してくれています。当主ではなく婿だからこそ、今までのように精力的に国外を回ることも出来る」
「下賜に伴う持参金も多いわ!」
「妻の実家はワンダル王国の筆頭公爵家。保有する財産は小国の王家に匹敵します。それに、私自身も長い独身時代に築いたものが充分にありますので問題ありません」
たとえそんなものが無くてもエマと離縁などあり得ないけどな!!と、怒鳴りたくなるのを飲み込み王太子に視線を向ける。いつまでこの茶番を続けるつもりだ?
「……シャル、さがれ」
「お兄様っ!!」
「嫁ぎ先が見つからないのは、そもそもがお前自身に問題があるせいだと常々言ってきたはずだ。婚約者を蔑ろにして裏切り、幾つもの婚約を壊してきたお前に碌な縁談など来ない」
「それはっ……」
「マクローラン殿と縁があるなど…俄には信じられなかったが、間違いないと言うから同席させてみればこのザマだ」
「マクローラン様は王女である私に遠慮しているだけですわ!!」
「話を聞いていたのか?彼は奥方を愛しておられると言ったんだ、お前など必要とされていない。それどころか条約にまで口を出して…父上に知られればどうなるか分かっているんだろうな?」
カンビジス国王はワンダル王国王妃の兄であり、前国王と同じく嘗て受けた屈辱を決して許していない。そのような事があったことも相成り、不実な行いを嫌悪している。
なのに自らの婚約を軽んじ、見目麗しいとされる男を見付けては奔放に振る舞う王女。頭を抱えているというのは割りと知られている事実だ。
「お前にはあとで話がある。とにかく下がれ」
ぎゃあぎゃあと騒ぎながら、強制退場。
「すまなかった」
「やめてください、謝罪など。私は愛する妻との生活と未来を邪魔さえされなければ構いません」
もしも邪魔するというのなら容赦しないが。
「アレはマハイルの王太子へ嫁がせる」
「マハイル…ですか」
大陸の果てにあるマハイル王国は、ハーレムを有する国だ。国王は二十人ほど、王太子も既に十人を超す愛人を抱えていたはず。
「問題のある者も、見目さえ良ければ喜んで受け入れている。子を成すことはないが、死ぬまで後宮で面倒を見てもらえる」
「……そうですね」
マハイルにとってのハーレムは、王家所有の娼婦館といったところ。子供が出来ないように処置された女性達が囲われ、主である王や王太子だけではなく王族男性も訪れる。
まぁ、あの王女にはピッタリだろう。
「それで、条約についてだが────」
漸く始まった交渉は滞りなく進み、その後の視察も無事に終わらせることが出来た。
滞在中、謹慎されているはずの王女が俺の部屋に忍び込もうとしたり、やたらと食事やお茶には媚薬を盛られたりもしたが。
「重ね重ね申し訳ない」
さすがに頭は下げないものの、謝ざるを得ない状況に王太子の疲労が見える。
「まさか侍女まで……」
王女は軟禁、文官は左遷…と対応していたが、来賓担当の侍女もやらかしてくれた。
「私も、流石に驚きました」
帰国となる朝を迎えて目覚めると、服を脱いで裸となった侍女が寝台に乗り上げていた。
やたらと媚薬を盛っていたのもこの侍女で、あわよくばと思っていたらしい。連行される際、連れていって欲しいと叫んでいたが、なぜ連れて帰らなければならないんだ。ありえない。
「叔母上に宜しく伝えてくれ」
「畏まりました」
ドタバタの訪問となったが、カンビジスでしか手に入らない特産品をエマへの土産として大量に購入出来たし、あとは帰るだけ。
媚薬のせいでやたらと自慰をする羽目にもなったし、早く抱きたくて仕方ない。
「行くぞ、マクローラン」
「あぁ」
来た時と同じくナイルズと共に馬車へ乗り込み、五日かかる帰路を走り出した。
「さっさと終わらせて帰る」
「ご無理はなさらないでくださいね。道中お気を付けて…お帰りをお待ちしております」
昨夜、仕事が終わるとなぜか客間へと連れていかれ、扉を開けるとエマがいた。
『明朝早いからと気を使ってくださったの』
どうやら新婚であることを気遣い、クリスが用意してくれたらしい。なかなか出来る奴だ。
お陰様でギリギリまでエマと愛し合えた。
俺は殆ど寝ていないが、体も心も軽い。
「いい子で待っていてね」
「時間だ、マクローラン」
つい名残惜しくていつまでもエマの唇を啄んでいたら、護衛として付き添う第七騎士団副団長のブランドンに首根っこを掴まれた。
