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【番外編】騎士の冀幸 5
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ソフィアとの婚約を解消する事も出来ないままデビュタントを迎える年になり、なにかと忙しく過ごしていたなか…妹が誘拐される事件が起きた。
僅かな隙をついてダリウスの王弟に連れ去られ、一ヶ月もの間監禁されていた。
クリスの嘆願により婚約は継続されたが、事件の解決には至っておらず、緊張感は続いている。
「……なんだか久しぶりだな…」
数ヶ月ぶりに丘へ足を運んでみると、いつかと同じようにアナがうたた寝をしていた。
滅多に人が来る場所ではないし、少し離れたところに使用人も待機しているが無防備過ぎる。妹の件で敏感になっていることもあるが、もしアナまで…と思うと一気に押し寄せてきた不安。
「………ん…ブランドン……?」
知り合って四年、自分の気持ちは早い段階で自覚した。ふざけた祖父のふざけた理由で結ばれた婚約のせいで、気持ちを行動に移すことは一度もしてきていない。だけど、失うかもしれない不安に体が自然と動いた。
「アナベル…好きだ……」
初めて抱き締めた体は出会ったよりもだいぶふっくらしているはずなのに華奢で、髪からはアナらしい優しくて甘い香りがする。
「ずっと好きだった…」
言うべきではない…抱き締めるなんてもってのほかだと分かっていても、抑えきれない。このまま結婚してアナに会えなくなることが…アナと離れることが…耐えられない。
「…アナ……」
ゆっくり…とてもゆっくりとアナの手が動いて、その手が背中に回されたことが分かった瞬間、それまでよりも強く抱き締めた。
「…私も好き」
思わぬ告白にガバッと顔を見ると、頬を染めてはにかんでいて…聞き間違いではなかったのだと分かり、思わず口付けた。
不貞だ。もうそれで構わない。
慰謝料なら払うから解消してくれ。
「……アナ…」
「ブランドン…ちゃんと食べてる?なんだかとても具合が悪そうだわ」
妹の一件は秘匿されていて、アナも知らない。捜索や調査にかけた一カ月と、保護してからの三ヶ月…まともに眠れず、食事も喉を通らない。
その間、幾度となくアナに会いたいと思うも、どうしてもここへ来ることが出来なかった。
学園も休んでいるから、四ヶ月ぶりだ。
「家業が忙しくて…少し疲れてる……」
ポスン…とアナの肩口に頭を置けば、優しく撫でて「お疲れさま」と言ってくれた。その一言がひどく心に染みていく。
比べる事でもないが、少し前にソフィアから言われた言葉との違いに溜め息が出るし、久し振りに感じるアナの優しさに涙が出そうになる。
『家業が忙しいってなんですの?婚約者の務めも碌に果たせず仕事だなんて、あなたの努力が足りないんじゃありません?今年はデビュタントの舞踏会ですのよ?そんな疲れた顔をして出るおつもりですの?私の婚約者として、きちんとしてくれないと困るわ。あ、舞踏会で着たいドレスと宝飾品の希望リストはこちらなので、よろしくお願いしますね』
言いたいことを言って満足したあとは、いつものように悪口と自慢ばかり…もういやだ。
「……デビュタントはアナをエスコートしたい…」
華奢な体をぎゅうっと抱き締めると、また背中に優しく手を回してくれて…擦ってくれる。なんだろう、やっぱり天使かもしれない。
「ブランドンのエスコートを受けられるなんて素敵ね……そう言ってくれただけで充分よ」
「……本当にエスコートしたい…婚約も…どうにか解消出来ないかずっと話し合ってる…でもなかなか話が進まないんだ…」
疲れた時は、こうして抱き締めあって癒してほしい。嬉しい事があった時は、こうして抱き合って喜びを分かち合いたい。
「…………アナと結婚したい…」
何も答えは返ってこなくて、だけど擦る手を止めて抱き締めてくれた。
「アナ……もし…もしも解消出来なかった時は…その時は…それでも傍にいてくれないか…?」
