僕の婚約者は悪役令嬢をやりたいらしい

Ringo

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【微*大人風味】もう終わりだ

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『正妃なんか興味ないわ。私が望むのは最高の贅沢と最高位の男だけ』

『あんな女が正妃になるのは都合が悪いのよ。もっと操りやすくて大人しい女じゃないと』

『いっそあなたがあの女を手籠めにしてもいいわね。色気のない体をしているけれど、だからこそ仕込み甲斐があるんじゃない?』

『ねぇ…いい話があるの。お金になる話よ。ある女をちょっと相手するだけの簡単な仕事』

『あっ、いいっ、、ラシュエルよっ…ラシュエルを犯してボロボロにしてっ!あぁんっ』


隣国で開発されたという《撮影機》が入手出来てから始めたミルフィーの記録を見て、僕は不快感と苛立ちを抑え込むのに必死だ。

サミュエルが用意した《撮影機》と《美貌の男》は、期待通りの働きをしてくれたのだが…確認のためとは言え、ミルフィーの痴態など吐き気がする。

それでも、ラシュエルを穢す為に薬を用意して男を嗾けようとした言質は取れた。


「最後の仕上げに行きましょう」


記録を見るために用意された部屋。

ここにいるのは僕のほかに国王夫妻、宰相、ラシュエル、サミュエル…そしてナンバレス侯爵夫妻とチェルシー。


「あ、あの子がこんなっ…」

「真実ですよ…叔母様」


報告書だけではいまいち納得をしていなかった侯爵夫妻も、さすがに記録を見たことで顔色を青白くさせた。

チェルシーは予想通りなのか表情を消しながらも手をぎゅっと握っており、叔母は途中から泣き出す始末。

そして、当初は叔母と同じように青白くなっていた侯爵も、ミルフィーの口からラシュエルの名前が発せられた所から顔を真っ赤に染め、握り締めた拳は小刻みに震えている。


「ミルフィーは現在、記録にあったと客間にしけ込んでいます」


ミルフィーが目を付けた男は、王族や高位貴族の女性を専門とする高級男娼…ミルフィーは愚かにも貴族の嫡男だと勘違いしているが、彼は一度も貴族だとは名乗っていない。


『長男で跡継ぎなんです』


そう…彼は長男で跡継ぎではある。

の長男であり跡継ぎだ。

勘違いを起こしたミルフィーは、男を愛人に据えたままで僕の愛妾になるだのとほざき、ラシュエルの凌辱に手を貸すよう命じている。

そして今日、の現場を押さえることが両陛下より許可された。


「…ミルフィー…なんということをっ…」


怒りからなのか絶望からか…それともどちらともなのか、侯爵の口から絞り出すような声が発せられた。


「王太子の正式な婚約者を卑しめ凌辱しようなど…ナンバレス侯爵、そなたには幾度も申したはず。娘の愚行を改めさせよと。余を愚弄しておるのか!」


父上…国王から発せられた、地を震わせるほどの低い声が部屋にいる者…王妃と宰相を除いた者を震えさせる。


「っ、、そのようなことはございません!!」


ミルフィーは例の如く体で陥落した使用人達を使い、侯爵夫妻からの監視の目を潜り抜けていたらしい。

王家に不義を働けば勘当すること、最悪は処刑もあり得ること…それらをきつく言い聞かせてきた、と。

それでも勝算があったのだろう。

そこまでラスウェル伯爵夫人に心酔しているのか、まさか本当に愛妾になれると思っていたのか。


「愚かにもほどがある」


行きましょう…そう言って、ミルフィーと男が事を成している部屋へと向かう。




******




「いやぁんっ!!」


それなりに厚い扉だというのに、それを抜けて響くミルフィーの汚らわしく高い声。

それが止まることはなく、部屋の前に立つ者それぞれがそれぞれの表情をしている。

心配していたラシュエルの反応は…眉間にこれでもかと深い皺を寄せて、握る手はこれまでになく強い力だ。

ごめんね、こんな汚い場所に連れてきて。


「…サミュエル」

「御意」


僕の合図で開かれる扉。

ぞろぞろと入室するも、行為に夢中なミルフィーは全く気付いていない。

だが、さすが高級男娼…ピクリと反応し、穿ちながら予定通りの言葉をミルフィーに投げ掛ける。


「本当にいいの?避妊薬使ってないから、本当に子供が出来てしまうよ?まぁ、既に何度も中に出しているから手遅れだろうけど」

「あんっ、、いいの!マリウスにっ、マリウスの子供だって言うわっ…あっ、、もうすぐっ、落とせるからぁっ!いいっ!!もっと!あぁっ」


深く打ち付けられて出されている際、逃がすものかと言わんばかりに男の腰に足を巻き付けている。

記録と男からの報告で、少し前から避妊薬を使用しないように言われている事は確認していた。

子供が出来れば、僕の子とする算段でいると。

まったく…托卵だなんて、馬鹿なことを考えるのは何処にでもいるものなんだな。しかも、男が避妊薬を使用しているなど気付きもしないで。


「あん…抜かないで…まだ、」

「もう終わりだ、ミルフィー」

「え?……きゃぁぁぁぁ!」


自分でも驚くほどの低い声で呼び掛けてみれば、何事かと男の下から顔を覗かせたミルフィーが叫び声をあげた。


「ちがっ、違うのよマリウス!これはっ、この男が無理矢理!違うの!襲われただけなの!助けてマリウス!」

「気安く名を呼ぶな。それに、お前がその男と何度も情事に耽っているのは記録してある。言い逃れなど出来ないぞ」

「き、、きろく…?」

「捕らえろ」

「いやぁ!やめてっ、マリウス!助けっ」


騒いだ時の為に用意していた猿轡をされ、くぐもった声で泣き叫ぶミルフィーにローブが着せられてロープで後ろ手に拘束された。


「ご苦労だった。報酬は後程用意させる」

「ありがとうございます」


ローブを着て優雅に歩く男は、それなりの時間情事を行っていたというのに僅かに汗をかいているだけで、同性さえも見惚れるほどの笑みを浮かべて軽く礼をとるとその場を辞した。