「邪魔するな、ブランドン」
「何が『邪魔するな』だ。さっさと乗れ」
「折角、エマがこうして見送りに来てくれているんだぞ?疲れているのに…はぁ、可愛い」
「疲れさせたのはお前だろ。いいからさっさと乗れ、もう全員準備が終わってるんだ」
可愛く手を振るエマを視界に焼き付けると、逞しく鍛えられたブランドンに馬車へ放り込まれた。
ブランドンとは昔から親交もあり、いい意味で気を使わなくて済む。今回のように長い日数を有する視察で、そのような相手がいるのといないのとでは気持ち的にも大きく違うから助かる。
馬車の中には、これまた長い付き合いであり同い年の文官ナイルズ。ちなみに二人の子持ち。
「仲良くやってるんだな」
「まぁね、エマが可愛くて仕方ない」
ちなみに元婚約者の実家を継いだ男だ。遠縁だが王宮文官として働く才覚を認められ、伯爵の養子となり家督を継いだ。
かなりの愛妻家で、奥方は三人目を妊娠中。この長旅から帰る頃には生まれている予定らしい。
「お前が結婚するとはな。しかも小さい頃からウロチョロしていたエマニエル嬢と」
「それだけエマの愛が大きくて深いってことだ」
確かに、当初はまだ幼いエマに恋愛感情なんて抱けるはずもなくて、恋に恋する少女がただ言っているだけとしか思えなかった。
でも、少しずつ成長して…それこそ色んな意味で成長する彼女を見ていると、むしろ訪ねてきてくれるのを楽しみに待つようにもなって。
「まぁ、お前が惚れてることは気付いてたけど」
「は?」
「だってお前、結構早い段階からエマニエル嬢の姿をよく目で追っていたじゃないか。差し入れとか持ってくると嬉しそうに……え?自覚なし?」
無自覚だ。それなりに意識していたのは認めるけれど…完全なる無自覚。
「嘘だろ…周りは結構気付いていたぞ?それなのに頷かないのは、よほど元婚約者に裏切られた傷が深いのか、まさかの未練ありなのかとさえ噂されていたのに」
「未練なんてあるわけないだろ」
「そんなに怖い顔するなよ。お前を知る奴はちゃんと分かってる。ただ、そういう邪推をして面白おかしく噂する奴もいるってことだ」
「最悪だ…エマの耳に入らなければいいが」
「たとえ入ったとしても、その相手とされる女はもういなくなるんだ…気にすることはないさ」
「……そうだな」
妊娠中のメリルリードは現在投獄されており、その罪の重さから出産後に処される予定。ひとり家に残されていた子供と一緒に、これから生まれる子供も遠く離れた孤児院へと預けられる。
「それにしても…お前はモテるな」
「望んでない」
ナイルズが言うのが今回の交渉に付随するものだと分かるが、だからこそ面白くない。俺はエマさえいればいいんだから。
「……ちょっと寝る」
夜通しエマを可愛がったせいで眠気に襲われ、宿に着くまでぐっすりと寝てしまった。
* * * * * *
「すまないな」
眉を下げて困ったような顔をするカンビジス王国の王太子…の隣に、この場に参加する必要のない人物が腰を下ろした。
「お久し振り、マクローラン様」
「……お久し振りです、シャルロット王女殿下」
「シャルと呼んでって言ってるのに」
ぷくっと頬を膨らませるが可愛くない。俺にとって可愛いと思えるのはエマだけだ。
「一国の王女殿下を、愛称でお呼びすることなど出来ません」
「つれないわね…そんなところもいいけど」
うざい。ここは交渉の場なのだ、脳内お花畑の女がいていい場所じゃない。
「シャル、今は大切な話し合いの最中だ。余計なことを言うなら出ていきなさい」
「あら、それなら尚更いるべきだわ。だって私の結婚が絡むんですもの」
「……どういう意味だ?」
眉を寄せた王太子の反応を見るに、やはりあの書類に追記されていた文言は、王女の指示を受けたであろう文官によるものか。
呆れる。
「以前からお兄様にはお願いしているでしょう?私、マクローラン様と結婚したいの」
「彼はもう結婚している」
「あら、まだしたばかりで子供もいないわよ。それにお相手は公爵家の跡継ぎなんでしょう?婿入りだなんて相応しくないもの、私と結婚してカンビジスで爵位を得て当主となる方がいいわ。マクローラン様なら公爵も可能でしょう?」
なぜそこでチラチラと俺を見るんだ王太子!
