僕の婚約者は悪役令嬢をやりたいらしい

Ringo

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メリル・シェラトンの顛末

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((( ;× π×)))途中、マリウスによるメリル退治が抽象的に描かれています。女性相手でも容赦ないです。ご自衛くださいませ。


※読まなくとも話は繋がります。







──────────────






「ここから出しなさい!私を誰だと思ってるの!?マリウス様に言いつけてクビにしてやる!処刑して晒し首にしてやる!!」


ラシュエルとの甘い時間をたっぷりと満喫していたせいで、すっかり忘れていた存在。

本当にすっかりと忘れていたせいで、サミュエルに言われるまで半月も放置してしまった。


「…ずっとああなの?半月も?」

「ずっとああですよ、半月も」

「…悪かったよ、謝ったじゃないか」


報告書にあったから知ってはいたけれど、あえて聞いてみれば機嫌の悪さを隠さないサミュエルに苦笑しつつ、こんなに耳障りな喚き声を半月もあげ続けていたなら牢番の騎士はさぞかし精神的に疲弊したことだろうと思う。

そんな中、僕は愛しいラシュエルとの甘い甘い時間を過ごしていたのだから…でも忘れてしまっても仕方ない。だってラシュエルとの甘い時間だ。

とは言え僕の失念から迷惑をかけたことに違いはないから、担当してくれた者達には僕から手当てを弾んでおこう。


「当初は一週間…まぁ、長くて十日程かと推察して着の身着のままぶち込みました」


あぁ、サミュエルには僕が延長するとお見通しだったのか。さすが僕の腹心。そりゃそうだ、ラシュエルとの素晴らしい時間が一週間で終わらせられるはずがない。


「特に身体検査はしなかったから…多数所持している事に気付きませんでした」

「そうだね。立っていた者達がまともであったから今回は自分が使用するだけに留まったけれど、悪用されていたらこんな風にサミュエルとも話せなくなっていただろうな」


もしも違法薬物がラシュエルに使われ実行されていたら、それこそ僕は僕でなくなり殺戮魔にでもなっていたはずだ。容易に想像できてしまう。

僕とラシュエルの結婚式を邪魔しようとしただけではなく、僕の最愛を奪い、薬漬けにして人格を破壊するまでその身を破落戸に弄ばせようとした罪は生温い死罪なとで終わらせてやらない。


「どう料理してやろうかな」


カツン、カツン…と乾いた靴音が響く地下空間。

今は牢番も外し僕とサミュエル…そして───



「マリウス様っ!!」

「やぁ、シェラトン伯爵令嬢。ここの居心地はどう?」

「助けに来てくださったんですね!?」


そんなわけがないだろう?相変わらず頭のネジが何本も抜けているような女だ。伯爵令嬢と呼んだことも気づかずに、僕の姿を視界に捉えると慣れた手付きでドレスの胸元を引き下げているが、気持ち悪い。

二週間、湯浴みどころか体を拭くことすらも出来ていなかったせいか、地下には鼻をつく臭いがたちこめている。罪人の体調など知ったことではないが、牢番に就く者の為にタオルくらいは与えてやった方がいいのかもしれない。


「マリウス様…?」

「あぁ、ごめんね。この環境について改善すべき点を考えていたんだ」

「マリウスさまぁ…」


にっこり笑ってそう言えば、女は勘違いして頬を染めて喜んでいる。愚かすぎるだろう。


「本当にひどいんです…私はマリウス様の妻になる人間だと言うのに、ここの人間は誰も聞いてくれなくて…でもマリウス様が来てくださったから、もう準備は済んだんですよね?」

「準備?」

「私とマリウス様の結婚です。まずは第二夫人ですよね…でも私達には既に子供もいますし、これからもマリウス様の子供を生みますわ」


僕との房事について考えているのだろう、ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべているがこんな女と関係を持たねばならないのなら、僕は迷わず己の分身をその場で切り落とす。

