僕の婚約者は悪役令嬢をやりたいらしい

Ringo

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愛されている

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注※メリンダの状況が明らかになります。刺激的な内容を含みますので、苦手な方は大至急のお戻りを!!






***********************



国王の執務室にラシュエルを伴って入室したのは初めてだ…なんて少し浮わついていたら、向かいのソファに座る父…陛下から重い溜め息が吐き出された。

ラシュエルがビクリと震え、大丈夫だよ…と握ったままの手に少しだけ力を込めて微笑んだら、期待の眼差しでうるうるさせてきた。

あれ?公務が始まって、僕が指揮を執るたびにこの目を向けてもらえるってやつ??

僕まで期待を込めてラシュエルを見つめていたが、ふと視線を感じて父上を見ればものすっごい胡乱な目を向けられていた…解せぬ。


「お前がやる気を出してくれて何よりだ。まぁ、頑張れ…成果をあげればあげるほど、齎される褒美の効果は凄まじいぞ」

「っ…それはっ…遣り甲斐がありますね」


ニヤリと視線で父上と通じ合うなか、ラシュエルだけがひとりきょとんと取り残されている…可愛いの権化だ。

に意識を持っていかれそうになるのをなんとか堪え、書類を読み進める陛下に視線を向けると…その表情は険しい。


「…腐っておるな」


現在、寮長の捕縛を完了して尋問中。

心身ともに疲弊しているアイシャ嬢は、王宮の客間で保護の上治療中。

そして、何よりも気にかかるのが…


「バークレイ侯爵が漸く口を開きよった」

「…メリンダ嬢は……」


陛下の視線に鋭さが増し、為政者のオーラが目視出来そうなほどの…畏怖を感じる。

 怒 り

正しく、陛下が纏っているのは膨大な怒りだ。


「陛下…ラシュエルがまだ慣れておりません」

「おぉ…すまんすまん。余りにも愚かな人間がこうも揃い立つとはなぁ…反吐が出る」


言いたいことを言って多少はスッキリさせたのか、畏怖のオーラはあっという間に霧散した。

体を硬直させていたラシュエルも、小さくぶるっとさせて呼吸を取り戻している。


「メリンダ嬢は…お前から提出されたここにある5人に拉致され、右腕、両足首を折るほどの暴行を受けた後…全員から凌辱を受けて捨て置かれておったところを救出されたそうじゃ」


ラシュエルの呼吸が乱れ、慌てて抱き締めることで支えるが…僕だって形容しがたい感情が溢れだして止まらない。

メリンダ嬢が何をした?編入生が早くクラスに馴染むようにと気にかけ、親しくなった上で沸いた興味を会話をしていただけだ。

上っ面の正義を勝手に押し付け、自身の穢れた欲求を満たす為だけに女性に暴力を振るう…許せるわけがない。

今回のメリンダ嬢のように、捨て置かれた場所を必ずしも親切な人間が通るとも限らない…いや…だとハッキリ言えるのだろうかすらも分からなくなる。


「メリンダ嬢は、緊急処置として王宮医師による処方で非受胎薬が施された…念のためにな」

「メリンダ嬢の意識は…」

「取り戻してはおる。数ヵ所の骨を折る怪我の痛みも、投薬と塗り薬では完全に取り除けぬ故…そのせいで発熱を繰り返しているらしい」

「…精神的には……」


この質問に、陛下は少しの間をあけた。


「…アイシャ嬢を気にかけておるらしい。自分がこんなことになったと知れば、きっと責任を感じてしまうのではないかと」


侯爵令嬢でありながら、自然豊かな領地でのびのびと育ったなお嬢様…その豪快な性格と明るさを慕う令嬢は多く、押し売りヒーロー達に目を付けられている彼女を心配する者たちから、毎日のように手紙が届き続けているらしい。