「お断りします。私は妻をこよなく愛しておりますので、離縁などありえません」
「でも、私と結婚するなら今すぐにでもこの条約は無効とすることも出来るのよ?あと五年も税収を縛られるなんて…ワンダル王国にとっても悪い話じゃないと思うんだけど」
「あと五年で解消となります。確かに本来得るはずの税収や課税がないことは惜しいですが、それで困窮するような国でもありません」
あの愚かな男が玉座についていれば、そうなっていたかもしれないが。
「奥様は上司の娘で一回りも年下なんでしょ?それでは気を使うだけでしょうし…色々と満足出来ないのではなくて?まだ十八の小娘ですもの、大人のマクローラン様には相応しくありませんわ」
こう言うことか。以前エマが言っていた、俺と同年代の女に罵倒されたということを思い出した。
『小娘、つるぺた、女としての魅力なし、相手にされるわけがない、その他もろもろ!』
思わず笑みが溢れる。
小娘…なのは年齢的に仕方のないことだが、つるぺただったのは幼かった頃の話で、今は女性として魅力的すぎる膨らみを持っているし、俺と釣り合いたいからと努力したことで優秀さも兼ね備えている。いくら公爵家を継ぐ者だからとして、生半可な努力では母国語と共通語以外に六か国語も操れるようにはなれない。
「ご心配なく。私と妻は深く愛し合っておりますし、義両親との仲も良好なものです」
「でも、若すぎるわ」
「妻は年齢にそぐわぬ知性と教養を有しており、むしろそれらは同年代の女性を凌ぐもの。それでいてまだ十八…私には勿体ないほどですが、とても愛らしくひたむきな思いを向けてくれて…日々幸せを感じています」
若くて可愛くて賢いんだぞ!と含んで言ってやれば、王女の顔が歪んだ。
「っ……でも、私と結婚すれば婿ではなく当主になれるのよ?」
「私は外交官としての仕事に誇りを持っており、妻もその思いは尊重してくれています。当主ではなく婿だからこそ、今までのように精力的に国外を回ることも出来る」
「下賜に伴う持参金も多いわ!」
「妻の実家はワンダル王国の筆頭公爵家。保有する財産は小国の王家に匹敵します。それに、私自身も長い独身時代に築いたものが充分にありますので問題ありません」
たとえそんなものが無くてもエマと離縁などあり得ないけどな!!と、怒鳴りたくなるのを飲み込み王太子に視線を向ける。いつまでこの茶番を続けるつもりだ?
「……シャル、さがれ」
「お兄様っ!!」
「嫁ぎ先が見つからないのは、そもそもがお前自身に問題があるせいだと常々言ってきたはずだ。婚約者を蔑ろにして裏切り、幾つもの婚約を壊してきたお前に碌な縁談など来ない」
「それはっ……」
「マクローラン殿と縁があるなど…俄には信じられなかったが、間違いないと言うから同席させてみればこのザマだ」
「マクローラン様は王女である私に遠慮しているだけですわ!!」
「話を聞いていたのか?彼は奥方を愛しておられると言ったんだ、お前など必要とされていない。それどころか条約にまで口を出して…父上に知られればどうなるか分かっているんだろうな?」
カンビジス国王はワンダル王国王妃の兄であり、前国王と同じく嘗て受けた屈辱を決して許していない。そのような事があったことも相成り、不実な行いを嫌悪している。
なのに自らの婚約を軽んじ、見目麗しいとされる男を見付けては奔放に振る舞う王女。頭を抱えているというのは割りと知られている事実だ。
「お前にはあとで話がある。とにかく下がれ」
ぎゃあぎゃあと騒ぎながら、強制退場。
「すまなかった」
「やめてください、謝罪など。私は愛する妻との生活と未来を邪魔さえされなければ構いません」
もしも邪魔するというのなら容赦しないが。
「アレはマハイルの王太子へ嫁がせる」
「マハイル…ですか」
大陸の果てにあるマハイル王国は、ハーレムを有する国だ。国王は二十人ほど、王太子も既に十人を超す愛人を抱えていたはず。
「問題のある者も、見目さえ良ければ喜んで受け入れている。子を成すことはないが、死ぬまで後宮で面倒を見てもらえる」
「……そうですね」
マハイルにとってのハーレムは、王家所有の娼婦館といったところ。子供が出来ないように処置された女性達が囲われ、主である王や王太子だけではなく王族男性も訪れる。
まぁ、あの王女にはピッタリだろう。
「それで、条約についてだが────」
漸く始まった交渉は滞りなく進み、その後の視察も無事に終わらせることが出来た。
滞在中、謹慎されているはずの王女が俺の部屋に忍び込もうとしたり、やたらと食事やお茶には媚薬を盛られたりもしたが。
「重ね重ね申し訳ない」
さすがに頭は下げないものの、謝ざるを得ない状況に王太子の疲労が見える。
「まさか侍女まで……」
王女は軟禁、文官は左遷…と対応していたが、来賓担当の侍女もやらかしてくれた。
「私も、流石に驚きました」
帰国となる朝を迎えて目覚めると、服を脱いで裸となった侍女が寝台に乗り上げていた。
やたらと媚薬を盛っていたのもこの侍女で、あわよくばと思っていたらしい。連行される際、連れていって欲しいと叫んでいたが、なぜ連れて帰らなければならないんだ。ありえない。
「叔母上に宜しく伝えてくれ」
「畏まりました」
ドタバタの訪問となったが、カンビジスでしか手に入らない特産品をエマへの土産として大量に購入出来たし、あとは帰るだけ。
媚薬のせいでやたらと自慰をする羽目にもなったし、早く抱きたくて仕方ない。
「行くぞ、マクローラン」
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