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頑張れ、親友
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同時に5つの貴族が消滅する……
その大きすぎる衝撃は貴族にとって勿論のこと、多くの民にも動揺を与え、表向きの理由が公表された。
ーーーーーーーーーー
モスキュート伯爵家は事実を織り込み『托卵による国家転覆罪』として、但し目論んだ伯爵本人が全ての罪を背負い極刑。
夫人は薬で精神を崩壊させられたのち、息子とは別の鉱山において務めることになり、生家も責を追及されて国家へ慰謝料を送ることとなった。
ーーーーーーーーーー
子爵家と男爵家の4家に関しては、各々爵位返上に相当する微罪が積み重ねられた上での王都追放と国家への慰謝料を支払うことに。
嫁いでいる娘達とその家は口を噤むこと、決して他言することは許されないと記されている誓約書に署名をし、破られた際には同罪となることに同意した。
ーーーーーーーーーー
モスキュート伯爵の愛人とふたりの子供は秘匿され、既に身寄りのないことから辺境の地にある小さな農村で働いている。
******
ラシュエルは、恐縮しながら王宮に滞在したままとなっているアイシャの元へ、一通の手紙を持って向かっているが…足取りは軽くない。
断罪が終わり少し経ち、もうすぐメリンダが南の修道院へと旅立つのだと報告を受けた。
見舞いは躊躇われていたが、メリンダから使いがありその元を訪れることが出来たのは昨日のこと。
人払いをし、ふたりきりで話すことになった。
『メリンダ様……』
泣くな…ラシュエルは自分に強くそう言い聞かせて、お腹と足に力を入れてメリンダのいる寝台へと歩を進めた。
寝台の上だけとはいえ、漸く寝起きできるようになったばかりのメリンダは青白く痩せていて、嘗てのような力強さは残されていない。
悲しみに襲われていたラシュエルは、その姿を目にして沸き上がる怒りを抑えるのに苦労した。
『ごめんなさいね、ラシュエル様。本来なら私が出向かなくてはならないのに』
痩せて顔色も悪くないが、発せられる声と笑顔は憧れのメリンダそのままで…ラシュエルは堪えきらなかった涙を幾筋かだけ流してしまう。
そのことを謝るラシュエルにメリンダは微笑んで、逆に心配をかけてしまったことを改めて謝罪した。
『すべて…父からお聞きしました』
少し目を伏せたメリンダは、そう言ってゆっくりと深呼吸をしてから顔をあげ…
『アイシャはどうしてますか?』
その瞳にあるのは、心配をかけているであろう友人のことを憂う揺れだけ。これまでのことをされても尚、友人を思いやる心根に胸を打たれる。
アイシャが王宮で保護されていることやメリンダを心配していることを告げると、メリンダは眉を下げて申し訳なさげに苦笑した。
『私がアイシャと親しくなりさえしなければ、アイシャが苦しむこともなかった…そんなことも考えてしまったりしたんです。でも、それはアイシャと過ごした時間を否定することになるんだと思い直しました…だって、私にとってアイシャとの思い出は大切なものだから』
平民と侯爵令嬢…身分の差はあれど、ふたりはその垣根を越えて真の友人となるべく同じ時を過ごしていたのだ。
『ラシュエル様…もし、ラシュエル様から見てアイシャが真実を知るべきだとご判断されたら、すべてを告げてあげてはもらえませんか?』
実のところ、立場的に本来なら知る術と権利を持たないアイシャなのだが、状況を鑑みた王家から『メリンダ嬢が認めるなら』と先だって許可はおりている。
ただし、アイシャが心を壊してしまわないか、責任を重く受け止めて自害するようなことはないか…繊細に様子を見た上で判断するように、と。
『きっとアイシャなら大丈夫。あの子は…きっと自分を責めてしまうと思うけれど、間違った道に進むようなことはしないはずだわ』
