(完結)僕の婚約者は能面令嬢??

Ringo

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【番外編】騎士の冀幸 2

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「聞いてますの?」

「……あぁ、聞いてる」


月に一度と決められた婚約者とのお茶会は、俺にとって鍛練よりも苦行に思える。どこそこの令嬢がどうしたとか、どこそこの令嬢が自分より高価な宝石を身に付けていたとか、口を開けば誰かを悪く言うばかりの婚約者の話は、聞いていて楽しいものではない。


『親友に漸く出来た娘を貰ってやりたい』


そんな祖父の一言で決まった俺の未来。

婚約が結ばれたのは八歳の時で、初めての顔合わせから俺はあまり好ましい印象を持てなかった。

やたらと着飾り、八歳だというのにしっかりと施された化粧もどこか不快に感じて、舐めるように向けられる視線から逃げ出したくなったほど。

両親も微妙な顔をしていたが、それでも家族に関わる事柄の権限を持つ祖父には逆らうことは出来ず…俺の意思など関係なく婚約は成立。

それから五年、ひたすら苦行に耐えている。

派手を好んで着飾る厚化粧女との結婚は回避出来ず、ゆくゆくは子を儲けなくてはならない……なんだそれ、地獄か。

祖父の親友は前妻との間に子は出来ず、二回り下の後妻を娶って漸く子に恵まれた。年下妻を溺愛する老伯爵は娘に対しても甘く、貴族令嬢としての教育を『厳しいのは嫌い』と言われてただ贅沢をさせている状況。

そのせいでマナーもなっておらず、将来を悲観する俺の両親から家庭教師の派遣を提案するも、当の本人が『私にそんな暇はありませんわ』と取り合わない。

どこが忙しいんだ、化粧と買い物しか興味などないくせに…と文句を言いたくなる。


「ところで学園はどうですの?」

「楽しく過ごしている」


愛想笑いやご機嫌取りをするのも疲れてしまい、素っ気ない態度を取るようになったのはいつからだったか…もう覚えていないほど前から、婚約者に笑顔を向けることはなくなった。

誰かの悪口か、流行のドレスや宝飾品の話しか出来ないのもつまらない。別に俺についても大した興味もないのだから構わないだろう…と思ったのも要因のひとつだ。

興味があるのは俺の見た目や侯爵令息という肩書きで、その為にしている努力など見も聞きもしない。そんな相手と結婚生活を送らなくてはならないなど…考えただけで息が詰まる。


「やっぱり私も通えばよかったかしら」


そもそも頭が悪いんだから入れるわけがない。どうせ男にチヤホヤされたいだけだろうに。


「毎日多くの課題に追われて大変だから、君は通わなくて正解だったんじゃないか」

「そうなの?それは確かに嫌だわ。私は難しい勉強よりも社交に力を入れたいもの」


その社交だって、頭が悪ければ話にもついていけなくなるというのに…あまりのバカさ加減に、この婚約を結ばせた祖父に殺意すら沸いてくる。


「でも、今度学園でお茶会があるのよね。普段はお会いしない人もいるし、楽しみだわ」

「……そうだな」


年に一度、貴族子息令嬢なら年齢や在籍に限らず参加が許される学園主催のお茶会だが…むしろ俺が辞退したい。

婚約者を伴う場合はエスコートが必須となるし、用意される席も隣同士。

……ふとアナの笑顔が浮かんだ。

学園の生徒であるアナは当然のことながら参加するが、友人と過ごすと言っていた。


「お茶会のドレスも仕立て終わりましたのよ」

「あまり着飾ってくれるな、目立つ」

「あら、焼きもちですか?」


思わず睨み付けそうになった。

まだ夜会への参加は認められていないが、婚約者はやたらとお茶会に出掛けている。本人曰く『次期侯爵夫人として必要』らしいが、むしろ評判を下げる一方なのではないか…事実、あまりよろしくない噂が流れてくる。