つまりは愛人だ。
それでもいいと言ってくれるなら…
「……………………私も傍にいたい」
小さく呟かれたその言葉は俺の耳にしっかりと届き、堪らずもう一度唇を重ねた。
「…アナ、デビュタントのドレスと宝飾品は俺から贈らせて欲しい」
「え…でも……」
「小さい頃からこき使われて、結構蓄えがあるんだ。それを初めて使うのはアナがいい。贈り物を選ぶのも初めてだけど…必ずアナをより綺麗に着飾らせるから…ね?お願い、アナ」
ソフィアへの贈り物やかかる経費はすべて侯爵家から出ていたし、内容はソフィアから希望されるものを贈っていただけだから、俺が自ら選んだこともない。
「……本当にいいの?」
「むしろ俺がそうしたい。伯爵には…俺からきちんと説明しに伺うから。アナは心配しないで」
きっと殴られるだろうな。幸せにするために養子に迎えたのに、愛人にしようとする男なんて殺されても文句は言えない。
それでも、アナと離れずにすむのならどんな苦境も立ち向かうだけだ。
「……ドレス…楽しみにしてる」
「楽しみにしてて」
憂鬱だった舞踏会が楽しみに変わって、この日三度目となる口付けを交わした。
* * * * * *
「…………本音を言えば殴らせて欲しい」
アナのドレスを仕立てたいこと、ソフィアとの婚約解消が叶わなかった暁には愛人という立場で傍にいて欲しいことを伝えると、当然ながら伯爵はこめかみに青筋を立てた。
「殴られる覚悟は出来ています」
「…………私の立場で出来るとでも?」
「俺は侯爵家の者ではありますが、今は嫡男であるというだけの立場です。爵位を有している伯爵より身分は劣ります」
ワンダル王国において、例えば公爵家の子供でも男爵位を有する者より立場は下だ。
だが実際は親の身分を笠に着る者が多く、親も面子の為に家格が下の者へは容赦なく制裁する為、伯爵の懸念も頷ける。
だからこそ自分の方こそ身分が劣るのだと明言した。本気でアナと生きていきたいから。
「…………それなら言わせてもらうぞ」
俺の覚悟を受け止めた伯爵は、徐に立ち上がると俺に近付き…胸ぐらを掴んだ。
「このクソガキがっ!!アナベルがどんな苦しみのなか生きてきたのか知ってるか?どんな生活を強いられてきたのか知ってるのか?どんな未来を望んでいたのか知っているのか!?」
「アナベル嬢から聞いております」
「……っ…、知っているのに何故愛人になどと!ひとりの女で満足できぬのなら、その筋の女でも囲えばよかろう!私は愛人にするためにアナを引き取ったわけではないっ!!!」
ダンッ!と床に打ち付けられて体に鈍い痛みが走るが、過去のアナを思えばなんともない。こんな生活をアナは何年も耐えてきたんだ。
「好きなだけ楽しんで飽きたらどうする?あっさりと捨てるつもりか?」
「そんな事はしません、生涯アナベル嬢を愛し添い遂げます」
「……漸く人間らしい生活を送れるようになったと言うのに、また閉じ込めるのか?たまに訪れるだけであろうお前を待ち、子も生まずにただひっそりとひとり寂しく暮らせと?」
「共に暮らします。子もアナベル嬢以外と作る気はありません」
「愛人の子供は家督を継げないぞ。第二夫人となるには正妻の許可もいる…お前の婚約者にその度量があるとは思えん」
「父の養子に入れてもらう許可は得ています」
これは抜け道だ。愛人との間に生まれた子供を自分の籍に入れることは出来ないが、親の籍に入れることで後継者として認めさせることは出来る。
どんな理由があったとしても、正妻やその子供を蔑ろにしていると見なされる為に他の貴族からいい顔はされないが…アナとの子供を陰に追いやらない為にはそれしかない。
「……侯爵も承知か…」
「両親と祖母は、以前より婚約解消をすべく動いてくれております…ですが……」
「…あの女が相手なら仕方あるまいな」
そんな女の娘と結婚しなくてはならないことが悔しくて仕方ない。
白い結婚での離縁も考えたが、貞操観念の低いソフィアの事だから、結婚後に俺以外と関係をもって処女ではなくなる可能性もある。