友人が何のために努力を積み重ねてきたのか…その理由と心のうちを深く知るからこそメリンダは断言できた。
『まだ歩くことも叶わないし、体力は落ちてしまったから見ていて心配をかけてしまうでしょうから…会わずにここを発つつもりです。その代わり…』
メリンダからアイシャ宛の手紙を預かり、全てを話したあとに渡そうと持ってきたが…本当に大丈夫だろうかと不安が拭えない。
「ラシュエル」
心に染みる声がして俯いていた顔をあげれば、アイシャの部屋の前にマリウスが立っている。
同席はしないことになっていたが、ラシュエルのことが心配で堪らないマリウスは部屋の前で待っていたのだ。
「マリウス様…」
傷付いた人のことを思えば、自分ばかりが愛されたり守られていることに心苦しくなってしまう…それでも、それらを乗り越え歩みを止めない為には、何よりも最愛の人の存在が必要だとも思う。
伸ばされた手に自分の手を重ねて握り、そこから伝わる温もりから勇気を貰い受ける。
「…終わるまで……」
「待ってるよ、ここで君を」
マリウスは、不甲斐ない自分を責めながら‥竦みそうになる足と心を叱咤する婚約者に微笑んで、優しく包むように抱き締めた。
「ひとつひとつ…ふたりで乗り越えていこう」
「……はい」
『こうして救われることもなく散る命もあるのだから、私は運にも恵まれているわ』…メリンダから言われた言葉にも勇気を貰い、ラシュエルはアイシャの待つ部屋の扉に向き合った。
******
全てを知ることになったアイシャは泣き崩れたが、メリンダからの手紙を震えながらも読み進める。
そこには、アイシャと出会えたことを神に感謝することやこれまで共に過ごした思い出が綴られ、自分を責めてしまうであろうアイシャへの心遣いが溢れていた。
そして暫くは会えなくなるけれど、いつか必ずまた会えるのだと記した上で、努力を怠らないようにと励ましも付け加えられている。
「アイシャ…」
メリンダの温かい心が伝わる手紙を抱き締め、止めることなく嗚咽を漏らすアイシャの背を撫でながら…マリウスと相談して提案することにした事を話す。
「メリンダ様は三日後に南へと発たれるの…ご家族以外には誰にも言わず、誰にも見送られることもなく」
まだ怪我も残り、姿も変わってしまったことを周囲に知られないようにするための決断。
「ねぇ、アイシャ…一緒にお見送りをしない?」
その言葉に、アイシャはガバッと顔をあげた。
「人目を忍ぶ理由もあるからこそのご決断なのだけれど…あなたにとって…メリンダ様にとっても会っておいた方がいいと思うの」
メリンダの姿を見れば傷付くかもしれないし、その結果メリンダも傷付くかもしれない…だとしても、ふたりの友情はそれを越えるものであるとラシュエルは感じている。
「立場や地位に関係なくあなた個人と向き合い、あなたの名誉と矜持を守り抜こうとしてくれたメリンダ様に、今度はあなたが向き合う時じゃないかしら」
このまま時を経ても再会することは叶うだろう。
けれど…これきりになってから会うのと、これからを誓い合ってから再会するのとでは心持ちが違う…そうマリウスとラシュエルは話し合った。
「メリンダ様が行かれる南の修道院は、とても開放的で暮らす民達も穏やかな人が多い場所なの。家族や友人が訪れることも自由だし、家族となら遠出も許されているわ」
「……会えるんですか?」
「えぇ。身元を保証することさえ出来れば誰でも」
「身元を保証…」
「そう、例えばお勤め先が作成する覚書などが相当するわ。それと…」
手紙を握りしめたままでいるアイシャの手を包む。
「家族にのみ許されている遠出も、確かな身分があれば特別に許可されているの。例えば、王宮勤めの使用人とかは特に優遇されるわ」
「王宮…勤め……」
「メリンダ様が守り抜こうとしたあなたの才能は、これからの努力次第で如何様にも伸ばすことが出来る。これはわたくし個人の意見だけれど…あなたのように志が高く強い人に支えて貰いたいと思っているわ」