あぁ…早くラシュエルの元に帰りたい。柔らかくて、いつもいい匂いがして…僕のすることに敏感に反応して翻弄されるラシュエルの元に。


「…マリウス様……」


ラシュエルとの房事に思いを馳せていたせいで、目の前の女が勘違いを悪化させ胸元をさらに引き下げ目を潤ませているがやめてくれ、気持ち悪い。お前の胸など微塵も興味はないのだから。


「その子供だけど、僕との間に出来た子だって言い触らしていたんだって?おかしいよね?僕はお前と繋がるどころか触れたことすらないのに」


僕の言葉に、女はきょとんと首を傾げている。薬のせいで自分勝手な記憶に書き換えられているのは本当らしいが、忌々しいことこの上ない。僕との子供?これからも生む?そんなのラシュエルだけに決まっているだろう?


「僕の奥さんは、程度の低い噂や嫌がらせなんか相手にしない聡明な人だけど…それでも、不快な思いをするのは間違いないんだよね」

「奥さん?あぁ、あの───」

「お前が有りもしない出鱈目を吹聴しまくったせいで、それを有効活用しようとする奴等まで湧いて出てくるし…何してくれてるの?」


女が隠し持っていた薬は取り締まった違法薬物の中でも依存性が一際高く、思考や記憶があやふやになる代物だった。

だから、この女は僕と関係を持ったと思い込んでいるし、生まれた子供も僕との間に出来たと信じている。

複数の男と結んだ関係の全ては僕との間に起きたもので、それらをさも真実のように語る姿は知らぬ人間なら疑いようのないほどだったらしい。

それでも、僕とラシュエルの仲を真に理解し支えてくれている者は真に受けるようなことはなかったのに、そうではない一部の人間がラシュエルを引きずり下ろそうと画策し始めた。


『私にもマリウス様の子を生ませて下さいまし』


ラシュエルの目を盗んで直接言いに来た者もいれば、ラシュエルが隣にいても分かりやすく媚びを売る令嬢や親達がいたのは記憶に新しい。

この女が男にだらしない事は周知の事実であるが、仮に僕の子供ではなくとも関係を持ったが故に責任をとって側妃に迎えようとしている…そんな噂が広がった結果だ。

その都度牽制し、それすら応じようとしない者にはの抗議をさせてもらったけれど、その元凶であるこの女は許せない。

とは言え。

令嬢が分かりやすく媚びを売ってきた夜はラシュエルがいつもより乱れるものだから、それに煽られた僕も激しく攻め立て抱き潰すまで愛し合うことになる。

目一杯愛されたラシュエルは翌日昼を過ぎても横になる羽目になるが、愛情を感じられるから構わないのだと言って可愛く微笑み…むしろ最近はいいスパイスとさえなっているのかもしれない。

かと言ってこの女に温情をかけてやろうなど思うはずもなく。


「薬漬けのお前に何か言ったところで理解など出来ないだろうから…そうだな、そんなに僕と触れ合いたかったと言うなら叶えてやろう」


預かってきた鍵を使い扉を開けば、さらに勘違いを深めた女がだらしなく微笑んだ。






******





(サミュエル視点)





殿下は、昔からラシュエル様に対してのみ愛情と微笑みを向けてきた。

その立場と容姿から多くの令嬢に絡まれるも、決して誤解させぬようにと徹底した氷点下の態度を示し続け、かたや想い人にはドロドロと甘い愛情を際限なく与え…その結果、時に可愛い焼きもちを妬きながらも甘えてくる婚約者との仲は睦まじく、そこに入り込む隙間など見当たらない。

