(完結)僕の婚約者は能面令嬢??

Ringo

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【番外編】騎士の冀幸 3

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「そうは言ってもまだ十四だろう?前も言ったと思うが、これから如何様にもなる。それこそお前が導いてやればよかろう」


久し振りに領地から出てきた祖父に、ソフィアとの婚約を見直してほしいと直談判するもやはり取り合ってはくれない。

ソフィアと何度も接している両親からの援護射撃もあるが頑なに頷こうとせず、そのうち祖母の表情が険しくなってきた。


「婚約を解消するなど簡単な話ではありません。ですが王都を離れているわたくしでさえ、ソフィアの噂は聞き及んでおりますのよ」


その言葉に、母上が大きく頷いた。


「お義母様の言う通り、デビュタントを来年に控えた子供達が参加を許されている昼餐会での振る舞いは、いくらデビュー前とは言え目に余るものがありますわ」

「胸を露にしそうなドレスでやたらと男性達を侍らせているとか…そんな多情な娘は孫の婚約者として認められません。子を身籠っても誰の種か分かりゃしないわ」


父上は『自分は女性陣の味方だ』と示したいが為か母上にピッタリと寄り添っていて、祖父は俺達四人に責められている構図。


「侯爵夫人として必要だと説いても勉強などつまらないからと拒絶し、いつまで経っても音を立てずにお茶を飲むことも出来ず、口を大きく開けて笑う。婚約者以外の男性と親しく接するのも外聞が悪いのに、侍らせている相手にも婚約者がいるんですのよ?どう思われますの、お義父様!」


次期侯爵夫人としての教育は母上が担っている部分も多く、日頃のストレスが爆発した。


「いや、しかし……」

「あなた、何故そこまで庇いだてなさるの?親友が漸く得た娘だから安定した未来を…と仰いましたが…何かわたくしに隠しておりませんか?」


祖母の鋭い視線を受けた祖父は分かりやすく動揺を見せ、それは肯定をしたも同じ。額にはうっすら汗までかいている。

今は引退してのんびりとした生活を送っている祖父だが、嘗ては豪傑で賢明な騎士として名を馳せた人物であり、俺の目標だった。

それが今はどうだ。

女傑を地でいき、剣を振るうことに生き甲斐を得ていた祖父を支え、侯爵家に関する一切を取り仕切っていた祖母を前にたじろぐばかり。


「正直におっしゃい!!」


バチンッ!と派手な音が響き、その発生源である祖母の手に握られている扇を見ればギシギシと嫌な音を立てている。これが祖母自身の手のひらではなく祖父の頬を打ったのだとすれば、いくら祖父でも頭上に星が飛んだことだろう。


「あなた!!!」

「………すまん」

「すまんじゃありません!何をしてあんなふしだら娘との婚約を結ぶことになったのか、それを話しなさいと申し上げているんです!!」


思えばこの婚約が結ばれた時、祖母は友人と旅行に出掛けていて不在だった。戻った祖母は婚約について納得できないと祖父を責めたが、正式に文書を起こして受理されたので後の祭り。

後妻の評判についてよく知ると言う祖母だが、ソフィアは生まれも育ちも伯爵家なのだし…と様子を見ている感じだった。


「伯爵が可愛がっていた娼婦を身請けし、後妻に迎え入れる為にどこぞの子爵の養女にさせたのは有名な話。しかもその子爵も後妻の客だったと言うじゃありませんか」


……知らなかった。両親の表情を見れば知っていたのだと窺えるから、まだ子供の俺には聞かせられないと伏せられていたってところか。

娼婦のようだ…と思ったことは多々あるが、まさか本当に娼婦だったとは思っていなかった。

祖父は母親がいるのだからとしきりに言っていたが、一体どんな教育を受けさせるつもりだったんだと言いたくなる。


「あなたまさか……」


一際鋭い祖母の視線に、祖父はもう合わせることをしない。まさかの次に続く言葉は俺でも分かるし…それが原因だとすれば最悪だ。

騎士として剣を振るい、荒ぶる感情を抑える為にプロを相手にする人もいるというのは良く聞く話だ。祖父もそういったタイプの人間だったと祖母から聞いていたし、なんならプロ以外にも遊んでいたのだと呆れ混じりに言っていた事もある。