「……ラシュエル様…」
いずれ王太子妃となり王妃となる…その道の途中で挫けそうになることや躓くことも起こり得るだろう。
そんな時は、人の痛みを知り強い志を持った優しい人間に側で仕えていてほしい。
アイシャは平民であるし、そうなる為には今まで以上に求められる努力が必要となる上に周囲からの風当たりも強いはず。
けれど、平民だからこその感性と力強さはラシュエルにとっての力と必ずなるに違いない。
「……私は…」
アイシャはずっと考えていた。
平民でありながらも、僅かな可能性が努力によって掴み取れるならと頑張ってきた。けれど、それが齎したのは地獄とも言える絶望。
たったひとつの小説に翻弄され、それに抗えず罪無きひとりの貴族令嬢…大切な友人の未来を潰してしまった…それがどうしても心苦しくて澱となった。
優しい手紙にいくら励まされても、自分の価値などもう散り散りとなり果てている…友人に会わせる顔などないのだと、そう思っていたのだ。
けれど、メリンダが南の修道院を選んだのは他者との繋がりを途切れさせない為であり、比較的自由な場所で療養しながら再起する力を養う為だとラシュエルは語った。
『いつかあなたに会うその日まで頑張るわ』
美しい字でそう綴られている手紙に視線を落とし、メリンダと過ごした時間に思いを馳せる。
平民であることに微塵も嫌悪を示さず、むしろ一切の嫌味なく興味を持って接してくれた高位の貴族令嬢。
多くの人に慕われ愛されている誇り高き女性。
身分差に臆することなく友人を守る強い心。
メリンダの存在は、学びと職さえ得られればそれで構わないと思っていたアイシャにとって、光であり宝物だったのだ。
叶うなら、ずっと友人でいさせてほしいと願っていた…
「私は…メリンダ様にとって誇れる友でありたい」
守り抜いてくれた名誉と矜持を、磨き高めてメリンダに捧げたい…そう心に決めた。
「ラシュエル様の元に仕えることで、メリンダ様から頂いた多大なるご恩に報いる事となるならば…その為に必要とされ求められることに努力は惜しみません」
メリンダの為にラシュエルを利用する…そう取れる発言ではあるが、当のラシュエルはその発言を聞いて微笑みを返した。
「身分的に大変なことや苦しいことがたくさんあると思う。それでも、あなたならそれを乗り越えられると思うし共に乗り越えたい人でもあるわ。家族や友人を大切に思う気持ちは、どんな苦境にも立ち向かえる」
ラシュエルがマリウスを思い立ち向かえるように。
「メリンダ様を見送りたいです」
もう泣いてはいないアイシャの力強い瞳にラシュエルは頷き、メリンダを見送るための予定を告げた。
そして、その日の内にアイシャは寮へと戻ることになったのだが、ラシュエルから提案された部屋替えについて首を横に振る。
「あの部屋で卒業までを過ごしたいと思います。私が覚えていなくてはならないのは、事件の事でも犯人達の事でもなく…私の為にメリンダ様が戦い守り抜いてくれたこと、その為にもあの部屋で向き合い続けたいのです」
曰く付きの部屋にしたくもないし…と苦笑する姿に本意であるとラシュエルは認め、アイシャはそのまま戻るための準備を始めることとなった。
三日後ーーーーーー
南へと向かう道中、予定にない場所で馬車が停まったことを不思議に思ったメリンダが小窓から外を覗いてみると、そこにはフードを深く被った人物がいた。
馬車の中には家族が揃い、周囲は王宮から派遣された屈強な騎士達が護衛についているものの…それでも、やはり僅かな恐怖が体を強張らせてしまうのは、事件が与えた心の後遺症。
誰?と訝しがるも、ちらりと見えた溢れ落ちる雫で、そこに佇み俯く人物が泣いていることが窺い知れた。
明らかに不審であるのにも関わらず、周りにいるはずの騎士は動きを見せようとしない…戸惑う視線を家族に向ければ、何故か優しく微笑んでいる。
(誰なの?)