その事を、領地に引っ込んでいる祖父に伝えるも取り合ってくれない。


『まだ若く幼いのだから仕方あるまい。娘は母親を手本に覚えるものだ、これから淑女としていくらでも成長するであろうよ』


あの後妻を知っていてそう言うのだから、耄碌しているのではと疑ってしまう。娼婦かと思うような露出度のドレスを好み、旦那以外にもしなを作るような母親がどんな手本になるって言うんだ。

しかしそんな俺の憂いなど気付かない婚約者は予想通りに母親を手本とし、十三歳という年齢に相応しくない露出高めのドレスを好んで年頃の合う男達にしなを作って近付く。

十三歳ともなれば周りも殆どが婚約者持ち。それなのにやたらと体を寄せ、無駄に成長した胸を押し付けているのを幾度となく見かけている。


「当日は準備があるから迎えにはいけない」


本来なら婚約者がいない者か、いても遠方で参加が叶わない者がする準備。それにあえて立候補したことは言わない。




* ** * * *




お茶会を始めるにあたり、多くの学生が婚約者を伴い会場入りした。言わずもがな、俺も婚約者であるソフィアをエスコートしている。

予め決められた席次のテーブルを囲むのは全員婚約者持ちで、周辺も同様なことに心なし安堵してしまう。


「ねぇ、あの子…例の子よね?」


俺の意見などひとつも取り入れていないドレスと宝飾を身に纏うソフィアが向ける視線を追えば、そこにいたのは友人と談笑するアナ。


「こんなところでやめろ」


小さく注意するが、ソフィアは聞かず。せめてもの救いは、扇で口元を隠して俺だけに聞こえるようにしていることくらい。


「以前聞いた噂と違ってだいぶマシになったようだけれど…あんな事があった家の娘じゃ碌な嫁ぎ先もないわね」


そう言う口元は笑っている。人を見下すしか脳がなく、己の愚かさには気付きもしない。俺が不機嫌になったことも気付くことはなく、呑気に茶菓子をつまみ始める。

音を立てないでお茶を飲む作法など知らない、覚える気もないソフィアにイライラとして視線を外すと、その先にいたアナと目が合った。

ふわりと微笑むアナに胸が温かくなった直後…腕にソフィアが絡みつき、同時にアナの表情から笑みが消えて顔を背けられた。


「なぁに?あの子。人の婚約者に色目を使って」

「離れてくれ。茶会でそういったマナーは許されない、そんなことも知らないのか?」

「いいじゃない、別に。どうせ同じ年頃の集まりでしょ?婚約者なんだし誰も気にしないわ」


アナが気にする!と叫びたいが、そんな立場でもないので言えるわけもない。

同じテーブルを囲む令嬢達はソフィアの露骨な態度に眉を顰めているが、男性陣はソフィアの大胆すぎるほどにあいた胸元に視線を寄せている。

女性が流行に敏感に反応し、着飾ることを楽しむのをダメとは言わない。ただそうするにも限度と礼節が必要であるということだ。

高ければいい、大きければいいと言って選んでいる宝石が、どこで採掘されているのか、どうして価値があるのか…せめてそのくらい、と思うのは俺の驕りなのだろうか。

まだ結婚までは数年あるとはいえ、こんな気持ちの状態で跡継ぎを作るなど想像もできない。いっそのこと、プレルがいずれ生むであろう子供を養子に貰うことすら視野に入れている。

そして考えてしまう、アナのこと。

今は婚約者もいなくて…伯爵の意向で本人に任せられていると言うが、そのうち誰かと婚約するだろう。そしてその誰かと結婚して、その誰かと肌を合わせて子を作り…そんなことを考えると、胸にモヤモヤが広がって動悸がする。

愛人…そんな言葉も浮かぶが、不遇の道を歩まされていたアナをそんな立場に置きたくはない。となれば諦めるしかなく。

…やはり、祖父と話す必要があるよな。



二年後に控えているデビュタントの舞踏会…そこにエスコートしたいのはソフィアではなくアナベルなのだと…アナベルと生きていきたいのだと、そう思ってやまない。





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