白い結婚の見極めは処女であるかどうか。貞淑さを求められる結婚前であればそれこそ破棄や解消する理由になるが、結婚後となってからでは俺が相手だと言われても否定しきれない。
「……必ず幸せにすると誓えるか?」
「神前で誓うことは叶いませんが、父であるあなたになら誓わせていただきたい。俺は…ブランドン・ディノワは、アナベル・タルジャンを生涯唯一として愛することを誓います」
いつか、神前でも誓いたい。何歳になった時でもいい…ふたりきりでも構わない…俺にとっての唯一はアナベルなのだと、そう誓いたい。
「……アナベル、お前はどうしたい?」
跪いて誓いを立てていた俺に視線を向けたまま、どこか呆れたような顔をする伯爵の言葉を受けてアナが扉を開けて入ってきた。
少し開いたままだったのは、やはりアナがそこにいたからなのか…と納得する。
「アナベル…お前は本当にそれでいいのか?」
ポロポロと涙を溢すアナを今すぐにでも抱き締めてやりたいが、伯爵の手前叶わない。
アナ…
「……私はブランドンを愛しています」
「愛人は表舞台に伴えないぞ?夜会はもちろん、仕事で夫婦同伴が求められる時も、お前はひとりで帰りを待つだけしか出来ない」
「覚悟しています」
「デビュタントの舞台を最後に、二度と華やかな場所で踊ることも出来なくなるぞ?」
「ブランドンと共にあれるのであれば、夜会や舞踏会など出られなくとも構いません」
涙を流しながら、毅然と伯爵に答える姿に俺まで泣きたくなった。
俺はアナを閉じ込めようとしている。二度と表舞台には出してやれず、ただ俺と生きる為だけに存在させようとしている。
ごめん……それでも離れたくない。
「……我が家の夜会くらい出てこい」
「…お父様……」
「辛くなった時は、いつでも帰ってくればいい」
誰よりもアナの幸せを願い、誰よりもアナを幸せにしようとしていた伯爵。その人から奪い取るのだから、絶対に不幸にはしない。
「小僧、たとえアナベルが辛いと言わなくとも、私がそう判断した時は連れて帰るぞ」
「必ず守り、幸せにします」
そして、後日アナの元へ俺からの贈り物が届けられ、運命とも言える舞踏会を迎えた。
僅かな隙をついてダリウスの王弟に連れ去られ、一ヶ月もの間監禁されていた。
クリスの嘆願により婚約は継続されたが、事件の解決には至っておらず、緊張感は続いている。
「……なんだか久しぶりだな…」
数ヶ月ぶりに丘へ足を運んでみると、いつかと同じようにアナがうたた寝をしていた。
滅多に人が来る場所ではないし、少し離れたところに使用人も待機しているが無防備過ぎる。妹の件で敏感になっていることもあるが、もしアナまで…と思うと一気に押し寄せてきた不安。
「………ん…ブランドン……?」
知り合って四年、自分の気持ちは早い段階で自覚した。ふざけた祖父のふざけた理由で結ばれた婚約のせいで、気持ちを行動に移すことは一度もしてきていない。だけど、失うかもしれない不安に体が自然と動いた。
「アナベル…好きだ……」
初めて抱き締めた体は出会ったよりもだいぶふっくらしているはずなのに華奢で、髪からはアナらしい優しくて甘い香りがする。
「ずっと好きだった…」
言うべきではない…抱き締めるなんてもってのほかだと分かっていても、抑えきれない。このまま結婚してアナに会えなくなることが…アナと離れることが…耐えられない。
「…アナ……」
ゆっくり…とてもゆっくりとアナの手が動いて、その手が背中に回されたことが分かった瞬間、それまでよりも強く抱き締めた。
「…私も好き」
思わぬ告白にガバッと顔を見ると、頬を染めてはにかんでいて…聞き間違いではなかったのだと分かり、思わず口付けた。
不貞だ。もうそれで構わない。
慰謝料なら払うから解消してくれ。
「……アナ…」
「ブランドン…ちゃんと食べてる?なんだかとても具合が悪そうだわ」
妹の一件は秘匿されていて、アナも知らない。捜索や調査にかけた一カ月と、保護してからの三ヶ月…まともに眠れず、食事も喉を通らない。