もう一度、窓から見える人物に視線を戻すと…その人物がゆっくりと顔をあげて、メリンダと視線がぶつかる。
「…アイシャっ……」
泣くつもりはなく、泣くべきではないと思っていたのに溢れてしまったことを恥じ、アイシャは俯いてしまっていた。
いつまでもそうしていられるわけもなく、意を決して顔をあげると…そこには会いたかった人物が顔を覗かせている。
自分の名を呼んだ気がする…もう駄目だった。
泣く権利なんてないと思うのに、流れ続ける涙を止める方法なんてアイシャには分からない。
まだ歩けないと聞いているから、馬車から降りてくることはないだろう…だからこのまま、窓だけでも開けてもらって一時の別れを……そう思っていた。
「メリンダ様…っ」
馬車の中でアイシャの姿を確認したメリンダは、これが誰の用意した演出なのかを理解し、その人物へ心の中で感謝する…本音を言えば、大切な友人に会いたかったのだ。
(ありがとうございます…ラシュエル様)
そして…少し痩せてボロボロに泣いているけれど、久し振りに会ったアイシャが無事だったことに胸を撫で下ろす。
(あなたが無事でよかった…)
男達から凌辱を受けた際に、トリスタンはアイシャを手籠めする内容を話していたから心配していたのだが、それが遂げられることはなかったと報告を受けて安堵していた。
「お父様…私を外に……友の元に連れていってはもらえませんか?」
荷馬車には車椅子も積まれている。先に降りた侯爵はそれを用意するように指示をして、愛娘を抱き抱えてそっと車椅子に座らせた。
「アイシャ」
アイシャは予想だにしていなかった状況に驚きながら、本来なら身分と立場を踏まえて膝と頭を地面につけるべきだと思った…思ったけれど、それをメリンダが望むだろうかと考える。
誰よりも慈悲深くて、強くて…大切な友人。
その人が望むであろうもの……
「…っ……メリンダっ、さま」
自分は痞えるようにしか話せないのに、対するメリンダは涙など見せずに優しく微笑んでいる…これが高位貴族の姿なのだと、改めて偉大さを知った。
たとえ痩せて体力が落ちていても…泣きそうになっていても…メリンダが自身を厳しく叱咤しているのは、アイシャの為に他ならない。
大怪我を負い痩せ細ってしまった自分を見て、これ以上の負荷をアイシャの心にかけさせない為に。
その心うちに家族は気付いている…そして、そうまでしても友人の心を守ろうとする娘を誇りに思った。
「アイシャ…暫く会えなくなるわ」
「…っはい」
「もう取り戻せないものが沢山あるけれど…どうしても失いたくなかったものは残ってくれたの」
「…それっ、は…」
貴族令嬢としての未来、純潔、家族との時間、学生としての生活…失ったものは数えきれない。
それでも、メリンダは笑みを絶やさない。
「家族と親友…何よりも大切なそれだけは、誰にも奪われることはなかったわ」
たとえ過ごす場所は変わっても、繋がる絆は決して変わらない…だからこそ、メリンダは現状に立ち向かうことが出来ている。
アイシャは、そんなメリンダの強さが眩しくもあり…心配にもなってしまう。
「…っ…メリンダ様、私…これから今まで以上に努力して、いつかラシュエル様を支えられる人間になりたいと思っています……あなたに…あなたにとって誇れ…誇れる…とっ、友としてありたいから」
図々しいと思われても、伝えたかった。
そして、アイシャの決意をメリンダは想像以上に喜び、大好きな微笑みを向けてくれたが…きっと足が動くのなら駆け寄り抱き締めてくれたかもしれない…まだ痛むであろう足に一瞬だけ視線を落とし…そして、努力を怠らない事をさらに誓う。
「アイシャ」
車椅子に座るメリンダが手を広げている姿を見て、止まっていた涙が再度溢れ出した。
いいのだろうか…そんなことを思うのは一瞬。
ずっと会いたくて焦がれてきた人に求められ、アイシャは壊れ物に触れるような優しさでメリンダを抱き締めた。
「アイシャ…きっと身分がもとで苦しむことが沢山あると思う。でも負けないで。私の親友は家族思いで強い人…そう信じてる。だからまた会いましょう」