そんな祖父を反面教師とした父上は、幼くして婚約した母上一筋。俺がどちらを理想の男性像としているのかは言わずもがな。


「わたくしは、先陣を切って荒れ狂う戦地で剣を振るうあなたが荒ぶる感情のままに蝶を愛でるのは仕方のないことと、そう自分を納得させてきました。ですが今は安寧の治世…まさかあなたは、人妻となった娼婦を愛でるような趣味をお持ちだと…そう仰いますの?」


祖母はまだ齢五十である。

体を動かすことを好み、社交の場に侯爵夫人として出ていた頃と変わらぬ体型を今も維持していており、素より美しかった容姿に年齢の分だけ威厳が加わり畏怖の凄みが増した。

そんな祖母にギロリと睨まれれば、その容姿は美しいがひどく恐ろしい。

祖母から目を逸らす祖父だったが、立ち上がった祖母が持つ扇の先で顎を持ち上げられた。


「お答えくださいな、旦那様」

「な、なにを……」


女傑 対 豪傑……結果は見える。


「あなたは何をしでかしましたの?」

「お、俺はなにも…ただブランドンの…孫の将来が豊かであればと…そ、そう思ってだな」

「孫の将来を豊かに?高位貴族令嬢に引けを取らない教養を持つ高級娼婦ならいざしらず、ただ体を開くことしか脳のない低俗な娼婦とその娘に何が出来ますの?」


俺も娼婦を一様には悪く言わない。そういった仕事がある事も、そこで働くに至る理由が様々ある事も知っている。

けれど貴族社会に身を置くとなれば話は別だ。

実際に元高級娼婦でありながら、高い知性と話術を駆使して社交界で確固たる立場を得ている夫人もいると聞くが、ソフィアの母親のようなタイプは毛嫌いされ浮いているそうだ。


「わたくしとて、侯爵夫人として家を仕切る立場にありましたもの…そういった女性とのお付き合いもありましてよ?ですから偏見は持ち合わせておりません」

「それなら……」

「お相手によると申し上げているのです。しっかりとした教養をお持ちの方は、女性としての振る舞いだけでなく政の話題にも長けておりますわ。旦那様達が囲っているような阿波擦れと並べないでくださいまし!」


高級娼婦ともなれば料金もそれなりに高く、相手をする男の地位もそれなりが多い。そして、仕事や身分に合わせて話題を変えることが出来るさしい…と、騎士の先輩が言っていた。

そしてソフィアの母親のようなタイプは、いかに数をこなすかで収入が変わるような娼婦。

高級娼婦には平民も多くいるというのだから、ソフィア同様に学ぶことを避けてきたのだろう。


「何が目的ですの?」

「目的など別に…」

「あの毒蛾のような女が結婚後も殿方の間を飛び回っているのは周知の事実。他の殿方よりも多くお相手できるお約束でも取り付けました?」


グイッとさらに顎を持ち上げられるが、そこから逃げることはない。いや、逃げたらさらに事態を悪化させると分かっているのか。


「ひとつ申し上げておきますわね」

「な……なんだ?」

「あの阿波擦れを囲うのはご自由にどうぞ。通うも愛人に迎えるも好きにしたら宜しいわ。ただ…その場合は離縁させていただきます」

「それはダメだ!」


祖父が慌てて立ち上がって祖母に寄るが、抱き締めようとして広げた手を扇で叩き払われた。


「何がダメなんですの?わたくしではなく若い毒蛾…ひらひらと飛び回るしか脳のない毒蛾を愛でたいのならば、スッパリ離縁なさいませ」

「離縁はしない!」


五十二歳の男が駄々をこねている。この人は本当に数々の功績をあげた豪傑な騎士なのだろうか。出来るのなら他人の振りをしたい。


「ならば白状なさい、旦那様。阿波擦れ娘との婚約が結ばれた理由はなんですの?」

「そ…それは……その…」

「ハッキリしない男は大嫌いですわよ」


白状しないのならば離縁だと迫られ、長く言い淀んでいた祖父が漸く覚悟を決めた。


「実は…………子が出来たと言われた」





暫しの沈黙のあと、祖母の声が屋敷を揺らした。






「離縁させていただきます!!!!!!!!」







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