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触れるだけの口付け
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「……大丈夫っすか?」
「……くっ…」
部屋の中から聞こえてくるラシュエルの話に、溢れる涙が止められなくなってしまった。
どれだけ愛し合っても、愛してると伝えあっても拭えず痼りとなって取り除けなかった不安。
王子だったからこそ出会えた相手…それなのに、だからこそ傷付けてしまうことが多くあり、それが苦しくて辛かった。
心ない人や親切な人から囁かれ続ける《側妃》や《愛妾》の必要性…それらがどれだけの傷をラシュエルの心に付けたのかは分からないし、だからと言って離してやることも出来ない。
僕に出来るのは、これからも傍にいて傷付けた心に寄り添い続けて生きること…それだけ。
そう思っていた。
『マリウス様は誰にも渡さない』
《王太子妃の矜持》なるものを夢にまで見て魘され、目覚めても尚パニックに陥るほどラシュエルにとって不安の痼りとなっている。
誰にも渡さないで…僕はもうずっと君のものだ。
『閉じ込めておきたい』
寝ても覚めても君しかいない世界は、どれほど素晴らしいのだろうか。
『いつか全ての柵から解放されたらー』
そうだね。
その時が来たら、片時も君と離れず過ごすことを誓うし、それは僕の夢でもある。
もう一度、新しい人生を神に誓うのもありかもしれない…君のウェディングドレス姿は、この世で一番の輝きのはずだからね。
僕は恵まれている。
父上は、執務や公務において威厳溢れる賢王とまで呼ばれる人だけれど、その仮面を外せば愛妻の尻に敷かれている少し頼りないひとりの男。
母上は、表向き夫を立てて絶妙で的確なサポートをする王妃であるが、その実、愛する男を独占欲で雁字搦めにして翻弄する小悪魔(父談)なのだ。
子は僕ひとりで兄弟はいないけれど、王家との婚姻を望まれたラシュエルを取り合うようなことがなくて良かった。
あれだけしつこい《側妃》や《愛妾》の矢から母上を守り続け、逃げ切った父上は尊敬している。
あとでちょっとだけコツを教えてもらおう。その見返りに、母上が最近お気に入りのスイーツか…僕が御用達にしているランジェリー店を教えてあげてもいい。
「僕だって…守り続けて見せる」
ラシュエル以外を娶ったところで無理な話なんだ…僕はラシュエルにしか欲情しない。
「……ふっ」
「なんだよ…気持ち悪ぃな」
そうだ、兄弟はいないけれど兄的な存在ならこんなにも近くにいてくれる。少し…いや、だいぶ口が悪いけれども。
「そうだね、ラシュエル。僕にとっての一番の幸福も、君と出会えて愛し合えていることにほかならない」
「…まぁた聞き耳か」
「愛しい人の声はひとつも取り零したくない」
「そっすか」
「……これからも、傍にいてくれる?サム兄」
幼い頃、まだ距離がずっと近かった時に呼んでいたサミュエルの愛称を…なんとなく呼びたくなった。
「当たり前だろ、たとえ逃げたってどこまででも追いかけてやるつもりだ。覚悟しておけよ」
そう、こうやって頭をくしゃっとされるのが何だかとても好きだった。
今はもう、僕の方が少しだけ背が高くなったけれど…ムキムキの肉体はサム兄の専売特許で譲ってあげる。
だって、ラシュエルは僕みたいなしなやかな筋肉が好きだってペタペタ触りまくるんだから。
そしてラシュエル、君の気配や動きなら手に取るように分かる。
たとえば……ほら、扉を開けて出ようとしていたこととかね。
「ラシュエル」
「マリウス様?どうっ、」
「ラシュエル…」
君はいつでもいい香りがするから、その香りに誘われてしまう僕は君を抱き締めずにはいられないんだ。
どんなハーブも媚薬も勝てやしない。
君の存在だけが僕を強くするし惑わせもする。
君の掌の上でなら、僕はいくらだって転がされて構わない…むしろ君に転がされて構われたい。なんだか楽しそうだし。
「愛してるよ、ラシュエル」
何度だって伝える。
何度伝えても伝えきれないから。
「わたくしも愛してますわ、マリウス様」
ほらね、僕が愛を伝えれば君も真っ直ぐ返してくれる…それが何よりも幸せ。
優しい香りを深呼吸で吸い込み、柔らかな体をさりげなく堪能しつつ……
「ねぇ、ラシュエル。もうここで暮らさない?もうラシュエルと一秒も離れたくないし、眠るときにはラシュエルの隣がいい」
もうすぐ、花嫁修行も兼ねて許可される時期になる。誰にも文句を言わせずに堂々と出入り出来るんだ。…まだ純潔は守らねばだけれども。
「公爵や義兄のハドソンも殆どを王宮で過ごしているし…馴染みの使用人たちと会えなくなるのは寂しいかもしれないけど…僕も寂しい」
「マリウス様…」
こんなこと言って、困らせるだけって分かってるけれど…閉じ込めたいほど離れたくないと思っているのは僕も同じなんだよ。
「…でなきゃ、君を攫って僕以外誰にも会えないような場所に閉じ込めてしまいたくなる…もうそうしてしまってもいい?」
「…っ……」
……そんなに蕩けるような顔は寝室以外でしちゃいけないんだ、何度もそう言っているのに。
「陛下との話が終わったら…お仕置きだね」