僅かに震える声ではあるも、それ以上に震えて泣いているアイシャには気付きようもない。
「頑張って…私の親友」
「…っ…はい」
最後は笑って別れよう…その言葉通り微笑み合って、アイシャはメリンダが乗った馬車が見えなくなるまで見送り続けた。
そして、これから僅かののちに国内を駆け巡ったのは、少女ふたりの友情物語。
その大きすぎる衝撃は貴族にとって勿論のこと、多くの民にも動揺を与え、表向きの理由が公表された。
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モスキュート伯爵家は事実を織り込み『托卵による国家転覆罪』として、但し目論んだ伯爵本人が全ての罪を背負い極刑。
夫人は薬で精神を崩壊させられたのち、息子とは別の鉱山において務めることになり、生家も責を追及されて国家へ慰謝料を送ることとなった。
ーーーーーーーーーー
子爵家と男爵家の4家に関しては、各々爵位返上に相当する微罪が積み重ねられた上での王都追放と国家への慰謝料を支払うことに。
嫁いでいる娘達とその家は口を噤むこと、決して他言することは許されないと記されている誓約書に署名をし、破られた際には同罪となることに同意した。
ーーーーーーーーーー
モスキュート伯爵の愛人とふたりの子供は秘匿され、既に身寄りのないことから辺境の地にある小さな農村で働いている。
******
ラシュエルは、恐縮しながら王宮に滞在したままとなっているアイシャの元へ、一通の手紙を持って向かっているが…足取りは軽くない。
断罪が終わり少し経ち、もうすぐメリンダが南の修道院へと旅立つのだと報告を受けた。
見舞いは躊躇われていたが、メリンダから使いがありその元を訪れることが出来たのは昨日のこと。
人払いをし、ふたりきりで話すことになった。
『メリンダ様……』
泣くな…ラシュエルは自分に強くそう言い聞かせて、お腹と足に力を入れてメリンダのいる寝台へと歩を進めた。
寝台の上だけとはいえ、漸く寝起きできるようになったばかりのメリンダは青白く痩せていて、嘗てのような力強さは残されていない。
悲しみに襲われていたラシュエルは、その姿を目にして沸き上がる怒りを抑えるのに苦労した。
『ごめんなさいね、ラシュエル様。本来なら私が出向かなくてはならないのに』
痩せて顔色も悪くないが、発せられる声と笑顔は憧れのメリンダそのままで…ラシュエルは堪えきらなかった涙を幾筋かだけ流してしまう。
そのことを謝るラシュエルにメリンダは微笑んで、逆に心配をかけてしまったことを改めて謝罪した。
『すべて…父からお聞きしました』
少し目を伏せたメリンダは、そう言ってゆっくりと深呼吸をしてから顔をあげ…
『アイシャはどうしてますか?』
その瞳にあるのは、心配をかけているであろう友人のことを憂う揺れだけ。これまでのことをされても尚、友人を思いやる心根に胸を打たれる。
アイシャが王宮で保護されていることやメリンダを心配していることを告げると、メリンダは眉を下げて申し訳なさげに苦笑した。
『私がアイシャと親しくなりさえしなければ、アイシャが苦しむこともなかった…そんなことも考えてしまったりしたんです。でも、それはアイシャと過ごした時間を否定することになるんだと思い直しました…だって、私にとってアイシャとの思い出は大切なものだから』
平民と侯爵令嬢…身分の差はあれど、ふたりはその垣根を越えて真の友人となるべく同じ時を過ごしていたのだ。
『ラシュエル様…もし、ラシュエル様から見てアイシャが真実を知るべきだとご判断されたら、すべてを告げてあげてはもらえませんか?』
実のところ、立場的に本来なら知る術と権利を持たないアイシャなのだが、状況を鑑みた王家から『メリンダ嬢が認めるなら』と先だって許可はおりている。
ただし、アイシャが心を壊してしまわないか、責任を重く受け止めて自害するようなことはないか…繊細に様子を見た上で判断するように、と。