姿を見せないのは、奴等から身を隠しているからなのだと心配をして……


「……っ…メリンダ様…っ…」


普通の令嬢であれば泣いて気を失っていても不思議ではない状況報告に、ラシュエルは今にも溢れそうな涙を懸命に堪えている。


「メリンダ嬢本人の意向として、治療が済み次第南の修道院に移るそうだ。あそこは気候もいいし、住民も穏やかな者が多いからな。アイシャ嬢には…折を見て自分から手紙を書くと言っているらしい。数年の月日を要するかもしれんが…必ず送ると」


それまでは、望まぬ婚姻から逃げる為に修道院へと逃げ込んだことにしてほしい…それが表向きの理由として侯爵家よりあげられた。

後妻を迎えて義弟が生まれてはいるものの、家族関係は良好だと評判のバークレイ侯爵家…そんな家族思いと評されている父親が、実は娘に無理な婚姻を強いようとしたなんて、ある意味で醜聞となる。

それでも…娘本人を醜聞に晒すくらいなら、社交界で悪女とでも鬼母とでも呼ばれてやる!…後妻は涙ながらにそう訴えたらしい。


「今回の件は王立の学園で起きたトラブルが原因とされている。よって、侯爵が強いることになった婚姻は王命であったと公表させることになった…まだ未婚約であったことが、せめてもの救いかもしれぬな。相手にも辛い思いを強いるところであった」


相手にも……その言葉を聞いて、ラシュエルを抱く腕に力を込めてしまう。

仮に…万が一にもラシュエルが陥ってしまったとしても、僕はラシュエルを手離せない。


「5人の家には騎士団を派遣させた。手荒な真似をしても構わんと敕令付きでな」


父上が片方の口角をあげて笑う時は、心底楽しくて仕方ない時か……心底腹を立てている時。


「明日には尋問が始まる。お前たちも今夜はもう休め、アイシャ嬢も明日の昼までは起きないだろう」

「あ、あの…」

「あぁ、公爵には私から伝えておいた。今夜はマリウスの傍にいた方がいいと、あやつも言っておったから問題はない」


まさかの公爵閣下による許可あり。


「では…下がらせていただきます」

「よいよい、お前らも明日は昼過ぎで構わん」





***




「……ラシュエル」


部屋に戻ると、ラシュエルの大きな瞳からずっと堪えていたものが溢れだした。


「マリっ、ウス…っ…」

「大丈夫だよ…とりあえずお風呂入ろうか」


使用人はすべて下がらせ、時間をかけてのんびりとふたりの時間を過ごそう。


「マリ…っ…」

「うん」


ラシュエルのドレスと下着を手慣れた手付きで脱がせながら、父上の言葉を思い出す。

もしもラシュエルが襲われて大怪我を負い…純潔を奪われた上に二度と子を孕めない体になったとして。

想像しようとしただけで心臓が止まりそうに痛むし、噛み締める歯が砕けそうになる…それでも……


「…マリウスっ……」


失いたくない。生きていてくれるだけでいい。もう当たり前となってしまった僕だけの温もり存在


メリンダ・バークレイ侯爵令嬢……

たとえ家名を醜聞にまみれさせようと、愛する娘を守ろうと決めた父親

大切な義娘の為ならば、周りから毒親、鬼母と蔑まれようが構わないと言い切った義母

後継者狙いだと思われようと、醜聞は受けて立つと覚悟した幼い義弟


彼女の周りの者は皆、メリンダ嬢を守る事に全力を尽くそうとしている。


「メリンダ嬢は…愛されているね」

「……ぅっ…マリウスっ……」


いつ失うことになるのかなんて分からないからこそ、今腕のなかに居てくれる事に感謝しよう…


「愛してるよ、ラシュエル。今日も僕の隣に居てくれてありがとう…本当に……君のことが大好きだよ」



当たり前のように年を取って、当たり前のように君と天命を全うするものだと信じていたけれど…そんなのは傲慢な傲りだ。



「ラシュエル…永遠の愛を君に捧ぐ」







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