Fatal scent

みるく汰 にい

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7話

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 「ん…ん?え、っと…?」


 静かな部屋で一人目を覚ます清水。ここ数ヶ月悩まされていた悪夢も見ることなく熟睡したおかげか体がスッキリしている気がする。そんな事を思いながら辺りを見渡しても知らない場所にただ一人。ここって確か…東雲の家?
 頭が覚醒してくると眠る前の記憶が蘇る。ヒートが来て…フェロモンで東雲を誘って…。思い出した途端に体に残った感覚が東雲との行為に現実味を帯びさせる。本当にあの東雲がぼくに発情したのか…?

 というかぼく、ヒート終わってない…?今までは軽いヒートだろうと何回達しても3日は苦しくてしんどかったのにたった一度の行為だけで鎮まったことに驚きが隠せない。しかもあんなぐちゃぐちゃに乱れてしまったというのに清水の体はお風呂を入った後かのように綺麗だ。なんなら普段の肌よりふわふわもちもちだし髪もさらさらしている気がする。


 「シた後に世話されるなんて初めてだ…」

 ぽつりと呟いた言葉が空気に溶けて彷徨っていく。セックスの後って自分で処理するものじゃないのか…?少しぶかぶかなシャツをきゅっと握って考えていると、どこからか良い匂いがしてくる。トーストを焼いている香ばしさとバターの匂い、そして華やかな紅茶の香りが部屋を漂ってきた。


 ぐう、と小さくお腹がなり、とりあえず東雲を探そうと立ち上がる。きょろきょろと家の中を観察しながらリビングらしき部屋を見つけると、中では東雲がご飯の用意をしていた。焼けたトーストにバターを乗せながらスクランブルエッグを作っている東雲がふと清水の方を見る。
 垂れた目尻を更に垂れさせて笑う東雲が扉を開けて清水に話しかける。

 「起きた?体は大丈夫?一応洗ったけど…あ、ご飯食べる?」

 陽の光なのか東雲が輝いているのか分からないくらい眩しい笑みを見せた東雲が清水の手を引いてソファに座らせる。目の前のオシャレなガラステーブルに置かれた食事があまりにも美味しそうで唾液をこくっと飲んでしまう。

「あはは、食べれそうだね。俺も横で食べようかな」

 頭をくしゃっと撫でた東雲が横に座り、食事をし出すから余計に混乱する。


「いや、いやいやおかしい」
「ん?なにが?苦手なものあった?」
「や、それはないけど…?」
「じゃあ冷める前に食べちゃおう」

 ほら、とスクランブルエッグを乗せたトーストを差し出されて思わず一口食べてしまう。あ、美味しい。いや、美味しいじゃなくて、

「東雲はぼくのこと嫌いじゃないの?」

 昨日から何回も思ってきたが、ただのオメガのフェロモンに当てられただけで嫌いなくせになんでこんな態度をとるんだ?
 そんな意味も込めて東雲に問いかけると、大きな目を見開いて静止している。「んん…?」と疑問符を浮かべたような顔に清水まで首を傾げて問いかける。

「だって東雲、ぼくのことずっと睨んできたろ…?」
「睨んでないよ!?」

 言葉を被せるように否定してくる東雲に驚いて体を震わせてしまう。「あ、ごめんそんなつもりじゃ」とまた頭を撫でられて、じゃあなんなんだ?と続けると、

「本当に睨んだつもりはないし、嫌いなわけないよ。そもそも俺嫌いな相手とセックスしないからね」

 と紅茶を飲む東雲。「それよりも、」と申し訳なさそうな顔で話し出す東雲は、清水に対してごめんと呟いた。


「清水、パートナーいるよね…ごめん、無理やり」
「パートナー…?いない、けど…」
「えっ?だってカラー…ちょっと前にカラー変わったから、パートナーもいるしそういう意味で貰ったんだと思ってた」

 清水のカラーを見る東雲の顔が安堵したような表情に変わっていく。それに思わず別れたんだ、と告げた。

「数ヶ月に振られたんだ、だからカラーも自分が買ったやつに買えて…ちょっといいやつにしたからかな」

「そっ…かぁ、良かった。うん、良かった」

 そう言いながら笑う東雲に心がざわざわして、でもそれに気付かないようにトーストを食べ、視線をテレビに移した。


「そういえば清水、ヒート大丈夫?」
「あ、うん、なんか治まった…まあ本来のヒートの時期じゃないし大丈夫」
「へぇ、周期乱れてるんだ?でも一日で治まるんだね」
「ぼくも一日で治まったのは初めてで…」
「じゃあ俺たちの相性が良いんだね」

 恥ずかしげもなく東雲がそんなことを言うものだから、清水はまた昨日のことを思い出して頬を赤く染めてしまう。清水からキスをねだったことも、早く欲しいとせがんだことも、今になってとてつもなく恥ずかしい。顔を見られまいと足元に視線を移してびっくりする、確かに大きなシャツだなあとは思っていたけどまさか一枚で着てるなんて、座ると太ももまで足が見えるじゃないか。

「し、東雲この服、ぼくのは?」
「あぁ、ごめんね結局汚れたから洗濯しちゃった。それは俺の服…恥ずかしい?似合ってるけど」

 意地悪に笑う東雲の頬をぺち、と叩いて近くにあったブランケットを被る。まるで恋人に話すかのように甘ったるい東雲に調子が狂う、なんなんだ。


「それより清水、今フリーなんだよね?俺とかどう?」

 ___え?

 冗談か本気かわからない、ばっと顔を上げて東雲の顔を見る。

「ほら、体の相性も良かったし…周期も乱れてるなら一度で終わる俺なんて最適じゃない?」

 …確かに、東雲の言うことは一理ある。嫌われてなかったうえに相性が良いなんて、最高じゃないか。でもやっぱり、パートナーはもう作りたくない。

「……前の人が忘れられない、とか?それでもいいよ、俺。ほらもっと軽く考えてみてよ、丁度いいヒートの処理相手くらいに思ってくれたらいいし、清水も大変でしょ?」

 丁度いいヒートの処理相手…東雲なら相手なんてごまんと居るだろうに…そんなにぼくの匂いが好みだったのか?うーんと悩む清水に少し切なげな表情をうかべる東雲。それならいっそ、東堂には出来なかったことをしてみようか…都合のいい相手なら多少甘えたっていいはずだ、だってどうせ匂いにしか興味が無いアルファとオメガの関係なんて長くは続かないし。そう考える清水は藤堂への当てつけが入っているのも薄らわかっていた、けれどそれを振り払うように東雲に返事をする。


「ぼく、面倒くさいけどいいの?」
「いいよ、わがままも全部聞く」


 東雲がこう言ってるんだ、別にいい。丁度いい相手ができただけ、そう思おう。

「…ならいいよ」


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