その間、幾度となくアナに会いたいと思うも、どうしてもここへ来ることが出来なかった。
学園も休んでいるから、四ヶ月ぶりだ。
「家業が忙しくて…少し疲れてる……」
ポスン…とアナの肩口に頭を置けば、優しく撫でて「お疲れさま」と言ってくれた。その一言がひどく心に染みていく。
比べる事でもないが、少し前にソフィアから言われた言葉との違いに溜め息が出るし、久し振りに感じるアナの優しさに涙が出そうになる。
『家業が忙しいってなんですの?婚約者の務めも碌に果たせず仕事だなんて、あなたの努力が足りないんじゃありません?今年はデビュタントの舞踏会ですのよ?そんな疲れた顔をして出るおつもりですの?私の婚約者として、きちんとしてくれないと困るわ。あ、舞踏会で着たいドレスと宝飾品の希望リストはこちらなので、よろしくお願いしますね』
言いたいことを言って満足したあとは、いつものように悪口と自慢ばかり…もういやだ。
「……デビュタントはアナをエスコートしたい…」
華奢な体をぎゅうっと抱き締めると、また背中に優しく手を回してくれて…擦ってくれる。なんだろう、やっぱり天使かもしれない。
「ブランドンのエスコートを受けられるなんて素敵ね……そう言ってくれただけで充分よ」
「……本当にエスコートしたい…婚約も…どうにか解消出来ないかずっと話し合ってる…でもなかなか話が進まないんだ…」
疲れた時は、こうして抱き締めあって癒してほしい。嬉しい事があった時は、こうして抱き合って喜びを分かち合いたい。
「…………アナと結婚したい…」
何も答えは返ってこなくて、だけど擦る手を止めて抱き締めてくれた。
「アナ……もし…もしも解消出来なかった時は…その時は…それでも傍にいてくれないか…?」
つまりは愛人だ。
それでもいいと言ってくれるなら…
「……………………私も傍にいたい」
小さく呟かれたその言葉は俺の耳にしっかりと届き、堪らずもう一度唇を重ねた。
「…アナ、デビュタントのドレスと宝飾品は俺から贈らせて欲しい」
「え…でも……」
「小さい頃からこき使われて、結構蓄えがあるんだ。それを初めて使うのはアナがいい。贈り物を選ぶのも初めてだけど…必ずアナをより綺麗に着飾らせるから…ね?お願い、アナ」
ソフィアへの贈り物やかかる経費はすべて侯爵家から出ていたし、内容はソフィアから希望されるものを贈っていただけだから、俺が自ら選んだこともない。
「……本当にいいの?」
「むしろ俺がそうしたい。伯爵には…俺からきちんと説明しに伺うから。アナは心配しないで」
きっと殴られるだろうな。幸せにするために養子に迎えたのに、愛人にしようとする男なんて殺されても文句は言えない。
それでも、アナと離れずにすむのならどんな苦境も立ち向かうだけだ。
「……ドレス…楽しみにしてる」
「楽しみにしてて」
憂鬱だった舞踏会が楽しみに変わって、この日三度目となる口付けを交わした。
* * * * * *
「…………本音を言えば殴らせて欲しい」
アナのドレスを仕立てたいこと、ソフィアとの婚約解消が叶わなかった暁には愛人という立場で傍にいて欲しいことを伝えると、当然ながら伯爵はこめかみに青筋を立てた。
「殴られる覚悟は出来ています」
「…………私の立場で出来るとでも?」
「俺は侯爵家の者ではありますが、今は嫡男であるというだけの立場です。爵位を有している伯爵より身分は劣ります」
ワンダル王国において、例えば公爵家の子供でも男爵位を有する者より立場は下だ。
だが実際は親の身分を笠に着る者が多く、親も面子の為に家格が下の者へは容赦なく制裁する為、伯爵の懸念も頷ける。
だからこそ自分の方こそ身分が劣るのだと明言した。本気でアナと生きていきたいから。
「…………それなら言わせてもらうぞ」
俺の覚悟を受け止めた伯爵は、徐に立ち上がると俺に近付き…胸ぐらを掴んだ。