だがしかし、過度なまでに自信のある者や本質を見抜けぬ愚か者には隙が見えるらしく、己ならと入り込もうとしては撃退されるのを数多く見てきた。そう、数多く。

殿下の排除行為は徹底しているにも関わらず、なぜ自分なら二の舞にはならないと思えるのだろう…思えるから入り込むのか。

そんな殿下も、単なる淡い恋情を寄せてくるくらいなら無下にはせず…いや氷点下の態度ではあるが、自分に迫ったり婚約者に悪態をつかないのならさすがに排除はしない。

そして、排除内容が如何様になるのかは殿下自身よりもラシュエル様がどう感じたかが優先され加味される。泣かせなどしたら切り捨てられる。


「あ゛が、、っ」


今回の件は質が悪すぎた。自分は殿下と肉体関係があり結婚するのだと妄言を言い触らすだけに留まらず、どこの男と作ったのかも分からない子供を殿下との子だと触れ回った。


「ほら、寝ちゃダメだよ」


痛みと恐怖から気を失っても乱暴に叩き起こされている女は、殿下が「ほかの男に嫉妬して怒っている」などという勘違いはもう持ち合わせていないだろう。

薬師長特製の気付け薬で一時的に薬物の効能を低下させ、ひたすらに現実を刻まれている。

この女はもう終わりだ。


「ねぇ、いつ、僕が、お前を、抱いた?」

「あ゛っ、がっ、、」


言葉を区切り、その都度顔や体に拳を打ち込まれている女は潰れた蛙のような声を出すばかり。一見華奢に見える殿下だが、その身は均整の取れた筋肉に覆われていて力も強い。ラシュエル様が喜ぶからと好みに合わせて体を鍛え、ラシュエル様が惚れ直すと言ってくれたからと極めてきた剣術の腕前は、今や騎士団の上官にひけをとらないほど。

あらゆる事象からラシュエル様を守るためにと他国の言語に始まり法律まで網羅し始めたのには、さすがの陛下達も驚いていた。

文武両道で眉目秀麗の王子様。世界中の令嬢が憧れているとまで言われる所以は殿下の微笑みからきているらしいが、それを向けられているのはラシュエル様のみ。それ以外には氷点下の冷酷王子なはずなのに、ラシュエル様に向けた微笑みに落とされていく女性の多さは数え切れないほど。そして、麗しの王子様はその見た目通りの優しさを持つと思われている…が、現実は少し違う。

身分に別け隔てなく実力を考慮し采配するところや、滞りなく行う政務については聡明で賢王となる逸材とされる事に異論はないが、いざラシュエル様が絡むとどこまでも冷徹。

公式の場でさえもラシュエル様以外に氷点下な殿下なのに、何故か人気は落ちることなくむしろ上昇していく一方。

むしろ『一切余所見をせずに一途なところが格好いい』と言われている始末…単なるラシュエル様馬鹿なだけなのに。

そう話す令嬢達は勿論殿下の不興を買うこともなくラシュエル様にも好意的で、「ラシュエル様は愛されてますねっ」と言っては彼女の頬を可愛らしく染める手伝いをしてくれるから、なんなら受け入れているほうだ。

それでも湧いて出てくる不穏分子。

手を変え品を変え…ることもなく、容姿と身分が変わっただけの女が同じ愚行を働いてくる。

共通しているのは《色仕掛け》で、やたらと胸元を開けたドレスを着て香水をかぶってきたかのように臭わせる女。なぜ自分なら上手くいくはずだと思えるのか理解に苦しむ。


「僕からラシュエルを奪おうなんてありえない」


今まで篭絡を狙ってきた女に殿下が指先ひとつでさえも触れたことはなく、この女が胸をさらけ出した時も微塵も動揺していない。

ラシュエル様誘拐と凌辱を企てた女の顔は元の造りが分からないほどに腫れ上がって、手足はあらぬ方向に折れ曲がっている。たとえ女であろうと、ラシュエル様に牙を剥いて傷付けようとした者に殿下は容赦しない。