高位貴族の色恋沙汰にも冷静に対処出来てこそと聞いていたが、こんなことはお手のものなのだろう。


「さて…ミルフィーの元に向かいましょうか」


サミュエルが《撮影機》を取り外していたタイミングで、ミルフィーが連れていかれた地下牢へと再び全員で移動する。


「…ラシュエル、無理してない?」


色んな意味で緊張していただろうラシュエルは、平静を装っているけれど…握る手が少し汗ばんで小さく震えている。


「大丈夫…少し驚いただけ…」


繋いでいる手を離して腰に手を回せば、いつも以上にピッタリとくっついて身を任せるように歩いている。

自分を害そうとした人間…僕に托卵しようとした人間を前に、強すぎる衝撃を受けたはず。

王妹の娘だからと公表されることはないだろうが、罪自体は軽減させない。

僕のラシュエルを卑しめただけで罪は重いんだから。




******



「……外してやれ」


地下牢に入れられても、髪を振り乱しながら何やら喚いているミルフィー。

どうせ最後だ、聞いてやろうじゃないか。


「っ、、マリウス!お願い!私を助けて!」

「どうして僕がお前を助けるんだ?」

「なっ、何を言ってるのよ!あなたの愛妾になるのよ?男に襲われたのにこんなの酷い!」


その自信はどこから来るのか…僕が腰を抱いて寄り添うラシュエルを睨み付けているのも気に食わない。


「僕のどこをどう見れば愛妾になれるなどと勘違いをするんだ?僕はラシュエルを愛してるし、ラシュエル以外を側に置くつもりはない」


態とらしくラシュエルの頬にキスして見せれば、面白いくらいの反応を示した。


「このっ、、あんた!いい加減マリウスから離れなさいよ!あんたなんかマリウスに相応しくないって何度言ったら分かるの!?さっさと出ていきなさい!」

「黙れ、ラシュエルを貶すな…あぁ、それとも自ら罪を重ねてくれているのか?格下の女が筆頭公爵家のご令嬢にそんな口の利き方で」


一瞬だけ驚いた様子を見せるも、すぐにラシュエルへ剣呑な視線を向けてくる。


「ひどい!この女がっ…マリウスを騙しているの!私は知ってるわ…あんた、マリウスの護衛と密通してるわよね」


まさかの発言に笑いそうになった。

ラシュエルとサミュエルが密通?体の関係を持っていると?……腹立たしいにも程がある。


「何度も見たもの…あんたと護衛が抱き合ってキスしてるところ。密通しているところを目撃した人もいるのよ、あんたこそ言い逃れは出来ない」

「誰だ?その目撃したって奴は。なんならここに連れてきて、お前の話が本当なのか証言させようか?」


これも報告済みだ。ラスウェル伯爵夫人との会話で、ラシュエルがサミュエルと密通しているような、不義を犯しているような物言いでミルフィーに話していたのを記録で

ちなみに、サミュエルが女性と情を交わしていたのは間違いない…相手はラシュエルであるはずがなく、何人か抱えている女性使用人だが。


「どうした?その証言者がいなければ、お前の話など僕の一声で如何様にも出来る。それに、ラシュエルの行動は王妃直属の影がついているから全て把握している。誰と会っていたのかは当たり前として、それこそ閑所に出入りする時間も回数もだ」


妃教育が本格化してから付くようになった影に、仕方ないと思ってもさすがに閑所に関する事は恥ずかしさが拭えないと言っていたが…うん、今も恥ずかしいよね。しかも暴露してごめん。