とりあえず、僕の言葉に目を輝かせた君に与えるのは触れるだけの口付け。
「……くっ…」
部屋の中から聞こえてくるラシュエルの話に、溢れる涙が止められなくなってしまった。
どれだけ愛し合っても、愛してると伝えあっても拭えず痼りとなって取り除けなかった不安。
王子だったからこそ出会えた相手…それなのに、だからこそ傷付けてしまうことが多くあり、それが苦しくて辛かった。
心ない人や親切な人から囁かれ続ける《側妃》や《愛妾》の必要性…それらがどれだけの傷をラシュエルの心に付けたのかは分からないし、だからと言って離してやることも出来ない。
僕に出来るのは、これからも傍にいて傷付けた心に寄り添い続けて生きること…それだけ。
そう思っていた。
『マリウス様は誰にも渡さない』
《王太子妃の矜持》なるものを夢にまで見て魘され、目覚めても尚パニックに陥るほどラシュエルにとって不安の痼りとなっている。
誰にも渡さないで…僕はもうずっと君のものだ。
『閉じ込めておきたい』
寝ても覚めても君しかいない世界は、どれほど素晴らしいのだろうか。
『いつか全ての柵から解放されたらー』
そうだね。
その時が来たら、片時も君と離れず過ごすことを誓うし、それは僕の夢でもある。
もう一度、新しい人生を神に誓うのもありかもしれない…君のウェディングドレス姿は、この世で一番の輝きのはずだからね。
僕は恵まれている。
父上は、執務や公務において威厳溢れる賢王とまで呼ばれる人だけれど、その仮面を外せば愛妻の尻に敷かれている少し頼りないひとりの男。
母上は、表向き夫を立てて絶妙で的確なサポートをする王妃であるが、その実、愛する男を独占欲で雁字搦めにして翻弄する小悪魔(父談)なのだ。
子は僕ひとりで兄弟はいないけれど、王家との婚姻を望まれたラシュエルを取り合うようなことがなくて良かった。
あれだけしつこい《側妃》や《愛妾》の矢から母上を守り続け、逃げ切った父上は尊敬している。
あとでちょっとだけコツを教えてもらおう。その見返りに、母上が最近お気に入りのスイーツか…僕が御用達にしているランジェリー店を教えてあげてもいい。
「僕だって…守り続けて見せる」
ラシュエル以外を娶ったところで無理な話なんだ…僕はラシュエルにしか欲情しない。
「……ふっ」
「なんだよ…気持ち悪ぃな」
そうだ、兄弟はいないけれど兄的な存在ならこんなにも近くにいてくれる。少し…いや、だいぶ口が悪いけれども。
「そうだね、ラシュエル。僕にとっての一番の幸福も、君と出会えて愛し合えていることにほかならない」
「…まぁた聞き耳か」
「愛しい人の声はひとつも取り零したくない」
「そっすか」
「……これからも、傍にいてくれる?サム兄」
幼い頃、まだ距離がずっと近かった時に呼んでいたサミュエルの愛称を…なんとなく呼びたくなった。
「当たり前だろ、たとえ逃げたってどこまででも追いかけてやるつもりだ。覚悟しておけよ」
そう、こうやって頭をくしゃっとされるのが何だかとても好きだった。
今はもう、僕の方が少しだけ背が高くなったけれど…ムキムキの肉体はサム兄の専売特許で譲ってあげる。
だって、ラシュエルは僕みたいなしなやかな筋肉が好きだってペタペタ触りまくるんだから。
そしてラシュエル、君の気配や動きなら手に取るように分かる。
たとえば……ほら、扉を開けて出ようとしていたこととかね。
「ラシュエル」
「マリウス様?どうっ、」
「ラシュエル…」
君はいつでもいい香りがするから、その香りに誘われてしまう僕は君を抱き締めずにはいられないんだ。
どんなハーブも媚薬も勝てやしない。
君の存在だけが僕を強くするし惑わせもする。
君の掌の上でなら、僕はいくらだって転がされて構わない…むしろ君に転がされて構われたい。なんだか楽しそうだし。
「愛してるよ、ラシュエル」
何度だって伝える。
何度伝えても伝えきれないから。
「わたくしも愛してますわ、マリウス様」
ほらね、僕が愛を伝えれば君も真っ直ぐ返してくれる…それが何よりも幸せ。
優しい香りを深呼吸で吸い込み、柔らかな体をさりげなく堪能しつつ……
「ねぇ、ラシュエル。もうここで暮らさない?もうラシュエルと一秒も離れたくないし、眠るときにはラシュエルの隣がいい」
もうすぐ、花嫁修行も兼ねて許可される時期になる。誰にも文句を言わせずに堂々と出入り出来るんだ。…まだ純潔は守らねばだけれども。
「公爵や義兄のハドソンも殆どを王宮で過ごしているし…馴染みの使用人たちと会えなくなるのは寂しいかもしれないけど…僕も寂しい」
「マリウス様…」
こんなこと言って、困らせるだけって分かってるけれど…閉じ込めたいほど離れたくないと思っているのは僕も同じなんだよ。
「…でなきゃ、君を攫って僕以外誰にも会えないような場所に閉じ込めてしまいたくなる…もうそうしてしまってもいい?」
「…っ……」
……そんなに蕩けるような顔は寝室以外でしちゃいけないんだ、何度もそう言っているのに。
「陛下との話が終わったら…お仕置きだね」
とりあえず、僕の言葉に目を輝かせた君に与えるのは触れるだけの口付け。
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