「あだっ、あだじは……っ」

「ん?まだ喋れるんだ?」

「あ゛んっな、、お゛んなより──」

「あんな女?ラシュエルのこと言ってるの?」

「あ゛あ゛あ゛あ゛っっっ!!」


うわぁ……

もういっそ排除を公開して牽制しちゃえば二度と愚行をおかす者も湧き出さないんじゃないだろうかとも思うが、それでも「自分なら」と思う奴には関係ないか。


「……サミュエル、もう戻るよ」

「はい」


糞尿を垂れ流して虫の息となっている女を投げ捨て、幾らかスッキリとした顔である。言葉通りボロボロになった女は明朝になれば冷たくなっているだろう。

殿下が排除の時のみ纏う漆黒のマントの下は、同じように全身真っ黒。返り血などが目立たなくする為なのと、その色合いが相手に恐怖を与えるからなのに…殿下に心酔している女はその装いにも頬を染める始末なのだから呆れてしまう。


「…くさい」

「騎士団の詰所で軽く流してからにしますか?」

「ん~…いや、真っ直ぐ戻る」


汚れているのか分かりにくい漆黒のマントと手袋を外し、自分も臭くなってしまったと眉を寄せて自身をくんくん嗅いでいる。


「明後日から視察かぁ…ラシュエルも連れていければ問題ないのに」

「王太子妃様もご公務がありますから」


明後日から二週間ほど視察で傍を離れるから、と言って明日は昼過ぎまで部屋から出てこない宣言をされた。最初は丸一日と言っていたところ、準備もあるので却下されて盛大に不貞腐れていたのはつい今朝がたのことだ。


「警備は?」

「抜かりなく」


戻るまでの二週間、ラシュエル様の身に何かあれば物理的に首が飛ぶ為その覚悟と忠義のあるもので厳選されているから問題はない。


「ラシュエルの好きな東国だから、お土産は何にしようかなぁ」


さっきまでの狂気を孕んだ殿下はどこへやら、既に思考は愛しい妻へと飛んでいる。






******



(メリル・シェラトン視点)



「あ゛…あ゛あ゛……」


どうしてこうなったのだろう。私と彼は愛し合っていて、既に子供だって生まれているのに…あの女がどこまでも邪魔をするから結婚が出来なくて、それならば優しい彼の代わりに私が邪魔女を排除としただけなのに。

ずっとずっと大好きで、いつも激しく求め合ってきた私の特別な人…みんなが憧れる王子様。

私が彼と肉体関係を持っていると話した時に見た女どもの顔は最高だった。悔しそうに顔を歪め、扇で口元を隠す姿には声を出して笑ってやったっけ…それなのに。


『僕の子供を生むのはラシュエルだけだ』


そんなはずはない。それならあの子供はどうして存在する?私によく似た娘はどうして存在する?


『僕が貪るほど口付けるのはラシュエルだけで、僕が欲情するのもラシュエルの体だけ』


そんなはずはない。確かにあの女もだけれど、多くの男を虜にしてきた私の方が女性として優れているははず。


『僕が体を繋げ、毎晩溢れるほどに子種を注ぐのはラシュエルだけだし身籠るのもラシュエルだけ。汗の一滴だってお前にくれてやるものか』


そんなはずはない。彼は私にたくさんの子種を注いだ…そう思うのに、少しクリアになっている頭が「それは違う」と訴えかけてくる。

媚薬だと思って飲んだあの液体を飲んでから、自分の記憶がぼんやりと濁り始めた。

本当に彼とは契っていない?それならあの子供は一体誰の子供?私は誰と寝ていたの?


「あ゛…あ゛が……」


体はもう動かなくて、意識がどんどん薄れていく…私はこのまま死ぬのだろうか。もう貴族でもないと彼は言っていたが、それでは彼と結婚することが出来ない。だって彼は王子様なのだから、相手となる私は貴族でなければいけないのに。

あの女との結婚式より豪華なドレスを着て、初夜は彼にドロドロになるまで愛される。何度も子種を注いでもらって、彼によく似た子供を生むの。だから私は貴族である必要がある。

あぁ…早く彼に愛されたい。

、彼によく似た息子を生まなければならないのだから、同じ髪色の男を探さなくちゃ。








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