「そんなのっ、その影とやらを誑しこんで偽証させたのよ!この女ならやりかねないっ」

「あら、私の部下を馬鹿にするのね?」


それまで静かに…けれど、確かに怒りを滲ませて様子を静観していた母上が会話に入ってきた。

それもそうだろう、王妃直属の部下を仕事の全う出来ない人間だと言ったも同義なのだから…そして、の方向から漏れ出てくる殺意は恐らく王妃専属の影。

彼らは誰よりも誇り高く忠義であることを重んじ、我ら王家と自身の仕事を尊ぶ。

その尊いものを汚された。


「もう終わりだな…ナンバレス侯爵」


彼らは影であり王家の暗部。

証拠無しに小娘一人を消すことなど造作ない。


「っ…それ、だけは…」


項垂れ懇願するが、もう結末が変わらないことなど分かっているだろう。

叔母はさすがに王族…相変わらず蒼白な顔をしているが涙を流すことなく、未だ喚くミルフィーを見つめている。


「わっ、わたしは…私はただマリウスを愛しているだけです!この女が邪魔をするから結ばれないだけでっ、、何するのよ!」

「煩いんだよ」


サミュエルの腰から抜いた剣を喉元に向けてやれば、さすがに息を飲んで後ずさった。


「ラシュエルは邪魔などしていない。ただ僕に愛されているだけ。お前など欲していないし、お前のように汚ならしい売女など誰が相手にするんだ?」

「ひどい!」

「二言目には酷い酷い…頭の悪さは昔から変わらないんだな。無邪気で済まされるのは5歳児までだと知らないのか?知らないんだよな、馬鹿だから」


チェルシーと同じ家庭教師がついていたはずなのに、嫌だ!めんどくさい!と逃げ回っていたらしいから、生粋の馬鹿なのだろう。


「ひどいわ…私はマリウスの傍で幸せになるから…だから難しいことなんて必要ないって…そう思っているのに……」

「誰が求めた?少なくとも僕は求めていない」

「だって昔から言っていたじゃない!無邪気で明るくて笑顔が可愛いところが好きだって!」


ん?そもそもミルフィーと会話らしい会話などしたこともないんだが。


「なんの話だ?」

「言ってたでしょう?お姉様と王宮に来ると、必ずそう言って微笑んでいたじゃない!」

「あぁ…あれか。あれはラシュエルの話だ、お前のはずかない。そもそも僕はお前と会話などした覚えもないしな」


子供の頃のラシュエルはとにかく可愛くて、コロコロ笑いながら野うさぎを追いかける姿なんて今思い出しても頬が緩んでしまう。

…撮影機があの頃になかった事が悔やまれる。


「だが、子供らしくて可愛いラシュエルはその頃から既にマナーを身に付けていたし、同年代の子供より高度な教育を受けていたぞ…誰かさんと違ってな」

「そんっ、なの…マリウスに愛されるだけでいい私には必要ないもの……」

「愛されないのに?残念な女だ。最後の通告だ、お前に協力していた人間は誰だ?」


何故そんなに傷付いた顔をする?一度も愛を囁いたことがなければ、そのような態度を見せたこともないのに。


「これからっ…これから愛してくれればいいわ。それで…それで許してあげる…こんな酷い事をしたことも全部…だから…」


何処までも勘違いや思い込みを正そうとしないか…もう手の施しようもない。