『きっとアイシャなら大丈夫。あの子は…きっと自分を責めてしまうと思うけれど、間違った道に進むようなことはしないはずだわ』
友人が何のために努力を積み重ねてきたのか…その理由と心のうちを深く知るからこそメリンダは断言できた。
『まだ歩くことも叶わないし、体力は落ちてしまったから見ていて心配をかけてしまうでしょうから…会わずにここを発つつもりです。その代わり…』
メリンダからアイシャ宛の手紙を預かり、全てを話したあとに渡そうと持ってきたが…本当に大丈夫だろうかと不安が拭えない。
「ラシュエル」
心に染みる声がして俯いていた顔をあげれば、アイシャの部屋の前にマリウスが立っている。
同席はしないことになっていたが、ラシュエルのことが心配で堪らないマリウスは部屋の前で待っていたのだ。
「マリウス様…」
傷付いた人のことを思えば、自分ばかりが愛されたり守られていることに心苦しくなってしまう…それでも、それらを乗り越え歩みを止めない為には、何よりも最愛の人の存在が必要だとも思う。
伸ばされた手に自分の手を重ねて握り、そこから伝わる温もりから勇気を貰い受ける。
「…終わるまで……」
「待ってるよ、ここで君を」
マリウスは、不甲斐ない自分を責めながら‥竦みそうになる足と心を叱咤する婚約者に微笑んで、優しく包むように抱き締めた。
「ひとつひとつ…ふたりで乗り越えていこう」
「……はい」
『こうして救われることもなく散る命もあるのだから、私は運にも恵まれているわ』…メリンダから言われた言葉にも勇気を貰い、ラシュエルはアイシャの待つ部屋の扉に向き合った。
******
全てを知ることになったアイシャは泣き崩れたが、メリンダからの手紙を震えながらも読み進める。
そこには、アイシャと出会えたことを神に感謝することやこれまで共に過ごした思い出が綴られ、自分を責めてしまうであろうアイシャへの心遣いが溢れていた。
そして暫くは会えなくなるけれど、いつか必ずまた会えるのだと記した上で、努力を怠らないようにと励ましも付け加えられている。
「アイシャ…」
メリンダの温かい心が伝わる手紙を抱き締め、止めることなく嗚咽を漏らすアイシャの背を撫でながら…マリウスと相談して提案することにした事を話す。
「メリンダ様は三日後に南へと発たれるの…ご家族以外には誰にも言わず、誰にも見送られることもなく」
まだ怪我も残り、姿も変わってしまったことを周囲に知られないようにするための決断。
「ねぇ、アイシャ…一緒にお見送りをしない?」
その言葉に、アイシャはガバッと顔をあげた。
「人目を忍ぶ理由もあるからこそのご決断なのだけれど…あなたにとって…メリンダ様にとっても会っておいた方がいいと思うの」
メリンダの姿を見れば傷付くかもしれないし、その結果メリンダも傷付くかもしれない…だとしても、ふたりの友情はそれを越えるものであるとラシュエルは感じている。
「立場や地位に関係なくあなた個人と向き合い、あなたの名誉と矜持を守り抜こうとしてくれたメリンダ様に、今度はあなたが向き合う時じゃないかしら」
このまま時を経ても再会することは叶うだろう。
けれど…これきりになってから会うのと、これからを誓い合ってから再会するのとでは心持ちが違う…そうマリウスとラシュエルは話し合った。
「メリンダ様が行かれる南の修道院は、とても開放的で暮らす民達も穏やかな人が多い場所なの。家族や友人が訪れることも自由だし、家族となら遠出も許されているわ」
「……会えるんですか?」
「えぇ。身元を保証することさえ出来れば誰でも」
「身元を保証…」
「そう、例えばお勤め先が作成する覚書などが相当するわ。それと…」
手紙を握りしめたままでいるアイシャの手を包む。
「家族にのみ許されている遠出も、確かな身分があれば特別に許可されているの。例えば、王宮勤めの使用人とかは特に優遇されるわ」
「王宮…勤め……」