「このクソガキがっ!!アナベルがどんな苦しみのなか生きてきたのか知ってるか?どんな生活を強いられてきたのか知ってるのか?どんな未来を望んでいたのか知っているのか!?」
「アナベル嬢から聞いております」
「……っ…、知っているのに何故愛人になどと!ひとりの女で満足できぬのなら、その筋の女でも囲えばよかろう!私は愛人にするためにアナを引き取ったわけではないっ!!!」
ダンッ!と床に打ち付けられて体に鈍い痛みが走るが、過去のアナを思えばなんともない。こんな生活をアナは何年も耐えてきたんだ。
「好きなだけ楽しんで飽きたらどうする?あっさりと捨てるつもりか?」
「そんな事はしません、生涯アナベル嬢を愛し添い遂げます」
「……漸く人間らしい生活を送れるようになったと言うのに、また閉じ込めるのか?たまに訪れるだけであろうお前を待ち、子も生まずにただひっそりとひとり寂しく暮らせと?」
「共に暮らします。子もアナベル嬢以外と作る気はありません」
「愛人の子供は家督を継げないぞ。第二夫人となるには正妻の許可もいる…お前の婚約者にその度量があるとは思えん」
「父の養子に入れてもらう許可は得ています」
これは抜け道だ。愛人との間に生まれた子供を自分の籍に入れることは出来ないが、親の籍に入れることで後継者として認めさせることは出来る。
どんな理由があったとしても、正妻やその子供を蔑ろにしていると見なされる為に他の貴族からいい顔はされないが…アナとの子供を陰に追いやらない為にはそれしかない。
「……侯爵も承知か…」
「両親と祖母は、以前より婚約解消をすべく動いてくれております…ですが……」
「…あの女が相手なら仕方あるまいな」
そんな女の娘と結婚しなくてはならないことが悔しくて仕方ない。
白い結婚での離縁も考えたが、貞操観念の低いソフィアの事だから、結婚後に俺以外と関係をもって処女ではなくなる可能性もある。
白い結婚の見極めは処女であるかどうか。貞淑さを求められる結婚前であればそれこそ破棄や解消する理由になるが、結婚後となってからでは俺が相手だと言われても否定しきれない。
「……必ず幸せにすると誓えるか?」
「神前で誓うことは叶いませんが、父であるあなたになら誓わせていただきたい。俺は…ブランドン・ディノワは、アナベル・タルジャンを生涯唯一として愛することを誓います」
いつか、神前でも誓いたい。何歳になった時でもいい…ふたりきりでも構わない…俺にとっての唯一はアナベルなのだと、そう誓いたい。
「……アナベル、お前はどうしたい?」
跪いて誓いを立てていた俺に視線を向けたまま、どこか呆れたような顔をする伯爵の言葉を受けてアナが扉を開けて入ってきた。
少し開いたままだったのは、やはりアナがそこにいたからなのか…と納得する。
「アナベル…お前は本当にそれでいいのか?」
ポロポロと涙を溢すアナを今すぐにでも抱き締めてやりたいが、伯爵の手前叶わない。
アナ…
「……私はブランドンを愛しています」
「愛人は表舞台に伴えないぞ?夜会はもちろん、仕事で夫婦同伴が求められる時も、お前はひとりで帰りを待つだけしか出来ない」
「覚悟しています」
「デビュタントの舞台を最後に、二度と華やかな場所で踊ることも出来なくなるぞ?」
「ブランドンと共にあれるのであれば、夜会や舞踏会など出られなくとも構いません」
涙を流しながら、毅然と伯爵に答える姿に俺まで泣きたくなった。
俺はアナを閉じ込めようとしている。二度と表舞台には出してやれず、ただ俺と生きる為だけに存在させようとしている。
ごめん……それでも離れたくない。
「……我が家の夜会くらい出てこい」
「…お父様……」
「辛くなった時は、いつでも帰ってくればいい」
誰よりもアナの幸せを願い、誰よりもアナを幸せにしようとしていた伯爵。その人から奪い取るのだから、絶対に不幸にはしない。
「小僧、たとえアナベルが辛いと言わなくとも、私がそう判断した時は連れて帰るぞ」
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