王妹が嫁いだ家を潰すにも降格させるにも影響が大きく出てしまう…それならば、に罹患した娘を療養に出したとするのが落とし所か。

ミルフィーと関係を持った男共は戦慄するだろう…どんな病気でどんな症状なのか公表されないのだから。

暫くは王都中の医療院に人が傾れ込んで、診察や投薬から財政が潤うことになるだろう…いいことだ。


「ミルフィー・ナンバレス!お前の罪は王太子の婚約者であり公爵令嬢に対する侮慢と、穢そうと画策して実行に移そうとしたこと!そして、立場を利用して王宮内の男を次々と誑しこんで不浄の場としたことだ!」

「そんな…っ、」

「お前のような不浄な人間は離島への流刑。万が一に生存した場合にも同じ過ちを繰り返さないよう、避妊処置を受けさせる」

「っ!!!!」


聞いたことはあるのだろう。

姦通罪に問われた人間の処罰内容を。

重罪に問われ有罪と結審した男性は性器と子種袋を切り落とされ、女性は特殊な医療方法で避妊処置を受けたのちに秘所を特殊器具で溶接される…どちらも、二度と性交が成されないようにするために。


「処置は二日後、流刑は一週間後とする」


すべて両陛下と宰相に持ちかけて検討していた内容…最終的には、侯爵夫妻にも説明をしていた。

唯一の回避策…それでも良くて独房での鞭打ち刑、のちに極寒の地にある修道院行きだっただろうが、それを僕らに選んでもらう為には罪を認め、尚且つ情報源である人物の名前を告発する必要があった。


残念だよ、ミルフィー。

あいつの名前を言えばいいものを。







10日後…侯爵令嬢が色狂いによる罹患にて僻地へと療養に向かったと情報が開かれ、王都中の治療院が人で溢れ返った。


その令嬢を娘に持つナンバレス侯爵家だが、母親のデイジーや姉のチェルシーが品行方正で淑女としての評価が非常に高かったこともあり、ミルフィーの存在は祖父や曾祖父からの隔世遺伝による異端児として扱われた。

方々に手を付けていたため迷惑料として莫大な慰謝料を支払ったこと、決して浅くない傷が家名についたことから社交界で少ないながらも同情する声もあり、謹慎期間を空けたのちに社交界への復帰も認められている。


「チェルシーは未婚のまま爵位を継いで、自分の代になったら全てを整理して返上するらしい」

「そうなのね…ご両親は?」

「薄々気付いてはいるものの、結果としてふたりの甘やかしが原因でもあるからね…強くは言えないそうだよ」

「…そう」


あれから1ヶ月…ミルフィーの件が影響しているのか、このところラスウェル伯爵夫人が大人しくしている。

けれど何かとキナ臭さは残したまま。

もういい加減、諦めればいいものを…とため息が出てしまいそうになる。


「マリウス…疲れてるんでしょう?」

「大丈夫だよ。少しだけ仕事が立て込んでいるだけ…殆どが、父上から回されるもののせいだけど」


お腹の張り具合から、もしかすると双子かも知れない…そんな報告書を受けたせいで、重要な案件以外は殆どが父上のものだ。


「でも少しだけ疲れた…だから癒して」


どんな薬よりも食べ物よりも…僕を癒してくれる万能の特効薬。今夜も君に溺れたい。






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