「メリンダ様が守り抜こうとしたあなたの才能は、これからの努力次第で如何様にも伸ばすことが出来る。これはわたくし個人の意見だけれど…あなたのように志が高く強い人に支えて貰いたいと思っているわ」
「……ラシュエル様…」
いずれ王太子妃となり王妃となる…その道の途中で挫けそうになることや躓くことも起こり得るだろう。
そんな時は、人の痛みを知り強い志を持った優しい人間に側で仕えていてほしい。
アイシャは平民であるし、そうなる為には今まで以上に求められる努力が必要となる上に周囲からの風当たりも強いはず。
けれど、平民だからこその感性と力強さはラシュエルにとっての力と必ずなるに違いない。
「……私は…」
アイシャはずっと考えていた。
平民でありながらも、僅かな可能性が努力によって掴み取れるならと頑張ってきた。けれど、それが齎したのは地獄とも言える絶望。
たったひとつの小説に翻弄され、それに抗えず罪無きひとりの貴族令嬢…大切な友人の未来を潰してしまった…それがどうしても心苦しくて澱となった。
優しい手紙にいくら励まされても、自分の価値などもう散り散りとなり果てている…友人に会わせる顔などないのだと、そう思っていたのだ。
けれど、メリンダが南の修道院を選んだのは他者との繋がりを途切れさせない為であり、比較的自由な場所で療養しながら再起する力を養う為だとラシュエルは語った。
『いつかあなたに会うその日まで頑張るわ』
美しい字でそう綴られている手紙に視線を落とし、メリンダと過ごした時間に思いを馳せる。
平民であることに微塵も嫌悪を示さず、むしろ一切の嫌味なく興味を持って接してくれた高位の貴族令嬢。
多くの人に慕われ愛されている誇り高き女性。
身分差に臆することなく友人を守る強い心。
メリンダの存在は、学びと職さえ得られればそれで構わないと思っていたアイシャにとって、光であり宝物だったのだ。
叶うなら、ずっと友人でいさせてほしいと願っていた…
「私は…メリンダ様にとって誇れる友でありたい」
守り抜いてくれた名誉と矜持を、磨き高めてメリンダに捧げたい…そう心に決めた。
「ラシュエル様の元に仕えることで、メリンダ様から頂いた多大なるご恩に報いる事となるならば…その為に必要とされ求められることに努力は惜しみません」
メリンダの為にラシュエルを利用する…そう取れる発言ではあるが、当のラシュエルはその発言を聞いて微笑みを返した。
「身分的に大変なことや苦しいことがたくさんあると思う。それでも、あなたならそれを乗り越えられると思うし共に乗り越えたい人でもあるわ。家族や友人を大切に思う気持ちは、どんな苦境にも立ち向かえる」
ラシュエルがマリウスを思い立ち向かえるように。
「メリンダ様を見送りたいです」
もう泣いてはいないアイシャの力強い瞳にラシュエルは頷き、メリンダを見送るための予定を告げた。
そして、その日の内にアイシャは寮へと戻ることになったのだが、ラシュエルから提案された部屋替えについて首を横に振る。
「あの部屋で卒業までを過ごしたいと思います。私が覚えていなくてはならないのは、事件の事でも犯人達の事でもなく…私の為にメリンダ様が戦い守り抜いてくれたこと、その為にもあの部屋で向き合い続けたいのです」
曰く付きの部屋にしたくもないし…と苦笑する姿に本意であるとラシュエルは認め、アイシャはそのまま戻るための準備を始めることとなった。
三日後ーーーーーー
南へと向かう道中、予定にない場所で馬車が停まったことを不思議に思ったメリンダが小窓から外を覗いてみると、そこにはフードを深く被った人物がいた。
馬車の中には家族が揃い、周囲は王宮から派遣された屈強な騎士達が護衛についているものの…それでも、やはり僅かな恐怖が体を強張らせてしまうのは、事件が与えた心の後遺症。
誰?と訝しがるも、ちらりと見えた溢れ落ちる雫で、そこに佇み俯く人物が泣いていることが窺い知れた。
明らかに不審であるのにも関わらず、周りにいるはずの騎士は動きを見せようとしない…戸惑う視線を家族に向ければ、何故か優しく微笑んでいる。
(誰なの?)
もう一度、窓から見える人物に視線を戻すと…その人物がゆっくりと顔をあげて、メリンダと視線がぶつかる。
「…アイシャっ……」
泣くつもりはなく、泣くべきではないと思っていたのに溢れてしまったことを恥じ、アイシャは俯いてしまっていた。
いつまでもそうしていられるわけもなく、意を決して顔をあげると…そこには会いたかった人物が顔を覗かせている。
自分の名を呼んだ気がする…もう駄目だった。
泣く権利なんてないと思うのに、流れ続ける涙を止める方法なんてアイシャには分からない。
まだ歩けないと聞いているから、馬車から降りてくることはないだろう…だからこのまま、窓だけでも開けてもらって一時の別れを……そう思っていた。
「メリンダ様…っ」
馬車の中でアイシャの姿を確認したメリンダは、これが誰の用意した演出なのかを理解し、その人物へ心の中で感謝する…本音を言えば、大切な友人に会いたかったのだ。
(ありがとうございます…ラシュエル様)
そして…少し痩せてボロボロに泣いているけれど、久し振りに会ったアイシャが無事だったことに胸を撫で下ろす。
(あなたが無事でよかった…)
男達から凌辱を受けた際に、トリスタンはアイシャを手籠めする内容を話していたから心配していたのだが、それが遂げられることはなかったと報告を受けて安堵していた。
「お父様…私を外に……友の元に連れていってはもらえませんか?」
荷馬車には車椅子も積まれている。先に降りた侯爵はそれを用意するように指示をして、愛娘を抱き抱えてそっと車椅子に座らせた。
「アイシャ」
アイシャは予想だにしていなかった状況に驚きながら、本来なら身分と立場を踏まえて膝と頭を地面につけるべきだと思った…思ったけれど、それをメリンダが望むだろうかと考える。
誰よりも慈悲深くて、強くて…大切な友人。
その人が望むであろうもの……
「…っ……メリンダっ、さま」
自分は痞えるようにしか話せないのに、対するメリンダは涙など見せずに優しく微笑んでいる…これが高位貴族の姿なのだと、改めて偉大さを知った。
たとえ痩せて体力が落ちていても…泣きそうになっていても…メリンダが自身を厳しく叱咤しているのは、アイシャの為に他ならない。
大怪我を負い痩せ細ってしまった自分を見て、これ以上の負荷をアイシャの心にかけさせない為に。
その心うちに家族は気付いている…そして、そうまでしても友人の心を守ろうとする娘を誇りに思った。
「アイシャ…暫く会えなくなるわ」
「…っはい」
「もう取り戻せないものが沢山あるけれど…どうしても失いたくなかったものは残ってくれたの」
「…それっ、は…」
貴族令嬢としての未来、純潔、家族との時間、学生としての生活…失ったものは数えきれない。
それでも、メリンダは笑みを絶やさない。
「家族と親友…何よりも大切なそれだけは、誰にも奪われることはなかったわ」
たとえ過ごす場所は変わっても、繋がる絆は決して変わらない…だからこそ、メリンダは現状に立ち向かうことが出来ている。
アイシャは、そんなメリンダの強さが眩しくもあり…心配にもなってしまう。
「…っ…メリンダ様、私…これから今まで以上に努力して、いつかラシュエル様を支えられる人間になりたいと思っています……あなたに…あなたにとって誇れ…誇れる…とっ、友としてありたいから」
図々しいと思われても、伝えたかった。
そして、アイシャの決意をメリンダは想像以上に喜び、大好きな微笑みを向けてくれたが…きっと足が動くのなら駆け寄り抱き締めてくれたかもしれない…まだ痛むであろう足に一瞬だけ視線を落とし…そして、努力を怠らない事をさらに誓う。
「アイシャ」
車椅子に座るメリンダが手を広げている姿を見て、止まっていた涙が再度溢れ出した。
いいのだろうか…そんなことを思うのは一瞬。
ずっと会いたくて焦がれてきた人に求められ、アイシャは壊れ物に触れるような優しさでメリンダを抱き締めた。
「アイシャ…きっと身分がもとで苦しむことが沢山あると思う。でも負けないで。私の親友は家族思いで強い人…そう信じてる。だからまた会いましょう」
僅かに震える声ではあるも、それ以上に震えて泣いているアイシャには気付きようもない。
「頑張って…私の親友」
「…っ…はい」
最後は笑って別れよう…その言葉通り微笑み合って、アイシャはメリンダが乗った馬車が見えなくなるまで見送り続けた。
そして、これから僅かののちに国内を駆け巡ったのは、少女ふたりの友情物語。
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